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キャッスルガード・ヒーローズ  作者: 栗原寛樹
第三部 再びキャッスル
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インターバル

「……月に一回じゃない」


 これまでの襲撃は毎月第二火曜。だけど八月の第二火曜は一二日だ。八月は金曜から始まるから二週目の火曜日を五日と捉えるとしても、襲撃予定の四日は月曜日である。どっちにしろ勘定が合わない。


「別の周期があるんだ」

「でも、そうすると今までの襲撃との計算が合わなくない?」


 真琴の言うことももっともだった。どういった周期であっても、これまでの襲撃が第二火曜に起きたことは厳然たる事実だ。


 あと五分で襲撃が始まる。どうする? 全員に周知してログアウト組を戻すか? いや、ノリアキングはそれはしないと考えられる。ログアウトして休憩しなけりゃいけない連中が戻るという前例は、これからの休憩にも影響を与える。今回は対象が城じゃないから、城からジュリアさん達が出られるはずだ。傭兵をもっと多く雇えば乗り切れるかも知れない。失敗してもゲームオーバーになるわけじゃないし、距離が近いから再解放も可能だ。一時的に大きな食糧の損失があるけど、すぐに取り返せば問題ない。


 致命的なことじゃない。だとすると次までに襲撃の周期を予測するのがベストだ。今までは周期が安定していたから予想の立てようがなかったけど、変化があったならそこから考えられるはずだ。


「どうする……っていっても、今から部屋に戻っても間に合わないけど」

「とりあえず次の襲撃がいつかがわからないと問題ね」


 そう、そこだ。僕らがゲーム内に対して救援することができるとすればその一点。だけどまだ情報が少ない。


「でもジェストくん、あなたは休みなさい」


 イイリコさんの言葉が、僕の置かれた現実を思い知らせる。


「こういった分析にジェストくんが優れてるのはわかってるけど、それでこれからのプレイに支障をきたしたら元も子もないわ。部屋に帰ってもタブレットはすぐにしまってベッドに入ること。絶対よ」


 それを言ったら、僕の体調がよくなったところでゲームオーバーになってしまえばそれこそ元も子もない。反論したいけど、僕は自分の問題でイイリコ小隊に迷惑をかけている。今だって気を使ってもらってる状態なのに、そして自分で一時間という区切りをもうけたのに、それを破棄するのは誠実じゃない。


 わかってる、どっちも僕の望みなんだ。ゲームも、攻略も続けたいし、イイリコさん達に迷惑もかけたくない。どちらかを選択するとどちらかを放棄しかねないジレンマが僕を襲う。


「いいわね」


 頷く。


 考えるのは僕だけができることじゃない。ゲーム内の方が時間の流れは遅いし、攻略に関してならノリアキングは信用できるし、ジュリアさんもいる。他は戦闘メインが多いけど、みんな攻略wikiに情報を掲載する側のプレイヤーのはずだ。だから、絶対に今も議論が行われている。それに対して、僕の体調を回復するのは僕しかできない。


 だから、ここは抑えろ。

 僕はもう閃光のジェストじゃなくて、プレイヤーとしての生身の人間なんだ。好きな時にプレイできるWWじゃなくて、期間の定められたCH。無理をすればするほど、プレイが遠くなっていくかも知れない。今休めば、少なくとも八時間後には再開できる。それまでゲームオーバーにならないことを祈るしかない。


 大丈夫だ。ゲームオーバーはない。ノリアキングは周期の把握ができないなら専守防衛に徹するはずだ。そうしないと襲撃を乗りきることができないし、マーシャヴェルナが落ちたなら風土の目で城と砦のどっちが攻められるかが確定するからバクチにもならない。襲撃が終わった後すぐに確認して即座に移動すればいいんだ。


 よし、自分を説得できる。大丈夫だ。


「じゃあ……そうですね、寝坊しないように早めに寝ます。アルコールが効いてちょっとふらふらしてるんでよく寝れます」

「ごめんね」






 僕は部屋に戻り、アラームをセットしてベッドに横になる。ゲーム内にもベッドはあったから、プレイ日数に比べて久しぶりってわけじゃない。けど、やっぱり気分的には新鮮な気分になる。


 あえて、質問を一つ、しないまま帰ってきた。あれ以上一緒にいると聞きたくて仕方ない衝動に負けただろうから、真琴の見送りも断った。


 その質問とは、前回の防衛戦の敵の壊滅具合だ。


 僕が得ている情報の中で、そこだけがおそらく、他のプレイヤーに比べても不明瞭な部分だ。ベスラムを倒す前にログアウトしてしまった僕は、その後の敵の引き上げまでこの目で見たわけじゃない。だけどみんなの話によると、ベスラムを倒したあと、モンスター達は引き上げていったという。


 僕が参加した防衛戦は二回。そのうち最初の防衛戦については、あれはがむしゃらだったからよく覚えていない。けど確か、相手を全滅に近い状態に追い込んだと思う。


 対して第四回防衛戦。ベスラム登場時、モンスターは半分ほど残っていた。すぐにベスラムを全力で殴り、襲撃モンスターは防衛隊にこらえてもらう形になったから、ずいぶん残っていたはずだ。


 それが今回に繋がったのなら。


 相手が戦力を残したまま戦闘を終えたので、襲撃時期が早くなったのなら。


 一応筋は通る。


 枕元のスイッチに触れると消灯。ちょっと前から音声に反応するしゃれた所とかも出てきたらしいけど誤入力や寝言に反応したりと使い勝手はよくないらしい。声や発音は一人一人違うから、対応するのが難しいなど。


 そういやまだここに来て半日も経っていないけど、外はどうなってんのかな。CHが始まったのは周知の事実だし、きっと今も入り口のところで選ばれなかった連中が座り込んでいるはずだった。実況中継なんかしたりして。ずっとWWをやっていた僕にはなじみのないことだけど、たまにニュースサイトなんかに小さい記事が上がっていたりする。


 新しい情報が入らないからな。最近なにかあったっけ。


 なんかびっくりするほど近い、といても何十光年も先だけど、そんな所にブラックホールができたとかで、宇宙科学史上初めて観測できたらしい。そんな近いところにできて地球は無事なのかとか、写真はねつ造だとかの議論が巻き起こった。あんま興味なかったから細かい所までは知らない。ええと、あとは、そう、東道ハルが活動休止を発表した。これはよく覚えている。なんせWWの発売に一役買った人物、催眠への懸念が広がる中、人体実験を申し出た二人の内一人だ。それ以降もちょくちょく遊んでいたらしいけど、キャラクターは非公開。一般に交じって遊んでいたらしい。噂じゃCHをプレイするためだとかいうけど実際はわからない。


 後は非常に珍しいんだけど、山口近辺で原因不明の自然災害が起こり始めたこと。これは一年くらい前からで、あまりに被害が大きいので九州や中国地方の近隣へ脱出する人たちが多くなっている。ある日突然山が丸くえぐれたり、森の木が根こそぎなぎ倒されたり、およそ人知を超えた怪奇現象になっているという。ネットにアップロードされた写真は凄く気味悪くて、でもまあ、とりあえず僕には関係ない。


 外の世界っていってもこんなんだ。昔の漫画で見たような便利な世界はどこにもない。あんな世界に作り上げるだけの金が、結局の所なかっただけのことだ。空を飛ぶのは相変わらず図体のでかい飛行機で、地上最速はリニアだけど利用者も路線の長さも新幹線の圧勝。携帯電話はスマートフォンのスペックがどんどん上がっていくだけで、特に形的な変化はなかった。表現として進化したのは折れ曲がる電子ペーパーが普及したくらいで、だから電車や街の広告は軒並みそれに変わった。でも故障が多くて投資に見合った宣伝効果が得られていないとちょっと問題になっている。ゲームは相変わらず高スペック路線。WWがパイオニアとなった疑似VRによる進化はあれど、ガチャガチャとデバイスをつける姿が異様であまり世間には受け入れられていない。大きく変わったのは消費税率とかフラッシュメモリの容量とか、ようするにそれまでも進化が顕著だったものくらいだ。あと大阪駅だけは近未来風になった。


 この十年は進化の停滞期と呼ばれている。その中にあってCHである。

 やっぱりCHは異常だ。帝から渡されたコピー用紙の内容を思い出す。



『・ゲーム内をよく観察すべし。不自然な点を集積し、これが単なるゲームでないことを肝に据えて考えれば一つの結論にたどり着くはずである』



 単なるゲームではない、ならなんなんだ。


 今のところ、不自然な点を挙げてみるだけにとどめる。


・ロード時間がほとんどないにもかかわらず、実写と見まがうほどに再現された世界

・それらに対して行ったアクションへの反応


 この二点については、僕にコンピュータの知識がないから異常なのかわからない。けどニュースでそんなブレイクスルーがあったとはなかったし、ユージンも言及していた。


・人の手が入っているとしか思えない戦術をとるモンスター


 ゴブリンシャーマン。あのクエストはかなり異常だった。僕らのパーティに合わせたような配置、HP残量と状況を読み取って痛いところを突いてくる戦法。ただこうやって整理してみると、プログラムでなんとかなりそうな気もする。あえてここは、あのとき覚えた自分の直感を信じてみる。悪い方にはよくあたる。


・膨大な文字データ


 本を書くのは難しい。素人が適当に書いた小説は一発でそれだとわかるけれど、今のところ本屋でめくってみたのと買ったものについては、ちゃんとした小説の体裁をなしている、ように見える。技術書も図や絵が入っていて本格的だった、ような気がする。サンプルが絶対的に少ないから断言できないけど、城の図書館とマーシャヴェルナの本屋だけで二十万冊くらいはあるだろう。重複を加味したとしても、あれだけの量の文章をオリジナルで揃えるのは無理がある。だけどもし、その無理がどうにかなっているとしたら、それはもう人の手でどうこうというようなレベルじゃない。なにかある。


 僕の着眼点はどうだろうか。


 正解に近づいているだろうか。


 帝の仕掛けた迷路に、ただ迷い込んだだけなのだろうか。


 ……いずれにしろ、まだ情報が少なすぎる。


 ゲームの攻略はもちろん、こっちもこれからは注目すべきだと思う。


 これは帝ヨーシから僕に与えられたクエストだ。


 だから、絶対にクリアしてやる。


 WWの総合一位がなんなのか、僕が証明してみせる。


 それにはまず……


 眠い。メガネ外さなきゃ。






 まず、襲撃の頻度。これを今度こそ解き明かさないといけない。最初に取り組んだのはゲーム開始四日後。あのときはタクティシャンのおかげで襲撃を乗り切るという選択が取れたから、肝心の頻度については棚上げの状態だった。ただし運営の期待としては、あそこら編でも十分に頻度の予測は可能だったはずだ。


 アラームで目覚めると六時。頭の疲れも体の疲れも嘘のように消し飛んでいる。よっぽど深く眠っていたのか、全然シーツが乱れていない。身動き一つしてない感じだったのがちょっと怖い。依然もやは残っているけど、これはもう無視しておこう。


 最初にやったのはタブレットで現状を把握することだった。


 一抹の不安、ゲームオーバーの可能性。


 それは杞憂ですんだみたいだ。まだサンダマスヴェリアは残っているし、マーシャヴェルナもアーシュアもオルトノグェイクも健在だった。ログを確認すると、やっぱりマーシャヴェルナは一度取りかえされている。


 ゲーム内は十月末。


 ログアウトしてから三ヶ月近く経っている。


 実のところ、これだけ時間があったなら、中のプレイヤー達がすでに頻度の謎を解き明かしている事を僕は期待している。特にノリアキングはその必要性を理解しているだろうし……遅くともこの前のマーシャヴェルナ襲撃で……だからある程度筋だった予測を立てているはずだ。


 懸念される問題の一つは嫌悪派。ベスラム戦時のログアウトがどう受け取られているかはわからないけど、誰も知らないって事はないだろう。指示を出していた僕が突然いなくなったのだから。いったん嫌われるとどんな行動もネガティブに受け取られるのは今までのことからよくわかっている。


 まずはノリアキングかジュリアさんに接触。ログアウトのタイミングからしても、どっちか二人はゲーム内にいるはずだ。そうするとも言っていたらしいし。万が一二人ともいなくなったら、僕の知り合いをたずねてみよう。誰もいないって事はないだろう。


 よし、僕の方針は完了。あとはイイリコ小隊全体の方針を確認してすりあわせていけばいい。ログインしたら情報は欲しいだろうから、大体僕のと一致するはずだ。


 となればまずは、真琴に連絡。


 メッセージを送ってみる。


 ちょっと経って、返事。


 よし、頑張ろう。


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