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幸い、翌日は休日だった。
僕はなかなか寝付けず、
(そりゃ、そうだ。同じ部屋に若い女性がいるのだから。)
ほとんど眠れないまま、朝を迎えた。
ソファに目をやると、彼女は気持ち良さそうにすやすと眠っていた。
ハーフかクウォーターだろうか、肌の色は透き通るように白く、彫りの深い顔立ちをしていた。
背中の十字架は邪魔ではないのだろうか。
まるでそれは彼女の体の一部のようにぴったりとくっついていたのだ。
コーヒーを淹れていると、彼女はようやく目を覚ました。
しばらくボーっとしていたが、部屋の中を見回して彼女はハッと我に返ったように驚いた表情をした。
「あれ、ここどこだろう。」
明らかに彼女は困惑していた。
私は誰?ここはどこ?とかいう、ドラマや映画でよく観るやつではないことを僕は切に願った。
「私、なんで、、」
「あのー、君が昨日このマンションの1階にうずくまってたから。」
「だから?」
「え、だから、あの、連れてきたんだ。
寒そうだったから。」
僕がそう言うと、彼女は完全に不信感を持った目で僕を見て、かけてあった毛布をすっぽりとかぶった。
「いや、僕は何も。
ただ、寒そうだったから、連れて来ただけ。
そしたら、君はソファで眠ってしまって、」
やれやれ。
何を言っても不審がられるだけだ。
しかし誤解される筋合いもない。
「いや、ほんとに何も。
ただ、ソファを貸してあげた、ただの通りすがりです。」
だめだ。どんどん胡散臭い奴になるだけだ。
「あー、何て言えばいいんだ。
僕が一番びっくりしている。
この状況に。」
僕は半ば投げやりになって、手で頭をクシャクシャと掻きむしった。
「僕は普通のサラリーマンで、毎日まじめに働いて休日は好きなことをして静かに暮らしてる善良な市民だ。
そんな僕がなぜか君を見た瞬間、放っておいてはいけないと思ったんだ。
自分でもびっくりしたよ。
君はなんていうか、普通じゃない気がして。」
天使だと思ったことは伏せておいた。
普段から無口な僕がこんなに立て続けに口から言葉が出てくることにも驚いた。
彼女はしばらく何かを考えているようだったが、「ねぇ、シャワー貸して。」と言った。
よくわからないが、どうやら僕のことを信用してくれたようだ。
「うん、いいけど。一瞬、待っててくれる?」と言って僕は慌ててバスルームに行き、一通りチェックした。
日頃からまめに掃除しているおかげで、バスルームは若い女性が使ってもいいくらいには綺麗な状態だった。
バスタオルと、着替え用の僕のスウェットの上下を念のため置いて「どうぞ」と彼女に言った。
彼女がシャワーを浴びている間、そわそわして何をすればいいかわからなかった。
いつもの週末を過ごす予定だったのに、なぜこんなことになってしまったのか全くわからなかった。