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ゲーム準備するよ(次からゲームだから!)

 というわけでさっさと17時になった。


 デカい筐体は脇にあるボタンを押すことで開く。中はよくわからん。つーかほとんど何もないというかスポンジが詰まってるというか、とにかく柔らかそうな素材が半分くらいの高さまで敷き詰められている。


 取り扱い説明書を読むと身体がちょうどいい具合に埋まるようになっているのだそうだ。


 各種センサーの働きもしており、身体の状態や脳波なんかをキャッチすることもできる。


 なるほど。どうすればそんなことができるのか知らんが、電極なんかをブツブツつけるより快適そうだ。


 専用の衣服、つか浴衣とかローブとかそんなのに着替えて寝そべる。右脇にあるボタンを押すと上面が閉まり、スクリーンに映像が映し出された。


『ようこそ、Castleguard Heroesに。まずはすでに書面で提出していただきましたが、再度同意確認を行います。このゲームをプレイするにあたり(略)』


 同意。ウザい。


 次に出てきたのは世界説明。今までのヴェリーペアとは異なる『ジンジャーゼル』という世界で、今は魔物による侵攻で危機に陥っている。

 プレイヤーたちの目的は最後に残った城『サンダマスヴェリア』を死守し、なおかつ奪われた領土を取り戻していくこと。


 最終的に七年が経過するか、魔物たちを駆逐して世界を人間の手に取り戻すことができればゲーム終了となる。


 なるほど。これは正式なサービスにはならないわ。


 課金し続ける限りいつまでも遊べるのがMMORPGの特徴だ。敵対組織を駆逐し尽くしてしまうとそれ以降の目的がなくなってしまう。


 通常のゲームでは一応のミッションはあっても、世界自体が完全に平和になんかなりゃしない。


 時限的なゲームらしい。というかこれは規模の大きなMORPGといった方が近い気がする。


 説明が終わると、キャラクター作成画面になった。そういやパソコンでパーティの仲間と連絡を取るのを忘れていたが、どうせ中に入れば会えるだろう。新しいゲームを始めるワクワク感に水を差すわけにもいかない。


 表示されるのは新たなキャラクターを作成するか、WWで使っていたキャラをコンバートするか。

 当然コンバート……あれ、選択できない。ROM欠損か?


 突然、ウィンドウが開いた。アロハの帝だ。


「やあ、ジェスト君」

「な、なんですか、急に」

「ちょっとお願いがあってね。予想以上に旧キャラ利用者が多くて、せっかく用意した職業がほとんど使われないんだ」


 当たり前だ。

 新職業なんてバランスがとれているほうが珍しく、バランスブレイカーなみに強いかクズかのどっちかだ。システム自体が大幅に変わっているのに、よくわからない職業を選ぶなんて新しもの好きくらいのもんだろう。


「君にゃネクロマンサーを使ってほしくてねえ」

「自由って言ってたじゃないですか」

「いや、そりゃ建前上は言ったけどさ。せっかくだしほら。なんならちょっと優遇したげるから」


 優遇? いや待て。僕はWWじゃ前衛の壁をやってたんだ。ネクロマンサーって完全に後衛じゃないか。パーティのバランスが崩れる。


「ネクロマンサーを選択してくれたら、君にはある情報をあげよう。これがあるのとないのではずいぶん違うよ。頼むよ、ネクロマンサーって俺が作ったんだ」

「その情報ってなんですか」

「言っちゃおしまいだろ。そうだな、じゃあ、CHの世界の攻略に関わる重要事項とだけ伝えておこう」

「いや、それよりもネクロマンサーがどういう職業か教えてください。それで考えます。攻略は自分でやりますから」

「君ァゲーマーの鑑だね。よしわかった」


 とネクロマンサーの講義を受ける。


 最初は適当に聞き流していたが、確かに玄人好みのテクニカルな職業だった。一番重要な要素は倒した敵を一時的に仲間に加えることができる点だ。


 操れるモンスターのレベルと時間は、ネクロマンサーの職業レベルで変わってくる。そのモンスターの特技も使えるから、場合によっちゃ回復も使える。そのほかにも暗黒魔法や速攻詠唱みたいな、いわゆる魔術師系の呪文もある。


「魅力的だろ?」

「やっぱナイトに」

「いやいや、おい! そこは突っ込むとこだよね?」

「てか、なんでホーリーナイトの僕に勧めるんですか。魔術師系のプレイヤー、いっぱいいますよね」

「ううん、これはあんま伝えちゃいけないんだが、まあいいか。実は君ね、WWの選抜の際に成績がよかったのはさっき言ったと思うけど、実はトップだったんだよ」

「トップ?」

「そう。総合的な成績がトップ。これ凄いことだぜ。今は世界に星の数ほどいるWWプレイヤーだけど、その頂点が君だってわけだ。さすがに十年プレイし続けてるだけはある。そこで、このピーキーな職業をうまく扱ってもらえるのに一番適しているのが君だと思ったわけだ。あ、ちなみになにか困った際、君が連絡してもらうのは僕になる。君専属のアドバイザーみたいなもんだ。だからネクロマンサー選ばなかった場合、ちょっと機嫌悪くなるからね」


 うぜー、うぜーよこの人。選択肢ないじゃんか。


「……わかりました、わかりましたよ、もう」

「おろ?」

「でも言っときますけどね。WWじゃ盾だったんです。ネクロマンサーって打たれ弱い職業になっちゃったら前のパーティ外されるかもしれないんですよ」

「あー、うん、そうだなぁ」

「それどころかネクロマンサーが死に職だった場合、いやそうでなくてもソロプレイになる確率が高いんです。ベテランたちならWWのときに職業特性なんか網羅してるでしょうし。とくに時限式の今回のプレイにおいては新職業はあんま望まれてないと思うんですけど」

「それを言われると弱いねぇ」

「だからまあ、ちょっとは悪いと思ってください」


 と言って、新キャラクター作成を選んだ。


 望んでいる訳じゃないが、同情したのも確かだ。

 自分が作った職業が誰にも使われないってのは、自分の子供が誰にも望まれてないってのとおんなじことだと思う。たぶん。


「恩に着るよ。それでゲームの攻略情報だが……」

「それは結構です。楽しみたいんで」

「そうかい。でもまぁ、最初に約束したから。重要インベントリの中に入れておくよ。気が変わったら開封してくれ。あ、これは特に持ち物制限にはカウントされないから心配しないで」


 必要ないというのに。


「そんな顔するなよ。きっと開くときがくる。そして感謝するさ……さ、悪かったね。ここからは本当に自由だ。CHの世界にようこそ。幸運を祈る。あ、そういや君、実は結構良い声してるんだな」


 なんだよいったい。

 ウィンドウが消えて、キャラクターの名前を入れる画面が出てきた。


 ここでキャンセルすればWWのデータを使うことも可能だ……けど言っちゃったしな。選ばないと機嫌が悪くなるのも困るっちゃ困る。


 名前は……ジェストにした。さすがに新しいキャラに「閃光の」を入れる気にはならなかった。とはいって全然違う名前にすると前のパーティから見つけてもらえないし。職業も違うんだから。


 その職業はもちろんネクロマンサーに。

 くそ、黒いなぁ。そういうのはもう卒業してるからといいたい。


 初期スキルは五つの内から二つを選ぶ。

 まずはともあれ、ネクロマンサーの代名詞たる「操屍」。モンスターの屍を操って味方パーティに引き込む魔法だ。


 嬉しいのが、この魔法で得たモンスターはパーティの上限にカウントされない点。つまり単純に六人パーティから一人増やすことができる。しかもその一人は前衛でもいいし、後衛でもいい。選択肢が超広がるのが利点である。


 まあ、そこに行くまでには結構時間がかかりそうだけど。


 もう一つは「暗黒の知識」を得た。これを拾っておかないと、もう一つのウリである暗黒魔法が解除されない。

 暗黒の知識を取ると、さらに三つのスキルがアンロックされる。レベル1の呪文で、この中から一つを取得することが可能。


 とりあえず……そうだな……選択肢は「ダーク」「ブラインド」「スポイル」。それぞれ闇属性の単体攻撃、範囲内の対象を暗闇に、対象からHPを吸収する魔法である。ぶっちゃけこれらは既存の職業でも扱える。


 レベルが上がっていくと追加された専用魔法なども増えていく、との帝の言である。一応、聞いてはいない。こういうのは自分で試行錯誤していくのが楽しいから。


 さて。結構な確率でソロプレイを強いられる確率が高い。最初はおもしろ半分で入れてくれるパーティもあるかもしれないが(とくにWWで所属していたところ)、ゴミ職だとわかったら中盤以降は切り捨てられる運命にある。そのときに役立つ初期魔法となると……

 おそらく、これはブラインドだろう。非力なネクロマンサーだから、相手にダメージを与えるよりも攻撃を受けなくなる方がいいはずだ。

 どうせ基本的な力では押し負けるだろうし、どうにか一体でもやってしまえば味方にできるから攻撃力の確保も容易。


 というわけで「ブラインド」を取得。


 さて、これで設定は終了。初期装備と所持アイテムを確認し……これは各職業共通で薬草三つ、聖水(MP回復)三つ、空腹回復の丸焼き肉三つ。そしてネクロマンサー専用のコウモリの羽三つ。これはほかのアイテムと合わせることで新しいアイテムへと替わるものだ。とりあえず試すのは後にしよう。


 世界地図が表示され……たが、ほとんどは黒塗り。一カ所だけ表示されているのが説明にあったサンダマスヴェリアだろう。スポーンポイントもそこになっているから、開拓することで増えていくのかもしれない。選択。


 と同時に、強烈な眠気が襲いかかってきた。とまどっている内にいつしか眠ってしまったようで……


 そして、喧噪に包まれた。


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