プロローグ
雨が、降っていた。
「対価は何とする?」
腕の中にある温もりが少しでも留まる様にと、覆い被さる様にその身を包んだ。
「対価は何とする?」
二度目の問が投げられる。
無慈悲で優しい神様は、悲し気に染まった瞳でそれでも口上を口にした。
「願いを叶えたくば対価を差し出せ。願いに見合った対価を」
「願いに見合った対価……」
あぁ、ならば。
ならば神よ。
「私の全てをくれてやる。私が"私"足り得るその全てをくれてやるから、だから……」
助けてください。
すがる思いで見上げた神様は雨に濡れることもなくただそこに居た。
酷く切な気な瞳をして私達を見ていた。
「それでもまだ足りぬ。お前の願いは言わば"運命"をねじ曲げるモノ。お前一人から支払われた対価では足りぬ」
私に向いていた瞳が私の腕の中の存在へと向けられる。
「その者からも一つ、対価を頂く」
「何故!? これは私の願いだ! 私の勝手な願いだ!! こいつは関係ない!!」
「その者を救いたくはないのか? お前一人の"全て"などで叶えられるほどに簡単な願いではないのだぞ?」
「……ッ、」
「今一度問おう。対価は何とする?」
優しく無慈悲な神様は、今にも泣き出しそうな顔で酷く残酷な問いを投げ掛けた。
「私の"全て"とこいつの"何か"を……」
「良かろう。お前の願い、叶えてやる」
あぁ、どうか神様。
目が覚めた彼が見る世界が、ほんの少しでも優しくありますように。
頬を伝った雫は果たして…………