行く先々で人が死ぬ「死神」と呼ばれて恐れられている名探偵と遭遇してしまったので全力で死亡ルートを回避して絶対に生き残りってやりたいです。
「道に迷ってしまって...」
「そうですかーでは遠慮なく」
旅館の女将はそう言いながらその探偵にスリッパを出す。その光景を見ていた私は少し慌てた様子になった。
「あの....あの探偵はっ...!」
その探偵は、「死神」と呼ばれていた。というのも、死神のそのものではなく、行く先々で人が死ぬことからそう呼ばれていた。
「薬を飲まされて小さくなった」だとか「じっちゃんの名にかけてが口癖」などの名この手の探偵は行く先々で人が死ぬ。旅館に行けば旅館で殺人事件が起こるし、観光をしていればその観光地で人が死ぬ。こいつはそれらのと同じ類のやつなのだ。
「まずい、誰かが殺人事件を起こす...それを生き残る方法は...」
真っ先に、犯人になることを考えた。犯人なら死ぬことはほぼなく、生き残りやすい。だが、犯人として捕まったときのことを考えると、この案は良くない。
「やばい、やばい...」
「あれ?どうしたんだ?」
階段を駆け上がり廊下を駆け抜けろうとすると、友人のマサが私を呼び止めた。私たちは6人でこの宿に泊まっている。殺人事件が起こるなら最高のシチュエーションだ。この場合なら、2人か3人ほど死んで、残りの人から容疑者から犯人を捜す感じになるだろう。
「いや、ええとそう、トイレに行きいたくて!」
「トイレ?お前はおっちょこちょいだなあ」
適当にトイレと言って、部屋に戻る。ここからだ。どれがきてもいいように様々な殺人トリックを考えるが、思い浮かべるのには限界があった。
「うーむ、だがまだ殺人事件が起こったわけじゃない!もしかしたら起こらない可能性だってあるんだ!!」
そう考え布団に入る。もしかしたら起きないこともあるかもしれない。そうだ、必ず起きると誰が決めた?不安は少しあったが、睡魔は早く訪れ、眠りについた。
だが、それはやはり起こってしまった。キャー!!という悲鳴に目がさめる。とても嫌な予感に心臓をバクバクさせながら、扉を開ける。どうか起こらないように...と願ったが、その願いはすぐに絶たれた。
「日野さんが、日野さんが死んでるー!?」
「いったい誰が!」
「日野さん...」
私は知り合いである日野を見て動けなくなった。血だまりができていて、ナイフが刺さっている。
「落ち着いてください、犯人はこの中にいます」
「犯人?まさか...」
その言葉に周りがざわつく。何が犯人だ。十中八九お前がいるからだろう。そう言いたがったが、いうのはやめておいた。
「く、くそ!ばっかじゃねーの!?俺は戻らしてもらうからな!」
でた。死ぬやつがほぼ確実に言う言葉のナンバーワン候補というやつだ。こういうことが起こっても、これを言ってはいけない。これは「私はこのあと死にます」とアピールしているようなものだ。
「君、そういえば日野くんと言い争っていたよね?」
「えっ...?」
推理モノお得意の言い争ってたネタでそれっぽく雰囲気を作る。そういう奴は高確率で犯人じゃなかったりするのだが、なぜこうも都合よく殺される前に口論ができるのか不思議でたまらない。
「そんなこと言ったらお前だって強請られてたじゃねーか」
「本当なんですか?」
「ええ、ですが殺していません」
殺すなんてハイリスクハイリターンなことするわけがない。
こういう場合、あと1人か2人は殺される。うむ、「俺は戻る」と言った加藤は確実に死ぬだろう。あと1人にならないように、早く戻らなければ。
「おいおい、こんな殺人者と一緒にいるなんてごめんだぜ?」
「ですが帰路は昨日の嵐で土砂が起こりふさがれています」
今度はご都合の帰り道もない奴か。こういうのは毎度毎度帰路を塞ぐがないと気が済まないのか。
事情聴取がおわり、悲劇はまた起こった。外の車が爆発して炎上したのだ。
そこから加藤の遺体が見つかる。あーあ、あんなフラグみたいなこと言わなければ助かっただろうに。
「どうやって火をつけたんだ..?」
「犯人はきっと強請られてたあんたよ!」
こちらを名指しをされる。こちらとしては犯人を早く捕まえてくれないと夜も眠れない。
「と言っても証拠がないでしょう?証拠を出してください」
とか言いながら心臓が騒いで収まらない。いいから早く犯人を見つけてくれ。ただそれだけを願うしかない。結局、被害者にならないことをひたすら祈るしかないのだ。
とりあえず一旦戻されたが、それでも怖かった。いつ殺されるんじゃないかと。
「絵?犯人がわかった??」
「ええ、犯人はあなたです!」
犯人を名指しし、そのトリックを丁寧に説明していく。全て辻褄はあう。よかった、これで解放されるのだ。
「証拠はあるんですか??」
「はい」
必ずと言ってもいい証拠を提示するやつだ。いつもはドラマでしか見ないが。生で見るとドラマより迫力がある。
とりあえず、犯人も見つかり、私も生存して、ハッピーエンドを迎えられるというわけだ。
「すごい!さすが名探偵」
「いえいえ」
すごいのはある意味推理力よりも行く先々で殺人事件を起こす能力の方だと思う。殺人事件を裏で操ってるんじゃないかと疑うレベルまである。だがそれも言わないでおいた。
「さて、帰路確保したようですし。皆さんさようなら」
「ありがとうございました」
その探偵は最後まで礼儀正しかった。さて、私も帰ると...ん?
「おお!なんと綺麗な花だ!」
崖のところに綺麗な花が咲いていた。それはもう美しいのなんの。私は近づき、取ろうとした
「あ」
その瞬間体が浮いたような感覚に陥った。次の瞬間、私は落ちていた。
「うわああああああああ。こんな関係ないところで死ぬのかああああああ!!」
私は死神と言われた探偵のいる旅館を生き残った私の一生はおわった。