2.お飾りの国王
いつのまにか手放していた意識が覚醒し、目を開けるとそこは石造りの薄暗い部屋だった。部屋は広く、いくつもの篝火によって照らされている。足元には魔法陣が彫られており、そこの上には自分の他にも教室にいた人たちがいた。それを囲うようにいるローブを着た数人が歓喜に震えているようだ。
周りの生徒は目の前の様子が信じられないようで、ざわつき始める。
「まさかここは異世界?夢が叶った!」そんな呟きが聴こえた気がしたが、新たに部屋に入ってきた人物の声によりかき消される。
「お待ちしておりました勇者様。私は人族の城で大臣をしているアルドフ・カートンと申します。いきなりで混乱されているでしょうが事情を説明するためついてきて下さい」
そう言った初老の男性は一礼し、俺たちを国王の所まで連れて行った。
「レオリクトの世界によくぞ参られた勇者様。私は人族の国王ガリア・デ・ブリードといいます。
実は近々魔族と呼ばれる種族が我が国に攻め入ろうとしているのですが、魔族は邪神プルトリファの加護を受けており、我々では太刀打ちできません。
そこで勇者として女神リオル・イクセから加護を貰った貴方がたを召喚させていただきました。
是非とも魔族の王たる魔王の討伐にお力添えを」
そう言い国王と名乗った青年は頭を下げる。国王にしては明らかに年が若過ぎる。
〈その国王はただのお飾りだからね〉
急に頭の中に見知った声が響く。干渉とはこういう事か。
驚きを顔に出さないように必死に堪えながら心の中で答える。
〈プルトリファ出来れば人のいない所で連絡して欲しいのだが〉
〈情報欲しかったでしょ?〉
図星なので黙ることにする。
〈おーい無視かい?まあいいや。あと私は君の上司にあたる存在だ。これからは敬語を使うように〉
〈…………了解しました〉
玲は渋々ながらも同意する。逆らっても意味がないからだ。
周りを見てみると、非現実的な事に少なからず憧れを抱いている学生にとって異世界というのはとても衝撃的だったようで、プルトリファ様と会話している間に話が進み、協力する事になったようだ。
「玲君は随分と落ち着いてるねー。驚いてないの?」
隣にいた女子の志戸部 菊が話しかけてきた。
癖っ毛の彼女はそのふわふわとした雰囲気から女子からも男子からも人気の人物だ。
「いやあまりの急展開に頭がついて行ってないだけだよ」
苦笑いをしつつ嘘をつく。
普段おしとやかでマイペースの彼女もどこか楽しそうだ。
「あの…元の世界には帰れるのでしょうか」
生徒の一人がそう言うと国王は
「いえ私たちでは勇者様を帰すことが出来ません。しかし魔族領土にある遺跡には世界を移動出来る魔法が封印されていると聞きます。魔王を打ち取り、その遺跡を調べれば帰る方法も分かることでしょう」
その答えに質問した生徒は安心したようで、ホッと息をつく。
「では勇者様がたステータスと唱えて下さい」
周りが一斉にステータスと唱え始める。
玲の周りに合わせ、同じ様にステータスと唱える。
「これは女神リオル・イクセ様とその姉にあたるファル・イクセ様が作りになったステータス魔法です。なぜ作りになったかは分かりませんが個々の強さを見やすくするためと言われています。」
玲は改めて自分のステータスを確認していく。
飢賀 玲
Lv1
HP1000/1000
MP520/520
筋力:STR 240
敏捷:DEX 300
体力:CON 290
精神:POW 0
スキル
異空庫、言語翻訳、禁忌の書、反魂の狂乱
称号
邪神プルトリファの加護
同じようにステータスと唱え即閉じる。
不味い忘れていた。俺には女神ではなく、邪神の加護があると言うことを。確認されたら即アウトだ。
そう考えていると周りからも疑問が上がる。耳を傾ける。どうやらステータスを見せ合おうとしたらしいが自分以外のステータスが見えないらしい。
正直助かった。
「皆様には口頭で自身のステータスとスキルを教えて頂きます」
そう言った国王は数人のステータスを聞き、感嘆と安心の混じった声を上げる。
「皆、Lv1の時点でステータスが熟練の冒険者並みです。魔王に勝つ希望が出てきました」
国王は魔族が衰退していることを知らないのか?
〈先程言った通りその国王はお飾りだ。この国はアドルフ・カートンを始めとした大臣と貴族が裏で操っている〉
〈…………随分と詳しいようですね〉
〈私たちは干渉は出来ないが見ることは出来るからな〉
自分の番となり、ステータスとスキルを読み上げていく。
異空庫と言語翻訳は召喚された者には必ずついているそうなので省略して話す。
スキルについてはもちろん嘘だ。代償を払うことで、ステータスを上げるスキルだと説明する。
実際ステータスは上がるだろうから確認を取られても、誤魔化しは効く。
もちろん0になっているPOWも誤魔化す。
「攻撃よりのオールラウンダーなステータスですね。代償についてはわかりますか?」
「いえ、代償としか書かれていませんね」
国王はしばらく考えたあと
「では、そのスキルを使わないようにして下さい。詳しい事がわからない以上危険です」
「承知しました」
不確定な事で勇者を危険に晒すわけにはいかないという事だろう。
それから残り全員のステータスが読み上げられた。
「教えて頂きありがとうございました。今日はお疲れでしょう部屋に案内しますので、ゆっくりとお休み下さい。詳しい事は翌日に話をします」
へりくだった国王はそういい締め、俺たちは召使いに部屋まで案内された。
こんな駄作をお読みいただきありがとうございます。
しばらくの間は毎日更新する事になるので暇があるのならまた明日もお願いします。
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