六章
「ねーおっさん」
相も変わらず担がれながら千里は呼びかける。
最初の方こそ見知らぬ男に運ばれる屈辱と嫌悪に悩まされていたが、ポジティブに考えた結果、なかなか便利だということに気がついた。
これは車だ。
自分の体力温存が出来る上に、青年の体力は消えていく。
油断させといて後で逃げてしまえばいいのだ。
「……もしかしなくても、おっさんて俺のことかな? 一応俺、今年で18なんだけど…」
「他に誰かいる?」
「……」
「名前、何てーの?」
本気でショックを受けているらしい青年のことは無視して、尋ねた。
疑問に思っていることは山ほどあるが、その殆どがおそらく答えてはもらえない内容なので、ここは無難に。
「ああ…うん……名前、名前な……。
時任 結弦<トキトウ ユヅル>だ」
「時任……」
「あ、結弦って呼んでくれてもいいぜ? むしろ呼んでほし」
「時任、ね。分かった。おっさん」
「分かってねぇしおっさんでもねぇっての」
「か弱い子どもを問答無用で連れ去る誘拐犯にはおっさんで十分。あ、この近くにある街の市役所に寄ってもらっていい?」
「は? 何でだよ」
「誘拐の被害届けでも出しに行こうかな、と」
「寄るか馬鹿!」