38.ドキ☆はらはらクッキング!〜Gを添えて〜
新しい章です。この章はシリアスです。ドキ☆とか初っ端から言ってますが、シリアスになります。
「ドキ☆はらはらクッキング!」は2話構成ですので、後半はなるべく早く上げます。ポロリもあるかもしれないので期待して待っててください。
それでは本編です、どうぞ。
昼下がりの街道。
食事を終え、陽気な日に包まれて眠たくなるような時間帯、2人は全力で走っていた。
「玲!お前、もっと変身してアレを何とか出来ないのか!」
「無理だ!クールタイムでそもそも変身出来ない!」
背後には大地を染める真っ黒な絨毯。
それの正体は、よくキッチンでよく見る主婦の天敵であるアレ。名前を呼ぶのさえはばかられるG。
しかし大きさが尋常じゃない。牛並みのサイズがある。
それらが大挙して追いかけて来ているのだ。かなりの地獄絵図。あぁ数時間前の平和が懐かしい。
◼︎
「少し早いが昼飯にするか」
街道に出る少し前。
海岸から出て、木々の鬱蒼とする林の中。少々の休憩の意味を含めてシェルにそう伝えた。
「食事にするのか?少し待ってろ今から作る」
このままでは生物兵器が生み出されてしまう。
この際だ。前々から考えていたことをしよう。
「まあ待て、今日の飯は俺が作る」
「なっ……!お前料理が出来るのか!?」
シェルが顎が外れそうなほど口を開けて驚愕を顔に出す。
「少なくともシェルよりかは出来るだろうよ」
料理の記憶は全くないが、多少の作り方はなんとなく分かる。それにどんなに酷くなろうと気絶するものは中々出来はしまい。
言い止められないように、食材を出して準備を始める。反論して来ても無視だ。兵器を生み出させる訳にはいかない。
「俺の故郷の人気料理を振舞ってやる」
「そこまで言うなら今回は譲ろう。ただし不味かったら私の言うことを1つ聞いてもらおうか」
「それぐらいなら構わん。ただし美味かったら次からの料理担当は俺だ」
「いいだろう」
異空庫から包丁とまな板を取り出す。
まずは芋だ。手頃な大きさに切り、水を溜めた鍋に入れる。
次に野菜。見たことあるなんかそれっぽい物を買っておいた。どれぐらい切ればいいか分からないが、とにかく細かく切れば消化にいいはずだ。
切ったものは別の鍋に入れる。
「シェル、火を頼めるか」
「まあ、それぐらいならいいぞ。ほれ」
シェルが焚き火に火をつけたため、そこに野菜を入れた鍋を火にかける。油を引くのも忘れない。
よしよし、いい感じだ。
あと肉も入れないとな。
熟成肉とか聞いたことがあるし、きっと古い肉の方が美味いはずだ。手持ちで1番古い肉を使おう。
食べ応えのあるほうが嬉しいから、ぶつ切りで鍋に入れる。
ついでにここで水にさらした芋も投入。
みりんや醤油が無いから、代わりに塩を入れよう。
どれぐらい入れるか分からないが、取り敢えず沢山入れとけば何とかなる。
思ったよりも安かったし、きっと大量に消費するタイプの物なのだろう。ざっと袋の半分くらい入れる。
「なぁ、お前の故郷の料理は塩をそんなに使うのか?」
「ん?あ、あぁ。これぐらいは日常茶飯事だ」
シェルがいたたまれない目で心配してくるが、きっと大丈夫。
次は砂糖だな。シェルの反応から、塩を多く入れ過ぎたっぽいから、砂糖は少なめにしよう。スプーン2杯ぐらい。
だいぶそれっぽい見た目になってきた。
しかし、水はこんなに少なかったか?
少し注ぎ足そう。あれ?手持ちの水がもう少ないな。
…………魔獣の血を入れとけばいいか。シェルは血が好物らしいし、何も問題ない。
後は隠し味。
隠し味は上手な料理の秘訣とか聞いたことがある。隠し味は絶対に入れないとな。
取り敢えずリンゴと蜂蜜を入れる。隠し味の代表選手だ。
次にキノコ。サーカイフの町で買ったビンビンタケを雑に入れる。
売っていた商人によると活力がつくらしい。しかも夜になるとまるで獣のような力を発揮するとのこと。夜に魔物に襲われると大変だからな、ビンビンタケは大量に入れよう。
後1つぐらい隠し味を入れたいな。
シェルは意外と子供っぽいし、卵料理とか好きだろ。卵をそのままブチ込めば好きな味になるはずだ。
「よし出来だぞ」
玲は異臭を放つ橙色のソレを皿によそい、シェルの元にまで持ってくる。
「………………これの名前は?」
「肉じゃがだ」
そう、俺が作ったのは肉じゃがだ。
老若男女問わず大人気な料理で、家庭の味と言ったら味噌汁に並ぶ最高峰の料理!
不味いわけがない。
「何でこんな色なんだ?」
「血を入れたからな。代用品だが、美味しく飲めるはずだ」
シェルはスプーンを持ち、皿を軽くかき混ぜる。
「何かじゃりじゃり音が鳴るが」
「砂糖と塩をそれなりに入れたからな」
「異様な粘度があるが?」
「さあ?粘度が強く出る食材何て使ってないから気のせいじゃないか?」
シェルはスプーンで浮かんでいる卵を突く。
「この浮かんでいる白い物体は何だ?」
「卵だ。隠し味に入れた」
「殻ごとか?」
「殻ごとだ」
「……………………」
シェルは黙り込む。何が苦手なものでも入ってたか?
取り敢えず俺も食いたいから自分の分をよそって口に運ぶ。
「うん、食える食える。いつものシェルの料理より全然マシだ」
横でシェルが「は?何言ってんのこいつ」みたいな目で見てくるが、気にしない。
「ほら、早く食え。冷めると不味いぞ」
「ほ、ほほ本当に食えるのか?」
シェルは震えた声で聞いてくる。
手足も震えており、まるで産まれたての子鹿のようだ。
「食わないなら俺が全部食うぞ?」
シェルはその言葉に覚悟を決めたのか、震えながらもスプーンを口元に持ってくる。
唾を飲み、喉が鳴る。
そして一思いに口に押し込む!
「辛っ!ま゛っ゛……!痛っっっっ!」
シェルは一口食べたその瞬間、口を押さえてあたりを転げまわる。
「おい玲!痛いぞこの料理!ダメージを食らった!」
「そんなわけないだろ。俺は何ともないぞ」
「貸せ!お前の方だけ何か細工をしているのだろう!」
シェルは玲のスプーンと皿を取り、一気に流し込む。
「あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛っっっ!しぬぅ!しぬぞこれは!」
またもシェルは地面を転げ回り、その服を土で汚す。
「ぐぅ…、これが玲の故郷の料理、Nikujaga!!殺人兵器にも程がある……」
「流石、普段から兵器製造している奴は言うことが違うな」
玲はNikujagaが奪われたため、新たに皿に注ぐために鍋の元に向かう。そしてそこにいたのは。
カサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサ
黒光りするアイツだった。
しかもそれなりのサイズで、何と鍋の中を全て食い散らかしていた。
コイツよくも俺の愛のこもったNikujagaを。
「『反魂の狂乱』」
玲は体を変化させ、ソイツを叩き潰す。
変な汁があたりに飛び散り、異様な匂いが充満する。
全く、俺の食べるNikujagaが無くなってしまった。仕方がないし今日の昼は抜くか。
玲は大人しくシェルの元に向かったが、そこにも
カサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサ
カサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサ
カサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサ
カサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサ
奴がいた。
「いきなり囲まれたんだが、玲何かしたか?」
「あー何もしてない。俺は悪くない」
潰したアレはメスだったのか。そして此処にいるのはオス。
潰した時に出たフェロモンを追ってここまで来たのだろう。そしてそれを間近で浴びた俺はきっと追われる。
うん、逃げるか。
「捕まれ!逃げるぞ!」
シェルを抱え、即座にその場を離脱する。
そして抱き抱えたことにより、フェロモンがシェルにも付着したはずだ。
旅は道連れ世は情け、いい言葉だ。




