序章
「じゃあ、 こいつで」
目を覚ます。
俺は浮いていた。
そして、カラスの鳴き声のような音が聞こえる。
いや、俺はカラスの鳴き声など聞いた覚えがない。アイツって鳴くのか?
俺はまず急に耳に響いた音について考えていた。
「ああ、カラスはそういえば俗に”カァ”って鳴くんだったな、思い出したわ、うん。……って全然違ったわボケ、カラスというよりはスズメっぽい? いやカラスは全然近くないんだけど、うーんなんて言えばいいんだろうか。……というか言語化する必要は特にないかな」
自問自答を繰り返した結果、音については考えるのをやめても良さそうだと判断した。
「で、ここはどこなんだ」
目の前には、”眠い”という文字を、そのまま視覚化したみたいな風景が広がっていた。
暗い黄色の雲が目下を見渡す限りに広がっており、妙にボヤけている。
丁度、薄目にした時の視界みたいに。
なんとなく見ていて不快になったので、俺は視線を上に向けてみた。
暗い。
黒を基調とした空に、黄色のモヤみたいな物が広がっている。
薄目にしたみたいな視界も改善されなかった。
また、眠いみたいな風景が広がっているが俺は特別眠たいわけではない。
むしろ目が冴えているような感覚があった。
視覚に関する情報の整理はこのぐらいにしておく。
次に、俺は浮遊感を覚えていた。
足元を見ると、自分がどこに立っているのかが理解できない状況になっている。
自分の足元が雲から数センチ浮いているのだ。
俺は歩くことを試みてみた。少しずつは進むのだが、イマイチ感覚が掴めないし、とにかく遅い。
後前方から微弱な風が吹いているのだが、それも恐らく弊害になっているのだろう。
しばらく上手く歩こうと足を動かしていると、またカラスの鳴き――違う! 何か高いような音、例えるのならば”ポッポポチチポト……”
みたいな音が耳に響いた。
いやなんだよその音。
この音の正体もやはり気になるが、周りを見渡しても一面に変なぼやけた黄色っぽい雲と、陰鬱な雰囲気漂う黄色黒い空が果てしなく広がっているだけ。
視界の情報は何も変わっちゃいないし、変わりそうにない。
如何せん情報が少なすぎるので、特定のしようがなかった。
「……あ?」
情報を整理した所で、自分がどこに位置しているかは理解できなかった。
当たり前だ。パンツ一丁で浮遊感を感じている時点で終わっている。
自分のいる場所の特定などできるはずもない。
それが俺の導き出した結論だった。
「じゃあどうするんですか」
返答はない。あるはずがない。俺の声は虚しく虚空に放たれ、消えてしまう。
ここで返答してくれるのは、自分だけだ。
自問自答は得意だ、だが俺はただただ黙っていた。
黙って、怯えていた。
またポポポだかなんだか形容しがたい音が耳に響いた。
なんだ? この音は。
俺は何かに質問した、二度目の質問だった。
「ここはどこなんだ」