いつもと違いました
けれども、今日は、いつものつまらない毎日よりは、だいぶだいぶマシでした。
なぜなら今日は、大好きな漫画の新刊が出るからです。
男は満員電車に揺られて帰ってきて、
ウキウキと駅に一番近い本屋に向かいました。
今日一番の楽しみです。
これで疲れを忘れるのです。
これで疲れを癒すのです。癒さなければならないのです。
癒されたと思わないといけないのです。
お目当ての漫画はすぐに見つかりました。
後は真っ直ぐレジへと向かうだけ。
けれども、今日はいつもと違いました。
ふと、漫画コーナーの横の棚を見ると、難しそうな本ばかりが並んだ棚がありました。
いつもなら見向きもしません。
男は小説だって読んだことはなかったのですから。
ただ、なぜだか今日は気になってしまいました。
適当に背表紙を選んで、パラパラとめくり、戻す。
またもう一冊取って、パラパラとめくって戻す。
やはり読めません。
特に理由は思い至らないが、気になったので中身を読んでみたけれど、さっぱり意味がわかりません。
もう一冊だけ選んでダメだったなら、切り上げてさっさとレジに行くことに決めました。
男は白い背表紙を選んで抜き取り、パラパラとめくりました。
するとどうでしょう。
なんだか小難しいような、けれど男にもわかる言葉で書いてあります。
生まれてはじめて難しい本を読めている。
男は読むのが楽しくなって、また、難しい本を読める自分が誇らしくなって、
その本を戻さずに、新しい漫画と一緒にレジへ持っていきました。
男が活字の本を買ったのは初めてのことです。
なんだか頭が良くなったかのような気分。
男は上機嫌で帰宅しました。