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魔術師の物理闘争

作者: 薬湯 充

この世界は魔術と科学でできている。

とは言っても、魔術でできることは大概科学で再現できてしまうし、

世界の因果をいじれる魔法を使えるような人はもうこの世界には興味を持っていない。

自然、科学の進歩の前に魔術師達は追いやられ、差別化されている。

科学が進歩すればするほど、世界を機会で満たせば満たすほど、

魔術でしかできない事は少なくなってしまう。


だから僕ら魔術師は、有体に言って迫害されている。

役立たずとして、無能として。

こうして徐々に僕らは無かった者として世界から消え去っていくのだろう。

そして僕らはそれを自然の摂理と思い抗うことをやめていた。

…ただ一人の馬鹿を除いては。


『魔術師の物理闘争』


空高く聳える塔。

雲を遮る屋根。

空を引き裂く信号線。


この街は、この国は、この世界は科学に覆われ押しつぶされている。

僕ら魔術師達には到達できそうに無い高さで人々は生活し、常に底辺にいる僕らを見下ろしあざけっている。


少しでも日の光を浴びようと天に目を向けると、

いつもどおりの朝があり、そろそろ馬鹿の演説が始まる。

「え~、俺たちは誇り高きぃ魔術師ですっ、今にこの俺がそれを証明して見せますっ!」

聳える塔の上で仁王立ちしている影、逆光で見えないがあんな馬鹿なまねをするのは一族には一人しかいない。

コーネリオ。

元々は偉大な魔法使いの家系に生まれながら、魔術師としての能力は皆無に等しく。

親兄弟から見捨てられ、ただ一人この世界に置いて行かれた出来損ない。

使える魔法は唯一つ、今の時代じゃ需要の無い高位の攻撃魔法。

そして何の因果か僕の幼馴染だ。

「お、リューン。

おっはよ~」

言って僕のほうに飛び降りてくる。

ちなみに奴は出来損ない、ウインドすらも使えずこのまま落ちたら確実に死ぬ。

いつもいつも僕を頼りに無茶をやらかし、挙句僕に責任の大半を押し付ける傍迷惑な幼馴染。

「…え、リューン。

気づいてるよなっ?」

もう一度言おうこのまま落ちたら確実に死ぬ。

「おい、リューンってばっ!」

少し焦りが見え始めた、こいつにはいい薬だろう。

「うおっ、そろっと助けてくれないと俺死んじゃうんですけどっ!!」

地面が近い、後少しで腐れ縁も切れる。

「リューン、多分俺が悪かった、だから頼む助けてくれっ!!!」

少しは反省しただろうか?

なんて考えながらきびすを返す。

「って、リューーーーーーーーーン!?」

「五月蝿いなぁ、分かってるよ

《シルフよ、盟友として我に加護を与えよ…ウインド》」

詠唱を終えたと同時、地面とフレンチキスをする予定だったコーネリオが引力に反しふわりと浮き上がりゆっくりと地面に降り立った。

巻き起こった風は役目を終えたかのように僕の周りを一周すると高い空へと、風の帰る場所へと戻っていく。

風を見送っている僕の後ろから、うれしそうに走ってくるコーネリオを感じる。

「へっへっへ~、一時はどうなるかと思ったぜ

でも俺はお前を信じてたぜっ」

言って、僕の肩を叩く。

「痛いよ、コーン

自分で降りられないなら鉄塔に登るの止めろよ

大体それ以前にいつまであんな馬鹿げた事を続けるつもりだよ」

僕の言葉が癇に障ったのか、むっとして

「鉄塔の上じゃないと駄目なんだよ

ってか、馬鹿げたなんて、いうんじゃねぇよ

俺たちは魔術師だろ、魔術が使えなくなっても良いのかよ

…魔術が使えなくなる

大気に満ちるマナが徐々に少なくなって、世界を統べる精霊たちが弱くなっているらしい。

現に昔は使えていた魔術がここ数年のうちに使えなくなったり、精霊たちの声が届かなくなったりしている。

全ては科学の進歩に伴う、自然破壊。

木々を切り倒し、山々を削り取り、川を埋め立て、空を覆いつくす。

人間が使う科学の副産物で人が住めなくなることはあっても、この星が破壊され尽くす事は無いとは思う。

もしあったとしても少し休息させれば回復していくだろう。

この星は、そこまで弱くは無い。

それでも、この星に住む神々や精霊は年々力を衰えさせている。

僕達魔術師に力を貸せないほどに。

それも良い、この星が我々に定めた宿命だと思えば納得も出来るだろう…と言うのが魔術師組合の合意だ。

この馬鹿を除いては。

「大体、このままじゃ精霊たちが、今まで俺達を支えてくれてた神々が居なくなっちまうんだぞ。

俺は何も出来ないからよ、だから俺に力を貸してくれてる皆が居なくなっちまうのは嫌なんだよ」

こいつが考えていることは僕には痛いほどよく分かる。

契約の証としてこの身に刻みつけた消えることの無い紋様…それが無駄になってしまうことももちろん嫌だが、何よりも自分の半身の様に信頼していたシルフが消えてしまうのが何よりも辛い。

「確かに僕もシルフが居なくなるのは寂しいけどね。

昔、契約の際に言われたんだ…君が死ぬまで風は君と共にあるってね

それが、こんな形で無くなってしまうのは、正直辛いよね」

「だろ?

だから俺はこの街を、この国を、この世界を変えたいんだ

…俺は自分に出来ることを命を賭けてする、それが俺なりの答えだ

それじゃあ、またな~」

珍しく真剣なまなざしで言ったかと思う、いつも通りの軽い調子で走っていく。

その背中を見ながら

「やりたいことは良いけど、お前は馬鹿なんだから良く考えてくれよ」

言った台詞に軽く手を挙げて答えると、街角に消えていった。


翌朝、ドアを激しく叩く音で目が覚めた。

「…おい、おいリューン!!」

慌てた様子の声に急いで扉を開けると、隣のおじさんが血相変えて立っていた。

「お、おぉ起きたか…

とりあえず大変なんだ、

コーンが大広場で何かやらかしてるらしい」

昨日の台詞を思い出す。

まさか…!?

一つの可能性に思い立った僕は急いで用意を整えると外に飛び出した。

「おい、リューン!

お前戦闘用の正装で何するつもりだっ!?」

後ろから隣のおじさんの声が聞こえたけど、構うことなく大広場へと急ぐ。

コーンの属性は雷。

雷神の加護を受けた一族に生まれた出来損ない。

ただ、出来損ないとは言ってもあいつの魔力量は他を遥かに凌いでいる。

コーンが出来損ないたる理由は契約した神が戦闘に特化している為、

攻撃用の魔法しか使えないと言う点にある。

あいつが鉄塔に拘っていた理由が見えてきた。

そんなこんなで大広場に着くと、いつもの鉄塔にいつもの馬鹿が、

僕と同じく正装で立っていた。

「おぉ、きたかリューン。

見てろよ、これが、お前が馬鹿にした俺のやりたかったことだっ!

《雷神トール 我が一族との盟約に基づき その力を我に与えたまえ》」

「だ、誰か!

あいつを止めろ、あの馬鹿はこの塔を破壊するつもりだ!!」

拡声機を使い、方々に指示を飛ばす管理警備隊と集まった群衆で騒然とする周りを他所に詠唱は続く

「《神聖なる雷、神の威光 下された神罰》」

「う、撃て!誰か、あいつを止めるんだ!!」

物騒な声が聞こえ、次々と銃を構えてコーンに向けている。

さて、そうなると僕も黙っているわけにはいかない

その為にこんな格好をしてきたんだから。

「邪魔はさせないよ、一応あんなのでも大切な友人だからね

《シルフ 風の精よ 我が呼び声に答え 怒りを此処に発現せよ …トルネイド》」

吹き荒れる風が管理警備隊を襲う、風に捲かれ、弾かれ、飛ばされていく。

これで少しは時間が稼げただろう。

「へへっ、なんだかんだ言っていつも助けてくれるんだよな…

《打ち下ろし、叩き付け、砕き潰せ …召喚 豪雷トールハンマー》」

僕の喚んだ風たちが空へと駆け上り渦を捲いて雲を呼び起こす。

空が暗くなり、大気に魔力が満ちていく。

逆巻く雲に光が漏れ始め、閃光が駆け巡る。

「行くぜ、これで俺の魔力は文字通り0だ

《唸れっ 激槌ミヨルニル!!》」

言って、コーンが掲げていた腕を振り下ろしたと同時、世界を光と轟音が支配した。

輝く稲妻が塔に叩き付けられ、拡散して街中を行き巡る

街を、国を、世界を圧倒的な力で叩き潰し、破壊しつくしていく。

科学者たちが長年をかけて築き上げた世界が崩壊し、

魔術師たちが長年をかけて守り続けたきた世界が還ってくる。

空が晴れ魔力が霧散した今、全てが一瞬で還元された。

皆が呆然と空を見上げる。

と、同時に場違いなほど陽気な声が落ちてきた

「お~い、リューン!もっぺん助けてくれ~」

この馬鹿はどうやって着地するかを考えてなかったらしい。

それでも、結果的にやりたいことを成し遂げ、マナを復活させるきっかけをつくった。

「全く、いつまで僕に頼る気だよ…

《シルフ 風の精よ 穏やかな風とともに衝撃を和らげよ…スーン》」

地面に着くか着かないところで落下がとまる。

そこで用を為した風は消え去り、

「あれっ…って、ぶわっ」

コーンは、ゴッと鈍い音を立て地面にぶつかった。

しばらく間抜けな格好をしていたコーンはおもむろに立ち上がると

「リューン、もちっと優しくても良くね?」

人懐っこい笑顔で言いつつ僕のほうに駆けてくる。

「そんな余裕ないよ、これから僕らは世界を有るべき姿に戻さないといけないんだからね」

言いながらこれからのことを考える。

科学が機能を果たさない今、救出や救命、再生は僕達魔術師の仕事だ。

歩き出す僕の前方に見えるのは正装に身を包み準備を整えた魔術師達。

「全く、お前ら…尻拭いする俺たちの身にもなれよ」

嫌味を言いながらも皆決意に満ちた顔をしている。

こいつはこの世界に住む魔術師達に立ち直るきっかけを与えたんだろう。

やっとここから、僕達魔術師の闘いが始まる。

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