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 第四話 【はぐれ者】

「はぐれ者」


 わたしは執事長ゲイツ・ラングルを睨み付けながらそう言った。


「はぐれ者!! 馬鹿な!! とうの昔に滅びたはずだ!!」


「誰がそういったんですかねぇ」


 済ました声が粘り気をおび嘲る。


「貴方はいつも誰かが言ったことを信じる。一度たりとも自分で確かめようとせず。自分の都合のいい言葉を信じる。愚か者だ。可愛いサミエル坊ちゃん。自分が浮気していたから妻も浮気をしているに違いない。都合のいい妄想を垂れ流す。『アリステア様は好きな方がございます。護衛騎士のカムオスに恋をしているのです。奥様がご懐妊されました。カムオスの子供でございます』まんまと噓を信じて笑いが止まりませんでしたよ」


「貴様!!」


 サミエルは剣を抜きゲイツに切りかかる。

 ひらりとゲイツは剣を躱し。


「怨むのなら出来の悪いおつむに産んだ大奥様を恨むのですな」


 サミエルを嘲笑う。

 ゲイツは指を鳴らすとどこからか黒い剣が現れた。

 はぐれ者が使う穢れた剣だ。切られた所から腐っていく。

 最悪の剣。

 侍女と祖母が悲鳴を上げ。

 護衛騎士達がゲイツに打ち掛かる。


「ぐわあぁぁ!!」


 ゲイツに切られた騎士の腕が服と共に腐り始める。

 黒の剣の穢れが心臓に届いたとき切られたものは腐れ死ぬ。

 騒ぎを聞きつけて私を迎えに来た連中もやって来た。


「お館様!! これは!!」


「はぐれ者だ!! 剣に気を付けろ!!」


「へ~~。外れ者? マジで腐れ剣なんてあるんだ。戯言かと思ってた」


 のんびりとした少年の声がした。


「感心してないでさっさと捕らえろ!!」


 騎士団のおじさんが叫ぶ。


「へいへい」


 魔導師の少年はブツブツと呪文を唱える。


「緑の茨よ。我と共に戦え。我と共に勝利せん!!」


 ゲイツの体に緑の茨が纏わりつく。


 べしゃり


 緑の茨が腐れ落ちた。


 にいぃぃぃ


 ゲイツの口が耳まで裂け笑う。

 口から見える歯は尖り牙まで生えて。

 いつの間にか肌は緑色になり耳は尖っている。

 頭には角まで生えている。

 悪夢の中に出てくる化け物がそこにいた。


「ぬるい!! ぬるい!! ぬるい!! その様な攻撃が私に効くはずもない」


 嘲笑いながら剣を振るう。

 ゲイツの剣を受け止めた騎士たちの剣が腐れ落ちる。


「クソ!!」


「何時からなの。何時からゲイツははぐれ者と入れ替わっていたの」


 震える声で祖母が尋ねる。

 長年にわたり使えてきた執事長が【はぐれ者】など信じられないのだろう。


「何時から? 最初からですよ。入れ替わった訳では無いのですよ。親子そろって残念なお頭ですな」


 ゲイツの笑い声が部屋に響く。

 顔を歪ませるおばあ様。


 コトッ


 わたしはゲイツに向かって歩き始める。


「これはこれはお嬢様。自分から私の所に来ていただけるとは嬉しいですよ。御褒美に楽に死なせてあげます」


 わたしはニッコリ笑う。


 ドシュッ!!


 幾つもの氷の剣がその体から生える。


 ボトボトボトボト。

 青い血が豪華な絨毯を血に染める。


「なん……だと……」


『クスクスクスクス……』


 わたしの肩にとまっている彼らが笑う。


『ねえねえ。どんな気分? どんな気分?』


『捕食者が捕食されるのはどんな気分?』


『ゴブリンか~~思ってたより小物だね』


 バキバキとゲイツの体が氷つく。


『チェックメイト』


 光の粉をまき散らしながらゲイツの所に飛んで行った妖精はチョコンと凍ったゲイツの鼻に触った。


 パキイィィィン!!


 ゲイツの体は粉々に割れ光と共に消えて行った。

 アレクサは腕を切られ倒れている騎士の所にトコトコとやって来る。

 胸まで腐り始めている。


「姫様……触ってはなりません」


 隊長が制止するがひょいとその横を潜り抜ける。

 騎士の横にぺたんと座る。

 アレクサは笑い手をかざす。

 アレクサの手から暖かな光が溢れ万華鏡のようにくるくると踊る。


「これは……」


 光が収まると騎士の服はボロボロだったがその体に腐った痕は無く騎士は呆然と己の腕を見る。

 傷一つない。

 見習い騎士の時馬から落ちた傷すら無くなっている。


「精霊姫……」


 騎士達の瞳は驚きを持ってアレクサに注がれる。

 かってこの地に【精霊姫】と呼ばれる巫女が居た。

 精霊を従え【はぐれ者】を狩った。

 1000年ほど前の話だ。

 精霊姫は【はぐれ者】を癒しの森に封印した。


『あ~~あ、ばれちゃったね』


『せっかく隠れていたのに』


『こいつが死んだ事であの女にバレちゃったね』


『どっちにしろあの女とは決着をつけねばならない』


 人形に羽が生えた様な妖精たちが口々にお喋りをしながら私の周りを飛び回る。


「あの女はどこ?」


 私はサミエル侯爵に尋ねる。


「あの女……?」


「あの女が貴女に私を探すように命じたのでしょう」


「フイロメア女王に対して無礼であろう!! 口を慎め!!」


『クスクスクスクス』


『女王だって』


『何にも知らないんだ』


『馬鹿な人間だね』


『ゴブリンに騙されるぐらい馬鹿なんだからしょうがないよ』


『何でアリステア様はこいつの事が好きだったんだろう?』


『恋は盲目だね。痘痕あばたえくぼって奴?』


『これこれこんなんでもアレクサの実の父親なんだよ。もう少しオブラートに包んでだな~』


『痘痕は痘痕でえくぼじゃないわ』


 妖精達は好き勝手にお喋りする。


「アレクサンドラは私の実の子供なんだな」


 サミエルは妖精達に尋ねる。


『そうだよ』


『えっ? 今の今まで疑っていたの?』


『流石あほぼん(アホな坊ちゃん)』


 妖精達にボロクソに罵られる。

 妖精達にとって『貴族何それ美味しいの?』程度の存在だ。

 王族も貴族も価値がない。

 妖精にとって価値があるのは女神とその娘の血を引く【精霊姫】だけである。


『精霊姫様』


 ぶわりと部屋の中に風が吹き、神々しい光を纏って彼が現れた。


「ラケシス」


 私は美しい精霊に抱きついた。

 彼の名はラケシス。

 滝のように流れる髪は青みがかった銀髪で水の精霊だ。

 いつもは白い神官服に似た衣装を纏っているが、今日は戦装束だ。

 彼も妖精達と同じく私に仕える者。

 彼は暴走しがちな妖精をまとめてくれる。

 ラケシスは私を抱き上げた。


「あの女にバレたみたい」


『仕方ないですね』


 彼は笑う。


『では前と同様に滅ぼしに行きますか』


 さらりと買い物にでも行くように言う。


「ちょっと待て!!」


 サミエル侯爵が待ったをかける。


『何ですか?』


「滅ぼす? 城に居るフイロメア女王の所に戦を仕掛けると言うのか!!」


『女王? あれにはソレリル皇族の血など一滴も入っておらぬ』


「何だと!!」


『真の皇族は亡くなられたアリステア様とアレクサ様のみ』


 ざわざわと騎士団達がざわめく。

 仕方のないことだ。

 王族だと思い仕えていた主が紛い物だったのだから。

 この国は代々精霊姫の血を引く女王が納める国。


『先の女王パメラ様がアリステア様を産み亡くなられた時、アリステア様とフイロメア(あの女)は入れ替えられた。反王族派の仕業だ。アリステア様が殺されそうになったので我らがお助けしたのだ』


『そうだよ。僕が悪い貴族を焼き殺したんだよ』


『そうよ。私が悪い兵隊を氷漬けにしたのよ』


『そうそう。悪の手先はくし刺しが相応しい』


『アリステア様は赤ん坊で力も弱かったから。私達は田舎の精霊教会にアリステア様を預けたの』


「それじゃフイロメアは何も知らない、何も悪くない。赤ん坊だったんだから」


『所がどっこいそうじゃない』


『あの女こそ【はぐれ者】の親玉だ』


『反王族派の貴族をそそのかしパメラ王女に毒をもり殺させたのはあの女』


「赤子にそんなことが出来るか!!」


『人間ならできないけど』


 妖精達は顔を見合わせ。


『『『『はぐれ者なら人間の赤ん坊に化ける事など簡単さ』』』』


 いっせいに答える。


「噓だ!! 噓だ!! 噓だ!! 噓だ!!」


 サミエルは頭を抱えて蹲る。


『ま~だ認めないんだね』


『何処まで愚かなんだ?』


『愛する女が女王でもなく人間でもなく婆のはぐれ者だなんてなんて何て悲劇~~』


『喜劇だろ。あれ俺らより年いってんだぜ。ちなみに俺345歳なんだがゲラゲェラ~』


『うん。目障りだ。ラケシスこいつ燃やしていい? いい加減イラついてきた』


「燃やしたらダメよ」


 アレクサは窘める。


「その眼で真実を確かめるといいわ」


 冷たくアレクサは父を見る。


「なああんたこれから城に行くんだろ」


 魔導師の少年はアレクサとラケシスの元に歩み寄る。


『そうだ』


 ラケシスが魔導師の少年を見る。


「俺も一緒に付いていっていいか?」


『姫の家臣として?』


「ああ……そうだ。家臣として真実をこの目で見たい」


『自分の身は自分で守れよ』


 火の妖精が偉そうに言う。


「分かっている」


「それならば我等も姫のお側に」


 騎士団長が膝をつき懇願する。


「好きにすればいいわ」


 わたしは承諾した。


『さあ、殲滅の時間よ』


 わたしは妖精達に号令をかける。



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   2019/1/24 『小説家になろう』 どんC

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最後までお読みいただきありがとうございます。


この世界での強さの順位。

女神>精霊姫>精霊>妖精となります。はぐれ者は精霊姫がいる場合弱いです。

精霊姫がいない場合は妖精は最低限の力しか使えません。

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