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虚ろな忌み子の殺人衝動  作者: 猟犬
第2章 逃亡地にて
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21.武器庫の階段

 口に出すのも恐ろしい、お話(説教)をされた玲は、心底疲れ、シェルと共に帰路についていた。

 しかしそこで、頭の中に壊れたラジオのようなノイズが走る。


 〈…え…か?〉

 〈聞こ……〉

 〈聞こえるか?〉


 その音はだんだん鮮明になっていき、プルトリファの声だと分かる。


 〈どうした何かあったのか?〉

 〈少し襲われてな。何か聞きたいことがあったんじゃないのか?〉


 確かに聞きたい事はある。1日前に質問した記憶についてだ。しかしこいつ、今とんでもない事を言わなかったか?


 〈それよりも襲われたとはなんだ。相手は女神か?〉

 〈いや、魔物だ〉

 〈お前のいる場所にも魔物は出るのか?〉

 〈普通は出ない。しかし襲って来た魔物が少々特殊でな。腐鬼と言う魔物で、あらゆる時間、空間に移動できる単一、いわゆる単一個体の魔物(ユニークモンスター)だ。

 そいつが干渉して来てそれの処理に覆われていた〉


 その説明が本当なら俺の質問のタイミングからして、腐鬼と呼ばれた魔物は邪神相手に、一日中近く戦っていたことになる。一体どれだけ強いんだそいつは。


「なあ、そいつの容姿について教えてくれ」


 心を読んで会話を聞いていたシェルが、真面目な様子で聞いてくる。

 特に断る理由も無いため、プルトリファに聞く。


 〈そいつの容姿を教えてくれ〉

 〈ん?いいぞ。全身が黒い甲殻に覆われていて、強烈な腐敗臭を放っている、二足歩行の魔物だ〉


「だそうだ」

「ああ、助かった」


 シェルは腐鬼について何か知っているようで、そう呟くと真面目な顔をして何か考え込む。

 結局シェルは終始無言になり、このまま特に会話の無いまま、城に着いた。

 玲は客室に戻る前に、武器庫に向かう。明日のために、新たな武器を調達するのだ。

 特に見張りの居ない武器庫の扉を開け放ち、中身を物色する。

 大剣や斧をはじめとした、重量のある武器を一通り、『異空庫』に放り投げていく。

 そして武器を漁っているうちに、一部の床に違和感を覚える。片っ端から武器を漁っていた玲は手を止め、床を調べ始める。

 部屋の石畳みを片っ端から踵で叩いていく。結果、分かったのは右端の床下が、空洞になっている事と、部屋の壁全体に奇怪な模様が描かれている事、そして一部の石が意図的に外れている事。

 おそらくこの部屋全体がパズルになっており、石造りの壁の石をスライドさせて、パズルを完成させるものだろう。

 こんなめんどくさい事をしないといけない物がこの部屋にはある訳だ。気にならないと言えば嘘になる。

 見張りは居ない。もう一度言おう。


 見張りは居ない


 玲は『異空庫』から野外訓練の時に持ち出した、ハンマーと杭を出す。

 杭を空洞になっている右端の床にあて、ハンマーで叩き始める。

 行動は迅速にだ。

 石を3つ割り、空いた場所に体を滑り込ます。

 どうやら空洞は階段になって居たらしく、玲はそこを降りていく。





 □





 灯りの無い階段を降りて1時間ほど経った。とんでもなく長い階段に玲はうんざりしていた。

 距離的に現在地は、明らかに城の地下では無く、町の外だろう。それでもここまで来たのだから、引き返すつもりは無い。

 更に30分進んだあたりで、光が見える。やっと何か見つけたと思い駆け足で、そこに向かう。

 そこで見つけたのは、エメラルドグリーンに輝く湖だった。

 その湖には生き物はおらず、代わりに湖の底深くから、淡く光る結晶が伸びており、階段の先にあった空間を綺麗に照らしていた。

 幻想的な光景に見惚れてしまうが、すぐに気がつく。淡く光る結晶にある物が突き刺さっていた。

 それはハルバードだった。しかし普通のハルバードとは違う。

 一般的なハルバードは槍の穂先に斧の付いた物だが、目の前にある物は斧の形が特殊だった。

 そのハルバードについていた斧は、三日月の形をしており、反対側には捻れた短剣が付いていた。

 確か武器庫にあるのは好きに持って行って良い筈だ。ここが武器庫に当たるが知らんが、持って行こう。


 そのハルバードを結晶から引き抜くと、結晶と湖から光が消える。そしてハルバードに光が宿る。

 重さを感じないそのハルバードは、淡い水色の輝きを纏っていたため、玲はランプ代わりにし、階段を引き返す事にした。





 □





 階段を登り終わる頃には、すっかり日が暮れていた。誰も武器庫には来ていないようで、玲が階段を降りた頃と何も変わらない様子があった。

 玲はこれまた『異空庫』から木材を取り出し、それをつっかえにし、その上に割った石を置き、穴を塞いでいく。その上に隠すように、武器庫を整理していく。


 流石に疲れたので、玲は客室に戻ろうとする。

 するとピアノの音が聞こえてくる。

 石造りの城には凹凸が多いため、音はあまり響かない筈だ。つまり近くにピアノを弾いている者が居る訳だ。


 しかし、玲はそれを気にも止めず、真っ直ぐ客室に行き、眠りにつくのだった。

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