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 第二話 侍女

 ガラガラガラガラ……


 振動でわたしは目が覚めました。

 若い女が膝枕をしていてくれたようです。


「ここは……」


 わたしは起き上がり。目を擦りながらあたりを見まわした。

 豪華な馬車だ。王様やお貴族様がのる馬車の様だ。

 買い物の途中で見かける領主様の馬車より豪華だ。


「お姉ちゃんは誰?」


 わたしは侍女に尋ねます。


「初めまして。私の名はセテイ。アレクサンドラ様のお世話係です」


 ニッコリ笑う。立ち振る舞いからしてこの娘も貴族なのだろう。


「アレクサンドラ? 私の名はアレクサよ。アレクサンドラじゃないわ」


 キョロキョロと馬車の中を見渡して両親を探す。


「お父さんとお母さんは何処にいるの?」


「あの者達は人攫いです」


「人攫い?」


 侍女はしたり顔で答えた。

 そこには幼い子供に対する配慮など微塵もなく。

 得意げに真実を伝える。


「貴方様はサミエル侯爵の娘です。お生まれになった時あの者達に攫われたのです」


「何も知らないくせに知ったような口を聞かないで!!」


 わたしは思わず侍女を怒鳴り付けました。

 侍女はビックリしていましたが、憐れむような目で私を見ています。

 子供だから何も分からないと思っているのでしょう。

 どうやら実の父が私を探し出し。

 お父さんとお母さんからわたしを引き離したようです。

 なんて勝手な男でしょう。

 彼が母にした仕打ちをわたしは知っています。




『その腹の子は私の子供では無い』


 その男はわたしの実の母にそう言ったのです。

 愛する夫にそう言われた母の気持ちはどの様なものだったのでしょう。

 母は亡くなりました。

 あの男が殺した様なものです。

 わたしはてぬぐいをぎゅうと握りしめて涙を堪えた。

 あそこは本当に暗くて寒くて嫌いでした。

 またあそこに戻らなくてはならないのかと思うと憂鬱になる。




 馬車と船を使って三ヶ月もかかる旅です。

 漸くわたしたちはあの男がいる国にたどり着きました。

 ソレリル皇国です。

 馬車は王都にたどり着く。立派な門を抜け煌びやかな都の中に入っていく。

 8年前より栄えています。

 でもわたしは子供らしくはしゃぐこともなく、感嘆の声もあげません。

 チラチラとわたしを伺う護衛騎士達と侍女。

 最初の日いらいわたしは護衛騎士にも侍女にも口を聞いていません。

 何とか侍女も護衛騎士達もわたしの機嫌を取ろうとしましたが。

 知ったことではない。

 わたしにとって人攫いは彼らの方なのだから。

 その男の母親は現国王の妹で。

 その男は王様の甥に当たります。

 そのことを侍女は得意げにわたしに話して聞かせます。

 少しでもわたしの関心を引きたいのでしょう。

 くだらない。

 お嬢様のお父様は素晴らしい方です。

 王様の甥になるんですよ。

 大きなお屋敷に住んでいて。

 領地も5本の指に入るほど豊かだと言われても。

 わたしの関心を買うことはなかった。

 お父様は美味しいお菓子や綺麗なドレスをくださるでしょう。

 はっ。だからなに?

 実のお母様はそこで餓死させられそうになったし。

 毒も盛られた。

 綺麗なドレス?美味しいお菓子?

 実のお母様は私を物置で産んだのよ。

 そんな事を考えていると館に着いた。

 相変わらずでかい。

 赤ん坊の時も思ったけれど。

 でかいだけで虚ろな建物だ。

 お城のように豪華な家具がセンス良く置かれている。

 実の母が嫁いで来た時、母は館じゅうに花を飾った。

 帰らぬ夫の為に夫の好きな料理を作り。

 ハンカチやテーブルクロスに刺繡を刺した。

 暖かい家庭を作ろうとお母様は努力して。

 報われなかった。


 大きなドアが開く。

 大勢のメイドや侍従が二列に並んで私達を出迎える。

 先触れが出されていたのだろう。


「お嬢様おかえりなさいませ」


 執事長が頭を下げる。

 わたしは何も答えない。

 執事長は困ったようにセテイを見る。


「後でご報告いたします。取り敢えずお嬢様をお風呂に入れて旅の汚れを落とします。その後で大奥様と旦那様の元にお連れ致します」


 わたしはセテイと数人のメイドに部屋に案内された。

 白とピンクを基調とした可愛らしい部屋だ。寝室と勉強部屋と衣裳部屋があった。

 セテイとメイドはわたしの服を脱がし体を洗いドレスを着せる。

 髪を梳かし可愛い髪飾りを付けられる。

 うんまるでお姫様だ。

 しかし……鏡の中のわたしは無表情だ。


「大丈夫ですよ。旦那様もお婆様もお優しい方ですよ」


 メイド達はわたしが緊張しているのだと勘違いしていた。

 わたしは正に敵陣に一人殴り込みをかける心境だ。

 ここはわたしの家では無い。

 正に敵地なのだ。


 ドアをノックする音が聞こえ。

 執事長が声を掛ける。

 わたしは執事長に案内されてファミリールームに向かった。

 8年ぶりの親子の対面だ。

 ドアが開きわたしは部屋に通される。





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 2018/11/28 『小説家になろう』 どんC

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最後までお読みいただきありがとうございます。

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