第一話
何の変哲もないこの森で、一瞬、一筋の光が空に上がった。
「・・・着いたのかな?」
「たぶん・・・」
その丁度真下にいたのは、二人の少女。
一人は淡い茶髪を軽く束ね、目は澄んだ藍色。一見少年にも見え、スラリと背が高い。
一人は長くまっすぐな黒髪に、真紅の目。肌は透き通るほど白く、少し小柄。
二人は、少し不安そうに顔を見合わせた。
「・・・ここどこ?」
「さあ・・・間違いなく異世界でしょうけど」
そして、考えても仕方が無いというように、とりあえず前に歩き出した。
「あ、そうだ。君名前は?」
「・・・前の名は、嫌いです」
「確かに。僕もそうだ。じゃあ、新しく名乗ろうか」
「一緒に、いてくれますか? 何故か、あなたは安心出来る」
「もちろん。僕も、珍しく君のこと信頼できると思ってたとこ」
言葉を交わしながら、二人はニッコリと笑う。
それは、以前の彼女たちからは想像もできない姿で・・・白の少女の、願いだった。
「じゃあ、今日から僕はロウ。ロウ・エイムシィグァ」
「私はティアナ。ティアナ・シャルロウン」
二人の旅の始まり・・・。
・・・そのころ、そう遠くない場所で。
「なんだ、あの光は」
「高濃度の聖気を観測しました!」
「・・・あの下には何が・・・」
学士たちが右往左往する中で、不気味に微笑む影一つ。
「神の使い、か・・・いったいどんな力を持っているだろうな?」
二人に忍び寄る影はいくつ?
「えっと・・・」
ここは、たぶん大衆食堂とかレストランとか飲み屋とか呼ばれる店。
二人、ロウとティアナは、そこで食事を摂ることにした。
「・・・なんて読むんだ、これ」
「さあ・・・適当に頼めばいいんじゃないですか?」
メニューを見ながら相談する二人を、ニコニコしながら見守る男性。
だけど、この世界に来たばかりの二人が、この世界の通貨を持っているはずがない。
なぜ食事が出来ているか。少し時間を遡る。
*********
「んーっ・・・ようやっと森を抜けたかな」
「お日様が眩しい・・・」
特に体が圧迫されていたわけではないが、軽く伸びをする二人。
始めに出た所は森の最奥部だったらしく、そこから森を抜けるのに、少し時間がかかってしまった。
だが、今の二人はのびのびと生きている。そんな事はあまり気にしない。
今いる場所は高台になっていて、周りを一望できた。
「・・・あれ、街でしょうか?」
ティアナが指さした先には、確かに市街があった。
「そうだね・・・行ってみようか。お腹も空いたし・・・」
そう言って、また歩き出す二人。比較的すぐに街には着いたのだが・・・。
「・・・お金が無い」
あたり前だが、二人は無一文。いい匂いはそこらじゅう漂っているのに、お金が無いので何も買えない。
しばらくうろうろしていると、もう空腹は限界になってきた。
「も、もうダメ・・・」
ついに、ティアナが地面にしゃがみ込んでしまった。ロウはまだ立っているが、フラフラだ。
二人が途方にくれていると、それを見た一人の男性が見かねて声をかけてきた。
「どうしたんだ? こんなところに、子どもだけで」
「あ、実は・・・」
無一文だという事を伝えると、男性はティアナをだきかかえ、すぐ傍の小さな店に運び入れたのだった。
*********
「助けていただき、ありがとうございます」
文字が読めないので通訳をしてもらい、ひと通り食事を済ませると、二人は目の前の男性に一礼する。
「お金まで支払ってもらっちゃって・・・なんと言ったらいいか」
「いやいや、どうってことはないさ。この店、俺の親父が経営してるから、ふたり分の食費ぐらいはなんとかなるんだ」
男性は、照れたように手を振った。
「しかし、ふたりだけで旅ね・・・。すごいな」
感心したようにそういう。話題をそらしたつもりだろうか?
・・・ちなみに、さすがに『生きて行くことが嫌になって異世界から出てきた』とは言えないので、その辺は適当に誤魔化している。
二人は、苦笑いした。
「おっと、自己紹介がまだだったな。俺はセイムス・ラルファゴート。この街で、ちょっとした商売をしている」
「僕はロウ。ロウ・エイムシィグァ」
「私はティアナ・シャルロウンです、セイムスさん」
「セイでいい。みんなそう呼ぶんだ。ロウにティアナか・・・よろしくな」