11.逃走
式織 楓は目が覚めた。
きっと不慣れな場所で寝たことにより、眠りが浅かったのだろう。
「あれ?れいっちは?」
しかし、目覚めるとそこに居るはずの飢賀 玲の姿が無かった。
仕方なく楓はいなくなった玲を探すことにする。
楓はダルバから習った通り、焚き火から松明を作り、周囲を散策していく。
しばらく進むと、異様な腐敗臭が周囲に立ち込める。不快感に顔をしかめるも、そこには何かあるはずなので、自分の鼻を頼りに、腐敗臭の元へ向かう。
そこで見たのは異形の化け物。
まず目に入ったのはその腕。
黒い煙の出ているそれに恐怖を感じつつも、惹きつけられる。目が離せない。
それでも不味いと思い、視線を逸らし、足元に向ける。
そこには赤黒い物体があった。
楓は暗闇でよく見えない目を凝らし、それを見る。
それは、肉。いつか教科書で見た事のある、臓器。
そして、それを飾るように振りまかれている血。
やばい
そう直感する。
すぐに逃げなければ。幸い、化け物はそこでただ何もせず突っ立ている。
楓は陸上部で鍛えられたその健脚を使い、その場を離れる。
□
「ダルバさん!起きてくださいダルバさん!」
必死に引率の彼を起こす。
「んあー?なんだ、もう朝か?」
「違います!魔物が!化け物が出たんです!!」
そう言うとダルバは、枕元の長剣をすぐに取って、立ち上がり
「魔物はどこに出た!玲は大丈夫か!」
そう叫んだ。
その喧騒にすぐ近くで寝ていた、信二と菊も目を覚ます。
ダルバは辺りを見回し、近くに魔物がいない事を知ると、
「なんだ、いないじゃないか」
ホッ、と息を吐く。しかし、玲がいない事により、また表情が険しくなる。
「楓。玲は何処だ」
そう聞かれた事もあり、楓はこれまでの経緯と自分の目で見た化け物の話をした。
話を聞いたダルバの指示により、玲を捜索するついでに、そこまで案内をすることになった。
どうやら信二も菊も心配で、付いてくるそうだ。
先程の化け物を見たところまで案内をするものの、既にそこには化け物はおらず、代わりに血と内臓、そして人の物と思われる腕しか無かった。
私は2回目の事もあり、比較的落ち着いて見れたが、菊は膝から崩れ落ち、泣きながら吐いていた。
信二は、血の気が引き、その顔は青々としている。
ダルバは人の死に見慣れているのか、その肉を調べ始めた。
「この腕の切断面は、潰してねじ切られたようだ。人の仕業じゃない、これは魔物が魔族、獣人族のどれかだ。しかし人族に居る獣人族は奴隷がほとんどだ、ここにはまずいない。
これは魔物か魔族の仕業だろう。楓、そいつの特徴を教えてくれ」
そう言われ、説明する。
「暗くてよく見えませんでしたけど、煙りの出ていた、大きな腕がありました」
「そうか……他のパーティに伝令して玲を捜索するぞ。明日、1日中探しても見つからなかったら、この腕は玲のものとして、玲は死んだことにする」
酷だが仕方ない。そう最後に付け加えられ、堪らず泣く。
彼に直せと言われた辛気臭い顔は当分治りそうになかった。
□
上手くいっただろうか。
飢賀 玲はそんな事を考え、その蹄で地をかけていた。
〈腕を千切るのはやり過ぎじゃないのか?〉
〈血と内臓が獣のものとして見られてはかなわん。やるなら各実にだ〉
それにどうせ元に戻るのだ腕の1本や2本どうてことはない。
俺がやったのは、自分の腕と血と内臓を使い、自分の死を偽装する事だ。
これをやることにより、これからは役職に縛られず、自由に動ける。
代償は、これまでの準備が全てパーになる事だ。
〈それでこれからは何をするんだ?〉
プルトリファの問いに答える。
〈取り敢えず、変身が解けるまでは、距離を取る。そこからは、『禁忌の書』を継続して使うために、安全な寝床が欲しい〉
俺たちの目的のためには、『禁忌の書』を使い続けないといけない。
しかし、使えば魔力切れで、すぐ倒れてしまう。
目的の禁術を引き当てるためにも安全な寝床は必須だ。
〈しかし、どこに行く?勇者が死んだことなどすぐに知れ渡るだろ。少なくとも人族の領土にはいられまい。かといってドワーフ族とエルフ族の領土も怪しい。北の大陸だと安全な場所なんて、ほとんど無いぞ〉
〈安心しろ。行くのは魔族領土だ〉
〈正気か?もっとも安全からかけ離れている場所だぞ〉
確かに、通常ならそうだろう。
しかし、今は……
〈今、魔族領土は内乱と疫病で衰退している筈だ、疫病は『反魂の狂乱』の効果でなんとでもなる〉
〈内戦はどうする?〉
〈人族が戦争を仕掛けてくる情報をリークし、魔王にかくまってもらう〉
〈確かに、私の知る限りでは魔族側が、人族の情報を手に入れたと言うことは聞かない。しかし、その情報を持ってない確証は無いぞ〉
〈勇者の情報込みなら上手く行くだろうさ。それとお前なら今からでも見に行って確認出来るだろ?〉
プルトリファが急に黙り込む。
おいまさか…
〈正体がバレたから言うけど……見ることは出来ない〉
ばつが悪そうに言う。
〈おい〉
〈あ、あながち嘘ではない!ファル・イクセに来た祈りによってしか、知ることが出来ないだけで、ちゃんと世界の情勢は知っている!〉
会話が無くなる
〈…………もう敬語は使ってくれないのか?〉
気まずいのか場違いな質問をしてくる。
〈当たり前だ〉
〈そっかー、懐かしくて気分良かったんだけどなー〉
そんな事を言われても、もう使う気は無いので、無視する。
ガッ
先程から体の操作がおぼつかなく、周りの木々や岩に体をぶつけている。
〈にしてもこの体は痛覚が無いんだな〉
先程、腕を千切った時もだが、いくら体をぶつけようとも、痛みを感じない。
〈いや、普通はある。しかし、お前のその体は既に死んでいる。生きている異形の右腕以外の痛覚は、無いんだろうな〉
そう言われ、トップスピードで走る中、右腕を地面に叩きつける。しかし、痛みは無い。
〈な、何をしている!〉
プルトリファがまた変な声を上げる。
〈痛みが無いぞ〉
〈当たり前だ!そんな凶悪な甲殻に覆われているんだぞ!〉
言われてみればそうだ。この異形の右腕には、甲殻が付いているのだった。
〈まさか痛覚を試すためにやったのか……呆れたわ〉
こいつ正体がバレてからキャラが大きく変わったな。
なんというか……ポンコツになった。
しかし、それを言うとまた何か言われそうなので、大人しく黙っていることにした。
はい、このような駄作に付き合ってもらいありがとうございます。猟犬です。
次から第2章に入るつもりです。
やっとヒロインが出せる…(ボソ
明日も上げる予定なのでよければまた覗いて下さい。




