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キャッスルガード・ヒーローズ  作者: 栗原寛樹
ジェスト、後顧の憂いをなくすため奔走する
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内政四天王を探れ

「レ、レツリン! お前また誤解されるような……!」

「……へ、へぇー、ふーん、あっそ」


 地獄の底から響いてくるようなエリスレルの声。


 おい、おかしいぞエリスレル。そんなキャラじゃなかっただろう。


「ジェストは私のものとまで来た。だから共にゆく」

「……あ、あたし、エイタローちゃんのこと嫌いじゃないから……」


 顔が青を通り越して白くなっている。僕はルシェイナさんの顔を見た。一番近くにいたから。心配そうにしているけど、今すぐ動くってわけじゃないらしい。でも、これマズくないか。


「だ、だから……まだ知り合ったばっかりだし、諦めるまではいかなくても、黙ってようと……お、思ってたのに」

「お、おいエル、今にも倒れそうだけど……」


 ていうか、なんでエリスレル、こんなこと言い出したんだ。だってレツリンがパートナーって言ったって、エリスレルにはなんの関係も……


 ……


「こんなにガードが緩いんなら……」


 エリスレルが見てるのはレツリンでも僕でもなくて、


「文句言わないよね」


 エイタロー。






 その後、ぶっ倒れたエリスレルを担いでルシェイナさんとXXX小隊が退散した。飲み過ぎと徹夜とストレスと怒りで限界突破したらしい。僕は残りのメンツと、酒盛りの片付け。もう宴会って雰囲気でもなかったし。


「おい、ユージン、ユージン」


 ほとんど片付けが終わるころ、僕はユージンを連れ出して廊下に出た。


「あのさ、凄くききにくいことなんだけど」


 ちょっと眠そうなユージンに向かって、僕は言った。


「エリスレルってエイタローが好きなの?」

「はあ?」


 うわ、超反応。そうだよな。そんなわけない。


 じゃあ……その……


「さ、さっきのって……まさか」


 ユージンはため息をついて、


「薄々そうなんじゃないかって思ってたんすけど、いくらなんでもエリスレルさんがかわいそうというか……でもまあ、エイタローさんにも二年間気づいてなかったすし、それに比べりゃ早い方っす」

「僕?」

「俺はまた、姫代子さんあたりから釘をさされてるもんだと思ってたっすよ」


 姫代子から? そんなこと一度も……


 いや。


 エリスレルの名前が出なかっただけで、それとなくほのめかされてはいた。何度も。


 あれはてっきり将来のことだと思っていたんだけど。


「い、いつから?」

「俺が気づいたのはバトルオークのときっす」


 バトルオークって、マーシャヴェルナ解放のとき……つまり僕とエリスレル、初めて会って全然経ってないじゃないか!


「だけど、そんな簡単に……」

「そういうの、時間はあんま関係ないす。それにエリスレルさん、確か会うより前からジェストさんのこと知ってましたし」


 うお、そうだ。確かにエリスレルは、初日の防衛戦の時に僕のこと見てたって言ってたな。なんでユージンは覚えてるんだ。


「というか、ジェストさん、二人だけだから言いますけど」


 なんだおい。まさかお前までとかいうギャグは止めろよ。


「ジェストさんは秘密が多すぎます」






 翌日、エリスレル達XXX小隊とルシェイナ小隊は転職のために城を出た。エリスレルが一日も早く転職したいと申し出たらしく、次の襲撃予定日、一月六日まで強行軍らしい。


 今はみんなのレベルも高くなって、探索が進んだこともあり、南東域はかなり狭くなった。オルトノグェイクまで最速で一日。脇目もふらず突っ走ればアールター神殿まで二日の距離だ。前提条件は体がアバターで、リアルじゃ到底出せないような持久力を発揮できること(体力に気を使えば、半日以上走り続けることも可能)。それとモンスターへの警戒を全く行わないこと。


 この辺じゃレベル的にはもう警戒の必要はない。帰りはちょっとホラーだけど、ブラガワームの道を伝えておいた。襲撃対象がマーシャヴェルナだから、そっちの方が早い。






 僕は昨日、ユージンから言われたことを思い出す。


 秘密が多すぎる。それをエイタローの行動の変遷具合で教えてくれた。


 思い返せば、エイタローが僕に『それっぽい』行動をしてきたのは二回目のログインからだ。その前にあったのはイイリコ小隊初めてのオフ会。


 その時、僕はイイリコさんと二人きりで話をしている。


 あのときイイリコさんが言った『二人だけの秘密』。


 なるほど、あのときどんな話をしたのか、イイリコさんも僕も、みんなに話していない。そんなたいした話じゃないけど、それがエイタローを焦らせた原因そのいち。まさか僕とイイリコさんがどうにかなるとは思ってないだろうけど、それとこれとは別だということ。


 そしてエイタローが告白してきた、オルトノグェイク解放時。


 僕はイイリコ小隊から離れ、ルシェイナ小隊、XXX小隊と行動を共にしていた。あのときは『イイリコ小隊はジェストに協力しない』という意味不明な制約があったから、通信も最小限。お守りを貰えたのだって、他の連中に知られたら結構マズかっただろう。


 その時、僕はエリスレルと行動していた。その時エイタローとエリスレルには面識はない。だけど臨時ジェスト小隊の話はしているから、エリスレルのことは知っていた。そしてユージンの話からするに、エリスレルはその時すでに僕に好意を持っていた。どんな風に伝わったかはわからないが……とにかく、自分から離れて女と行動していた、エイタローを焦らせた原因そのに。


 そして、これはユージンにも話してないけどつい先日のこと。


 レツリンと僕が襲撃のとき、二人で話したとき。あのときも僕はイイリコ小隊から離れていた。その後どういうわけかレツリンが僕を気に入って、あろうことか食堂でキスしてきた。


 エイタローを焦らせた原因そのさん。あれがあったから、エイタローもキスしてきた。昨日のこともそれが一因だとすれば――


 僕って最悪じゃね?


「おーい」


 呼ばれて気がつく。いかん、手が止まっていた。


「あ、いや、ちょっと疲れて」


「疲れてって、ジェスチャーするだけじゃん。変なヤツ」


 うるせえ。


 僕は今、いわゆる『内政組』の偵察に来ている。具体的には城壁補修組に交じって作業している。


 ……正直なところ、これ以上はしなくてもいいんじゃないかってくらい、城壁は堅くなっていた。もともとCHは、こんな引きこもりが常駐するようなバランス調整はされていないんだろう。だから攻略のスピードは帝に言われるくらい遅いし、逆に城のステータスの上がり具合はスゴい。


 サンダマスヴェリア城

 人員:26/26

 耐久力:3800/3800

 物資:5220/7550

 食料:3308/4550

 水:3558/4050

 宿泊:7G

 武器/防具/雑貨Lv:3/3/3

 支配町村:3


 一年で耐久力は約四倍。他のステータスも1.5倍程度になっている。物資とか食料とかは、僕らプレイヤーの人数が初期から増えることはないから、最大値が伸びてもあまり意味は無い。だけどあったらあったで心配が少なくなる。


 それを支えているのがこの城内コマンド『改修』で、壁に向かって実行することで耐久力の最大値を上げることができる。%で計算され、100%に達したら耐久力が1上がるっていう計算だ。


 最初はガシガシ上がったらしいけど、今となってはかなりマゾい。僕が一回実行したら0.01%とかいうふざけた上昇率だった。


 つまり、やっぱりここまで上げることは想定されていないってことだ。延々続くMMOならともかく、時間制限があるこのゲームで0.01%とか冗談でも笑えない。自分のレベルを上げる方が遙かに効率的で、装備やアイテムを新調するために探索が活きてくるわけだ。


 何故そんな不毛なことをしているのかというと……もちろん内政組の偵察。


 僕らはずっと外に出ていたから内政組とはまったく繋がりがない。僕のフレンドもイイリコ小隊のフレンドも、みんな攻略組だ。


「コビ売りに来たんだからもうちょっと働いてよね」


 そして……内政組には、僕の評判は悪いまま。


 つまり内政組は嫌ジェスト派の巣窟。とっくに縮小していると思ったけど、その分が内政組に濃縮されているみたいだ。


 ……つまり、内政側の筆頭はラメってことになる?


 幸いなことに松葉……内政組四天王の一人は、僕にそれほど辛いわけじゃない。たまにさっきみたいなエグい冗談を言ってくるだけで、基本的にはイイやつだ。ちなみにクルセイダーである。


 二次職になっているってところからして、内政組が全員引きこもりというわkじゃないらしい。現にある程度レベルが高いプレイヤーもいる。


 ただ……誰しも戦闘が得意というわけではなくて。ゲームをプレイしたことがあるならわかるだろう。戦闘でモンスターと戦うより、街のハズレで武器を作ったり刺繍やったりするようなプレイを好む層は少なくない。サクラさんだってちょっとアクティブに寄っているだけで、基本は職人系だ。


 彼らは改修や倉庫拡張に誇りを持っている傾向にある。


 引きこもり組はもしかしたら、自分が外に出ないことの正当化かもしれない。だけど二次職になっているほどのプレイヤーがわざわざ改修を行う、または『内政組四天王』の位置に立つ理由。

 彼らは『城を守る一員』であることに誇りを持っているからだ。



 もしくは別に権益がある場合。



「ジェストーっ。お前それでも攻略組の先鋒かよぉ」

 腕が疲れた。改修のジェスチャー、腕だけ酷使するから異常に疲れるんだよ。


 そもそも僕はちょっと様子見するくらいのつもりだったんだ。ちょっと改修して、ちょっと誰かから話聞いて、そんですぐに退散するつもりだった。


 松葉に見つかって、しかも興味を持たれてこれだよ。


 なにが『おやおや、攻略組のジェストさんじゃないですか』だよ。皮肉たっぷりだ。


 今の僕は前からの悪名に加えて、ただ一人のネクロマンサーからただ一人のヴァンパイアになったことで注目度が増している。夜になったら強くなるって職業、今までで初めてだもんな。普通はこんな職業ねえよ。


「……いいじゃないですか。どうせ、みんなが働いて一日で2も上がればいい方でしょう」

「その2が一ヶ月で? はい60。60あったらモンスターの殴り一発耐えられる。それがいずれこの城を救うって、なんでみんなわかんないんかな」

「松葉さんが出てモンスター殴った方が安全なんじゃないですか?」

「そりゃそうするよ」


 松葉はアイテムインベントリから盾を出して、


「俺の仕事は盾だかんな」

「クルセイダーなのに?」


 クルセイダーはナイトの二次職で、ガーディアンに比べて攻撃寄りだ。確かに重装備だから他の職業よりはよっぽど盾向きだけど、なんか中途半端な気がする。なんでガーディアンじゃないんだろう。


「いいところに気づいた! これは俺たちのことをよっぽど的確に表している職業だろ? かつて異教徒を討つために挙兵された十字軍。俺たちは魔物を討つための軍団だからな」


 十字軍ってあんまいい結果じゃなかった気がするんだけど……それにあんまり宗教的な発言はよくないと思うな僕。


「いずれ俺たちは大規模な攻勢に出る。一つの地域を瞬く間にとらなけりゃならんときがくる。攻略が進めば、この城からの距離も遠くなるからな。だから勢いここの防備は薄くなるわけだ。いくら上げても不安だね」


 ……ただ闇雲に上げてるわけじゃないのか。


 確かにいずれ考えなければいけないことだ。松葉の言うとおり、領土が増えるほど城との行き来は難しくなる。WWと同じ魔法があるならタイムキーパーが移動の呪文を使えるはずだけど、全員を運ぶにはあまり現実的じゃない。めんどくさいし。


 もしかしたらこのゲーム用に何かが用意されている可能性もある。だけどあるかないかわからないものを期待して戦略を立てるわけにはいかない。


 そうするとやっぱり、距離は問題なんだ。一ヶ月毎に敵が来るとして、移動距離を考えると往復一ヶ月で移動できるのは、せいぜい北東域から西域くらい。敵の本拠がある(と思われる)北西域、ボスティレムがあると思われる地下、天上カルタに行くためには、どうしても一回襲撃をスルーしなけりゃならない。


 襲撃のときに「特殊条件を満たして全滅」した場合は二ヶ月余裕ができるけど、それだって毎回出来るわけじゃないし、まだ見ぬエリアがどの程度の広さかもわかっていない状況だとやはり心細い。


「……確かに、このままだとちょっと心許ないかも」

「だべ? いややっぱよくわかってるね、攻略組ともなると。引きこもりの連中、それが理解出来ないみたいで、ホントなんでこのゲームやってんのかね。やんないんなら外出ろっての」


 ……


 おや?


「やる気はないのにいっちょまえにゲームの中にはいたがるんだよな。わけわかんねぇ」


 こいつ、口軽そうだな。

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