16.橋の上で
あれから玲たち3人は、特に会話をせず、魔族領土に向かった。魔物も無視し、睡眠時間も削って来た。
広がる草原、その先にある崖を見下ろせば、海がある。
対岸に見えるは、魔族領土。北の大陸と魔族領土の島を繋ぐ橋には、関所はなく、人通りも無い。
「さて、ロウ。我々の契約だと、橋の上で取引するのが良かろう」
シェルが聞いてくる。
「問題無い。境界線の橋ならば妥当だろう」
そう言い、橋の前で立ち止まる。
お互い先に進もうとしない。
「レディーファーストだ、シェル。お先にどうぞ」
玲から切り出す。
まだ味方かハッキリしていない。取引の直前や直後に、殺される可能性もある。向こうは2人だ、背中は見せれない。絶対に一番後ろに着いてやる。
「男だろう?女性を先導しないでどうする?」
シェルが断る。
(この男は、嘘を平気でつく。おそらく手段は、選ばない人間。絶対に背後を取らせない)
「そっちには立派な執事がいるだろ?俺は客人だ。在住者が案内をしないでどうする?」
玲も負けじと反論する。
「従者を自分の前に出すのは気が引けてな。それに橋の上は魔族領土では無いぞ」
シェルも引かない。
続けて言ってくる。
「大体、私のような美しい女性を先導することは今後一生無いぞ。後悔をしないように、するべきでは?」
玲は鼻で笑い
「ハッ、お前のように貧相な────
玲はすぐに屈み、飛来してくる物を避ける。
ダメだ、煽るとすぐにこれだ。どうせまた魔法だろう。
確認すると案の定、魔法だった。
しかし、シェルの顔はとてもいい笑顔だった。
殺気を滲み出し、笑顔で近づいてくるシェルは、とても恐ろしい。
きっと貧相と言う言葉は、彼女にとって地雷だったのだろう。
「女性に失礼な態度をとったのだ。先導、
す・る・よ・な?」
「いや、実は照れ隠しの現れでな、シェルを先導するのは、とても光栄だ。喜んで受け入れよう」
玲は心にも無いことを言い、逃げるように全力疾走で、橋の中央に行く。
玲の意図としては、先に橋の中央に行き、迎え撃つ構えを取るつもりなのだが
〈その行動は、先導とは程遠いな〉
プルトリファが笑いながら、ダメ出しをしてくる。
〈うるせえ、安全性を高める方が大事だ〉
向こうは追ってこない。少なくとも取引前に殺すつもりは無いのだろう。
結果として、待つことになった玲は、何故か負けた気分になるのだった。
□
「さて、待たせてしまったな」
遅れて来た2人のうちシェルは、とても皮肉な笑みを向けて来る。バカにされているのがわかる。
「ふざけた事はもう終わりにして、さっさと始めよう」
先に着いていた、玲が言う。
「まあ、慌てるな。先に自己紹介から始めようではないか」
流石に気がついているか。
と言うより、偽名を使わない方がおかしいからな。
「ならば、そちらからどうぞ。勿論、自分の役職も行ってもらうがな」
「いいだろう、私の名は、サタ・フーリンジ・グローザ・アザ・トート・シェシルだ。魔王をやっている」
意気揚々に告げられはその名はとても長い。呼び方はこれまで通り、シェルでいいだろう。
それにしても魔王か。その線は考えなかった訳ではないが、その可能性は少ないと考えていた。
何しろ若過ぎる。
このシェルは見た目だと、人族の飾りよりも若く見える。
15、16歳あたりだろう。
「私はクーリエと申します。魔王様の執事兼、教育係をしております」
後ろの執事はそう名乗る。
「俺の名前はバーアだ。改めてよろし──
「その名前も嘘だ。本当のことを言え」
玲は再び、偽名を使おうとしたが、シェルの言葉により遮られる。
どうやら心が読めるらしい。プルトリファの件により、すぐに気がついた。どうやらこちらの世界に来てから俺のプライベートは、一切無かったようだ。
「………………飢賀 玲だ」
シェルからの声は上がらない。
本当の名前だと判断したんだろう。
「こちらの役職は伝えた。私と取引したい事はなんだ」
一気に部の悪い駆け引きになった。
いつのまにかローブ、もといクーリエが背後に回っている。
ここまでされたら逃げられない。
「……俺から提示するのは、勇者の情報。そして求めるのは、安全な衣食住だ」
シェルはこちらから目を離さない。見る事が発動条件なのだろう。逃げることも出来ないため、大人しく受け入れる。
「衣食住を求める理由は?」
「俺の目的を達成するためだ」
この事を聞いたことにより、シェルの心を読む能力は、表面上の事しか、見れないのだろう。
「その目的は?」
「記憶を取り戻す事だ」
表面意識を読まれるのなら、下手な事を考えずに本当の事を言うに限る。
「次、貴様の正体については?」
「俺は勇者だ」
「裏切りか、すぐに裏切る者は信用ならんな」
心を読める癖に白々しい。
「残念ながら、他の勇者とは、最初から仲間じゃないのでな」
シェルの表情は険しくなり、薄く笑う。
「それはお前がよく話している、邪神プルトリファと、関係があるのか?」
〈おいおい、この会話聞こえてるのかよ〉
玲がプルトリファに問う
〈どうも聞こえてるようだね〉
「秘密の会談なんてしてないで、私も混ぜて貰えないか?」
クソッ!まだ根に持ってやがった。10日前の出来事だぞ!
結局玲は諦め、深い溜息を吐き、これまでの経緯を話した。
□
話した事は、眷属のこと、拒否権の無かったこと、『禁忌の書』についてだ。殺人衝動、プルトリファの正体、『反魂の狂乱』については話さなかった。
シェルはしばらく怪訝な顔をしていたが、ほどなくすると
「いいだろう、取引成立だ。玲、貴様を我が城に招待する。着いたら勇者の能力について話せ」
「了解だ」
クーリエも反論は無いらしい。
「では、行くぞ」
3人はまたも会話が無いまま、城に向かって行った。
まず昨日、投稿出来なくてすみません。
今回はいつもより少しだけ、少しだけ、多いです。
明日も上げる予定なのでのぞいてもらえると幸いです。




