第五十七話 登校二日目
後日談。
あの後の実技は十四組が十五組を怯え、一番に逃げた。その光景をただ眺めることしか出来なかった十五組は、とりあえず教室に戻る。最後に競技場を後にしたのは、生徒会の如月達。西野は体力が回復したので自力で戻り、天剣に追われている如月らはカケルが発動した約二時間後にようやく剣が消え、体を引きずりながら競技場を後にした。
翌日。
カケルが救った彼女が目覚めた。ここがいつもと違う場所でパニックになると思っていたが、どうやら眠っていた時に僅かに意識が戻り、その時に分かったらしい。
モーリスが魔法で体の調子を見るが、特に問題はない。寧ろ怪我する前より状態は良い。
「ありがとうございます。前より身体が軽くなった気がします!」
「それは良かった。筋肉のバランスも良いし、しっかり鍛えれば上級者になるさ」
上を目指す向上心が彼女にある限り、その素質は限界まで伸びる。
だが、そういう人材を育成しようとせず落ちこぼれとして一箇所に纏めるのが、魔法学園。異世界のように能力、地位関係なくクラスを組めば良いのだが、その場合あっちの世界よりいじめが激しくなる。だからと言って、弱い者(十五組)と強い者(十四組)の差が広がりすぎてはいけない。
「初めまして、僕の名前は相馬 カケル。一応朝自己紹介したんだけどね」
すると、彼女はクスッと笑う。
「いえ、すみません。一度やったことをもう一回するのかと思って……。私の自己紹介はまだでしたね。水野 葵と言います。これから同じクラスメイト同士よろしくお願いします」
「よろしく」
お互いの自己紹介が終わったところで、カケルは家の者の自己紹介を始めた。ミーニァが抱えて連れて来たフローラリアを見た葵は、二人の子供!? と変に驚いて、ミーニァが産んだ子供ではない事を説明しようとしたが。
『おかあしゃん~』と甘えたので、完全に言い訳できなくなってしまった。後でゆっくり時間を掛けてするしかない。
ちょっとした家での騒ぎがあった後は、家族と葵を含め朝食を食べ登校時刻までゆっくり過ごした。
「こんなにまったり過ごせるなんて幸せです~あぁ~ずっとここに居たい」
普段ミーニァは心を許した者にしか尻尾を触らせないが、カケルの友人だと信用しているのか快く触らせている。
「そんなに朝忙しいの?」
「そうだね。私は寮生活だから朝はもう修羅場で」
聞くところによると、女子寮の教師が熱血指導タイプで朝は早く。点呼をとった後は校庭を走るらしい。そして、朝食やら色々やった結果まったり過ごせる時間が全く無いと。
男子寮は教師が厳しい人ではないので、女子みたいな事はしないが、その分遅刻が多いそうだ。
「それは大変だね。うちは比較的学園から近いからゆっくり出来るんだよ。それで良かったらここに住む?」
「え!? いえいえいえ! それは悪いですよ! こんな豪華な家に住ませて頂くなんて」
『まあ、自分たちでお金を払って建てた訳でないんだけどね』
「実は使用してない部屋が幾つかあってね。物置として使いたいけど、その肝心の物が全くなくてね。こちら側も使ってくれると嬉しいんだけどね」
家族の皆に視線を送ると、快く了承してくれた。
両親も賑わった方が楽しいらしく、どっちかといえば住んで欲しいと言っている。
「少し時間を貰えますか? 家族にも連絡したいので……」
流石に両者の親と相談せずに決めるのは、常識としてありえない。なので、葵の判断は正しい。
それに寮側にも話を通しておかないといけない。
「急がなくてもこっちはいつでも大歓迎だから!」
「ありがとうございます」
時計を確認すると丁度学園へ登校する時間帯だったので、早速荷物を纏める。葵は昨日教科書、鞄を学園に置いたままなので、手ぶらで通学することになる。
カケル達が登校後の相馬家は基本的に、ミーニァ、母親は家内の掃除。父親は外で雑貨などを視察。カグラはフローラリアのお世話。モーリスが自室で本を読むなり、魔法の知識を高めたりと能力を高めようとしている。
「では、行ってきます! 今日は最後の授業まで受けてくるから昨日より遅くなる」
「分かったわ、行ってらっしゃい! 気をつけるのよ」
「い、行ってきます……」
葵も空気の流れで言ってしまったが、結構恥ずかしそうだ。
家を出て少し歩いた所の大通りには、既に学園の多くの生徒が登校していた。生徒の腕には紫、緑、赤の紋章が付いており、順に三年、二年、一年となっている。なので、もちろんカケル、葵にも付いている。下の組だからと言って、紋章が付かないという事は無いらしい。
この時間は紫、緑の紋章を付けた生徒が多い。その理由としては、学園の中で一年は上の学年二年、三年より早く着かないといけないという暗黙のルールがあるからだ。これは暗黙のルールなので、人数が多い学園では知らない生徒も多数居る。その者が今登校してきている者達。
「うわぁ! 本当に家から近い」
「近くて、しかも道に迷う心配が無いから初登校の時は助かったな」
「それで、カケルさんはどんな世界から帰還してきたんですか?」
「ああ、それは…………」
教室に着くまで主にカケルの話をしながら歩いた。世界を救ったからではなく、この現代世界に危機が迫っているという理由で帰還したのを話した時には凄く驚き、それと同時に興味を持っていた。その他には、世界の時代。どんな者達と戦ったか。時間はどの位の早さで進んでいたか、など色々聞かれている内に十五組に到着。
『案外人は少ないな。他の組とは違い人が多いけど』
昨日とは違い、満席ではなく中央、前列の席は大体空いていた。カケルはどこの席でも構わなかったので、前列の中央の席に腰を下ろし鞄を置く。葵は昨日座っていた席に戻り、鞄の中に教科書などを入れている。
教室に入った途端質問攻めされるかと警戒したが、今教室に居る者は皆伏せて眠っているので、心配する必要が無かった。男性が多いので、多分学園寮に住んでいる生徒だろう。
「隣良いですか?」
「良いですよ。結構な荷物の量ですね」
荷物を抱え込んで隣に来たのは葵。昨日は授業で使う教科書が多かったのか、鞄にパンパンに詰め込まれている。クラスの中でも真面目に勉強するタイプなのか。だから、実技の時張り切っていたのか。
「授業はまだ始まらない感じ?」
「そうですね。私達はこのクラスでは結構早めに来ている方なんですよ。一部の人は遅刻常習犯も居るので」
「真面目な人も居れば、反対に不真面目な人も少なからず居るのか。力の差が激しいわけだ」
他のクラスとは違って、一番下の十五組に居れば下に落とされる心配も焦りも少ないので緊張感が無い。それによって、十四組へ目指す人が少なくなり授業の質も落ち、差が激しくなってしまったのだ。
「今日の授業内容ってどんな感じなの?」
鞄に入っている一枚の紙を取り出し、時間割だろうかじっと見ている。
カケルはチラッとその紙を見ると一から六の数字の箱の中に、授業科目、その詳細が書かれていた。
「今日は国語、数学、化学、異界、魔法訓練、自習ですね」
「国語、数学、化学は分かるけど異界って何?」
「それは今居る現実世界の他に存在する異世界の事に勉強するんですよ。と言っても帰還者の報告書をただただ音読するだけですが」
一般知識を身につけることはカケル自信も納得している。それに加えて自身の能力向上の為の訓練も理解できる。だが、唯一理解出来ないのが異世界の勉強。
異世界ではどういうような魔法があり、それらを実際に見せてくれるような授業だったら理解出来た。実際はただの音読で、授業の意味も無い。報告書をだらだら読むのなら、異世界の歴史を学んだ方が身のためになる。
「あ! 先生が来ましたよ。そろそろ一時間目が始まりますよ」
十五組の大半が来ていない状態で、カケルの初めての授業は始まった。
更新が大幅遅れて申し訳ないです(次回は早めに更新するように頑張ります……)
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