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虚ろな忌み子の殺人衝動  作者: 猟犬
第3章 多重猟奇殺人
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27.蝶の双子

 街の人々に聞き込み、冒険者ギルドを見つけた2人は、なんの躊躇いもなく、その扉を開けた。一瞬、視線を集めるが、すぐにそらされる。

 ギルド内部は酒場と併用されているようで、昼間だというのに冒険者らしき人々が様々な噂話をしながら騒いでいる。


「聞いたか?なんと勇者が魔王を討伐したそうだ!」

「ああ、知ってる知ってる。しかもその場に『冥王』も現れたって噂だぜ」

「まじかよ!お伽話でしか聞いたことねーぞ」


 その噂話は巷で話題の勇者のとこから


「最近、殺人事件も多いな」

「女を狙った犯行が続いているそうだが、安心は出来ねぇ。テメェらも気をつけろよ」


 この街で起きている事件まで色取り取りだ。

 玲とシェルは飲んだくれの冒険者を横目に、ギルドの受付に行く。


「海の町サーカイフのギルドへようこそ!本日はどのようなご用件で?」


 受付の女性にそう言われ、要件を言う。


「冒険者になりたくて来た。どうすればなれる?」


 そう言った瞬間にあたりから笑い声が巻き起こる。

 下品な笑いから、堪えるような笑い。上品に笑う者さえいる。


「おいおい!あのガキども冒険者になりたいってよ!」

「この時期多いんだよなぁ!今話題の勇者様に憧れて冒険者にやる奴が!」


 またもや、ハハハハハハハハとあたりから笑い声が上がる。しかしそれも数秒と持たなかった。何故なら冒険者の1人の近くにあった机が爆発したからだ。


「もう一度言ってみろ。誰が?何に憧れてると?」


 爆発した机の近くに居たのは勇者の事に触れた冒険者だ。そして犯人はシェルだ。どうやらシェルにとって自国を滅ぼした勇者の話題は地雷のようで、それに触れて来た冒険者達に怒り心頭といったところだ。

 その静かな殺意と目の前で見せられた魔法により冒険者達はすぐに謝る。


「な、なんだ、術師かよ。ならなんも言うことはねぇ。悪かった、好きにしろ」


 静まり返ったギルドの中で玲はもう一度、受付嬢に要件を言う。


「冒険者になりたい。どうすればなれる?」

「は、はい!こちらに必要事項を記入して下さい。字が書けない場合は口頭で言ってもらえればこちらで記入します」


 そう言い受付嬢は2枚の用紙を渡してくる。

 玲とシェルはそれぞれ受け取り、玲は下から。シェルは上から記入していく。

 記入項目は上から順に名前、年齢、Lv、扱う武器、使用可能な魔法、使用可能なスキルとなっている。

 玲は魔法は使えず、スキルの項目で『異空庫』と記入。そして最後に名前の欄で横のシェルが「シェシル」と記入しているのを確認し、「ロウ」と記入する。

 シェルも書き終わったところで2枚まとめて受付嬢に提出する。


「シェシルさんとロウさんですね少々お待ち下さい」


 受付嬢はそう言い、奥の方に行ってしまったので、待っている間にあたりを見回す。ギルドの奥がなんだか騒がしいが無視する。

 警戒してこちらを見る冒険者、関係無しと見切りをつけて飲む者、素材買取場と書かれた看板、明らかに場違いな双子らしき幼女。


「おまたせしましたこちら冒険者カードになります。失くされた場合は再発行に銀貨2枚必要となりますのでご注意下さい」


 そうしている間に受付嬢が戻り、発行されたカードを持ってくる。デカデカとEと書かれている。


「ありがとうございます。ところであの子供達は?」


 玲は先程から気になっていた双子らしき幼女について聞く。


「あー、あの双子はですね、今噂の殺人鬼に母親を殺されてしまった子達です。青い蝶の髪飾りを付けているのが姉のドロシーちゃん。緑の蝶の髪飾りを付けているのが妹のリリちゃん。2人は()()()()()()だった母親の仇を討つため、殺人鬼を捕まえてくれる人を日が暮れるまで探しているんです。ギルド側も調査の依頼を出していますが、その危険性から未だ手をつけられていません」


 悲しげに受付嬢は説明する。


「それは災難だな。ところで素材の買取はあっちの看板の出ているところでいいのか?」

「はい、そうですけど。持ち込む素材は?手ぶらに見えますけど」


 どうやらこの受付嬢は、俺の記入したスキルを確認してないらしい。とはいえ不信感を持たれては困るので一言で説明する。


「『異空庫』持ちだからな」


 玲のその一言にギルドは更にざわつく。


「お、おい。お前たち俺たちと組まないか?待遇はいいぞ!」

「いや、こっちとだ!あのパーティより絶対良く扱うからよ!」


 他のグループもこぞって勧誘に来る。それもそうだ『異空庫』があるだけで荷物が大幅に減らせる。それだけで魔物退治の生存率が大幅に上がり、旅の間の生活の質も上がる。冒険者や商人には喉から手が出るほど欲しいスキルだろう。だが…


「俺たちは誰とも組む気は無いので」


 そう言い放ち、そそくさと素材買取場にいく。


「あんちゃん『異空庫』持ちなんだってな!ハハハ!見るのは初めてだ。さあ、ついてきてくれ。倉庫に案内するからよ」


 買取場にいたのは気の良いムキムキのスキンヘッドのおっちゃんだった。玲は言われた通り、ついていき、素材を出していく。


「んー、素材自体は良いが、品質が良くないな。今度からは倒す時にもっと気を使うと良い。ま、解体費用を抜いて金貨1枚と銀貨43枚てとこだ」

「予想よりも高いな。何かめぼしい物でもあったのか?」

「いや、『異空庫』持ちならこれからも大量に持ち込んでくれるだろうからな。先行投資だ!」


 ガッハハハと豪快に笑いならが彼は言う。


「そうだな少なくともこの街にいる間は利用するからな。そん時はまたよろしくな」

「おうよ!」


 玲は倉庫を後にし、ギルドを出て行こうとする。

 そして先程説明を受けた双子と目が合う。


「行こう、リリ」


 目が合った瞬間に青い蝶の髪飾りを付けた姉のドロシーが妹のリリの手を引っ張ってギルドの外に出て行く。


「あの子達が昼間から帰るのは珍しいですね」


 受付嬢がそんなことを呟いている。


「シェル、悪いが当分観光は出来そうにない」


 問題が発生し、シェルにそう言うと


「……は!?どうしてだ。何か問題でもあるのか!?」


 しばらく間を置いてから声を荒らげて聞いてくる。


「まさかの問題発生だ。ここでは話せん。場所を移動するぞ」


 そう言い玲はシェルを連れてギルドを出て行く。



 受付嬢の話だとあの双子は被害者の娘で可哀想な子達との事だ。滑稽だな。


 あの双子の目、あの目は知っている。


 何度も見たことがある。あれは同じだ。


 憎くて憎くて憎くてたまらない目。


 人を殺すことで悦を得る殺人鬼の目。


 俺と同族。


 ひと目で分かったさ。なにせ身に纏う空気も違う。獣ではなく気持ちの悪い人の血の匂い。

 最初の犠牲者が母親?間違いなくあの双子が()ってるだろ。

 だが、俺が気がついたように向こうも気がついている。妹のリリは気がつかなかったが、姉のドロシーは危険だ。


 おそらく次の殺人は口封じのための殺人。

 ターゲットは俺たち。

 面白くなってきた。



 玲は笑みを堪えることが出来ずに、その狂気的で不気味な笑い声を上げていた。

投稿が遅くなってすみません猟犬です。

実は短編を書いていまして、そのせいで遅れました。

嘘です。短編は書いてましたが、ゲームをしていて遅れました。本当にごめんなさい。

明日も投稿する予定なので、良ければまた覗いてください。

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