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虚ろな忌み子の殺人衝動  作者: 猟犬
第4章 タイムレスデザート
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43.会合2

 さて、どうしたものか。

 取り敢えず玲は、袖を元に戻し、シェルにハンドサインで、あと何回心が読めるか聞く。帰ってきた返答は小さく首を振るのみ、回数は0だ。

 この場での敗北条件は、戦闘になる事。玲がサーカイフの町で殺人鬼どもと戯れている間に、勇者どもはひたすらに強くなっているはずだ。初期スペックが同等でも、今の玲と勇者では実力は雲泥の差。もし戦うどうことになれば、『反魂の狂乱』の使用は免れない。しかし、使えば最後、地の果てまで追われることになる。

 つまり、ここでの行動は楓と菊に不信感を持たれず、口八丁だけでお引き取り願わなければならない。

 しかし、このまま考えているだけでは、怪しまれる。声色で正体がバレる危険性を考えて、玲の代わりにシェルが話す。


()()殿()よ。私たちは用事があるゆえ、手短に頼む」


 了承を得た楓と菊は席に着き、話し始める。


「そこの執事さん?の着けている仮面。実は懸賞金のかけられている『冥王』の物と酷似しているの」

「そうなのか?そこら辺の商店で買い与えた物だからな、サッパリ知らんよ」


 ああ、不可解な周りからの視線はそういう事か。

 まずったな。『冥王』は間違いなく俺のことだろう。仮面を付け替えるべきだったか。

 いや、それよりもこの場をどうする?

 相手は既に此方に不信感を持った状態、しかもいつでも戦闘に出れる状態で話し掛けているときた。

 つまり、顔を見せずに、戦闘をせず、不信感を解消して、お引き取り願う必要が出てきたわけだ……

 無理だ。出来ない。出来たとしてもかなり面倒だ。

 2人を説得する事を諦めた玲は、自分の仮面に手を掛け、ゆっくり外した。


「久し振りだな。野外訓練以来か?」


 そして何事も無かったかのように話し掛けた。


「………………え、れいっち?」


 楓は気の抜けた声で呟く。

 横を見れば菊も驚愕の表情を浮かべていた。


「おいおい、間抜けな顔をしてどうした?

 まるで死人を見たような顔だぞ?」


 それから玲は、ダルバに説明した同じ内容の説明を2人にした。

 2人は概ね納得したが、それでもダルバと同じように、なんとも言えない曖昧な表情を浮かべる。


「何かあったのか?」


 玲は流石に疑問に感じ、聞くことにした。


「その、元の世界に帰る手段が魔族の領土に無かったの。それで責任を感じちゃった信二君が玲君の仇を取ることに妄信的になっちゃって……」

「ああ、なるほど。今俺が信二に会うと、これまでの目標が消えるわけだ」

「そうなのよ。正直、今の信二は正気じゃないから、玲が生きてると知ったらどんな事になるのか想像がつかないの」

「なら、接触は不味いな。近いうちに会いに行こうとしたが、当分は諦めるよ──」


 そこで、トントンと指で机を叩く音が鳴る。音の主はシェルだ。会話を俯瞰し、ここが潮時と踏んだのだろう。それを合図と取った玲は、席を立ち楓と菊に向き合う。


「悪いが、ここまでだ。これ以上は時間が厳しい」

「ふふ、執事の仕事頑張ってね」

「れいっちも元気にやれよ!」


 玲は仮面をつけ直し、シェルと共に店を出ようとするが、その直前振り返ってある質問を投げかける。


「2人はステータスは開けるか?」


 2人は疑問を浮かべながらも、ステータスと唱え、確認する。


「ふつーに開けたよ?何かあったの?」

「いや、開けるならいいんだ」


 返答の後、シェルと玲は背を向けて、街に買い出しに出た。

 まず買ったのは顔を隠す仮面。もちろん購入する時、黒塗りの仮面を付けていれば怪しまれる。久々に表情を晒しながら仮面を買う。

 購入したのは鉄製の仮面。先に鋭い嘴が付いており、形で言えばペストマスクが近い。本当はもっと質素な物を選ぶつもりだったが、『冥王』とは明確に区別がつくような物を選ぶ必要があった。というかシェルに、無理矢理押し付けられた。

 仮面を購入した後は、食料の買い出しをし、今晩の宿を探し始めたのだが…………


「どこも満室だな」

「ふかふかのベッドぉぉぉ〜……」


 シェルは手と膝をつき、絶望に打ちひしがれる。


「どうせこんな事だろうと思ったわ。さっさとスラムに行って寝床確保するぞ」


 玲は地面に倒れている、シェルの手を引っ張り、「あ゛あ゛あ゛あ゛」と、到底女性が出してはいけない呻き声を無視して、引きずる。

 そんな時、不意に声がかけられる。


「あの〜、よければ寝床ありますよ?」

「それは本当か!!」


 誰から声をかけられたかも知らないうちに、シェルが光の速さで反応する。どれだけベッドで寝たいんだ。


「申し遅れました。わたくし、パシスタと申す者です」


 パシスタと名乗った女性は、修道服に身を包んでおり、何処かのシスターだと伺える。物腰の柔らかそうな表情を浮かべ、善意から声を掛けてくれたことが察せる。いや、引きずられるシェルを、見るに見かねての声掛けだったのかもしれない。


「それなら、案内お願い出来ますか?」


 玲はパシスタの厚意に、有り難く甘える。スラムに行こうとした玲だが、彼も実際は物凄く疲れている。ベッドで寝られるのなら、それに越したことはない。最悪何かあったとしても、殺して逃げ出せばいいという、短絡的な思考もあった。

 それに、既にシェルがパシスタに抱きつき、テコでも動かなさそうだったから、何を言っても無駄だろう。


「はい!それでは付いてきてください!」


 パシスタは元気よく返事をし、2人を案内した。














 案内された場所は、市街地とスラムの境目にある寂れた教会。右を見れば、廃材の積もるスラム。右を見れば、少し離れた場所に人々の活気。少し異質なその空間に、不思議な感覚を覚えつつも、教会の中に入る。


「パシスタお姉ちゃんおかえりー!!」


 出迎えたのは、年端もいかない子供たちだった。10数人いる子供達は、教会に帰ってきたパシスタに抱きつく。


「そっちの変な人はー?」


 子供の1人が仮面の玲を指差し、パシスタに聞く。


「この人たちはこの教会のお客さんよ〜。数日泊まることになるから失礼のないようにね〜」


 パシスタは子供達にそう言い聞かせ、玲とシェルを奥の部屋に案内する。


「……元気な子供達ですね」

「ええ、おかげさまで毎日大変です」


 話を聞けば、この教会は子供達とパシスタ以外に人はおらず、身寄りの無い子供を引き取る孤児院をやっているそうだ。その話を聞き、身に覚えのある頭痛が玲を襲う。しかし、苦しいわけでもなく、玲は仮面の下で歓喜の笑みを浮かべた。


「わたくしはあの子達にご飯を作りますが、お二方は食べますか?」

「直前にたらふく食べてるから用意しなくていいぞ」


 シェルが答える。そういえばこいつ、俺が楓と菊と話している最中、ずっと食べてたな。俺の分まで。


「わかりました。それでは2階の1番奥の部屋を使い下さい。掃除はしているので、すぐに使えますよ」

「承知しました」


 シェルと玲は元気に遊ぶ子供達を横目に、階段を上がって指定された部屋へと向かった。

 部屋は質素な作りで、2つのベッドに、1つの机しかない。これまで人が使ってなかったのか、少し埃っぽい。ベッドも到底柔らかい、とは言えない。それでもスラムで寝るよりマシだろう。

 てっきり文句を言うのかと思ったシェルも、あっさりと受け入れたようで、ベッドに倒れ込むようにダイブする。


「よかったのか?」

「……何がだ」

「ふかふかなベッドとは言いがたいぞ」

「泊めてもらう身だしな。宿ならまだしも、孤児院も経営している教会だ。文句は言えんよ」

「……意外だな」

「そっちこそよかったのか?」

「何がだ?」


 まさか聞き返されるとは思わず、ついシェルと全く同じ答えを返してしまう。


「勇者に顔を見せて」

「そのことか。どうせダルバに近いうちに会いに行くと言ってしまったんだ。遅かれ早かれ見せることになったさ。それに、何か問題が起きればあの2人を殺せばいい」

「……そうか」


 玲の答えが気に食わなかったのか、シェルは仰向けになり、規則正しい寝息を立てる。疲れていたのだろう。玲との会話に興味が無くなり、すぐさま寝てしまった。

 玲は毛布を2枚取り出し、1枚をシェルに雑にかける。

 明日も早い。玲も毛布に包まり、目を瞑る。

 横になると、これまでの疲れに急激に襲われる。手足は動かすのが億劫になり、思考も遠くに遠ざかる。




 ──そういえば、説明もしてないのに、何故シェルは楓と菊のことが勇者だと分かったのだろう?

 



 そんな疑問も浮かぶが、疲労感の暴力と走り去る意識に、疑問は虚空へと消えていった。

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