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虚ろな忌み子の殺人衝動  作者: 猟犬
第3章 多重猟奇殺人
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26.海の町サーカイフ

 体制を整え、再度攻め始めた勇者達は困惑していた。何故なら魔族が全くいないのだ。すんなりと城に着き、中を探索するものの、ものけの殻だったのだ。


「なんでこんなに魔族が居ないんだ?」

「獣人族の領土に逃げたとか?」

「どちらにせよ俺たちの勝ちは近いだろ」


 そう議論し、捜索を辞めて城を出ようとしたその時、勇者達に強烈な殺気が襲う。

 だが、「冥王」の恐怖を受けた後ではその殺気はまるで子供のようで、取るに足らない。勇者達はそれが魔王のものとして殺気の主の元へ向かう。





 □





「よく来た、姑息な人族の勇者達。私は貴様らを歓迎しよう」


 玉座に座っているロードは自分が魔王のように振る舞い、勇者達に向かってそう言う。


「姑息だと?ふざけるな!邪神から加護を貰い、人族に攻め込もうとしているのはそっちだろ!」


 信二は怒り心頭で、ロードに怒鳴り込む。


「まて、邪神の加護だと?そんな物は貰ってないぞ!?そもそも魔族も等しく邪神は忌み嫌われてる。それに攻め込むとは何だ!魔族にはそんな力など残ってない!」


 邪神の封印を解けないように努力をしたロードにとって、邪神に関して言い掛かりを言われるのは大変好ましくなく、全力で否定する。


「「どういう事だ?」」


 さっきまで怒鳴りあっていた2人は声を揃えてそう言った。





 □





 あれから勇者達は魔王とお互いの情報を交換した。勇者の1人が死んだ事、「冥王」の事、元の世界に帰る遺跡の事。

 しかし、魔族はそれらのどれとも関係無かった。遺跡も無ければ「冥王」との繋がりも無い。逆に御伽噺の中の存在だと思っていたようで酷く驚いていた。


(死んだ勇者というのは間違いなくロウだな。娘を任せている以上喋ることは無いがな)


 ロードはそう考え、目の前にいる勇者に問う。


「それで、貴様らはどうするのだ?統治する国も無く、人も居ない…私の役割はもう無い。殺してくれ。」


 信二は悲しそうな表情になるものの、決心をする。


「そうか…何か言い残すことは?」

「娘の恋を応援出来ないのが心残りだな」


 信二は悲しそうに言った、魔王の言葉を噛み締め、首を断つ。


「行こう。まずは俺たちを騙した貴族と国王に問い詰めて「冥王」の手掛かりを探そう」


 勇者達は城を後にし、誰もいなくなった。





 □





 一方その頃。話題の玲は


「まずい。非常にまずい」

「一体何がまずいのだ?」

「保存食が尽きかけている」


 そう、保存食がもう全く無いのだ。

 魔王を名乗ったロードが死に、人族の勝利が確定した晩に、玲とシェルは驚くほどあっさりと魔族領土を抜け出せたのだ。

 全てが順調だった。だが順調過ぎたのだ。ここでしっぺ返しが来た。

 しかも恐ろしい事に食材がある。もう一度言おう。食材があるのだ。

 普通、食材があれば料理が出来なくとも、食べれる物は作れる。

 だが……


「保存食が無いのか。けれども食材があるのだろう?ならば問題はないだろ。私は料理が出来るぞ」


 そう、問題はさっきから横で料理が出来ると豪語しているこいつだ。


「最近は保存食ばっかしでお前の食事を作ってなかったからな。いい機会だ。私のフルコースを披露しよう」


 ここまで意気揚々と言っているのだ。止める事は出来ない。そして城で幾度も繰り広げた逃走劇がまた始まるのだ。

 だが、嬉しい事に目的地が見えてくる。シェルよ残念だったな。


「見えてきたな。あそこが俺たちの目的地。人族領土の最西端。海の町サーカイフだ」


 丘の上から見るその景色は絶景で、快晴の空と相まってその海はより輝いていた。


「おい玲!早く行くぞ!」


 その海に興奮したのか、シェルは料理の事を忘れ、ダッシュで町に向かって行く。非常にありがたい。

 玲は顔をあまり見られたくないので、変化した時にも使っていた黒塗りの仮面を着けて、シェルの後を追う。





 □





「はい、ありがとうございます。それでは良き滞在を」


 2人はサーカイフの検問を通り、町に入る。玲がこの町を選んだのはこの検問に理由がある。

 審査が軽いのだ。仮面を着けていても少し顔を見せるだけで通れる。何故ここまで軽いのかと言うと、この町は漁港としてとても栄えているので商人がよく来る。その上、観光客も多いので人の出入りが激しいのだ。そのため、検問が比較的良心的だ。


「さてシェル」

「ん?なんだ?」


 玲は遊ぶ気満々のシェルを止める。


「今の俺たちに足りない物は何だと思う?」

「さあ?知らん。それより早く海に行こう」

「シェル。よく聞け。今の俺たちには金が無い」


 廃れた魔族領土に居たシェルからしては煌びやかな町で、すぐに楽しみたかったらしいが、こればかりはしょうがない。現実を見てもらおう。この世の終わりみたいな表情をしているが関係ない。


「幸い働き口はある。冒険者だ」

「冒険者?それだと効率よく金を貯めるためのランクを上げるのに時間が掛かるではないか」


 そう冒険者にはギルドに加入してなるのだが、ランク制度により、収入の多いクエストを受けるのに時間が掛かるのだ。しかも、死人を少なくするために最低ランクのEから、Dランクまで上がるのには、余計時間が掛かる。この期間に諦める程度なら冒険者に向かないとの事だ。

 しかし、冒険者になる事である事が出来るようになる。


「まあ、まて。話を聞け。確かにクエストにより大きい収入を得るのには時間が掛かる。しかし、冒険者になる事で出来る事があるだろ?」


 シェルは少し考え込む素振りを見せこちらを見る。そしてハッと表情を変え、叫ぶ。


「魔物の素材の買取か!」


 てめぇ俺の心を読んだだろ。


「その通りだ。俺らは箔が無い代わりに実力はある。素材の買取さえ行えればいくらでも稼げるんだ。冒険者自体はそのついで。あくまで副業。それでいい」

「それならばここまでくる時に倒した魔物の素材も売れるな」


 あとは冒険者ギルドを探し、登録するだけだ。ついでに冒険者カードなるもので身分証明書も手に入れる。

 そうして2人は冒険者ギルドに向かうのだった。

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