熱い視線。
妹と一緒に下校中、色んな所から視線を感じる。登校中もそうだったけど。
今は特に後ろから視線を感じている。
視線と言うか、スマホのシャッター音が聞こえて来る。まぁ、妹可愛いしね。
極一部は俺を狙っているみたいなんだけど、俺狙いの人は怨嗟の声を吐きながら俺を狙っている。
そんなに羨ましい見えるのか。いや、当然か。月とスッポンというか、太陽とゴミムシだもんな。
それに、もしかしたら同士で、「アリス」を知ってるのかもしれない。
「アリス」は最高最強の妹属性を持つ、俺の理想の2次元嫁、だった。
まぁ今では俺の隣に、「アリス」にそっくりな3次元の理想の妹が居るので、なんとも言えない。
そんな事を考えながら歩いている間も、後ろからのシャッター音は無遠慮に続く。
シャッター音が気になるけど、怖いのと恥ずかしいのが混ざった変な感じで振り向けない。
俺はまぁ、男だし……撮られて困る事は無い?と思うので別にいいけど。
妹は………魔王だけど、女の子だ。写真に真の姿とか映ったら困ると思う。いや、そうじゃない?
頭の中で、そんな自問自答をしていると、後ろから悲鳴が聞こえた。
「うわ!え?熱っ!」「アッチー!」「ちょ!えっ!なにこれ!」
振り向くと、後ろにいた人達がスマホを地面に落として、手に息を吹きかけている。
もしかして………と思い、立ち止まらず先に行った妹を見ると、気付いたのか、こちらを振り返った。
「お兄ちゃん、早く帰ろ?私、お腹すいちゃったよ〜。」
「う、うん!早く帰ろう!」
何故か皆さん一斉に、スマホが熱にやられたみたいだけど、あれかな?不良品だったのかな?
過充電とか?いやー、怖いな!気をつけないと!
俺は早足で妹に追いつき、その場を後にした。
家に着くと、母さんが昼飯を用意してくれていた。手を洗って、着席。手を合わせて、「いただきます。」
今日の昼飯は、親子丼だ。ささっと掻き込んで、「ご馳走さまでした。」
チラリと妹を見ると、味わってゆっくり食べている。女の子らしくていいな。
俺と目が合うと、仕草で「一口食べる?」と聞いてきた。
あれか。伝説の存在、『アーンしてくれる妹』か。最高だ。最高だけど、母さんもいるし、恥ずかしい。
「いや、いい。お腹いっぱいだよ。」
本心を誤魔化しながら、胃のあたりをさする。
妹は頷いて、またゆっくり食べだした。本当に美味しそうに食べるなぁ。
あっちだと、どういうもの食べてたんだろ。魔王だし、良い物食べてたんだろうな。
こっちの質素な食べ物でも、初めて食べるから嬉しいんだろうか?
そう思えるほど、ニコニコしながら食べている。
そんな妹を横目に見ながら、これから何をしようか考える。
まだ昼過ぎだし、何をして暇を潰そうか。出掛けるのも面倒だし、家でいつも通りゲームでもするかな。
いや。折角理想の妹が出来たんだし、妹と(健全に!)遊ぶのもアリだな!
そんな事を考えながらニヤニヤしていると、妹が食べ終わった。
「ご馳走さまでした!お母さん、美味しかったよ。」
「はい。お粗末様。」
母さんがそう言いながら、食器を回収していく。なんか嬉しそうだ。
俺だけだった時と、全然反応が違う気がする。いつもはため息でもついて、黙ってるのに。
視線で抗議すると、それに気がついたのか、気がついてないのか、母さんはニコニコしながら、「やっぱり美味しそうに食べて貰えるだけで、嬉しいものよね。」と呟いた。
そういうもんか。確かに普段、美味しそうに食べたり、感謝した事は無かったかも。
ちょっと、いや、かなり恥ずかしいけど、俺も感謝を伝えてみるか?いや、うーん。
考えていると、ニコニコした妹と目が合った。何かを見透かされている気がした。
「か、母さん。いつもありがとな。美味しかったよ。」
母さんに背を向けたまま、何とか普段の感謝を絞り出してみた。
………………。あれ?返事が返って来ない。リビングが変な空気になった気がする。間違えた?
恐る恐る、母さんの方を振り返ると、時間が止まった様に動きを止めていた。
そんなにショックだった?意外過ぎたかな?それもどうかと思う。
「……。はいはい、お粗末様。遊ぶなら明日の準備してからにしなさいよ。真央、デザート食べる?」
くそ!流しやがった!結構頑張ったのに!
「食べるー!あ、ケーキ!いいの?夕食のだと思ったけど。」
「良いのよ。父さんが帰りにまた買ってくるわ。」
「やった!じゃあいただきます!」
「真央は本当に可愛いわねぇ。」
そんな会話をしながら、当たり前の様に妹にだけ出されるケーキ。俺のは?視線で抗議するも、スルーされる。
まぁいいけどぉー。別にぃー。そんなに甘い物好きじゃないしぃー。
美味しそうにケーキ食べる妹を横目に眺めていると、仕草で「これはダメ!」と訴えてきた。
うむ。その仕草だけでお腹いっぱいだ。ありがとう。
ニヤニヤしながら妹が食べ終わるのを待った。