28.宿屋の一幕
ギルドを後にした2人は宿に行く。殺人事件の犯行は夜に起きると言う。そのため、ここで取る宿は奴等の囮にする。
2人は宿屋に入り、玲が宿の女店主に手短に要件を伝えていく。
「一部屋借りたい。寝る事が出来る環境があればいいから食事を含めたサービスは全ていらない。代わりに多めに出すから人払いを頼む」
「「「「「は!?」」」」」
シェル含めた宿屋のロビーにいた玲以外の人物から声が上がる。それはしきりにこちらを見てヒソヒソと噂しているようだった。
「お、お二人様で一部屋ですね……で、では!ごゆっくりどうぞ!」
宿の女店主は顔を赤らめ、気まずそうにそう言う。
「お、おおおおおお前は何を言っているんだ!?何を言っているんだ!私達はそういう関係じゃないだろ!?」
シェルその褐色の肌を赤く染めて、大声で叫びならが玲に詰め寄る。が、玲は意味がわからないといった顔で無視して店主に案内を頼む。
「店主。取り敢えず部屋に案内して欲しいのだが」
「は、はい!そうですね!それは問題無いですけど。彼女さんは大丈夫ですか?」
「ええ、妹は大丈夫ですよ」
「へ?妹?…………こ、これは失礼しました!すぐに部屋に案内します!」
玲の妹発言により、宿屋の騒ぎはある程度落ち着きを見せる。それでもまだ噂されているが比較的マシだろう。
店主に案内をしてもらい、2人は部屋に入る。
シェルは「妹……妹になるぐらいなら彼女の方が……」と呟きながら、打ちひしがれている。
「落ち込んでいるところ悪いが、何故俺の心を読まなかった?読めばお前まで騒ぐ事は無かっただろうに」
シェルは顔を俯いたまま、声だけで返事する。
「……私の心を読む事が出来るのはスキルによるものだ。『ムンリード』月の満ち欠けで読める回数が変わる。今日は弓張り月、4回だけ読める」
「それを全て使ったと」
「門番と玲、そしてギルドの2人に使った」
「俺に使った分以外は妥当だな。ちなみに1番多く心を読めるのはいつで何回だ?」
「満月で7回。新月で0回だ」
シェルは最高回数の他にも最低回数も教えてくれる。確かにありがたいが、そこまでは聞き出せないと思っていた。未だにシェルの謎の信頼感は分からない。ただただ気持ちが悪いだけだ。
「まあいい、今後の予定を話す。取り敢えずシェル。お前は天井に貼り付けるか?」
「は?」
そこには素っ頓狂な声が良く響いた。
□
「ドロシー姉さん。あの仮面の男の人本当にそうなの?」
「うん、よく見てみればリリもわかるよ」
深夜、蝶の髪飾りを付けた双子はある宿に向かって歩いていた。
「とは言っても男の人は殺すのは初めてで少し心配だな」
「何行ってるの!ドロシー姉さんが言い出した事じゃん!」
「う、うん。そうだね。ごめんねリリ」
2人は寝静まった宿屋に上がり込み、標的の部屋に向かう。場所は昼間、あとをつけた際に判明している。
「それじゃあ行くよ、ドロシー姉さん」
「うん、リリ」
2人は音を立てないように、それでいて大胆に扉を開ける。しかしそこには……
「誰も居ないじゃん、ドロシー姉さん本当にこの部屋?」
「間違ってないと思うけど……そう言われると心配になってきちゃったよ……」
ドロシーはリリに指摘され、うなだれて落ち込む。
バンっ!
双子でそんなやりとりをしている間に、後ろから扉の閉まる音が鳴る。
「「誰!」」
ドロシーとリリはすぐに振り向き、相手の姿を確認する。
そこに居たのは褐色肌で銀髪の少女だった。
だが、少女の姿を確認してすぐ、窓から何かが這い上がってくる。
「会いたかったぜ!噂の殺人鬼さんよぉ!」
そして現れたのは、ドロシーの言っていた例の仮面の男だった。
「ブーメラン」「刺さってますよ」
双子はそんな皮肉を言いつつも挟み撃ちされたことに、内心焦っていた。
「さあ、楽しい会話をしようか!」
男は歪んだ笑顔で楽しそうにそう言った。




