18.不慮の事故
夢を見た。
幼き頃からよく見る夢だ。
その夢はある男と出会い、別れる悲しい話の断片。
私はその夢が何か分からず、その男を探すことにした。
所詮私は傀儡、何処に居ようが周りには関係無い。
しかし、その男に会って夢の意味を知る。
この夢が本当ならば、私はこの男と私を何としても救わなければならない。それ以外の結末は認めない。
明日は城に着く。
今日はもう考えるのを止めよう。
少女は意識を手放した。
□
翌日、玲たち3人は、城下町に着くが、町に活気は無く、人もまばらだ。
今にも病気と内戦にやり、滅ぶ寸前の町を視線を感じながら進む。
「ここまで酷い状況だとはな」
玲が呟く。
「ああ、ここまで来ると戦って滅ぶか、諦めて滅ぶかの二択しか無い」
シェルは重々しく告げる。
彼女の判断だと魔族が生き残る道は無いらしい。彼女は「守りたかった」そう告げていた。どうりで過去形な訳だ。
3人は城門まで行き、門番すらいない城に入る。
歓迎はされない。向けられる視線は、不快なものを見る視線だ。こう言った目は慣れている、気止める必要は無い。
ん?慣れている?
俺の記憶の中には、周りに合わせて作り笑いをしている記憶しかない。
つまりこの感覚は、封印された記憶に関する事だ。
〈プルトリファ。封印したのは記憶だけか?〉
プルトリファに聞くが、答えは帰ってこない。
この質問には答えれないか、プルトリファ自身に何かあったか。
しかし玲にはどうしようも無いため、考えることを止める。
「魔王様、そちらの方は」
身なりの整った男が話しかけて来る。目で厄ネタを持ち込むなと言っている。シェルが心を読めるのを知らないのか?
「こいつは、人族領土に送っていたスパイだ」
シェルが指を指して言う。
「紹介に預かりました。ロウと申します」
玲は偽名を使い、一礼する。
横のシェルが小刻みに震えているのが見える。俺が敬語を使うのは、そんなに可笑しいか。
「そうでしたか、ならば早速手に入れた情報の報告を」
魔王をその場に置いて、情報の確認が先か。
こいつら自分達の事しか考えてない浅ましい者だな。正義感溢れる人種と同じくらい嫌いだ。
「全員集まった時に話しましょう。二度手間は勘弁です」
目の前の男は顔をしかめたが、直ぐに人を呼ぶようだ。
程なくして会議室に通される。席が埋まるのを確認して、先程の男が話し出す。
「ロウ君、情報の開示を」
「承知しました。では、まず人族の状況から────
□
結果として、会議室は大混乱に陥った。
「勇者の召喚だと!」
「防衛戦をするにしても兵が足りん!」
「兵糧も無い!兵が居たとしても動かせん!」
「後ろは獣人族の領土だ。立ち入った時点で敵対される!逃げることすら出来ない!」
まさかここまで詰んでるとは。よくここまで腐らせたな、感心するよ。
「ロウと言ったな。この話は本当か?」
この会議室で最も偉そうな大男に話しかけられる。
「ええ、本当です。人族は今、勇者召喚によりお祭り騒ぎですよ」
次に会議室を襲ったのは沈黙だった。
誰もが嘘だと思いたかっただろうに、現実を突きつけられたからだ。
長い沈黙を破ったのはシェルだった。
「報告ご苦労。下がれ」
玲は一礼し、部屋を出て行く。部屋を出て、直ぐのところにクーリエが立って居た。
「部屋に案内致します。付いてきてください」
どうやら案内してくれるらしいので、付いて行くことにする。
□
「さて、私は戦うが、貴様らはどうする?」
シェルはその場に居る全員に問い掛ける。しかしその問いに答える者は居ない。未だに信じられないのだ。
「我は戦うぞ。たとえ負け戦だろうと魔族の誇りまで失う訳にはいかない」
大男、ロードがそう言う。
この男は反対派のリーダーで、実質的な統治者だ。この男の言葉には嘘偽りは無く、本心で言っていた。
周囲の者は未だ考えがまとまっていないようで、選択が出来ていない。
「幸い勇者のレベルは1だ。まだ時間はある。よく考えてくれ」
シェルはそう言い括り、会議室を後にする。
そうして玲に話があるため、案内した客室へと足を向けた。
□
シェルは客室の前まで行き、ノックもせず扉を開けた。どうやら着替えの最中だったようで、直ぐに扉を閉める。
下着により恥部は隠されていたが、男の裸体を見たのは初めてで、顔が熱い。
しかしシェルも年頃の娘。はしたないと思いながらも、今見たものを思い出す。
体つきは意外と良く、触り心地が良さそうだった。
血色も中々の代物で、魔族の中でも吸血種であるシェルからしたらご馳走だ。今度、血を吸わせてもらおう。
そして身体中にあった殴打と火傷の跡……
殴打と火傷の跡?
確認を取るため、シェルは直ぐに扉を開ける。
一瞬で着替えが終わるわけもなく、難無く見れたその体には、確かに殴打と火傷の跡がびっしりと付いていた。
「なんだその傷は!」
□
玲は部屋に着くと、真っ先に着替えた。
旅の道中、隙を見せないようにしていた為、着替えを一切していなかったからだ。
バン!
と、大きな音が鳴り、そちらを向くとシェルがこちらを見ていた。
バン!!
直ぐに扉が閉められる。
先程よりも大きな音が鳴るが、仕方のないことだろう。
玲は直ぐに替えの服を取り──
バン!!!!
これまでで、1番大きな音だ。
扉を開けたり閉めたり忙しない奴だな。
流石に鬱陶しい。
「なんだその傷は!」
今度は叫ばれた。
さて、どう説明したことか。
着替えシーンです。男のなぁ!
猟犬です。今回もお付き合い頂いきありがとうございます。
次回は説明して、魔力切れします。
よければまた覗いて下さい。




