9.異形と正体
日が暮れた頃に、目的地の森林に到着する。
既に日も落ちているため、Lv上げは出来ない。
それぞれのパーティに別れ、玲たちは5人で夜営の準備を進めていく。
「なんかキャンプみたいで楽しいな!」
信二がそう言うと、
「んー、私キャンプしたことないからよくわからないな」
「うん、私も行ったことなくて」
楓と菊がそう応える。
「まじかよ!玲はあるのか?」
「いや、俺も無いな。初めての経験だから楽しみだよ」
記憶が無いため、無難に話を合わせる。
その頃ダルバは若者の会話に混ざれず、ホロリと涙を流していた。しかし、言うべき事を思い出し、若者4人に伝える。
「呑気な事言ってるが、ここには魔物が出る!弱いから恐るに足らないが、見張りを立てる。誰か2人選出しておいてくれ!」
「なら、俺やりますよ」
「お、玲。積極的だな!」
今晩、スキルを試したいからな。
「なら、もう1人は私がやるー!」
楓がそう叫ぶ。信二以外なら誰でもいいので、俺は了承する。
「よし!ならさっさと飯を食って明日に備えよう。2人は交代交代で見張りをしてくれ!」
□
食事が終わり、みんなは眠りについた。玲と楓は2人、焚き火を挟み見張りをしている。
「じゃあ俺が先に見張りをするから、楓は先に眠っていてくれ」
「いや、その前に少し聞きたいことがあるの」
「楓が俺に聞きたいこと?」
理由が分からず、聞き返す。
「うん、体の傷について」
これは、男子の誰が言ったのか聞きだす必要がある。見つけ出して縛り首にしてやる。
「ああ、この傷はなんとも無いよ。昔につけられただけ。心配する事は────
そう言いかけ、言葉に詰まる。
何故なら、目の前の楓の瞳には涙が浮かんでいたからだ。
「ごめんね、気がつかないで。本当にごめんね…」
普段、明るい彼女とは思えないほどに弱々しい声でそう呟く。
こいつは何を考えているんだ。
大方、俺の家庭環境に気がつかなかったこと自分を責めているのだろうが、筋違いにも程がある。
俺はこういった人間が嫌いだ。自分の身勝手な正義をかざし、出来なかった事に責任を感じ、謝る。自分は何も出来ない事を理解していない。
全くもってどうかしている。恐らく信二と同類で、これから俺に突っかかって来るだろう。
勝手に謝ってくるこいつに対する殺意を抑えながら、いつも通り、嘘の笑顔を貼り付けて応える。
「もう、だいぶ前に解決しているから、そんな事言わなくて大丈夫だ。俺は自由幸せにやってるよ」
「そう…ならいいの」
泣き顔を見られ、小恥ずかしいのかすぐ顔を背ける。
「ともかくもう寝て、その辛気臭い顔をなんとかしろ」
彼女は一瞬驚いた顔をしたが、
「うん!」
と元気な声を出し眠りに着く。
□
楓が眠りに着いたのを確認し立ち上がる。
玲は能力の検証のため、他のパーティの無い方角に距離を取る。
しばらく進み、少し開けた場所に出た。周りに音は無く、周囲に人も魔物もいないとこが判る。
スキルを試すには最適な場所だ。
玲は月明かりの照らす地で、魔力の流れを意識する。そして……
『反魂の狂乱』
そう心の中で唱えた。
唱えた瞬間に変化は訪れた。まるで身体を作り変えられるような感覚。そして、内側から来る感情の渦。不快感は無く、これが自分の負の感情だと悟る。
そして変化は終わる。
その風貌は化け物か人間そのどっちつかずだった。
どちらかと言えば化け物寄りだろう。衣服をまとっていないその脚は獣の脚だった。ヤギの蹄に毛に覆われた強靭な太股。胴体と左腕は人の身体だが、原型を留めていない。肉体は長年放置された死体のようで、腐敗臭を放っていた。肋骨は自身の肉を割き、臓器をぶちまき、血をそこら中に撒き散らしている。頭部も右頬が腐り落ち、アゴの骨が露出している。そして耳の後ろには凶悪な巻き角が生えていた。
しかし、そんな風貌にもかかわらず人々はその身体を見ないだろう。何故なら彼の右腕はそのどの部位よりも異質だったのだ。
自身の身体ほどにまで肥大化したその右腕は、黒い甲殻に覆われており、指先は尖り、甲殻の隙間からは黒い煙が上がっていた。その煙は見るものを惹きつけ、狂わせ、恐怖に陥れるだろう。
〈これはまたおぞましいな〉
プルトリファ様が話しかけてくる。
〈ああ、これが俺の感情だから笑い物ですね〉
〈その死した身体は、お前の心が随分昔から死んでいる事を示しているのだろう。獣の脚は継ぎ接ぎの感情。異形の右腕は唯一生きているが、お前の狂気に侵されている〉
まさかその風貌に意味があるとは思わず驚くが、時間は無い。すぐにステータスと呟き、偽りの身体のスペックを確認する。
飢gg@ガガガ rrレイ
Lv1
HP ──
MP520/520
筋力:STR 240(+999999)
敏捷:DEX 300(+999999)
体力:CON ──
◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️
3600/3600
スキル
異空庫、言語翻訳、禁忌の書、反魂の狂乱
称号
邪神プルトリファの加護
名前は読み取れなくなり、HPと体力が無くなっていた。新たに追加された数字は1秒毎に減っているため、恐らく制限時間だろう。
〈HPと体力が無くなっていますがこれは?〉
〈その身体は偽りの身体だからな。死ぬことも無ければ壊れることもない。体力と防御力は無意味になり、無くなる〉
なるほど。その説明を聞き玲の感情は昂ぶっていた。
これは殺せる!
文字通り皆殺しに出来る!
騎士団長のダルバも関係無い!
この攻撃力と死なない身体……
残り時間でこの森林にいる全ての人間を殺せる!!
衝動のままに殺し尽くそ────
〈おい〉
その声で弾丸のように続いた思考は止まる。
〈ここで殺し尽くせばタダじゃおかないぞ。お前にはやるべきことがあるだろう〉
重圧のかかった声でそう言われたが、玲の思考は別にあった。早急に確認しなくてはならないことが出来たからだ。
〈1つ聞いていいですか?〉
〈なんだ〉
〈プルトリファ様は女神の世界に干渉出来ますか?〉
〈いや、出来な──
そこで言葉は終わる。玲の思考を読み、不味いと感じたのだろう。しかし、もう遅い。
〈お前、邪神じゃないだろ〉
そこにはあったのは息を飲むプルトリファの声と
2人の生物の息遣いのみだった。
はい、どうも猟犬です。
今回も駄作に付き合ってもらいありがとうございます。
ここから物語の展開が進んでいく予定です。
急いで書き上げたので誤字脱字があるかもしれません。見つかれば、報告お願いします。
明日は上げれるか不明ですが、なるべく投稿する予定です。
また明日か明後日お付き合い下さい。