第五十九話 魔法訓練
GW中にもう1話更新する予定です
葵とカケルの二人っきりの訓練が始まって三十分後。
彼女はこの短時間で五つの魔法を覚えた。この早さは異常な程。
普通の生徒だと初級魔法一つを授業中に覚えるので精一杯だが、葵は既に五つ習得している。しかも、その内容は初級魔法から中級魔法と様々。
「カケルさん! 私もう五つも魔法を習得しましたよ! やってみたい魔法も出来たし」
カケルの教え方が上手なのか、それとも葵の読み込みが良いのか、もしくは両方か。
「そんな事無いですよ! 葵さんの覚えが良いのですよ!」
しばらくカケルさんが~葵さんが~と押し付けあっていると、馬鹿らしく思え目が覚めたのか、休憩を挟むことにした。休憩中は特に話すことは無く、それぞれ別々に行動でカケルは水分補給(スポーツ飲料)。葵は友達への所へ行き、魔法をレクチャーしている。このクラスの中では優等生なので、皆から頼られるのだろう。
カケルが水分補給で水ではなく、スポーツ飲料を飲む理由は、魔法を具現化する時に脳が酷く疲労するからだ。葵が習得したい魔法を一切覚えていない彼は、一から想像して具現化する必要があった。それを短時間で一気に五つも具現化したので、体が甘い物を欲していたのだ。
「アァッー! 疲れた体に染みている~皆よくこんな疲れること出来るよね。しかも休憩を挟まないでずっと。不真面目そうな人も魔法の授業だけは真面目に受けているけど、何か理由があるのかな?」
カケルは編入して、この学園の事が全く理解してないので説明しよう。
この学園で上のクラスに行くには、実技で一つ上の組と戦い勝利することが条件になっている。
それでは勉学の方はカウントされないのか? そんな事は無い。年間欠席日数が十日以下で成績が一定水準まで達成すると、表ではごく一般のテストだが裏では密かにクラス昇格テストが行われている。
その情報を確かなものだと知っている十四組以上のクラスは、毎日出席して良い成績を出そうと必死になっている。だが、情報が回ってきていない十五組はただただ魔法の訓練をするしかなく、授業もそれしか出てこなくなってしまった。
それが今の現状。
「さて、体力も回復してきたところで再開しますか」
友達と魔法の特訓をしている葵に声を掛けようと近づいていったら、傍に居た女子達がざわめき始めた。葵に耳打ちをしたり、ちょっかいしたりといじっているようだ。それに対して頬赤らめていたが、そこはポーカーフェイス。カケルは表情を殺す。
「そろそろ再開する?」
ヒューヒューと茶化す女子たち。
「そうですね。私も息抜き出来たので、そろそろ再開しましょう」
「あ! そうだカケルさん。この子達も一緒に参加しても良いですか?」
「う~ん」
『このまま了承してしまうと、さっき教えて欲しいと言っていた人達にも教えないといけないしな』
そうなれば、この競技場に居る全ての生徒に教えないといけないので、面倒くさい。面倒事が嫌いなカケルはどうしても避けたかった。
知恵を搾り出して出した結論は……。
「それじゃあ、訓練は一旦止めて、葵さんがこの子達に教えてあげて。俺はその教えている所を見て、悪い所を指摘するよ」
必殺! 誰かに押し付ける作戦!
説明しよう。この作戦は他人に無理矢理やるべきことを押し付けて、自分は何もしないで見守っているだけという何とも最低な行為のことだ!
「見守ってくれるなら大丈夫だと思うんですけど……出来ますかね? 私なんかに」
「人に教えた方が身につくって言うし、大丈夫だよ?」
「それに、葵さんのレベルなら他人に教えれるよ」
「分かりました。やってみます」
さっきまで教えていたので、特に心配する必要がない。女子友達も先程は楽しそうに教わっていたが、今では両者緊張している様子。多分だが、カケルがずっと見ているのが少なくとも原因ではある。今まで誰かにずっと見られるという環境がなく、特に指摘される事もなかった。だが、今は隅々まで見られて指摘をされる。それは緊張するのも理解できる。
「それじゃあ、さっきの続きを教えるね。強化魔法のイメージは物をこの世の中で最強にするつもりでやるの。こうーえいっ! こんな感じに」
葵は持っていた木の棒に強化魔法を付与し、地面に何度も思いっ切り叩き付けた。棒は欠ける事もなく、折れることもなかった。
『強化魔法かー俺は元々マーズの能力で自然と使えていたけど、イメージは人によって違うのか』
カケルが強化魔法でイメージしているのは、強化した部分を使用したり動作をした場合、どうなって欲しいのか。例えば脚に付与して、あの建物の上に行きたい! と思ったら、建物の上に飛べるイメージをしながら飛ぶ。
簡単に言えば思ったことを、そのまま自然と叶えてもらうイメージだ。
『強化魔法は上手に使えているけど、やっぱり付与の効果は薄い。イメージが影響されるのかな?』
「こうかな? ふん! えー葵ー全然出来ないよー」
「私もー出来ない」
「私は出来たけど、全力で地面に叩き付けたら先端が欠けちゃった」
一部の人は出来ていたが、その魔法は完全とはお世辞でも言えない。
「魔法はイメージが大事だから、出来ない人はしっかりとイメージしてみて! 出来ている人は、もっと物に対して深くイメージしてみて」
『多分人によってイメージの仕方は変わるから、自分は簡単だと思っているけど、他人からしたら難しいかもしれないな』
試しにカケルは自分がイメージしている事について教えた。
「その物がどうなって欲しいのかですか……この棒で地面が半球の形で凹んで欲しいとかですか?」
「まあ、合っている。だけど、その場合棒だけの付与したら腕が強化に追いつかなくなるから、腕や身体も一緒にしないといけないよ」
そのまま棒だけ強化した場合、最悪棒から伝わる衝撃で腕の骨が木っ端微塵になってしまう。身体まで強化するのは、規模が大きい場合。なので、基本は腕までで良い。
「なるほど。じゃあ、小さく地面が凹む程強化したい! とイメージすれば良いんですね! いきます! えいっ! え!?」
彼女が振り下ろした棒の先の地面は小さく凹んでいた。
「え!? ずるい! 私もやってみる! わぁ! 私も出来た!」
「私は出来なかった……なんで?」
三人中二人は成功して、一人は出来なかった。その一人は葵の方法で成功した女子だった。
「魔法のイメージは人によって苦手だったり苦手じゃなかったりするから、君には葵のやり方が良いかもね。それを何度も何度も魔法を使って付与効果を高めるんだよ。少し遠回りになるけど、誰でも出来るようになるから」
「カケルさん! それは私も出来ますか?」
「時間を掛ければ出来ると思うよ。日ごろ練習することが大事だけどね」
「「「「なるほど!」」」」
それからは強化魔法を繰り返し使用し、カケル式で出来た人は地面が最初より凹んでいた。葵式の人は棒が折れないほどになり、質も上がった。
教師に報告する為に魔法使用の時は魔法の破壊力が凄すぎて、生徒の注目を集めていた。『何その魔法! 教えて!?』聞かれて、強化魔法と答えると皆ぽかーんと信じられないと言っているような表情だった。
こうして魔法訓練でカケルは気がつかない内に、化け物の卵を四つ産んでしまった。




