Ustreamer!
大学生…新天地といえる新たなフィールドにやってきて約4ヶ月、まだ後期の講義が始まって間もないが、最高学府とされる大学も中堅大学という現実の中では日々の日常は実りのない退屈かつ平穏そのものである。
日々、内面ではエキソダスしたい衝動を抱きつつ、何でもないキメ顔で一人でも多くの仲間を得ることを至上としている。そうは言うが実際学校というのは目立たないでナンボなところがあるし…、目立つだけ面倒だとして学力低そうな紅く髪を染めたりメリケンサックを装備したり指が何本も通りそうなピアスを付けたり、マネキンの頭を鞄に入れて持ち歩いたり、全身真っ黒な服を着たりそういった奇抜なファッションもせず、それとなく普通一般なあたしらしくなファッションで辺りをふらついている。
あたしは何気ない仕草でグラサンを少し下げ、裸眼で黒板の字を見た。やはりよく見える…、あたしは当たり前のことを思った。
日常は消化するもの。そんなことを思えばゆとりも生まれるというもの。気付けばあたしは癖で右手を携帯、というかアンドロイド携帯に向けていた。
「スマートフォン使いやすいんか?」
隣にいる何者かが話しかけてきた。
「PC世代には便利なんじゃない」
あたしはぞんざいに答えた。視線を感じ携帯を再び筆箱の横に置くとあたしは横
にいる男に視線を向け言いはなった。
「先週うちがおらんかった分のノート、しっかり付けてくれはった?」
前期も含め気づけばこの伊坂一との講義を通じた付き合いも半年近くになる、
彼は脇に重ねられた三番目のノートを取り出しあたしに押し付けた。
「夏を過ぎて胸を増大させてきたか…」
「一センチも変わってへんわ」
「そうか…態度も対して変わらんし、面白味のないやつ」
そういって彼は傍らに置いている週間ギャロップを読み進めた。それを横目に見
るとこの講義が何の講義だったか見失いそうになり、あたしはそそくさとノート
写しの作業に入ることとした。
講義を終えて身体をグイっと伸ばして教室を立ち上がる。90分の行き詰まるよう
な持久戦には、スポーツドリンク程度のようなものでは通用せず、いかに飽き
て寝てしまわないように精神状態を保つかという忍耐力が必要だ。
雨も風もあまりない、堕落した講義を終えた未だに蒸し暑さの残る外気に嫌気が差しながら二人は食堂へと向う。
あたし、高坂里美にとって伊坂一は大きな興味があるわけではないが、態度が
さっぱりしていて、それに講義中は別のことをしていることは多いが意外と出席
率はあたし同様にいい。そんなこともあって気づけばお昼休みを共に過ごす相手
として認めている。
「いい加減慣れちゃうわね…こう大学生活を続けとったら」
「バイトか部活でもしてへんとやっぱ退屈さはしのげんからなぁ」
関西風だしのうどんを食べる一方、彼はカレーうどんとご飯を交互に慌ただしそ
うに召し上がりくさっていた。
「伊坂くんって、なんでもかんでも一緒に食べよるな、信じられへんわ」
「そんなでもないわ」
「だって…カレーライス食べたらええのにって思うやん」
それでも正面の席にいる彼は気にすることなく、怪しいメニューを食べ続けた。
「カレーうどんのルーやから楽しめるっちゅう味わいが高坂にはわかんねぇかな
…」
「うちにはようわからん」
「そういや高坂」
「どしたん?」
食事も終わりに差し掛かったところで、何やら楽しそうな目で話しかけてきた。
「高坂はusetreamって知っとるか?」
「えと…、ニコ生みたいなもんやっけ?」
あたしは頭の中の毛細血管からザワザワとした気持ちが突如蘇らんとばかりに何
らかの情報物質がシナプスを駆け巡ったかのように一瞬感じた。あたしはもう時間経過によって伸びてうどんが美味しくなくなりはしないことを確かめ、平静を装い続く話を聞くこととした。
「今はストリーミングの手段もニコ生もあればスティッカム、Livetubeもjustin
もあるからその人次第なんやけどな、いわば時代は生配信の時代やっちゅうこと
や」
時代の流れとしてはそうで…、必要性やコンテンツにしたって配信者ありきなん
だろうけど…、今はなんでも個人に出回ってしまってると判断するしかないのか
。余計なこと考えちゃうな。
「それで、その生配信でも始めるの?」
「そうや、決行は今夜。配信の準備は今日までにしてきたからな」
彼は意気揚々と言ってみせた、すでに意思に迷いはないようだ。
「それ、一人で放送するの? 」
「そうやで、自宅から付けるからなぁ…一人ラジオと変わらんと思うけど」
「緊張せえへん?誰が見てるかわからないんやんな?」
「そういうのは慣れとちゃうかな、チャット機能で視聴者と話したり、やってみ
んと面白いかもわからんやろ」
そっか…、そういうもんなのかとあたしは呟き、あたしは不思議な気持ちだっ
た。
「家でパソコンくらいは持ってるんやろ?暇やったら遊びにきいな。待っとるか
んな」
あたしは曖昧な返事をして、楽しげな彼を見送った。思えば確かに、自分も少し前
は楽しんでいたのだと、その感覚だけは深く残っていて、その頃の懐かしい雰囲気が思い出され、彼からどうしても懐かしいオーラを感じとってしまってならなかった。
*
今日までにマイクもヘッドホンも配信に必要な配信ツールもあらかた揃えていて
、後は予め決めていた配信時刻に始めるのみであった。
ustreamには時間の制約もないし、ルールと言えるものもほとんどなく、多くは配信者自身に任せられている。今日はゲームする予定もなくストリーミング上に移すのは画像くらいなもので、お気に入りの音楽でもかけながらのんびりと雑談でもしながら軽いラジオ感覚で放送する予定であった。
それでも誰が聞くかわからないという不安やドキドキ感は変わらず、何とも言
えない心持ちであった。
とりあえず今日はテスト配信だともう一度気持ちを整える。一応ブログの中にリンクは載せたが誰かが来る保障はない。なにせ好き放題に書いてるだけのブログなのだ、その印象は拭えない。
時間が近づき配信コンソールを付けサウンドデバイスのチェックを行う。声を出すたびにメーターが上がり、そこでBGMのバランスも調整する。
「後は手順通り…ライムチャット起動…チャンネル選択…モード-m解除…。トピックを書きかえて、SCFHを画像に合わせて読み込み…、さぁ準備万端ストリーミング開始!!」
配信コンソールの画面が切り替わり配信中へと切り替わる、いよいよ初めての生放送の幕があがった。
*
あたしは二年近い付き合いのノートPCを立ち上げて起動画面を裏でうっすら映
る自分を見ていた。
「前髪随分伸びたなぁ…」
左腕を顎に乗せて、うつ伏せでねっころがりながら右手をマウスに添える。
夕食を終えのんびりムードだったが昼間の約束を思い出してしまったので、彼の
初配信を監視しにいくこととした。
「Limeは面倒だしブラウザから入ろか」
懐かしさすら覚える長年使ってるコテハンはあったけど、間違って使ってしまっては面倒なことになるかもしれない。知らないフリをしていた方が後は楽だろうとあたしは判断しブラウザから彼の配信ページを開いた。
「あらま、もうやってるやんか」
パソコンを通して彼の声が聞こえた。普段席の隣で聞いていた声なのに機械を通すだ
けでふいを突かれたようにドキっとするおかしな感覚を覚える。それはなんだか改めて彼自身の声質を知らしめられるような気持ちで、なんだか今感じている違和感を直接言い返すことが出来ないことで余計にざわつくような感覚を覚えた。聞くことしかできない、言い返すことができない、その普段とは違う状況下にあたしは、つい興味が湧くはずもないのに集中して彼の言葉に耳を傾け始めた。
「時折、人はなぜギャンブルに手を出すのかという疑問があるけど、結局のところ
は勝った際に生じるカタルシスが麻薬的作用として働いて、もう一度同じ快感を
味わいたいと脳に働きかけるからだと言われているんだけど、もう一つの要因とし
ては僕は労働によるものでない思いもよらない臨時収入であるからやめられない
という理論もあるんじゃないかと思う」
「なんちゅう話ししてるんや伊坂は」
あまりの彼の自由っぷりについ呆れてしまった…。
「でもこうして配信を付けたけど、人によっては配信付けたままご飯食べたり、出掛けたり、旅行配信したり、様々なんだよな…変な世の中やな、なんかそういう自由さが面白い言うんはわかるけどもな、やっぱたまに関西弁は出るもんやな、ちょっとしゃべりに慣れてきたか?」
彼からは一人見に来てるというのは分かっていても、それがあたしであるかはわからな
い、それでもこうしてあたしとはわからなくても、その一人の視聴者に向かって自然に話す彼にちょっと凄いと思ってしまった。
「あれ?」
ちょっと目を離していた間にビュアーが一人増えてる…、どこかから流れてきたのかな…。
「最近疑問に思うことなんやけど、子どもが将来なりたい職業ランキングってあるけど、何か大人によって作り上げられたような印象を受けてならんのやな。男の子の上位にプロ野球選手やら政治家やらゴロツキやとか、最後のウソやけど、そういうのがランクインすることから昔から変わってないような印象を受けてまうんや。女の子の場合はケーキ屋さんやらお花屋さん、お嫁さんとか言うけど、そんなん何か大人によって刷り込まれたみたいな印象を受けるやんけ、最近は美容師や看護婦になりたい子なんかも出てきて、現実的な見方ができる子どもも出てきてるんやけど、やっぱり大部分は作り上げられてる気がしてならんわけや。」
彼はまるで残念なことにビュアー数が増えたことに気付いていらっしゃらなかった。
「あれ、なんか話しとる間に、増えとるやん」
彼は呟いた。彼は驚いているようで、それはおそらく一人目はあたしだと確信していて、もう一人増えるだなんて想像だにしていなかったのだろう。彼は言葉を詰まらせて、次の話題に入ることができず沈黙が続いた。
「「…こんばんは、ブログから来ました」」
唐突に打たれた配信チャットの文字、これまで一切機能していなかったチャットが動いたことで空気が一変した。あたしも彼も言葉を飲み込む。彼は唐突な反応に驚きつつも口を開いた。
「どうぞ、いらっしゃいやで。こんな配信見に来るなんて随分な物好きやな」
彼はそういって笑った、随分嬉しそうな声で。
「「ブログに書いてる内容とかに興味を持ってて、それで今日配信をなさるということを知ったので見に来ました」」
「そうなんやビックリやで、もしかして大学生やったりする?」
チャットによる文章と配信に載せた音声との会話、半世紀前までは考えられなかったような対話が今、成り立っていることに、今更ながら凄いなと思った、そう思ってしまうのは一対一という特殊な状況下だからだろう、あたしの時はそうではなかったから…。
「「都内の女子大です」」
この一言であたしはさらに頭が混乱した。どういうことやねん、この配信何が起きとるんや…、あたしは頭が真っ白になった。
そしてそれからも二人の一見不自然な会話は続けられた、あたしはそれを見守ることしかできない、そしてそれを数十分見守った頃、あたしはどうしようもなく惨めになり、おいて行かれたような感覚を覚え、彼の配信が終わりを迎える前に配信を閉じた。
ノートPCをシャットダウンし、バタンと閉じ、部屋の奥の方、カーテンのついた窓の方をボーっと見つめた、すっかり暗くなった空、確実に深まっていく夜、あたしは自分の今思っていることをまるで消化できないまま、ノートPCを閉じるように脳の奥底に衝動を閉じ込め、それを忘れ去るかのようにお風呂へと向かった。
その一時間後、あたしはベッドの中でボーっしていた。そしてふと思った。
「明日、伊坂と会うんやった…、どうしたもんやろか…」
そんなことに悩みを深めながら静かにあたしの意識は睡眠の中に堕ちて行った。
今回の短編はかなりシンプルな内容になりました。
最初にこの話を考えたのが去年の6月なのでかなり遊びに走ったセリフ回しになっていますが、そこのところも含めて楽しんでもらえると幸いです。
高坂の過去など謎は残りますが、続編は希望がありましたら書こうかなと思います。
時間がありましたら後日改行修正はしようかなと思います。ありがとうございました。次の小説でまたお会いしましょう。




