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邪道な写実師絵巻(短編ver)

作者: ぞーの




「カラオケ行こーぜ」


「あっつーい」


「お腹すいたー」


夏休みの街は騒がしい。


まるで街まで浮足立っているようだ。


そんな中、私は学校からの帰り道を一人歩いていた。


「桜火ちゃん桜火ちゃん」


ザシュッッッ!!


不意に背後から名前を呼ばれ、私は振り向きもせずその存在に肘鉄を入れる。


「今のは殺る気だったね……」


心底肝を冷やしたかのように声を震わせる男。だがその大きな丸眼鏡の下の眼が笑っていることを、私は確認するまでも無く知っている。


第一に私の攻撃を普通の人間が受けて喋れるはずが無いのだ。白兵戦に特化した序列第8位である私が10割とは言わない、12割の力で放った肘はそこらの銃火器とは比べられない速さと破壊力を持っているからだ。

その証拠に男の後ろのアスファルトの地面には長く深い亀裂が入っている。


しかし当の男というと、肘鉄が入った腹部をさするだけで後は何ともないようだ。


「今日はなんなのよ変態」


「酷い言われようだね、まあ否定はしないけどさ。偶然通り掛かったら君がいたから声をかけただけじゃんか」


「親しくしてるつもりはないんだけど。そもそも私はあんたを許してないわ。気安く話しかけないで」


「いいじゃないか、減るもんじゃなしに」


男はそう言うと私のお尻へと手を伸ばす。しかし臨戦体制に入っていた私はその手を払い、無防備な男の顔へと回し蹴りを放つ。


「ハッ!!」


音速で放たれた私の蹴りを男は屈んでかわすが、今更そんなことに驚いていられない。二ヶ月前に出会ってから何度も繰り返されてきたことだ。


いつもならば蹴った勢いで回転しもう一度同じ足で蹴るのだが、今日は振り切った足でそのまま踵落としへと移行する。


もう一度回し蹴りが来ると思っていた男は真上から音速で迫る影に気づかずそのまま頭を地面へと踏み潰せられる。


ドッゴオーーーンッッッ!!


半径5メートルほどのクレーターが私を中心にしてできていた。

私の足によって巻き上げられたアスファルトの破片が周囲へと降り注ぐ。


そこで私は気づいた。−−−ここ市街地じゃん。


「うわーーーーーッ!!」


「街で暴れんなーーー!!」


「危ねーよッ!!!!!」


どうやら私達が戦い始めた頃から周囲の人が距離を開けてたらしくアスファルト隕石の餌食となる者はいないようだ。騒げるくらいの余裕があるらしい。


ホッと男の頭を踏み付けたまま胸を撫で下ろし安堵していると、甲高い悲鳴が上がった。


「ああっ、娘がッ!!」


振り返るとそこには6歳くらいの女の子が転んだのか倒れている。その頭上にはアスファルトの塊が。−−−もう、間に合わない。


「逃げてッ!!」


その時だった。


足裏から踏み付けていたはずの男の感覚が無くなり、次の瞬間、私の目の前に女の子を抱き抱えた男がたっていた。


ズガガガガーン


アスファルトの破片が地面に降り注ぎ粉塵が撒き散らされる。


「キリカ……ううぅ……」


先程声を上げた女性が崩れ落ちるように座り込み、涙し嗚咽する。女の子がさっきまでいた場所は粉塵のせいで見えづらくなっているのだろう。そこにいないことには気づかない。そこで目の前の男から声がかかる。


「この子返してきて。俺、人妻苦手だからさ」


差し出される女の子。


「じゃあ、俺は後処理するから桜火ちゃんはその子をよろしく」


私の返事は聞かず、さっさと決めて懐から手帳のようなものを開く。私は女の子を抱え、母親の元へ連れて行く。


「大丈夫ですよ。娘さんはここに」


「え、嘘っ、ありがとうございます、ありがとうございますっ!!」

「いえいえ、私達が悪いので。本当にすいませんでした」


何度も頭を下げる。まだ私には「力」を持つということの責任が理解できていなかったようだ。反省する。すると頭上から能力で拡大された声が響く。男が宙に浮いていた。


『すいませーん。今日ここで起こった事は全て俺のせいでーす。文句ある人ーっ』


ふざけんじゃねーよ!!


この道どうしてくれんだよ!!


晩飯おごれー!!


周囲の人達が騒がしくなる。私は何も言えなかった。


『そんなあなた達にぐっどいんふぉめ〜しょん。全て忘れてもらいまーす!!』


男そう言うと手帳を開き、左手を押し付ける。


轟ッ、と空気が男を中心に吹き荒れた。すると、道路の亀裂やクレーターがきれいに元通りになっていく。


風が止まると全てが、私と男が遭遇した時点に戻っていた。




「カラオケ行こーぜ」


「あっつーい」


「お腹すいたー」


そして男は目の前にいた。


男は私の額をこずいて言う。


「自覚しろよ?」


そして走り去った。


遠くにあの女の子を見つけた。


母親と手を繋ぎ、楽しそうに歩いている。それを見て思った。


−−−守らなければ。


二ヶ月前、彼が私の前に現れたのはこれに気づかせるためだったのか。


私にはできるだろうか。彼のように守ることを。心が無く、殺人マシンだった私に。


私の"心"にはそんな決意が芽生えていた。












少し離れた場所で。


「雅ぃ〜〜」


「お疲れ様。また大変だったわね、鏡弥」


「ホントだよ、まったく最近の女子高生は過激だねぇ〜。やっぱり雅が一番だよ」


「そんなこと言っても、あの女の子のお尻を触ろうとしたのは許さないわよ?」


「ギクゥ!?」


ギャ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!


男の悲痛な叫びが街に響いたのだった。










男の名は逆井鏡弥。真実を写す写実師。今日もまたどこかで誰かを救う。異能の力で違った道を元に戻す。


男の名は逆井鏡弥。明日はどこへ行くのだろうか。


男の名は逆井鏡弥。真実を写す写実師。

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