第一話 来訪者
「お父さん遅いね」
わたしは窓から暗くなった外を見る。お父さんの姿は見えない。
わたしのお家は森の中にあって。町にある騎士団本部がある建物からかなり外れている。
お父さんは馬で町まで通っているの。
振り返り暖炉の側で編み物をしている、お母さんの椅子の側に駆け寄る。
「そうね。残業かしら?」
「今日はお父さんの誕生日なのに。御馳走が冷めてしまうわ」
ぷーとわたしはほっぺたを膨らます。
テーブルの上にはお父さんの好きな白オークのシチューがお鍋の中でホカホカと湯気をたてていて。
チコリとくるみのサラダはミニトマトに彩られ。白いパンが籠の中に今か今かと出番を待っている。
デザートはいちごで隣のおじさんの畑から貰ってきたの。
隣のおじさんとと言っても30キロは離れているけどね。
テーブルに飾られた野の花はわたしが摘んできたのよ。
ハルジオン・シャガ・ヒナゲシ・ハナニラみんなお父さんの好きな花。
「お父さん早く帰ってこないかな~~」
わたしはてぬぐいを撫でる。
お母さんに習ってお父さんの名前とヒナゲシの花を刺繡したのだ。
「お父さん気に入ってくれるかな?」
「アレクサが一生懸命刺繡したんですもの。大喜びよ」
「えへへ。大切にしてくれるかな?」
「もちろんよ。とっても上手にさせているわ。後数年したら私より上手になっているわ」
お母さんに褒められてとっても嬉しい。
バタン!!
いきなりドアが開き、見知らぬ男達が家になだれ込んでくる。
7人の男達は皆黒いマントを身に纏い。
武装している。
一見すると冒険者の様だが。
動きは騎士の物だ。
「貴方達は!! 侯爵家の!!」
お母さんはこの男達を知っているようでした。
ガシャアァァーーーン!!
テーブルはひっくり返され床に料理が散乱し。
男達はわたしが摘んだ花を踏みにじり。
わたしたち親子を取り囲む。
とっさにわたしはてぬぐいを抱きしめる。
「~♪~~~♪~~♪」
男達の中に魔法使いがいたようです。
歌うような呪文。眠りの呪文。
わたしとお母さんは眠りに落ち。
床に倒れる前にリーダーらしき人物に抱きしめられました。
「お母さん……お父さん……」
わたしを抱きとめた男は私の髪をかきあげ顔を覗き込む。
「間違いない。サミエル様にそっくりだ」
「瞳は亡くなられた奥方様に似たようですね。綺麗なペリドットの瞳」
若い魔法使いが答える。
彼がこの集団の中で一番若い。
いや幼いとも言える歳だ。
わたしと5歳も違わないだろう。
「難儀なものだ。我らは姫に恨まれるやも知れぬ」
男はわたしが握りしめているてぬぐいを見た。
幼い娘が一生懸命刺繡したてぬぐい。
そして床に散らばった花。
自分達が踏みにじったのはこの家族の幸せだと気付く。
実の父と母だと信じて疑わぬ娘の幸せを壊すのだ。
「真実はいつも残酷なものですよ」
したり顔で若き魔法使いは答える。
「噓はいつかばれる。彼等は知るべきですよ。噓は真実にはならないとね」
「おしゃべりが過ぎた。姫を連れて帰るぞ」
「この女はどうするの?」
魔法使いの少年がこてんと首を傾げてリーダーに尋ねる。
「ほっておけ!! あの男と一緒に大切な娘を失う辛さを味わうがいい」
リーダーは吐き捨てるように言う。
男達はわたしの体を抱えて近くに止めてあった馬車に乗り込み。
わたしの体を馬車の中にいた侍女に渡した。
御者は馬車を走らせ。侍女は私を毛布に包み抱きしめる。
わたしは彼らとともにその様子を見ていた。
振り返り倒れているお母さんの側に跪く。
眠らされているお母さんの頬にそっと触れ。
「けりをつけてくるから心配しないで」
と囁いた。
わたしは空に浮かぶと彼らとともに馬車を追う。
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2018/11/28 『小説家になろう』 どんC
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