第六十四話
今年最後の更新です!
午後の試験の順番は一組から順々に行われ、最後が十五組になる。
その理由は実に単純に弱いからだ。上位で合格していた生徒ですら、ほぼほぼ一瞬で決着が着いてしまう。なので、最後でも長引くことのない十五組が後なのだ。
クラス昇進を賭けた対人での試験は、保護者も観戦することが出来る。主に上位組みと呼ばれる一組から五組までの保護者が殆どだが、その保護者席でも一際目立つ集団が居た。
「カケルぅ~~~頑張れ!!」
「カケル頑張れ!!」
「カケルさんファイトです!」
カケルの両親とミーニァ。他の保護者より何倍の声で応援していた。まだ、カケルの番にもなってないというのにこの応援だ、順番が回ってきた時には喉が潰れて声が擦れていることが誰にでも予測できる。
『ここで負けたりするなよカケル。お主はもっと上を目指さねばならないのだ』
そして、心の中で応援しているモーリスも傍で座っている。
この場に居ないカグラはと言うと、フローラリアのお世話があるので留守番している。
「これが上位組というクラスの対戦なのか……迫力があるな」
父親は自分の息子もこのように戦うと想像すると、不安と緊張のせいで額に汗が吹き出ている。
「ミーニァさん、モーリスさん。この対戦はレベルが高いものですね!」
父親が不安と緊張に潰されそうになっている中、母親は興奮していた。
「レベルが高いかどうかはすみませんが、分かりません。モーリスさんはどう思いますか?」
モーリスは観客席に入ったときから今に至るまでずっと対戦を見ている。表情一つ変えずに見つめているものだからか、家族は気まずく、周囲からは変な人だと言っている様な視線を送られている。
「低い。あまりにも低すぎる」
「ちょ、ちょっとそんな隣の人に聞こえる声で言っちゃ不味いですよ!」
「そこは魔法をで周囲に聴こえないようにしているから安心せい」
モーリスが使用した魔法は対象者が話した際、周囲には別の話が聞こえているというもの。今回の対象者は両親、ミーニァ、モーリス。こうする事で、周囲から不自然だと思われずに、好きに会話ができるのだ。
「入った時から思っていたが、まず魔法の質が低い。それに体術もだ。わざとレベルの低いように見せかけているのかと思っていたが、本気でだった。上位組みとあっちの世界の学園最下位とやっても勝負にならないぐらいに弱い」
モーリスの言っていることは事実だ。実際十五組ですらまともに魔法を扱えていなかったのだから、上のクラスに行ったとしても、本来の使い方を知らない。例えで言えばゲーム上の武器を攻撃力だけ気にして使用しているのと同じだ。
では何故知らないのか、その理由は帰還者だからだ。
帰還者は元々その世界に召喚され、能力を持たされている。なので、始めから魔法も使えるし戦うことも出来る。だからなのか、自分の力に酔い研究を一切しない。それに比べモーリスの学園では最下位の生徒でも、一から魔法とは何かを教わり、自分自身で試行錯誤し完成する。知識さえあれば、研究し、新たな魔法を編み出したり、威力を上げる事も可能。
武器の一部しか見えていない帰還者と、一度全て学ぶ学園生徒では始まりも終わりも違う。
始まりは元から進んでいるが、終わりが早い帰還者。始まりは0からだが、終わりは可能性を広げる限り存在する。
これが大きな違いだ。
「派手で凄いけど、そんなに差があるのか」
「という事は! モーリスさんの学園に居たカケルはここに居る誰よりも強いって事よ!」
キャッキャ騒ぐ母親を視界の端で捕らえつつ、言い続けた。
「だが、今言ったのは実力勝負の場合の話だ。あっちでもそうだったが、トラブルに巻き込まれやすい人間だ。もしかしたら、巻き込まれるのかもしれないし、既に巻き込まれている可能性だってある。その場合何を仕掛けてくるのかも分からない」
「実際カケルさん入学して始めの試合で、いきなり巻き込まれていましたからね」
カケルと仲良くなった事で観に行けた試合なので、ミーニァにとっては一番に印象に残っていた。
「「それははじめて聞いたぞ! 教えて!」」
わが子の活躍話しを未だに聞けていなかったのか、食いつき具合が尋常じゃない。
「帰ったら話すから大人しくしておけ」
「「はい……」」
その後はカケルが出てくるまで大人しかった両親であった。
上位組みの試験が盛り上がりが絶頂に達している時、人気の無い校舎では金属音が鳴り響いていた。音のする原因の場所では詠唱する声、それによっての発光が漏れていた。
何も書かれてない紙に魔法陣を描き、詠唱を唱え効果を入れていく。効果を持った魔法陣はドス黒く、見た目からでも恐ろしい物だと理解できる。魔法陣が描かれた紙は短剣の上に乗せられ、特殊な効果が付与されている金槌で叩きつける。数回叩きつけると魔法陣は短剣に吸い込まれていき、紙は綺麗な白紙に戻っていた。
ある者は弱音を吐きながら金槌を打ち続け。ある者は励ましながら詠唱を続けた。そして、お互い手先、膝が震えていた。この先に待っている恐怖、罪悪感。それらに対してずっと怯えているのだ。
そして、震えが治まるころには全てが終わっていた。
控え室。
カケル達が控え室に入る頃には上位組みの試験は全て終わり、真ん中から十四組までの試験が行われていた。部屋は組ごとに別れており、始まるまで対戦相手の顔、性別、得意そうな攻撃などが一切分からない。
十五組の控え室は温かかった。以前は勝てる希望も無くただただ消化試合だった。だが、今ではカケルという大きな存在もあり、一番は葵含めた女子四人組だ。生徒一人一人に声をかけ、励ましていくうちに十五組全体が盛り上がり、『皆でクラス上がるぞー!』と言った声も出ている。例え勝てなくても気持ちが大事なのだと理解したのだろう。
「さて、葵盛り上がるのも程々にしておけよ。もう少しで大事な試験が始まるんだ」
女子同士で会話している所に躊躇無く入り込む。
「うん、一位の人が行ったからそろそろかもね。でもね、私全然緊張していないの! 寧ろワクワクして、早く試験が始まって欲しいと思ってる……前の自分だったらこんな感情表れていないのに」
カケルは両目を見開き驚きの表情を見せる。でも、それは一瞬ですぐに笑顔に戻る。
「それはね、葵が鍛錬して得た力と自信だよ。自信があるからワクワクする。力を得たから早く始まって欲しいと試合に対して喜ぶ。それは、強者へ一歩近づいたことだと思うよ」
「全然強くなった感じはないけど、そうなったんだと思う!」
こんな会話をしていると扉を開けた試験官が葵の名前を呼んだ。
「さぁ! 行ってこい! そして、自分自身の力を思う存分試してこい!」
「はい! 行ってきます!」
葵は部屋に居る生徒全員から拍手を貰いながら会場へと向かった。
同時刻
「おい! 物は準備出来たかぁ? 俺達があげた物だから失敗とかはしてないだろうなぁ?」
三人組が三人組を薄暗い部屋の中脅していた。
「こ、こちらが作った品です……」
おずおずと懐から短剣を取り出した。その物は渡そうとする寸前に、女性に奪われてしまった。
「うーん、まあお前達にしては頑張ったんじゃないの」
まさかのお言葉に三人組はこそこそと喜ぶ。
「浮かれるな! まだ使ってもないのに何故喜んでいる」
「では、最後のお仕事よ ろ し く な。へますんじゃねぇぞ? したら分かるよな?」
三人は歯をカタカタと体ごと震えだす。
「分かったなら早く出てけ!!」
「「「ヒィィィ」」」
三人は自分達のクラスの控え室へ慌てて戻って行った。
今年は思ったより忙しくなってしまい、サボり気味になってしまいました。
来年は無理せず、程よく書けたら良いなと思います!




