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4.勇者召喚サキュバス

 地響きと共に教会の屋根が破壊される。降り注ぐ瓦礫から身を守ろうとするエルノの前に魔王が降り立った。


『貴様が次の召喚士か。まだ勇者はおらんようだな』


 エルノは両足を震わせながらも立ち上がる。


「あなたはかつてマナを奪ったと聞いています。今また魔力を奪おうとするのはどうしてですか?」

『力を持つ者は、より強い力を持つ者に奪われるのが定め。大人しく全ての魔力を渡すなら貴様らには支配される特権を与えよう』

「でもあなたは封印されたのでしょう。なぜ勇者さまに従わないのですか?」

『その勇者はどこにいるのだ? 魔力無しの召喚士よ。お前はそれでどうやって勇者を呼ぶつもりなのか?』


 エルノはふと違和感を覚えた。勇者を召喚するための召喚石は魔王の足の下にある。だが相手はそれを気に留めていないようだ。

 先代が召喚石を作ったのは魔王を封印した後のはずである。とすれば魔王は召喚石のことを知らないのだ。


 召喚石さえ無事なら他の人が勇者さまを召喚できるかもしれない―― そう結論したエルノは脇目も振らず逃げ出すことにする。

 しかし瞬時に回り込んだ魔王が立ちふさがった。


『貴様には誇りが無いのか? 他の者は死力を尽くして戦ったというのに』


 エルノは顔面を掴まれて持ち上げられる。痛みをこらえながら目を見開くと、魔王の指の隙間から召喚石が見えた。

 どうやら少しだけ魔王を引き離すことはできたらしい。


『殺す価値もない小僧だが…… 貴様には消えてもらう』


 ふと今日の出来事を思い出す。美味しいお菓子を食べたことを思い出す。

 できればもう一度あの不思議なお姉さんに会いたかった――と彼はぼんやりと思った。


 その時、魔法の矢が魔王の手を弾く。


 顔面を解放されたエルノが宙を舞って瓦礫の上に落ちた。魔王は手を抑えながら憤怒の形相で術者を睨みつける。

 その術者は召喚石から展開された魔法陣の上に立っていた。


「あっ、どうもすいません……」


 ペコペコと頭を下げるサキュバスのリリア。その態度と服装はこの場所にまるで似合っていない。

 リリアは瓦礫の隙間をひょいひょいと通過しながらエルノのところへ近づいていく。そして唖然としている彼を抱え上げるとまた召喚石のところへ戻っていった。


「お邪魔しました〜」


 愛想笑いを浮かべながら魔法陣の中に入ろうとするリリア。

 そこに魔王の鉄拳による連続攻撃が浴びせられた。


『何の真似だ貴様ー!!』

「ギャー! 無理無理無理ぃーーッ!!」


 リリアは魔法障壁を連続で展開してなんとか猛攻を防ぐ。しかし衝撃まで消すことはできずエルノを抱えたまま吹っ飛ばされた。


 宙を舞いながら二人の視線が合う。リリアは悪戯っぽく笑った。


「来ちゃった!」


 エルノはなんとか口を動かそうとするが声が出てこない。そうする内に二人は重力に引かれて落下し始める。


「はっはー甘く見るなよー、お姉さんは飛べるのだー!」


 ハイテンションになっているらしいリリアが背中の羽根を大きく広げると、二人はふわりと浮かびあがった。


「ど、どうやってこちらに?」


 ようやく言葉がでてきたエルノだったが、彼には相手を召喚した自覚がない。あの魔法陣は勝手に開かれたもののはずだ。


「えーっと、私がキミを召喚して、その魔法陣を無理やり逆走してきた感じ?」

「そんなやり方あるんですか!?」

「やってみたらできた!」


 ドヤ顔のリリア。しかしそのままスーッと降下し始める。


「おおお落ちてますよーー!?」

「あれっ? なんで!?」


 じたばたともがく二人だったが、あえなくその辺りの建物の上に墜落してしまう。エルノの下敷きになったリリアはしたたかに腰を打った。


「だ、大丈夫ですか!?」

「いったぁーい、なんで飛べないのよ、もう!」


 エルノがリリアを助け起こしながら辺りを見回すと、上空にぽっかりと開いた『穴』が見えた。


「……魔王が魔力を奪っているんです。たぶんあの穴から」

「えっ!? 魔王さま!?」

「さま?」


 そういえばサキュバスは魔族なのである。エルノは今更ながらその事実を思い知らされた。


「まさか、上司の方ですか!?」

「そうじゃないけど、よその魔界にケンカ売ったら怒られちゃう……」

「そ、そうなんですか…… あっ!!」


 その視線の先には剛腕を振りかぶりながら凄まじい速度で距離を詰めてくる魔王の姿があった。


 エルノが身をすくめた瞬間、金属がぶつかり合うような音が響く。


『なにっ!?』


 魔王の攻撃は魔法障壁によって防がれていた。その向こう側ではサキュバスが怯えながら魔法を展開している。


 続けて繰り出される魔王の拳が障壁を砕く。しかしリリアが間髪いれずに貼り直した。

 障壁が砕かれては張り直され、また砕かれては張り直される。そのたびに火花が散って轟音が響いた。


 魔王は目を疑った。


『何故だ!?』


 上空の『穴』は依然として全てのマナと魔力を吸い取り続けている。しかし目の前のサキュバスは魔力切れを起こすこともなく、連続で魔法を使い続けていた。


『何故この状況で魔法を使えている!?』

「このショタっ子から精気吸収してますぅーー!」


 精気吸収、それはサキュバス属が持つ能力である。

 リリアはその能力を使って腕の中にいるエルノから吸収した精気を魔力に変換しているのだ。


「魔力を奪う魔王、それでも魔法を使えるサキュバス…… そうか、そうだったんだ!!」


 エルノがいきなり大声を上げる。


「えっ、なに? いま忙しいんだけど!?」

「これが勇者の力だったんです! お姉さんが本当の勇者さまなんですよ!!」

「急にそんなこと言われても……!!」


 下級悪魔は半泣きで障壁を張り続けている。それに対するは恐ろしい形相で障壁を破り続ける魔王さまだ。


 リリアは叫んだ。


「こんなワニゴリラ倒せるわけないでしょー!!」

『貴様のような勇者がいてたまるかーーッ!!」


 強烈な一撃でリリアとエルノは障壁ごと打ち上げられた。魔王は背中の羽根を広げて飛び立ち、上空へ追撃をかける。


「ひぃーー! 来ないでーー!!」


 リリアが悲鳴をあげながら空中を逃げ回る中、腕に抱えられたエルノが叫んだ。


「勇者さま! 攻撃しましょう!」

「無理よ逃げましょ!」

「大丈夫です! 今の勇者さまは強化されていますから!」

「強化?」


 そう言われるとリリアには思い当たる点があった。本来ならこんな怪物の攻撃に耐えられる障壁を自分が出せるはずがないのである。


「この国のみんなの思いによる強化です! 勇者さまを求めるみんなの願いが、勇者さまを強くするんです!」


 ●


 その頃、地上では防衛隊が魔力切れに苦しみながらも上空の様子をうかがっていた。


「見えました! やはり誰かが魔王と戦っているようです!」

「修道騎士か? それとも勇者さまか!?」

「それが、なんというか……」


 遠眼鏡を覗く隊員が口ごもる。


「……半裸のお姉さんが魔王と戦っています!!」

「半裸のお姉さん!?」


 隊員たちに動揺が広がった。


「何を言っているんだ?」

「意味がわからんぞ!」

「いや本当に服というか紐というか、ほとんど裸というか……」

「お、俺にも見せろ!!」

「あー! こっちに来ます、すごいこれはすごい、これは…… ぐはぁっ!」


 遠眼鏡の隊員は鼻から血を噴き出しながら卒倒する。次の瞬間、その上空にリリアたちが近づいてきた。


「ほ、本当だ!」

「本当に半裸のお姉さんだ!!」

「ほとんど裸じゃないか!!」


 ざわめき立つ地上の様子に気づいたらしいリリアは、飛びながら小さく手を振ってくれた。その仕草に防衛隊はさらに盛り上がる。


「こっちを見た、こっちを見たぞ!」

「うおー! 半裸のお姉さーーん!!」

「もっと近くで見せてくれーー!!」


 そこへ魔王が轟音をあげながら高速で飛来してきたため、リリアは慌てて距離をとる。

 その逃げた先の地上ではちょうど修道騎士たちが集まっているところだった。


「見て! 召喚士さまも一緒ですよ!」

「あんなに身体をぴったりくっつけて……!!」

「あー小さな手が素肌のおへそに、あーーっ!!」

「すごくドキドキします!!」


 さらにセロア市民も加わった思いの強さは、偉大なる運命力へと昇華されていく。


「なんか本当に強化されてる気がする!!」


 リリアはその全身に力がみなぎるのを感じた。それだけではない。心の奥底から勇気と自信が湯水のように湧いてくる。


「お願いします勇者さま! この世界を救ってください!!」

「あーもう! うまくいったらお持ち帰りされてよね!!」

「いくらでも!!」


 リリアは空中でくるりと向きを変えながら、手先に小さな魔法弾を生成する。


「くらえー! みんなの思いを乗せた、セクシーボンバー!!」


 投げやりな掛け声と共に魔法が放たれた。

 その簡単な攻撃になにか嫌なものを魔王は感じたのである。障壁を多重展開して慎重に受け止めようとした。


 次の瞬間、大爆発が起きる。


 障壁は一瞬にして消し飛ばされた。相殺しきれなかった魔力の衝撃波が魔王に襲いかかる。これまで全ての攻撃を弾いてきたその体に初めて傷がついた。


『なんだ、このでたらめな威力は……!?』

「すいません私もビックリしてますぅーー!!」


 魔王は距離を取りながら、上空の『穴』をちらりと見る。その様子にエルノはピンとくるものがあった。


「行けますよ勇者さま! きっとあの穴が吸い込める量にも限界があるんです! どんどん攻めましょう!!」

「う、うん。意外と好戦的なのね……」


 ちょっと引き気味のリリアだったが、彼女には別な心配がある。


「そうは言うけどキミは大丈夫? さっきからずっと精気を貰ってるんだけど……」

「え? そうなんですか?」

「普通ならもう干からびてるっていうか、どうしてそんなに元気なの?」


 その疑問に答えたのは意外な相手だった。魔王は呆れた様子で叫ぶ。


『そうか、それが今回の召喚士か! 勇者に吸わせるための体力全振りか!! それで魔力無しだったのか!!』

「そうだったんだ……」


 ずっと自身の体質について悩んでいたエルノにとって、思わぬ形で答えが与えられる。


「説明ありがとうございます魔王さま御礼のセクシータイフーン!!」


 リリアはお礼を言いながら、掲げた片手をくるくると回す。すると巨大なピンク色の竜巻が生成された。

 竜巻は唸りを上げて魔王に迫る。魔王は高速で飛びすさり回避するが、竜巻はその後を正確に追いかけていく。


『くっ!?』


 魔王は竜巻に追跡されながらも術者に向かって突撃する。


「来ますよ勇者さま!」

「エルノちゃん、つかまって!」


 リリアはエルノをかかえていた片手を離す。エルノは落ちないようにリリアの体に強く抱きついた。


「ダブル!」


 空いた片手でもう一つのセクシータイフーンを生成する。

 二つの竜巻は前後から魔王を挟撃する。魔王は避けきれず、ついに暴風の中へ飲み込まれた。


『うおおぉっ!?』


 ピンク色の刃が魔王をめちゃくちゃに斬りつけながら振り回す。

 回転が極致に達した時、魔王は上空へ高々と打ち上げられる。そこには両手を振りかぶったリリアが待っていた。


「セクシーハンマー!!」


 魔力をまとわせた両手を一気に振り下ろす。ドゴンという鈍い音と共に魔王は流星のようになって地表に叩きつけられた。


 しばらくすると上空の『穴』から金属がきしむような音が聞こえてくる。穴はその面積を急速に狭めていき、ついに消えてなくなった。


「……魔力の吸収が、止まった?」


 騎士たちは魔力切れの症状が収まってくるのを感じた。まだ本調子ではないが、これなら時間が経てば回復するだろう。


「や、やったぞ……!」

「半裸のお姉さんが勝った!!」


 防衛隊や市民たちの間から歓声が沸き起こった。

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