ぷろろーぐ。
その日、「妹」は俺の目の前に落ちてきた。
初めて見る「妹」は、見るからに凶悪で禍々しく、異様な存在感を放っていた。
遠くから見れば人間にも見えそうなカタチだが、明らかに人間では無い部分が目立っている。
肌は漆黒そのもので、光を全て拒絶し、反射さえしていないようで。
髪は血よりも赤く、そこだけが別の生き物かのように蠢き、まるで獲物を探しているかのようだった。
頭の側面からは鹿の角のような物が生え、先端から黒い煙か、霧のようなものが噴き出ていた。
鋭く光る赤い眼は、全てを射殺さんとばかりに、異常に見開かれている気がした。
落ちた衝撃で、うつ伏せになっている「妹」は、震えながら、ゆっくりと動き出した。
腕の様なモノを動かし、四つん這いになりながら、俺の方に、這うように進んでくる。
「妹」は不意に顔を上げ、目の前の俺を見つけると、口角をあげ、微笑んだ。
あまりに非現実的で、非日常的で、歩き方さえ忘れた俺は、神に祈った。
「妹」は細い両手を俺に向け、聞き取れない言葉で何かを呟きだした。
急に辺りが暗くなり、空を見上げると、暗雲が渦巻きながら広がっていき、太陽の光を遮っている。
呆気にとられて傍観していると、禍々しく渦巻く暗雲の中心から、竜巻の様に中心部分が降りてきた。
降りてきた先には、いつの間にか両手を挙げ、跪いていた「妹」がいた。
「妹」の頭上に、暗雲が凝縮され、集まっていく。
次第に暗雲は消えたが、「妹」の頭上には、闇の塊とも言える何かが残った。
「妹」は聞き取れない言葉の様な呻き声を出しながら、闇の塊を見ている様だった。
元気玉?
そんなどうでもいい事しか考えられないぐらい混乱していた。
俺の危機管理能力とか、語彙能力を疑ってはいけない。
そのぐらい混乱したのだ。
そして「妹」は、混乱している俺に構わず、両腕を下ろし、こっちへ向けてきた。
それに合わせて闇の塊が蠢き、動きだした。
……………思ったよりゆっくりだった。
それでも俺は身構え、全身を硬らせながらも、再び神に祈った。
……………が、闇の塊は俺の方には来なかった。
闇の塊は真下に落下し、こちらを狙って微笑む「妹」に直撃したらしい。
最初に頭が覆われて、何事かとパニックになり、手で何とかしようとしてしまったのがいけなかったらしい。
………なぜらしいなのかというと、ここからは俺見てないから。
「再び神に祈った。」から頭を抱えて土下座中です。
ともかく徐々に全身を闇の塊に呑み込まれた「妹」は、激痛に晒されたらしい。
この世の物とは思えない悲鳴を上げながら、のたうち回った。………らしい。
俺は「妹」の悲鳴が怖すぎて更に体を縮め、頭を抱えながら、悲鳴が止まる様に更に必死に神に祈った。
次第に悲鳴は小さくなり、聞こえなくなった。
神に祈りが通じたのだ!………通じてしまったのだ!
強張る手足に力を込めて、何とか頑張って目を開ける。
目の前には一糸纏わぬ金髪の美少女な「妹」がいた。




