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キャッスルガード・ヒーローズ  作者: 栗原寛樹
第三部 再びキャッスル
73/115

戦力が欠けた状態で城を守る方法

「それで、帝さんの判断でゲーム続行」


 もしやと思ったら最後はやっぱり真琴だった。本当に理由がよくわからん。


「なんか新藤も出てくる気配がない……っていうのも変かな。もう今は違和感がなくて、なんていうか、一つに戻った、とかそんな感じってのも違うような、こう、言葉にしにくいんだけど」


 真琴は僕の話の間にアルコール二杯。以外とうわばみらしい。


「強いんだね」

「良介くんが無事だってわかって、ちょっと安心したかな。それとも……いつもより酔いたくなるのは、もしかしたら不安かも」


 不安。


 真琴は帝によって、嫌なタイミングで医務室から追い出された。その後にあったことについては、僕は意図的にそぎ落としている。


 人格障害、そして意味不明なメッセージについて。


 隠し事はするなと、オルトノグェイクの砦で姫代子に言われた。でもこの二つに関しては、安易な行動は危険だ。


 僕のようなケースがよくあることなのかは知らない。外から見れば中二病の発露に見えなくもないけど、本質は全く違うはずだ。とにかく、沈静化しているとはいえいつ再発してもおかしくない。新藤が主張しなくなったのは、ゲームから逃避したからとも考えられる。


 どうしても頭のもやが晴れない。真琴に名前を呼ばれて一部薄くなったのは、今ではもしかしたら気のせいかもしれない。アルコールのせいで考えに自身が持てなくなってきている。


 ただし、真琴を不安にさせたままでいるのは嫌だ。


「あのあと、いくつか帝さんから話があった。僕に関することとゲームに関すること」


 だから最低限の情報。


 言えるギリギリの所までは伝えておきたかった。


「どっちについても、あんまり公に言えることじゃないんだ。不確かだし。だから詳細はもっといろんなことがわかった後じゃないと言えない」


 グラスの氷が音を立てた。


「最初に真琴に言うよ。なにもかも、これからわかること全部、最初に言う」

「私は頭悪いよ」

「いい悪いの問題じゃないんだ。今、僕にとって真琴が一番近くにいる」

「……ねえ、それって」


 真琴と目が合う。


 僕の気持ち、伝わっただろうか。だんだん顔が近づいてくる。


 鼻と鼻が触れそうなほど近く。


 真琴の吐息まで感じられるほどに近……


「頭悪いってとこは否定しないんだ?」


 なんだと。


「それに『今』って、もしかしたら先には違う人がいるかもしれないんだ?」


 うわ、めんどくせえ。


 いやいや違う。これくらいで嫌がってちゃ新藤の思うつぼだ。人とのコミュニケーション、大事ね。そんでこれは真琴にとってはただのスキンシップで、だからほら、ちょっと悪賢い微笑で、それよりあんまり黙ってると図星だと捉えられかねないぞ。でもなんて応えるのが正解なんだ?


 いや、言葉じゃなくて……ここが正念場だ、覚悟を決めろよ。


 みんなが見てないことを祈りつつ――


 僕と真琴は、ほんの少し、触れあった。






 柄室真琴。


 最初に名前を知った相手の、本名全部を知ったのは最後。


 これで僕はイイリコ小隊の全員と、リアルでも知り合ったと胸を張って言えるだろう。オフ会なんかじゃハンドルネームで呼び合うことも珍しくないらしいけど……実際、一回目は僕らもそうだったし……でも僕は、こうやって一区切りつけていく必要がある。そうしないと知らぬがままに流されてしまうだろう。現に僕は今、リアルで雑多な人混みの中にいるのを初めて経験している。


 バーには第一次ログアウト組が少なからず押し寄せてきていた。メシより先にアルコール、もしくはメシとアルコールを一緒にという連中は結構いて、ほとんどは六人一組、ほかそれに満たない人数での集まりもいる。ほとんどのプレイヤーは六時間以上ぶっ通しでプレイしていたはずだから、一次ログアウト組にとっては一日目の区切りだろう。


 ということは僕ら、プレイヤーとしては結構不良なのかな。途中で四時間近く抜けてたし。一応レベル的には追いついているけど。


「それじゃあ、お酒も一区切りついたことだし」


 イイリコさんの言葉を僕は理解出来ない。今までカクテルだったのが日本酒に変わっただけのように見える。


「ええと……ジェストくん?」

「大丈夫です。あと一時間くらいでよく眠れそうです」

「無理しないで、ここで寝たら風邪ひくからね」


 さっきは、つまり前のログアウトの時はそのまま放置してた人の言葉とは思えない。


「これからなんだけど、しばらくはログイン人数減るし、防御一辺倒になると思うのよね」

「朝九時に最終ログアウト組なんで、午後三時くらいまでは全員揃わないっすね」


 今は午後十一時半。あと三十分で日付が変わる。明日の午後三時までは実に十五時間で、誤差を考慮してゲーム内時間では七ヶ月から八ヶ月。襲撃回数も、一ヶ月に一回だと同回数。第四次襲撃は七月だったから年が明ける計算になる。ちなみに僕らがログインする予定時刻は八時、僕の制限が解かれるのと同時。今から八時間後で、十月後半から十一月の初めになる。他の連中は当然制限なんかないので、五時か六時にはログイン予定である。


 問題は、プレイヤーが少ない状況で襲撃を乗り切れるかどうか。いちおう運営は、僕らに対処法を与えている。


「全員分の功績値を軍団委譲したから、傭兵雇用で耐える。ちょっと不安があるけど、いないよりマシだからね」


 アーシュアでノリアキングに聞いた功績値の使い方の一つに、城を防衛するための戦力確保があった。足りないプレイヤーは傭兵で補う。


 傭兵は一人につき功績値1が必要。僕らの功績値は小隊長が自由に使えるようにしていたから2000強を軍団に預けた。これでも経験値ブーストでかなり減っている数値だけど、これだけで2000人の傭兵が雇えることになる。


 ただしこの2000、そのまま全小隊分をかけるわけにはいかない。僕らは、仮に功績値ランキングがあるならほとんどトップに近い。城の補修にあたっている連中は先頭組に比べてかなり少ないし、先頭組も大規模戦闘での立ち位置でかなり変わってくる。僕らが多いのは、第一次防衛戦で先陣をきったことによるボーナス、マーシャヴェルナでバトルオークを倒した事によるボーナス。ただしこの時は女子組がいなかった。続いて砦の大規模戦闘時に稼いだもの。特に僕はガランスギュエック討伐に関わっているのでかなりもらえている。そして第四次防衛戦でベスラム討伐に関わったことによるボーナス。ただしこっちに関しては、僕は途中でログアウトしているのでもらっていない。


 他のプレイヤーと僕らの違いはこんなところだ。そしてこれらを鑑みると、僕らより多いプレイヤーはノリアキング小隊、ルシェイナ小隊、そしてサンダマスヴェリア城の防衛責任者として城が存続する限り定期的に功績値を得られるジュリア小隊くらいしかない。個人としてはバトルオーク、ガランスギュエック、ベスラム全部に関わっているオーシーやエリスレル、オトメノの元臨時ジェスト小隊のメンツ。


 つまり盗人呼ばわりされるだけあって、僕らはかなりの功績値をゲームで稼いでるわけだ。それを踏まえた上で、第四次防衛の軍団情報を見てみる。功績値30000弱。


 十五分の一を僕らが占めている。500人全員が六人小隊を作ったと仮定すると全部で83小隊になるから、他の小隊が如何に稼いでないかがよくわかる。通常戦闘でもわずかながら功績値が得られることを考えると、攻略組とそうでないカジュアル組、城の近くから離れたがらない専守防衛組、引きこもり組との乖離が激しいのがわかる。もちろん他にも経験値ブーストや大砲設置などで功績値は使っているから、これが稼いだ全部だとは言わない。


 全功績値を傭兵に当てたとして30000人が雇えることになる。問題はこれが十分なのかがわからないことだ。最大八回に均等に回すと一回の防衛に3750人の傭兵が充てられる。プレイヤー500人に対して数では十分以上ではあるけど、傭兵一人のステータスは非常に低い。レベルで言うと13前後。レベルの低いプレイヤーがどうしても強敵に勝てないのと同じで、ゲームは物量よりも質が問われる事が多い。不安だ。


 でも一応、予測では乗り切れるはずである。


「まず最初にすべきことはオルトノグェイク砦のクエストとマーシャヴェルナのクエストを全部達成して、襲撃目標から外すこと」


 クエストを全て達成した拠点は襲撃目標から外れる。サンダマスヴェリアにはクエストがないから、つまり敵が攻めてくるのをサンダマスヴェリアに限定しなけりゃいけない。現在ゲームに残っているプレイヤーに課せられた使命がこれだ。念のため次の防衛は傭兵を多くつぎ込み、なおかつプレイヤーもレベルが高い連中を充てている。高レベルクエストが残っているマーシャヴェルナだけど、ここはサンダマスヴェリアから近く、一度襲撃を受けた時に人材の移動が間に合っているから後回しにして大丈夫なはずだ。


 問題はオルトノグエィク。砦まで城から三日。準備などをあわせるととてもじゃないけど防衛しきれない。だから残された一ヶ月……もう半月になってるけど、それまでにクエストを完了する必要がある。


「タブレットの情報だと、もう残りは一つ。そこは問題ないわ」


 今だとノリアキング、ルシェイナ、XXXを含めた攻略組がほとんど残っている状態だからそれは自然。


「心配なのは残ってるクエストに時間がかかりそうなことね」


 クエスト名『戦火の名残』。ストーリーはこうだ。


 CHは前提として魔王軍、モンスターの侵攻により人類が壊滅状態であるところから始まっている。すなわち、それまでに大規模な戦争が繰り広げられ、人類が敗戦を繰り返してきたという歴史が存在する。


 オルトノグェイクは人類が存亡をかけて魔王軍に対してゲリラ戦を張った地域だ。深い山の奥で砦を目指す魔王軍に対し、縦横無尽に攻撃を浴びせかける。少数で各個撃破の使命を人類は完遂することができず、山中に散開したほとんどが戦死。空中からの攻撃で砦も堕ち、ついに人類は最後の城、サンダマスヴェリアへの退却を余儀なくされた。


 その死んだ戦士達の亡骸が山中広く、多く点在している。それらを全て発見し弔うのがクエスト目標である。やっかいなのは目標が何体であるか、どこにあるかが明確でないこと。通常のMMOではありえないクエストだけど、全員が同一目標に向かうという性質を持つCHでは成立する。多くのプレイヤーが同時にクエストを受けて一帯を大捜索し、それこそ根掘り葉掘り探すのが唯一にして必勝法である。

 唯一明確なのはエリアが限定されているところ。そのエリアも頭が痛くなるほどに広い。なにせ八方が山の砦を中心とした半径十キロ程の円内である。予想通りというかクエスト達成はまだされてなくて、プレイヤー達はまだ山中をうろついているだろう。


 間に合わなくて第五次襲撃が来た場合、下手をするとオルトノグェイクが落ちる。サンダマスヴェリアは占領されたら一発ゲームオーバーだから放棄するわけにはいかない。傭兵の有用性もわかっていない段階で、少ないプレイヤーを分散するのも不安だ。両拠点の一日での移動が不可能なら、戦力は城に集中させるしかない。それでオルトノグェイクに襲撃が来たら、おしまい。


 いや待て。そういやトシヒコのスキルがあったな。そうすればサンダマスヴェリアが襲撃されるかどうかわかる。


「……そうか、マーシャヴェルナ」


 僕の口をついて出た言葉に、ユージンが食いついてきた。


「俺もそう思ったっすけど、連絡なら早いほうがいいかも」

「いや、ノリアキングやジュリアさんが失念してるとは思えない。たぶんクエストにクリアの見込みがないか、すでにどこが攻められるのかわかっているか」

「二人で話さんでくれよ、俺にもわかるように」


 アルコールを飲みながらのんびりとガートランド。緊張感がない。


「トシヒコの風土の目は、今いる拠点が次の襲撃の対象になるかどうかがわかる」

「先にマーシャヴェルナのクエストを達成して、拠点を二つにすればどっちが攻められるかわかる。だから時間がどれだけかかるかわからない砦のクエストよりマーシャヴェルナを優先させるってことでしょう」


 姫代子、どんぴしゃ。


「残念だけど無理そうね。マーシャヴェルナのクエスト、とにかくまだ攻略不能みたい」


 姫代子の言い方に引っかかりを感じたので、タブレットで情報を見る。


 クエスト名『遠洋の奇蹟』


「遠洋?」

「帆船が必要なのよ。そして遠洋に出る条件が不明」


 イイリコさんの捕捉。どうやら僕が真琴のことでいろいろやってた間に調べたようだ。


「帆船って、港にいっぱい繋いでるじゃないですか」

「舵の前に立つと『操船』スキルが必要だってメッセージが出るわ。もしかしてネクロマンサーが修得可能じゃないわよね」


 ない。それどころか操船だなんて、WWにはなかった。


 新職も含めて、CHに用意されている一次職は全部誰かしらが使用している。その中にないとなると、


「特殊な条件でアンロックされるか、二次職以降で用意されているか」

「ちょっと待って、ユージンくん、それ知ってたよね?」


 真琴が言った。


「連絡って、なにか方法があるの?」

「あるわけじゃないっすけど、一度図書館は漁った方がいいと思うんすよね。あそこ、最初から用意された情報源なんですけど、引きこもり組が占拠してからなかなか入りたがるプレイヤーがいないんです。港って少なくとも砦より先に落とすべき拠点じゃないっすか。アーシュアが適正レベルで全部制覇、砦も手間取ってるとはいえレベルが足りないわけじゃない。となるとマーシャヴェルナのクエストが高難度だとは考えにくいっす。つうわけで俺は『特殊な条件』派で、その答えは図書館にあると思うんすよね。少なくとも序盤の障害って、調べたらわかるのが多いっす」






 僕はログイン禁止になっている。中にメッセージを送るのがそれにあたるとは考えづらいけど、念のためノリアキングへのメッセージはイイリコさんから送ってもらうことにした。


 僕らがこの三十分で話すまでに、ゲーム中では二週間以上が経っている。自分で言ったとおり、僕はノリアキングとジュリアさんがそれに気づいていないとは考えにくい。二人が失念していたとしてもスキルを持つトシヒコは忘れないだろう。


 となると現状で考えられるのはいくつかある。一つにはユージンと同じ考えに至って図書館を漁ったけれど操船が得られなかった場合。これはユージンの『特殊な条件』という予想が外れているか、図書館に情報があるという予想が外れているか。もしくは操船は得られたけれどやはり高レベル推奨のクエストであった場合。もう一つはすでに今回の襲撃が城と確定している場合、つまりトシヒコの風土の目で城という結果が出ている場合だ。そうすると時間的余裕が生まれるから、先に遠い砦のクエストを潰そうと考えてもおかしくない。


 僕らにはどれか判断がつかないから、もしノリアキングからメッセージが返ってきたらもうけもんだ。


 イイリコさんが返事を受け取ったのは五分後。ゲーム内では約一日。ただし内容は、報告した問題とは全く違うものだ。


「……これ」


 イイリコさんが差し出したタブレットにはノリアキングからのメッセージが映っている。


 僕はそれを見て、嫌な予感があたったことを思い知った。




 送信者元:Noriaking

 送信先:Iiriko

 送信日時:8/3 02:32

 タイトル:襲撃

 本文:異常事態発生につき報告。明日、第五次襲撃。予定より早い。目標マーシャヴェルナ。戦力がオルトノグェイクに偏っているため防衛は絶望的。放棄して攻めなおす。

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