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虚ろな忌み子の殺人衝動  作者: 猟犬
第2章 逃亡地にて
16/46

16.橋の上で

 あれから玲たち3人は、特に会話をせず、魔族領土に向かった。魔物も無視し、睡眠時間も削って来た。

 広がる草原、その先にある崖を見下ろせば、海がある。

 対岸に見えるは、魔族領土。北の大陸と魔族領土の島を繋ぐ橋には、関所はなく、人通りも無い。


「さて、ロウ。我々の契約だと、橋の上で取引するのが良かろう」


 シェルが聞いてくる。


「問題無い。境界線の橋ならば妥当だろう」


 そう言い、橋の前で立ち止まる。

 お互い先に進もうとしない。


「レディーファーストだ、シェル。お先にどうぞ」


 玲から切り出す。

 まだ味方かハッキリしていない。取引の直前や直後に、殺される可能性もある。向こうは2人だ、背中は見せれない。絶対に一番後ろに着いてやる。


「男だろう?女性を先導しないでどうする?」


 シェルが断る。


(この男は、嘘を平気でつく。おそらく手段は、選ばない人間。絶対に背後を取らせない)


「そっちには立派な執事がいるだろ?俺は客人だ。在住者が案内をしないでどうする?」


 玲も負けじと反論する。


「従者を自分の前に出すのは気が引けてな。それに橋の上は魔族領土では無いぞ」


 シェルも引かない。

 続けて言ってくる。


「大体、私のような美しい女性を先導することは今後一生無いぞ。後悔をしないように、するべきでは?」


 玲は鼻で笑い


「ハッ、お前のように貧相な────


 玲はすぐに屈み、飛来してくる物を避ける。

 ダメだ、煽るとすぐにこれだ。どうせまた魔法だろう。


 確認すると案の定、魔法だった。

 しかし、シェルの顔はとてもいい笑顔だった。

 殺気を滲み出し、笑顔で近づいてくるシェルは、とても恐ろしい。

 きっと貧相と言う言葉は、彼女にとって地雷だったのだろう。


「女性に失礼な態度をとったのだ。先導、

 す・る・よ・な?」

「いや、実は照れ隠しの現れでな、シェルを先導するのは、とても光栄だ。喜んで受け入れよう」


 玲は心にも無いことを言い、逃げるように全力疾走で、橋の中央に行く。

 玲の意図としては、先に橋の中央に行き、迎え撃つ構えを取るつもりなのだが


 〈その行動は、先導とは程遠いな〉


 プルトリファが笑いながら、ダメ出しをしてくる。


 〈うるせえ、安全性を高める方が大事だ〉


 向こうは追ってこない。少なくとも取引前に殺すつもりは無いのだろう。

 結果として、待つことになった玲は、何故か負けた気分になるのだった。





 □





「さて、待たせてしまったな」


 遅れて来た2人のうちシェルは、とても皮肉な笑みを向けて来る。バカにされているのがわかる。


「ふざけた事はもう終わりにして、さっさと始めよう」


 先に着いていた、玲が言う。


「まあ、慌てるな。先に自己紹介から始めようではないか」


 流石に気がついているか。

 と言うより、偽名を使わない方がおかしいからな。


「ならば、そちらからどうぞ。勿論、自分の役職も行ってもらうがな」


「いいだろう、私の名は、サタ・フーリンジ・グローザ・アザ・トート・シェシルだ。魔王をやっている」


 意気揚々に告げられはその名はとても長い。呼び方はこれまで通り、シェルでいいだろう。

 それにしても魔王か。その線は考えなかった訳ではないが、その可能性は少ないと考えていた。

 何しろ若過ぎる。

 このシェルは見た目だと、人族の飾り(国王)よりも若く見える。

 15、16歳あたりだろう。


「私はクーリエと申します。魔王様の執事兼、教育係をしております」


 後ろの執事はそう名乗る。


「俺の名前はバーアだ。改めてよろし──

「その名前も嘘だ。本当のことを言え」


 玲は再び、偽名を使おうとしたが、シェルの言葉により遮られる。

 どうやら心が読めるらしい。プルトリファの件により、すぐに気がついた。どうやらこちらの世界に来てから俺のプライベートは、一切無かったようだ。


「………………飢賀 玲だ」


 シェルからの声は上がらない。

 本当の名前だと判断したんだろう。


「こちらの役職は伝えた。私と取引したい事はなんだ」


 一気に部の悪い駆け引きになった。

 いつのまにかローブ、もといクーリエが背後に回っている。

 ここまでされたら逃げられない。


「……俺から提示するのは、勇者の情報。そして求めるのは、安全な衣食住だ」


 シェルはこちらから目を離さない。見る事が発動条件なのだろう。逃げることも出来ないため、大人しく受け入れる。


「衣食住を求める理由は?」

「俺の目的を達成するためだ」


 この事を聞いたことにより、シェルの心を読む能力は、表面上の事しか、見れないのだろう。


「その目的は?」

「記憶を取り戻す事だ」


 表面意識を読まれるのなら、下手な事を考えずに本当の事を言うに限る。


「次、貴様の正体については?」

「俺は勇者だ」

「裏切りか、すぐに裏切る者は信用ならんな」


 心を読める癖に白々しい。


「残念ながら、他の勇者とは、最初から仲間じゃないのでな」


 シェルの表情は険しくなり、薄く笑う。


「それはお前がよく話している、邪神プルトリファと、関係があるのか?」


 〈おいおい、この会話聞こえてるのかよ〉


 玲がプルトリファに問う


 〈どうも聞こえてるようだね〉


「秘密の会談なんてしてないで、私も混ぜて貰えないか?」


 クソッ!まだ根に持ってやがった。10日前の出来事だぞ!

 結局玲は諦め、深い溜息を吐き、これまでの経緯を話した。





 □





 話した事は、眷属のこと、拒否権の無かったこと、『禁忌の書』についてだ。殺人衝動、プルトリファの正体、『反魂の狂乱』については話さなかった。


 シェルはしばらく怪訝な顔をしていたが、ほどなくすると


「いいだろう、取引成立だ。玲、貴様を我が城に招待する。着いたら勇者の能力について話せ」

「了解だ」


 クーリエも反論は無いらしい。


「では、行くぞ」


 3人はまたも会話が無いまま、城に向かって行った。

まず昨日、投稿出来なくてすみません。

今回はいつもより少しだけ、少しだけ、多いです。

明日も上げる予定なのでのぞいてもらえると幸いです。

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