30.多重殺人
双子と別れ、玲とシェルは2人街を歩いていた。
本日はシェルの観光に付き合う代わりに、城で手に入れた金目の物の売却に付き合ってもらう事になっている。
「これらを全て換金したら、当分の間は遊んで暮らせる。ここでの取引はそれ程重要なものだ。是非とも頼むぞ」
「勿論だ!私のこのスキルはこういった事に向いているからな、任せておけ!」
「ああ、頼りにしてるぞ」
2人は商会の建物に入り、受付の者に売却の旨を伝え、しばらくすると奥から小太りの男が出て来る。
「どうもジーダ商会のトブーリと申します。本日はどのような物をお持ちになられて?」
「少々物が多いので、場所を移したいのですが、宜しいですか?」
「ええ、構いません。こちらにどうぞ」
トブーリに奥に通され、案内された部屋の机に売却予定の物を7割ほど出す。
「ほお、それでは鑑定させて頂きます」
トブーリは感嘆の声を上げると、端の物から鑑定を始めていく。
「それじゃあシェル、後は頼んだ」
「ああ」
シェルは頷き、ジッとトブーリを見る。
おそらく、トブーリの心を読んでいるのだろうが、俺にはよくわからないので暇だ。
玲は壁に寄り掛かり、目を伏せて寝るのだった。
□
(ふむ、質は中々、『異空庫』に入っていたため、保存状態も悪くない。しかし、この壺にある模様は魔族の物だ。市場に流れにくい物だから喉から手が出るほど欲しいが、魔族が関わると商会が危険に晒される。今回の取引は金額よりも、物の出所が重要になるな)
シェルはトブーリの心を読み、少々不味い自体になった事に焦りを感じていた。魔族の事に勘付かれたからだ。油断していた。玲と共にそれなりの時間を過ごしていたため、人族との付き合い方を勘違いしていたのだ。
「お尋ねしますが、これらの出所は?」
トブーリが真剣な眼差しで聞いてくる。
「私は雇われた者なので、詳しくはわかりません。しかし、そこで寝ている雇い主は腕っ節が強いので、前の戦争での戦利品だと私は目星を付けています」
シェルは即興で設定を作り上げ、勇者と魔族の戦争のせいにした。一般の兵士も参加していたはずなので、なんの不自然も無い筈だ。
(ふむ、大方退職の際、最後にネコババしたというのが一般的見解だが、彼はまだ若い。兵士という職を放棄するにはあまりにも早すぎる。つまり、彼は戦争にこじつけ乱入したコソ泥となる。
…………問題無いだろう。目の前の娘は雇われるほどだ、安く吹っ掛けるのは出来ないと考え、大金貨4と金貨67あたりが妥当だろう)
「査定の結果、大金貨4枚と金貨67枚でどうでしょう?」
「……まあ、良いでしょう。それでお願いします」
シェルは心は読めても、取引の技術は持っていない。精々相手の心を読んで知った最高金額に近づけるしか無いのだ。そのため、妥当な金額を出してきたこのトブーリ相手にこれ以上の金額上昇は測れない。
「それでは金を用意させて頂くので少々お待ち下さい」
トブーリはそう言い、部屋を出て行く。シェルは寝ている玲を起こす。
「おい、終わったぞ」
「……ん、あぁ。終わったか。で、結果はどうだった?」
「大金貨4枚と金貨67枚だ。残念ながらそれ以上は無理だった」
「そうか、それなりの金額にはなったな」
それぞれの貨幣価値は、銅貨10枚で銀貨1枚。銀貨10枚で金貨1枚。金貨100枚で大金貨1枚となる。
ただの平民が1日暮らす分には、銅貨6枚で事足りるため、この取引はかなりの高額の取引だ。
そう考えていると扉が開き、トブーリが袋を抱え、入ってくる。
「お待たせしました。こちらがお渡しする金額です」
「では確認させて頂きます」
玲とシェルは2人で確認をし、金を『異空庫』に放り込む。
「いやー最近は殺人事件のせいで人足が薄くなっておりまして、このような取引はとてもありがたいです。今朝も殺人事件が起きまして、レイプしてから殺すなど人としてどうかと思いますね」
今こいつはなんて言った?
レイプしてから殺す?今朝も殺人事件が起きた?
殺人事件の犯人は双子じゃないのか?双子は昨日の晩から早朝にかけて宿で気絶していたはず。それにレイプなど出来るわけない。
だが、俺は双子に対して殺人鬼として接した。しかし、双子はそれを否定しなかった。つまり双子も殺人は絶対にしている。
この街には元から2組の殺人鬼がいるのだ。これは不味い、まだ俺たちの安全は保障されていない。
「すみません、失礼します」
玲はすぐに商会を出る。
「シェル早く来い!殺人鬼を探しに行くぞ!」
「勿論だ!」
玲が殺人鬼の事に意識を向けている間に、シェルは別のことを考えていた。
不味い、不味い、不味い!不味い!!
トブーリの話だとその殺人鬼はレイプをしてから殺すと言う。
まだ確定的ではないが、今の玲がその光景を見てしまったら…………
絶対に見せるわけにはいかない。
絶対に玲より先に件の殺人鬼を殺さねば!
シェルは決心をし、足を早めるのだった。




