四章
「離してくれない?」
「嫌」
爽やかに笑顔を向けられる。碧眼がすぅと細まって、年齢より幼い印象を与えられた。
でもうさんくさい。
落としたはずなのに一瞬で戻ってこれる俊敏さといい、自分に気配を気取らせないところといい、青年は徒者ではないということだ。
「それで? 一体あんたは俺に何の用? ……木の上なんかでずっと待ってたわけ?」
「まーここに来てくれるかは微妙、自信はなかったんだけどなー。結局はこうして捕まえられたんだし、結果オーライってヤツ? 俺ってばこーゆー運だけは強いんだよね。今まで賭に負けたことがない」
「あっそ」
「……つれねぇなー。目的として云えば、
俺はキミが欲しい」
青年の声に真剣味が帯びていた分、千里の背筋にぞわあああと寒気が走った。
頭の中で繰り返し繰り返し流れるのは「俺はキミが欲しい」という言葉。流石の千里も顔を引き攣らせて口元を戦慄<ワナナ>かせた。
「スイマセン。俺、そういう趣味はないんで他の人当たっていただけマスカ!!」
とりあえず藻掻く。
青年は暴れる千里を抑えつけながら間抜けな声を発した。
「……は?」
「いや別に俺個人としては特に偏見はないし好きにすればいいとも思うけどその矛先を俺に向けないでほしいな普通に可愛い子好きだしまだ道を踏み外したくもないんだよお兄さんみたいに人生短くないしっ!!」