星を売る子どもたち
その町では、夜になると子どもたちが道に出る。
彼らはそれぞれ、小さなランプと袋を持っていた。
目的は星を拾うこと。
空からこぼれ落ちた星のかけらは、地面に落ちるとほんのり青く光る。
星は音を立てない。
だから、目をこらして見つけるしかない。
子どもたちは星をひとつ見つけると、袋にそっと入れた。光を逃がさないように、手をすぼめて。
彼らは『星拾いの子ども』と呼ばれていた。
町の広場には、朝になると星市が開かれる。拾った星はそこで売ることができた。
星は光の強さで値段が決まる。
ほんのり光るものはパン1つぶん、強く光る星は小さな家のローンを1ヶ月分支払えるほどだった。
だが、強く光る星は、めったに落ちない。
多くの子どもたちは、かすかに光る星をいくつも集めて、生活をつないでいた。
星拾いは、誰もができる仕事ではなかった。大人には星が見えないからだ。
なぜ子どもたちだけが星を見つけられるのか。
それは、彼らが「まだ壊れていないから」だと、星市の古道具屋の老婆は言った。
「目の奥に、あかるい何かがあるうちは、星は見える」
「大人になると、それが失われてしまう」
中には、年齢ではなく心の状態で星が見えなくなる子もいた。
「悲しみが重くなりすぎると、星の色がわからなくなるんだよ」
と、ひとりの少年が言った。
その夜、彼は空を見上げたけれど、もう星のかけらは見つからなかった。
ひとりの少女がいた。名はソラ。
彼女は星を売らなかった。拾った星を食べていたのだ。
「売ればお金になるよ」
と言われても、彼女は首をふった。
「おなかに入れると、ずっと光ってて、泣きそうなとき、内側から助けてくれるんだ」
誰も信じなかった。でも彼女が笑うと、確かに胸のあたりがすこしだけ青く光って見えた。
「星を食べた子」として、ソラの噂は広がっていった。
ある夜、ひとりの少年が、とても大きくて眩しい星を見つけた。
星は、冷たく、そして美しかった。
少年はそれを拾って、ポケットに入れたが、どこかで違和感を覚えた。
「これは、きっと売る星じゃない」
少年はその星を家に持ち帰り、誰にも見せず、引き出しにしまった。
何年も経ち、その少年は大人になった。もう星は見えない。
でも、ある晩、引き出しを開けると、あの星だけは、まだそこにあった。
光を、少しも失わずに。
「君があのとき、売らないと決めたから、 この星は消えなかったんだよ」
と、どこかでソラの声がした気がした。
今でもその町では、夜になると子どもたちが歩いている。ランプを持ち、袋を持ち、星を探す。
だけど中には、ただ拾うだけでなく、星を食べる子、誰かに渡す子、手紙を添えて空に返す子もいるという。
星は売ることもできるし、心の奥に残しておくこともできる。
誰にも見えない場所で、静かに光り続けている星が、きっと、あなたの中にもひとつはある。
それはいつか、暗闇のなかで、あなたを導いてくれるかもしれない。