ボッチ力3万。
妹のあられもない姿に悩殺されながらも、スマホのシャッター音で何とか理性を取り戻した俺は、妹を褒めに褒めまくった。
褒めまくってから「それは他の人に見せないで欲しい」と、言い訳半分、本気半分の説得を試みた。
「もう!お兄ちゃんがリクエストしたと思ったから着てみたのに!………でもちゃんと気に入ってくれたみたいだし、許してあげる。」
そう言うと、俺の買ってきたJKなファッション雑誌を手に取り、ページを捲りながら、目の前で着替えて行く。
俺の反応を見て、どれが気にいるか試しているみたいだ。
これだけ聞くと、妹の着替えをマジマジと見守る、ちょっと(ちょっとではないか)アレな兄になってしまうが、安心して欲しい。
着替えると言っても魔法で変身する感じだ。
着替える瞬間は謎の発光現象で衣服が消え。
謎の発光現象で首からしたの素肌が見えなくなり。
謎の発光現象で新しい服が出来上がり。
謎の発光現象が収まると、着替え終わっている。
素肌見えなくてもあれ、結構際どいよね?とかそういうのは受け付けてません。
この辺は俺の中の道徳というか、常識というか、魔法少女が着替える時はこうなるのが当たり前、という設定にした。してもらった。
え?魔法少女じゃない?
いや、妹なんだから魔法少女に決まってんじゃないすか。やだなー、ははは。
最初はいちいち発光するのは面倒だとか、何の為にやるのか分からないとか、そんな事を言われたので、この世界の常識、当たり前の事だとして言い聞かせた。
それでも妹は納得しなかったので、魔法少女の変身シーンが出てくるアニメをいくつか見せた。
変身時の演出の有意性と機能美とロマンについて熱く語ったら、妹が折れた。(折れてくれた。)
「そんなに肌が見たいなら、普通に言ってくれれば良いのに。ていうか、最初めっちゃ見てたよね?」
妹が何か言ってるが聞こえない。兄は今、自分の理性と戦っているのだ。
「あ、これ。童貞を殺すだって。お兄ちゃん死ぬんじゃない?」
「はっ!ふざけるんじゃ無い!3次に興味が無かった俺が、そんなセーター如きで死ぬ訳がない!というか、ど、どど、童貞ちゃうわ!」
と言いつつお兄ちゃん前屈み。これが着エロか!
その後も妹のファッションショーに付き合い、何度か(精神的に)殺されかけながらも、妹の私服は決まった。
俺にはよく分からないが、雑誌に載ってるんだし、いいんじゃない?
ちょっと時間は掛かったが、時間はまだ昼過ぎ。全然出掛けられる。でも一体どこへいきたいのかな?
「今のままだと、設定に無理がある事をお母さんに気付かれそうなんだよね。部屋の小物とか、私服が無いと不自然、というか、洗濯物が無い娘ってまずいでしょ?」
そうだった。魔法で何とかしたんだけど、あくまで緊急処置って事だった。
魔力が足りないとかで、完全に思い込ませるのではなく、娘が欲しかった両親の願望を叶える形で幻術を掛けてるとかなんとか。
………そんなに娘欲しかったのかよ、なんか悔しい。
と、いう事で、このままだと母さんが気付いて、パニックに陥るかもしれない。
「じゃあちょっと遠いけど、隣町のショッピングモールにでも行こうか。あそこなら大体なんでもあると思うよ。」
去年出来た大型ショッピングモールだ。
何回か映画を観に行った事がある。もちろんひとりで。
「じゃあいこっか。大体の場所分かる?」
「もちろん。まずバス停に向かって」
「いやいや、お兄ちゃん。なんで歩いて行く気なの?学校は仕方ないけど、隣町なんでしょ?バレる心配ないなら、跳んだ方が早いよ。」
「跳ぶって空中をか?いや、メチャクチャ目立つしバレるだろ?」
「そんな訳ないじゃない。跳ぶって言ったら転移だよ。お兄ちゃん。」
ほうほう。跳ぶと言ったら転移ね。なるほど。
じゃなくて!
「転移!?魔力無くて困るみたいな事言ってなかった!?」
「いやいや、私魔王だったんだけど。転移ぐらいなら、この世界の薄くて軽くて埃みたいな魔力でも余裕よ?」
なるほどなるほど。うちの魔王様は有能らしい。じゃなきゃ魔王になれないか。
「分かった。で、どうすればいいの?地図見る?」
「ううん、お兄ちゃんの見た場所に跳ぶから、そこを思い出す感じで。鮮明に思い出してくれると助かるかな。」
妹に言われ、出来るだけ詳細にショッピングモールを思い出す。
「そうそうそんな感じ。出現位置見られたら面倒そうだし、もうちょっと人のいなさそうな所がいいかな。」
ふふふ。人混みを避けるスキルがカンストしそうな俺には簡単な事だ。
「あ、いいね。ここなら万が一見られても魔法で何とか出来そう。よくこんな人の集まる場所でこんな人気のないスポット見つけたね。」
ふふふ。ボッチ力3万の俺にかかればこんなものよ。
「でもここってなにする所なの?お店も無いし、人も少ないけど、無駄に広くない?」
広いぞ!300台入るってさ!ははは!
「あ、駐車場……。お兄ちゃん、何でこんな場所鮮明に覚えてるの?車では行かないでしょ?」
ふふふ。ボッチ力3万もあると、立駐の屋上はオアシスと化すのさ。
「あれ、お兄ちゃん泣いてるの?どこか痛い?ヒールかける?」
ふふふ。大丈夫だ。自分で言っててあまりのボッチ力の高さに驚いてしまっただけだ。
「よしよし。大丈夫大丈夫。お兄ちゃんには私がついてるよ」
兄としてあまりの失態に、妹に撫でられながら励まされてしまった。
お兄ちゃんしっかりしないとな!
「じゃあ行くよ?」
「おう!」
次の瞬間、俺は高度1000mの上空にいた。