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ブラガワームをすりつぶせ

 公開処刑だ。


 僕とエイタローが向かい合わせに立っていて、周りを好奇の視線に囲まれていて。


下世話なサクラさんはにやけ面を隠そうともしないし、僕の姿が怖いマトノですら、指の間から覗いている。


「ジェストさん、がつんと一発」

「男見せなさいよー」


 イイリコ小隊に至ってはおもちゃ扱いだ。


「……あ、あの、行くよ」

「うっ……うん」


 昨日から何回もやってるのに全然慣れん。


「ね、あれって」

「しっ。いいのいいの」


 利家を制するイイリコさん。なんだよ、気になるじゃないか。


 ゴクリ、と喉が鳴る。


 エイタローの顔を静止できない。


 僕はおそるおそるエイタローの両肩を掴んで……エイタローも依然、緊張することに変わりはない。


 ちらりと、本当にちらりと顔を見てみた。


 目を閉じて、口を引き結んでいた。ちょっと赤い気がする。


「さっさとやれよ」


 つまらなそうな男爵の声。


 うるせえ。


 こんな晒し上げの状態で過ごすなんてごめんだ。早く済ませないと。


 僕は意を決して、エイタローに顔を近づけていく。


 口を開いて、


 首筋に――。







「――自由に」


 僕が呟くと、惚けたような顔のエイタローが気がついた。


 『吸血』。僕が噛んだ相手はステータスアップの恩恵を受けると共に、僕の支配下に置かれる。だから僕がエイタローを操ることも可能だけど、そうするメリットはあまりない。だから『自由に行動しろ』と命令して、自我を返す。つっても、そこはそれ、ゲームだから、そもそも生きているプレイヤーへの『吸血』は相手の同意がないと発動できない。


 ずいぶん立場の弱い吸血鬼もいたものだ。


「おー、暗闇だとよくわかるね。目」


 吸血の効果が発動している間は、対象のプレイヤーは僕と同じように瞳が赤く光る。効果時間は躁屍判定と同じ総ステータスの差だけど、ヴァンパイアは元々のステータスが高い上に今は夜だ。だから効果時間は躁屍に比べて長い。


 試した限りでは七分くらい。


「ステータスはどの程度上がるの」

「大体1.2倍」


 サクラさんは指を折りながら、


「じゃあ夜間戦闘のデメリットとトントンってとこか。攻撃力の高い職業にやったら効果的だね。何人まで?」

「今のスキルレベルだと三人。増えるかはわからないけど」


 調査結果をイイリコさんが話している間、僕はエイタローと目が合わずにうろうろしていた。イイリコ小隊の壁だから、基本的に僕が吸血するのはエイタローになる。他の連中は調査だとかなんとかいって結局吸血してないから、すげえ居心地が悪い。


 よくもこんなスキル作りやがったな。セクハラもんだぞ。


「じゃあ……うちらはレベルが低いから強化してもなんだし、男爵の所からの方がいいかな」


 その提案は常識的だけど、男爵が頷くかはわからない。効率と意地のどっちを取るかは、僕にも予想がつかない。


「……バス、正太郎」


 最高に嫌そうな顔で、男爵は言った。


「こっちの前線はお前らだ。夜間戦闘のデメリットがないのはかなり良い条件だ。血、吸われろ」


 バスは露骨に嫌そうな顔をする……僕だって男の体噛むとかかなりの罰ゲームだ。


 正太郎は涼しい顔で僕の所に歩いてきた。


 うわあ、男の首かよ。


 なんだかんだいってエイタローの首を噛むのは恥ずかしいしなんか背徳的な感じだけど、こっちはそれどころじゃない。単純に嫌だ。


 よくもこんなスキルを。


 今度は、さっきと多少質の異なる好奇の視線が刺さっているような気がする。


 僕は咳払いをして、


「痛みとかないから」


 正太郎は頷いて、


 右腕を僕に差し出した。







「あのさ、気づいてたの? わかってたの?」

「知りませんったら、ジェストくん男らしくない」


 この顔はわかっててやらせてたな。


 僕も最初はそう思ってたんだ。噛むのは絶対に首じゃなきゃいけないのかって。でもそれを言う前にイイリコさん達が首だ首だってまるで確定事項のように……


 よそう。


 ちょっとぐらいやりたいと思ったっていいだろ、チクショウ。


「あんまり暗くなると視界のペナルティも入る。バス、先行しろ」


 赤く光る目で頷きながら、ハンマーナックルが茂みに消えていった。


「いいか、この一回だからな。しくじったらもう俺は知らん」

「そっちこそ本気でやってよ」


 僕らの方はイイリコさんが先行する。後はオルトノグェイクのバックアップ組のシーフがバンディットに転職、ハンターがレンジャーに転職しているので、斥候部隊。


「サクラさん、オツさん、りんねいさん、行きましょう」


 今回参加するのは五小隊。イイリコ、バロン、越前、サクラ、オツ、りんねい。越前は男爵と一緒に抜けたもう一小隊、決闘の時に森の中に待機していた小隊。オツ、りんねいはオルトノグェイク組だ。


 全員、無事に二次職への転職が終了している。


ワームへの対策は、二次職の強みを生かせばいくらでも出てくる。今回はあのヘドロへの耐性を準備する時間がなかったから、陽動でいく。


 鍵はドラゴンライダーのガートランドと、りんねい小隊のシン。男爵と、そして僕。


 僕が一番働かないと。


 だって今は夜。僕の時間なのだから。







 囮部隊が茂みから広場に飛び出した。男爵と決闘した、湿地側の広場。


 駆け抜ける僕たちの脇で、ほとんど太陽が沈んでいる薄暗さの中、沼のヘドロが山のように持ち上がる。


 ボス、ワームの親玉。夜にしか現れない、捕食者。


 回避すべきはなにより、僕らの自由を奪う激烈な臭いの体液。


「行くぞっ!」


 ガートランドとシンが口笛を吹く。ジェスチャーマクロで、ドラゴンライダーに転職するヤツはなにがなんでも口笛を吹けるようになりたがる。


 空から矢のように、二体のドラゴンが飛来した。タイミングを合わせて二人は小型ドラゴンの背に飛び乗ると、上空へと跳び上がる。


 ドラゴンライダーの華、ドラゴン召喚。


 ワームの巨躯をかすめて、ついでにガートランドは槍で一撃を加えた。さすがに浅い。だけど目的はワームのヘイトを集めることだ。


『マトノさん、ラシェラッティさん、サンダーランスは絶対にダメです。氷系で!』


 僕は念のため、通信で二人に呼びかける。


 サンダーランスで感電させるとヤツはのたうち回ってかなり悲惨なことになる。茂みの奥からマトノとラシェラッティ(ものすごく言いにくい)の氷塊が飛んで、ワームを直撃した。アイスロック、いきなり二次職、グレイトマギのスキルお披露目だ。


 今回の総指揮はレツリンが取る。スキーマーはタクティシャンの二次職らしく、直接戦闘には不向きだ。もともと大規模戦闘をする気のなかった男爵陣営にあってなんでタクティシャンを選んだのかは定かではないけど、レツリンは冷静だし、まあ問題ない。


 僕はやっと、前線だ。


「コウモリいきます!」


 こう叫ぶのがジェスチャーマクロ。


 同時に体から重さが消え失せ、走っていた勢いのまま空に舞い上がった。


 やべえ、異常に気持ちいい。


 コウモリ変化。ヴァンパイアのアクションスキル。自分ではわからないけど、他人から見ると今の僕は大きなコウモリになっている。ドラゴンほどのスピードはないけど、ワームの周りを飛び回って攪乱、暗黒魔法を使うことも出来る。


 空飛ぶ攪乱部隊。これが今回のキモだ。


 空にワームの意識を引いて、こっちにヘイトを集めまくった上で地上組が一斉にボコる。ワームが反応したら今度はこっちが攻撃してまた注意を引きつける。


 耐性が準備できないなら、ワームが地上にヘドロを吐くのを邪魔する作戦だ。地上はどうしても一網打尽になりやすいけど、空は人数が少ないのもあるし常に動き続けているのもあって、吐かれたヘドロを避けやすい。


 だから出来るだけ僕らにヘドロを吐かせて、地上を綺麗なままにする。


 そのためにはうまくヘイトを稼がないと行けない。


 そんでもって、次は男爵だ。


 ワームが口を大きく持ち上げて、ガートランドの方を向いた。もちろんガートランドは目を離してはいない。上半身で振り向きながら、左斜め下に急降下した。ドラゴンの扱いはWWで実証済みだ。まあ、このゲームでの操作に慣れるまで丸一日かかってたけど。


 ワームの口から放たれたヘドロが宙を舞い、湿地の中に落ちた。


 よし、まずは作戦通り。前衛が集まる陸地にヘドロをまかれると困る。


 下方にワームを見ながら、僕はダークを発動する。コウモリ状態だと魔法は十分発揮できないけど、それでもダメージは手応えあり。夜のステータスアップやべぇ。


 ただ、他のメンツの視界なんかを考えると長時間は戦えない。とくにドラゴンライダーは夜に飛ぶのを恐れる。


『バロン、盗む確率は』


 レツリンの通信。遠隔攻撃できない他のメンツと共に森に隠れてもらっている。


『2%だ。運試しだな』


 2%。さすがに恐ろしく低い。


 プランA。男爵がヘドロを吐くスキルを盗み、使用不能にする。これが一番安全だ。このデカいワームで一番ヤバいのは、もちろん僕らの行動を制限してくるヘドロ。アレがまかれているあたりはほとんど進入不可だから、あるのとないのとでは大違いだ。


 ただ、成功率に難あり。スキル盗みはチャージ時間がべらぼうに長い。一度失敗したら男爵は囮にまわってもらう。


『夜で成功率が下がってるんだ。期待するなよ』


 この2%は、僕らに注意を引きつけていて、さらに背後をとっている(と思われる。目がどこにあるかわからん)上での成功率だ。これ以上は求められない。


 バロンがほとんど湿地の岸まで近づいて、ワームの胴体の真ん前で腕を交差した。あれがスキル盗みのジェスチャーマクロなんだろう。


『――失敗だ! フォローしろよ!』


 ぐるり、とワームの口が男爵を向く。スキル盗みはかなりのヘイトを稼いでしまう。


 男爵はすぐに踵を返して、北の方へ走り出した。そのまま見えない階段を上がるように、空中を踏みしめる。


 ファントムのスキル、エアハイク。設定としてはいつの間にか張ってある細い糸を渡っているとかだけど、ようするに短時間空を地面のように走れるスキルだ。決闘で木に登り、僕の背後に回った時におそらく使っていたはずだ。


 効果時間はそんなに長くない。


 空へ駆け上った男爵に向かって、ワームが大きくえづく。それにタイミングを合わせて、シンが背後から、ガートランドが頭上から、僕が少し離れた所から、同時に攻撃を仕掛けた。


 これだけの巨体だ。かすり傷をつけたところでびくともしない。案の定ワームは攻撃を止めずに、レンジャー達の弓もものともせずにヘドロを飛ばした。


 その一瞬で男爵は左に跳ねた。ステップって便利だな。ギリギリヘドロをかわしたけど、エアハイクの効果時間も切れたようで、数メートル落下する。


 僕はそれを見ずに、ワームへと突っ込んだ。男爵のことだから無事だろう。


 ワームはまだ男爵をターゲットにしている。そのでっかい頭の上でコウモリ解除。着地しようとして、体中を濡らしていた泥に滑った。


「ジェスト、無理すんな!」


 ガートランドの声。だけど夜にヴァンパイアが強くなくてどうする。


 意外とごつごつしてて、とてもじゃないけど吸血はできなそうだ。むっちゃやりたくないけど勝てるならしょうがないと思ってた。でもボスはたいてい耐性あるし、とにかくここは攻撃。杖の補充はいらない。ヴァンパイアは武器を持たずとも、それなりに強い。


 ましてや夜だ。筋力は下手な前衛より高いぞ。


 腕を振りかぶって、思い切り脳天、たぶん、を殴りつけた。


 むっちゃいてぇ!


 そりゃ岩を殴ったようなもんだから当たり前だけど、ここまで痛いとは思わなかった。姫代子とかよくこんなんで戦ってたな。


 ただその甲斐ははあり。戦闘はじめからの蓄積ダメージで、ワームのHPは残り八割くらい。


 ワームがうめいて、頭上に乗っている僕を振り落とそうと体をねじった。掴むところもないからなすすべが無い。


 まあ、落ちるのは予想済みだけど。コウモリ変化は解除したらリチャージが必要だし、おとなしく落ちる。


 だけど僕は着地とかの経験が無いから、しょうがないよな、湿地の方に落ちた方が痛くなさそうだもん。落下ダメージも少ない。


 くそ、臭いだろうな。


『ターゲット外れたぞ! 前衛行けっ!』


 沼に着水すると同時に、男爵の通信が鳴った。男爵から外れたってことは、今のターゲットは僕だ。


 身動きが取れない。しかも頭から突っ込んだからなにも見えない。


『吸血状態を戦闘に、ターゲットされたらすぐに逃げるように』


 レツリンの冷静な声。


 僕はそれを聞きながら、どうにか腕を伸ばす。僕らが歩いてわたれたように、この沼は変なところに行かなきゃ浅い。


 底を探り当てて、四つん這いに突っ張った。くそ、重いんだよヘドロ。気持ち悪いし。


 髪の毛が邪魔すぎる。かき上げて視界確保。


『ジェスト、大丈夫か』

『どうでもいいことに通信使うんじゃねぇ! さっさとヘイト稼ぎやがれ!』


 ガートランドに割り込んで男爵。戦闘での最高効率を求めるあたり、今の男爵は姫代子と似ている。相手はボスだから間違いじゃない。


 スキル盗みのリチャージは十五分。間に合わないだろうけど、時間はカウントしておかないといけない。たぶんレツリンがしてくれているだろうけど。


 コウモリ変化は三分。すぐに使えるようになる。

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