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虚ろな忌み子の殺人衝動  作者: 猟犬
第3章 多重猟奇殺人
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29.暗黒物質は昇天の味

「会話?私達には話をする理由が無いんですけど?」


 妹のリリがそう言う。


「まあ、待て。会話をしようとは言ったが、まずは食事にしよう。シェルあれを頼む」


 玲はシェルにそう伝え、シェルは自分の『異空庫』から、暗黒物質(ダークマター)を取り出す。


「実は俺たちはまだ飯を食ってないんだ。親交を深めるため、一緒に食べようじゃないか」


 取り出された物質を見て、双子はあまり人には見せられない顔をする。そして2人で話し始めた。


「あんなの食えるか!」

「でもリリ、最近お金が無くてまともな物を食べてないし、もしかしたら食べてみると意外と美味しいかも知れないよ……」

「うぐっ…!た、確かに最近は水に浸した木の実しか食べてないし……いや、それでも流石にあれは!」


 双子は毒等が入っている可能性を考慮しないで、会話を続ける。こう言った考えはまだ子供らしい。実際に毒は入ってないので、なんの問題は無いのだが、玲はそんな事を言ってられない程に焦っていた。


(まずい!何故か食う雰囲気になっている!)


 そう、シェルの取り出した暗黒物質(ダークマター)は玲のために作られた物だ。計画を話したところで、シェルはなんとこんな事を言い出したのだ。


「計画はわかった。だが、食事を抜きにしては体が思うように動くまい。ここは私が一肌脱いでやろう!」


 こうしてシェルは頼んでもないのに暗黒物質(ダークマター)を生み出した。そして玲は機転を利かせ、この危機を逃れようとしたのだ。

 玲の考えたシナリオはこうだ。


「どうせならシェルの美味い料理を双子にも振舞おう」→「それもそうだな!」→双子に振舞う→双子がキレて料理をぶちまける→料理を食べなくても済む。


 我ながら完璧な作戦だと思った。実際、途中までは上手くいってた。おだてられたシェルは驚くほどあっさり、双子に料理を振舞う事を了承したのだ。

 しかし、誤算だった。まさか双子がここまで食に飢えてるとは……


「よし」「うん」

「「食べます!」」


 双子は重々しく、決心した様子で答える。

 一緒に食べようと言った手前、俺が食べない訳にはいかない。…………よし、覚悟は出来た。


「シェル、本日のメニューは何だ」


 シェルは意気揚々と生み出した暗黒物質を説明する。


「今回は旅の途中に獲れた高級食材ダイオウファムシのソテーだ」

「リリ、高級食材だって、やったね!」

「うん、ドロシー姉さん!生きてて良かった!」

「ダイオウファムシか……」


 ダイオウファムシ、魔族領土付近で獲れるフナムシのような見た目の高級食材だ。ちなみに、魔族の城でシェルに振舞われた料理もこれで、何度も意識を昇天させられている。上手く調理すれば確かに美味い。上手く調理すればな…

 双子は高級食材と聞いただけで美味い料理だと思い込んでいる。せっかくだ、料理は食材よりも料理人に依存する物だと、現実を教え込んでやろう。


「ダイオウファムシはあまりの味に意識が飛ぶ。たくさん食べたいのなら、大きな一口で食べるのがいいだろう」

「あまりの味に」「意識が飛ぶ……」


 双子は目を輝かせ、期待を馳せている。残念ならが言葉の意味合いが違う。

 玲は仮面を器用にずらして、3人同時に口に含む。口に広がるは冒涜的な味。舌の上で転がるは滴る体液。歯ごたえは言葉で表せない。そして当たり前のように意識を失う。


「シェル…後は頼ん……だ…ぞ」

「「ぐぇ…」」


 3人は仲良く気絶した。





 □





「よし、今度こそ会話をしよう」


 翌朝、のちを見越して少ない量しか食べなかった玲は日頃の耐性もあり、早めに起きる。そして玲に言われた通り、大量に口に含んだ双子は遅く目が覚める。


「もう貴方のことは信用しません」

「ドロシー姉さんの言う通りです。二度と信用しません」


 完全に信用が0になったところで本題に入る。


「さて遅くなったが、本題に入ろう」

「本当に遅くなったな」


 シェルさーん?無駄なツッコミは無粋だよ?

 心の中でそう思っても声には出さないのは、絶対言い争いになるからだ。これ以上話を遅らせる訳にはいかない。


「俺からお前たちに求めるのは2つ。1つは俺たちの身の安全。2つ目は協力関係になることだ」

「1つ目は問題ありません。私達も流石に旅の者を無闇に襲うつもりはありません。ただし、2つ目の協力関係については具体的な事を話してからです」


 姉のドロシーのみが答える。おそらくそれがこの双子の関係なのだろう。聡明な姉と、気の強い妹。性格が真反対だからこそ、役割を分担して物事を器用にこなす。実にやりにくい。


「まず俺はこの街で殺人を犯すつもりだ。その際、俺は殺人の罪を巷で噂の殺人鬼に押し付ける。噂の殺人鬼は未だ正体が明らかになっていないため、この状況なら誰でも殺人鬼になりうる可能性がある訳だ」


「なるほど、つまり()()架空の存在である噂の殺人鬼に私達双子と貴方を当てはめ、互いに罪をなすりつけると」


 玲は無言で頷く。


(確かにそれだと互いに利益のある協力関係だ。けどそれだとおかしい点が1つ。何故この男は私達にも利益が出るようにしたのか。まず、私達はこの男に実力で勝てない。その上、私達のやろうとしている事に気が付いている筈だ。明らかに立場が上なのに対等な取引を持ち掛けているのは不自然だ)


「1つ聞きます。貴方は何故私達に対等な取引を?」

「それは俺がお前を警戒しているからだ。それなりの数の殺人を犯しておきながら、手掛かりを残していないその実力は驚異的だ」


(違う、この男は()()()()()気が付いていない。………これは利用出来るかもしれない)


「わかりました、仮面の男さん。協力関係の件、了承します」

「仮面の男はやめろ、これからはロウと呼んでくれ」


 双子と玲は協力関係を結んだ。





 □





「うっわ、ドロシー姉さん悪い顔してる」

「我々は完全に蚊帳の外だな」


 会話に全く参加しなかった2人はそんな事を呟いていた。

はい、どうも猟犬です。

まずはここまで読んで頂きありがとうございます。

実は近々、小説のタイトルを変えようと考えています。友人にタイトルで損してると言われたので。

なのでなんかいい案がある人は感想等で教えて下さい。参考にします。

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