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はじめまして。ここは、相談センター人狼係です。

例の事件が公に出てから数日が経ったある日の出来事。

挿絵(By みてみん)

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


人狼係と監視者の出会い


■詩の夢

■ようこそ相談センターへ


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

(うた)の夢


僕がまだオムツがとれて間もない園児の頃、

とある事件に巻き込まれたことがある。


それは保育園の帰り道、母と一緒に市場で買い物をしている時に起こった。

正面から男が勢いよく走ってきて、母と手を繋いでいた僕の体を強引にすくいあげた。

男は僕の首筋にナイフを突きつける。

刄と肌が触れ合った部分には薄らと血が滲み、

その鋭くひんやりと冷たい感触に当てられて、声も出ない状況とはこの事だと僕は幼くして身をもって体験した。


僕が覚えている当時の記憶は、

母と引き剥がされた瞬間に破れた買い物袋と、地面に転がる野菜。

僕の頭上からギンギンと耳に響く男の怒声。

息子を助けてと泣き叫ぶ母に、それを抑え込む市場の人たち。

そして、無惨に踏み潰されたトマトだ。


僕は恐怖で固まっていたが、

18歳になった今思い返してみると、

あの時小さいながら本能的に、何かしてしまえばあのトマトのようになってしまうことを悟っていたんだと思う。


下手に動いて犯人を刺激してしまえば、最悪の結果を招きかねない。

その場の誰もがその場に立ち尽くすことしか出来なかった中、ひとつの足音が男へと近づく。

その人物を僕はよく知っていた。

半年前にこの市場にある交番に配属された若い警察官だ。

いつも笑顔で交番の前に立っていて、市場の人達はもちろん僕もその警察官が大好きだった。

それだけではない。優しくて、強くて、そんな彼は僕の憧れの存在でもあった。

警察官の姿を見て動揺した男が僕から刃物を離した次の瞬間、男の刃物は地面に叩き落とされ、緩んだ腕から僕の体は地面に着地していた。

その眼前で男の体は宙を舞い、ドォンッと警察官に地面に叩きつけられた。

僕の頭にはその時の情景が今でもコマ撮りフィルムのようにはっきりと焼き付いている。


その後は流れるように事が進んだ。

犯人の男はかけつけたパトカーに乗せられて連行された。

僕は母に抱きしめられた視界の端に、助けてくれた警察官の姿をみつけた。

僕は母の腕から抜け出し、助けてくれた警察官の元に小走りで近づくとズボンを引っ張る。

警察官は、それに気がつくとかがんで僕と視線を合わせてニカッと笑いかけてくれた。

その瞬間僕の緊張の糸が解け、怖かった気持ちと安心した気持ちが混ざって涙が止まらなくなってしまった。

そんな僕の頭をワシャワシャと警察官が撫でる。

暖かくて大きな手だった。

と、遠くから呼ばれたのか警察官が僕の頭を撫でる手をおろし、立ち上がろうとする。

言いたいことが、聞きたいことがあるのに感情が邪魔をして、上手く言葉を喋れない僕は警察官のズボンの裾を掴んで離さなかった。

警察官は困った顔で笑ったが、僕の手を解こうとはせずに僕の次の行動を待ってくれていた。

僕は嗚咽混じりになりながらも必死に言葉を絞り出す。


『僕も、お兄ちゃんみたいになりたい』


警察官は僅かに目を見開くと優しく口許を綻ばせた。


『君は、お兄ちゃんよりもかっこよくなれるよ』


そう言って...


■ ■ ■



♪〜♪〜〜♪〜♪〜


(また、懐かしい夢をみたな...)

時刻は午前6時、寮中に響き渡る音楽とともに僕、小早川詩(こばやかわうた)は起床する。

僕はあの日から、一度もその警察官に会うことができなかった。

いや、正確には会えなくなったが正しいのだが。


警察官はあの事件での功績が認められて本部に勤めることになり、重要な任務にあたっているらしい。

とはいえあの事件から13年が経った今も警察官として務めているかはわからないが。


それに母の消息も分からずにいる。

事件の後すぐに母は詩のことを施設に置いていった。

母は再婚したと僕は施設長(お父さん)に聞かされた。


詩の母はシングルマザーだった。

だから新しい男ができて、詩のことが邪魔になった。

再婚にはよくある話だが、あの優しい母が自分を捨てるなんてありえないと認めたくない自分がいる。


高校を卒業た僕は今、施設を出て警察官学校に通いながら寮で生活している。

といっても、起床時間が統一されていたり、風呂や洗面室など個室以外が共用なのは施設にいた頃となんら変わらなかったため、慣れない者も多い中僕はすぐに寮生活に適応した。


月日が経つのは早いもので、詩がここで生活を初めてから半年が経とうとしている。

僕は自室を出て、顔を洗いに洗面室へと向かった。

洗面室には既に五、六人程集まっており各々が髪を整えたり歯を磨いている。


「小早川っ!」


肩をポンとかるく叩かれて詩が振り向くと、そこには歯ブラシを咥えた男、(はやし)がいた。


「今日は少し遅かったな!寝坊したか?」


林が肘でツンツンと僕の体をつく。


「いいから歯ァみがきなって!」


僕は林を肘でつつき返した。

こうして1日が始まり、警察についての教養を学び、復習をして、眠る。

これが今の詩の日常だ。

そしてその日常に初めてのイレギュラーが起こる。


ピーンポーンパーンポーン


突然の放送で流れていた音楽が止まり、寮中に緊張が走る。

約半年生活をしてきて起こった初めての現象に、一同固唾をのみ視線が放送スピーカーに集まる。

しばらくの沈黙の後、


『えぇー、みなさんおはようございます。いつも頑張って偉いですね!今日もみっちりと訓練に励んでください!あっ、小早川詩くん。とっても大事なお話がありますから、すーぐに応接室1に来るよーに!』


と、聞きなれない女性のゆるい声で、放送が入る。


「......は?」


洗面室にいた寮生たちの視線が僕に向けられ、そのまましばらく時が流れた。

そしてその沈黙を破るように、再び起床の音楽が寮中に流れ始めたのだった。


■ ■ ■



どうしてこうなったんだろう。


時刻はそろそろ夜中の2時を迎えようとしている頃。

僕は子供の落書きかとも思える簡素な地図の記す場所に向かうべく、とある裏山の山頂を目指して登っていた。


時は少し遡る。

詩が放送で呼び出された後のことだ。

詩は簡単に身支度を整えると指示通りすぐに応接室に向かい、ドアを叩いた。


「入れ」


中から返答がきたことを確認し僕はドアを開く。


「失礼します」


僕は最敬礼をしてから顔をあげる。

応接室には小太りの警視長と、身長180センチ以上はある眉間の深いシワが特徴的な大男、そしてこの場にそぐわない黒のドレスの幼い少女がいた。その顔はベールで隠れている。


「君が小早川詩くん〜?」


ゆるっとした話し方。

僕は少女に話しかけられ、彼女こそが放送の人物であると確信した。

では早速と言わんばかりに警視長が1つ咳払いをする。


「小早川。この度お前の所属先が決定した」


突然の出来事に僕が思わずえっと声をもらすと大男が腕を振り上げ、パァンッ!僕は床に片膝を付く。

頬に激痛が走った。

僕は大男を見上げる。

大男はまるで醜いものでも見るかのような冷ややかな目で僕を見下していた。


「す、すみません!まだ未熟なものでして...」


あわあわと警視長が僕と大男の間に入るが、大男に睨まれて肩を震わせると静かに後ずさりして元の位置に戻る。


「実はそのお役目をしている人は〜と〜っても忙しくて〜、なかなか現場に顔を出せないから〜君をその人の部下にちゃおうと思ってるんだけど〜引き受けてくれるよね?」


少女が僕に近づき、腫れた頬に触れる。

すると不思議と頬の痛みが引いていった。


「ユダって言うんだ〜君の上司」


僕の耳元で少女が囁く。

僕は驚き少女を見ると、そのベールの隙間から僅かに見えた口元は笑っているように見えた。

ユダ...小さい頃、僕を助けてくれた警察官はそう呼ばれていた。

あの人と同じ名前...

あの人みたいになりたくて、警察官を目指した。

叶うことならもう一度会って、しっかりとお礼がいいたい。


「その仕事、お受けいたします」


可能性があるなら、僕の選択肢は1つだった。


■ ■ ■



詩と警視長が席を外した応接室には大男と少女だけが残された。

少女はグーッと背伸びをして男を見やる。


「もぉ〜何も殴ることなかったんじゃないの湯田っ?君の後輩になるんだよ〜?」


「口を開いていいと許可していないので」


湯田は間髪入れずに返答する。


「テル様こそ、その力...使う場所は選んでください。今回は彼と警視長だけでしたが…」


「わかったってば〜」


少女、テルは湯田の話を遮り話を続ける


()は渡したし、これで詩くんは無事あそこにたどり着けるね〜」


「あんな地図を渡すなんて、遊びも程々にしてください。」


「大事なのは地図じゃなくて、()の方だも〜ん。紙を持ってないとたどり着けない不思議な場所。逆を言えば紙さえ持っていればどこを歩いていてもたどり着ける場所、でしょ?」


テルはドアへ向かい、湯田がその後に続く。


「さぁて、面白くなる予感〜♪もっと私のこと、楽しませてね♪」


吹き抜けた風でテルのベールが揺れる。

その隙間から見えた顔は怪しく笑っていた。



■ ■ ■

裏山にて。



僕、小早川詩は必死に山を登っていた。

詳細は後ほど送るから、とにかく地図の記す所へ向かえ。

それが警視長からの最後の指示だった。

どうにかこうにか、地図に乗っている場所?らしき所にたどり着けたはいいが...


(何も無いじゃないか!)


詩はゴロンと地面に寝転んだ。


(にしても、ここは何処なんだ?気味が悪い)


山を登り始めた頃には聞こえていた車のエンジン音や広告車の音は歩みを進めるに連れ徐々に薄れてゆき、今では動物の鳴き声どころか虫の声すら聞こえなくなっていた。

僕はふぅと深いため息をつく。

少し休もうと目を閉じた次の瞬間


ガブッ


(ガブッ?)

僕は右手に違和感を感じて目を開ける。

すると僕の手をはむはむと齧っている謎の少女と目が合った。


「ふひひっ♪」


毛先にかけて緑がかっていく赤い髪をハーフツインテールに結び、月の光を受けて琥珀のように輝く深い黄色の瞳の少女は悪戯に笑う。


「うわっ!妖怪?!」


僕は手をブンブンとふりまわした。

が、少女は僕の手から全く離れようとしないどころか、この状況を面白がっているようだ。


「むふふ〜♪」


「な!誰なんだキミは?!」


「ちょっとすい!アンタ何やってんの!」


木々の間から別の少女が慌てて飛び出してくる。

まるで昼間の空を映したような水色の髪は毛先に向かうほど赤く変色している。

その少女はズカズカと僕達に近づくと、手に噛み付いているすいと呼んだ少女の襟を掴んで僕から引き剥がす。


「なぁー!おしら離せー!」


ばたばたと暴れるすいの襟を掴んだまま、おしらと呼ばれた少女はため息をつく。


「いきなり噛み付くなんて、アンタどうかしてるんじゃない?」


「だっていい匂いがしたんだもーん」


すいがスンスンと鼻を鳴らす。


「だからって噛み付いてもいいと思ってるの?」


「おしらだってこの匂いに気づいてるくせにぃ」


「こんな臭い匂い気づかない方がおかしいわ。だからって急に襲ってもいいなんて規則はないのよ」


やいのやいのと少女達が言い合いを始める。

僕、なんか臭うのかな。

クンクンと自分の袖を嗅いでみるが、香ってきたのは柔軟剤の微かな香りだけだった。


「ねぇねぇ!おにーさんは、どうしていい匂いがするの?」


「ど、どうしてって、洗濯してるからかな...」


突然声すいに声をかけられ、困惑しながらも僕は応える。


「ふぅ〜ん」


「あっ、こら!すい待ちなさい!」


おしらの指示を無視し、すいがぴょこぴょこと僕に近づいてくる。

そして手の届く距離で止まると右手を口元に当てて、ちょいちょいと僕を手招きをした。

耳をかせ、ということだろう。

警戒しつつもその場に屈むと、すいは耳元に回り込んむ。


「ねぇねぇ。おにーさんって食べてもいい人間なの〜?」


瞬間、僕は大きく後ずさると、少女達から距離をとり臨戦態勢をとる。

すいは怪しい笑みを浮かべながらゆらゆらと立ち上がった。


「敵意あり、みたいね」


僕を睨むおしらと目が合った刹那から僕の体に異変が生じ始める。


「なっ?!」


冬のような寒さに体温が奪われる感覚が身体中を駆け抜けた矢先、僕の手先が凍り始めた。

(この感覚、足もか?!)

僕の視線が無意識に足元へ映る。

と、直ぐに視線を戻すが、すいはその隙を逃さなかった。

しまったと思った頃にはもう遅く、すいは地面を蹴って瞬時に僕との距離を詰めると、高らかに右腕を振り上げる。

そしてその爪がまさに僕の喉を割こうとしたその時、


「そこまでです」


直前でピタッとすいの動きが止まる。

僕の体は既に大半が凍っており、自由を失った体は吹いてきたそよ風によって簡単に地面に倒された。

いそいで駆け寄ってきた茶髪の少女が、僕の体に触れる。


「しっかり!...これはかなり危険な状態だよぉ、がるるさん」


「至急センターに運びましょう。すいさん、おしらさん。話は後ほどじっくりと聞かせてもらいますからね」


僕の意識は段々薄れていく。

あっ、これだめかも...

まだちゃんとユダさんにお礼、言えてないのに。

僕の意識は途切れた。



■ ■ ■



これは、夢だ。


『お母さん、待ってよ!おかあさん』


僕の目の前には、遠のいていく母を必死に呼び止める幼い頃の自分が映っている。

忘れもしない。小学6年生の秋、母が施設に自分を残し去っていった時の光景だ。

あの日、秋だというのに蒸し暑かった。

施設の柵の間から遠のいていく母の背中に必死に手を伸ばして慟哭した。


泣き疲れて倒れた僕が目を覚ました時には、もうすっかり日が落ちていた。

夕食は僕の歓迎パーティーだったが、何も口に出来なかった。

お母さんは明日迎えに来てくれる。

そう信じて眠りにつき、何回も朝を迎えた。


僕が施設に入ってから1ヶ月近くがたったある日。

もう母は迎えに来ない。

突然その事実がストンと胸に落ちた。


その日から他の子たちと同じようにご飯を食べて、外で遊ぶ時間ではちゃんと外に出た。

そうやって何も考えずに、僕はただ言われたことをしっかりとこなすいい子になった。

それが楽だったから。



気がつけば、先程までの空間は消え、真っ白な世界が広がっていた。

その空間には僕と幼い僕だけが居る。


『どうして僕の胸、チクチク痛いの?』


幼い僕が自分の胸を不思議そうに擦る。


『それは、お母さんに置いていかれた時も?』


そうだよと幼い僕は頷く。


『うん。最近はチクチクないんだけど、でも、時々するんだ。』


幼い僕が肩を落とす。


『君は、お母さんの事が嫌い?』


幼い僕は勢いよく左右に頭をふる。


『施設は、好き?』

『うん。みんな良くしてくれるし、ご飯美味しいから』

『そっか』


僕は幼い僕の頭を撫でる。


『夢の中くらい、強がらなくていいんだ』


『えっ』


『今も、痛いんだろう?』


僕がトントンと自分の胸を指すと、幼い僕はギュッと自分の胸元を掴む。


『夢の中くらい、正直になれ』


幼い僕を抱きしめる。


『悲しいよ』


幼い僕の瞳からポロポロと涙がこぼれ落ちた。

小さな腕が僕を抱きしめ返す。


『僕、悲しかったんだね』


幼い僕はスッキリした顔で泣いていた。



■ ■ ■


■ようこそ、相談センターへ



「んぅぅ...んぁ?」


まだ体が上手く動かせない。

どこだ、ここ...

ぼんやりとしていた視界がだんだんと晴れていく。

少女が僕の顔を覗き込んだ。


「あっ良かったぁ!がるるさーん!詩さん気がつきましたよぉ〜!」


(この声は確か、あの時の...)

僕が気を失う直前最後に見た腰まで伸びた茶色の髪をハーフアップに結んだ少女だ。


「先程はうちの社員がすみません。うちは「秋野みのり(あきのみのり)」。あみるんって呼んでねぇ〜」


あみるんがぺこりと頭をさげる。


「こ、これはどうも。僕は小早川詩といいます」


つられて僕も自己紹介をして、体を起こそうと腕に力を込める、が上手く力が入らない。


「っ!」


「あっ無理したらだめですよ。体が凍っていたんですから」


あみるんに支えられてゆっくりと体を起こす。

と、暖炉の前に座る襲撃犯の少女が視界に入った。

その頭には大きなたんこぶが出来ており、少女はこちらに見向きもせず不貞腐れた様子で暖炉に向かって息を吹きかけ続けている。


「あの、みのりさん...あの女の子は?それに先程の力はいったい何だったんですか?」


「あの子はすいちゃん。「すいかのたね」ちゃんです。ここ、相談センター人狼係の社員で、夏科に勤めている子です」


「相談センター...人狼係?」


「続きは僕が説明しましょう」


「がるるさん」


がるると呼ばれた少年が部屋に入ってくる。

そして怪しげな術で僕を氷漬けにした少女、おしらがバツが悪そうに目を逸らしながらその後ろに続いてきた。

その頭には、すいと同じ位置にたんこぶが出来ている。


「あの、それで...ここはどこなんですか?あなた達は」


体が思うように動かない僕は周囲に警戒しつつ、少年に話しかける。


「ここは、国の法律が通用しない、国の為に作られた秘密組織...相談センター人狼係。ここにたどり着いた人物の願いを叶える事が主な僕たちの仕事です。そして僕は「七草がゆる(ななくさがゆる)」。ここ、人狼係で一番偉い人です。どうぞ、がるると呼んでください。」


がるるはぺこりとお辞儀する。


「相談センター、人狼係...」


「あまり驚かれませんね。ご存知でしたか?」


がるるが子首を傾げる。


「名前だけ。都市伝説的な何かだと思ってましたが、」


「ええ、その都市伝説的な相談センターこそが今あなたのいるここなのです。ですがその仕組みは案外簡単で、鍵さえを持っていれば誰でも辿り着ける場所なんです。」


「鍵?」


がるるは頷く。


「あなたもここへ来るために、政府の人間から貰ったでしょう?」


がるるは袋から何やら紙を取り出し、僕に差し出す。


「これは、僕が受け取った地図...」


「ええ。政府が発行するこの地図こそが、ここにたどり着くために必要な鍵なんです」


少し得意げにがるるが答える。が、表情はすぐに険しくなった。


「『ユダ』から連絡が入った時に驚きましたよ。まさか僕たちに監視役を付けるなんて。それだとしてもそう決まった段階で、報連相はきちんとしていただきたいものですよね...また面倒事をぐちぐちぐち...」


「その!ユダさんと言うのは、どう言った人物なのでしょうか?」


ユダという人物の事を僕は食い気味に尋ねる。


「すいちゃん、あいつきらーいっ♪」


僕は目線をすいに移す。

僕の方を見向きもせずにすいはそれだけ言うと、再び暖炉を見つめて息を吹きかけはじめた。


「まったく、すいさんは。まぁ、僕も彼は嫌いですね」


「...理由を聞いても?」


「やけにぐいぐいきますね。彼とあなたは上下関係と聞いていたのですが、他に何か関係が?」


がるるは笑みを浮かべて落ち着いた声色で、質問を返してくるが、その目は笑っていない。


「...同じなんです。僕が小さい頃に憧れた警察官と、名前が。だからその人に会ってお礼を伝えたくて」


少しの沈黙の後、あしらが口を開く。


「じゃあ人違いね。あなたの上司のユダは...アイツは冷徹な男よ。目的遂行のためには女子供にだって手をあげる。私たちにだって...」


おしらは、自分に向かって手を振り上げるユダの姿を脳裏にフラッシュバックし、震え出す。

その尋常じゃない怯えぶりに、僕はそのユダという人物の恐ろしさをヒシヒシと感じた。


「おしらちゃん...」


あみるんがおしらの側へ歩み寄り、その背中を優しくさすった。


「僕もおしらさんと同意見です。あなたの探しているユダは僕には分かりませんが、少なくともあなたの上司とは別人でしょう」


重たくなった空気を払うようにがるるは大きな咳払いをひとつすると話を戻す。


「それで、ここについて...でしたよね。」


「はい。」


「自分の部下を何も説明せずここに送るとは、あのクソ野郎...」

「が、がるるさーん?戻ってきて〜...」


(がるるさんには二面性があるのか?)

幸いがるるはすぐに正気を取り戻し、ひとつ咳払いをして続ける。


「...先程、私達の『主な仕事』は『たどり着いた人の願いを何でも叶えること』といいましたよね」


僕は頷く。


「基本的に僕たちは、四季で仕事をする担当が決まっています。春に来る相談であれば、春科である僕。

夏なら夏科のすいさん。

秋なら秋科のあみるん。

冬なら冬科のおしらさんです」


がゆるがそれぞれを指しながら説明する。


「そして、紹介します。」


がゆるが扉の方を見るのと同時に、まるでタイミングを測ったかのように扉が開き部屋に3人の子供が元気に入ってくる。


「ただいまっすっす〜!」


「も、もどりましたあ!」


「...(ぺこり)」


入ってきた順番に、黄色い髪の毛の少年、桃色の髪の毛の少女、青い髪の毛の少年だ。

子供たちの手にはそれぞれ1つずつ大きな袋が握られており、袋は赤黒く滲んでいた。


「3人とも。以前お伝えした僕たちの監視役として、今日から一緒に生活することになった小早川詩さんです。」


と、がゆるは簡単に子供たちに紹介すると、僕へと向き直る。


「右から順番に、夏科の新人、風見りん(かぜみりん)


「おっ!どもっす!りんりんでーすっす♪」


黄色い髪の毛の少年、りんりんは軽く敬礼する。


「春科の新人、咲良華すもも(さくらかすもも)


「はっはじめまして!ももやん、です!」


桃色の髪の毛の少女がぺこりとお辞儀する。


「冬科の新人でおしらの弟、白木あられ(しらきあられ)


「...れんれん。どうも」


青い髪の毛の子供は軽く会釈する。


「去年の秋から入ったばかりの新人達です。今はこの7名で仕事をしています。」


「そういえば自己紹介がまだだったわね。アタシは白木いろり(しらきいろり)、おしらって呼んで。アタシたちのニックネームは、コードネームにもなってるからアタシたちのことはニックネームで呼んで頂戴」


と、おしらが付け足す。僕はそれに頷いた。


「僕達の主な仕事は自分の担当季節の相談を受けることと、それ以外の季節は書類整理、そして人間政府から依頼のある人間を掃除することです。」


僕は息を飲んだ。人間を掃除する、即ち人間を殺すことだろう。僕の視線はりんりん、ももやん、れんれんの手に持ってる袋を順番に追う。

そして中身を想像し吐き気を催すが幸い胃の中に何も入っていなかったため、汚物を吐き出すことは無かった。


「お察しの通り、りんりんたちが手に持っている袋の中身が処理をした”人肉(それ)”です。僕たちはこういった人間のことを”ウソゴト”と呼びます。」


ここまで説明を終えると、がるるは三人に袋を置いてくるように目で合図する。

りん達は袋を担いで部屋を後にした。


「大丈夫ですか?」


「みのりさん...あ、ありがとうございます。」


「あみるん、ですよぉ。詩さん♪」


「あっ...すみません、あみるんさん。いただきます」


詩はあみるんからコップを受け取ると、中の水を一口飲む。


「がゆるさん...いえ、がるるさん。続けてください」


「分かりました。」


がるるは続きを話始める。


「国のどんな法律も通用しない僕たちは、国にとって最高の殺し屋です。国の指示した人間を僕たちが消しても問題になることはありません」


「...それは何故ですか?」


「そんな人間はいなかったことになるから、よ。」


おしらが答える。


「ええ。ウソゴトに選ばれた人間は、はじめからこの国に存在しなかったことになる。存在しないのだからニュースにもならないし問題にはならない。と、いう事です。」


「でも、家族が黙っていないんじゃ...」


「ばっかだなあ〜!」


すいが僕の方へ歩いてくると、ぴょんとベットの上に飛び乗る。


「政府がそんな人間をすいちゃんたちによこすと思う〜っ?みーんなワケアリに決まってるーでしょっ♪」


にたぁとすいが無邪気にわらってみせる。


「こら、すいさん。」


「もぉ!わかってるよお〜!」


がるるに促され、すいはベットからおりた。


「政府は、ウソゴトに印をつけます。それは僕たちにだけ感じ取れる僅かな匂いです。その匂いを追って僕達は真夜中に狩りを行います。」


「その〜、なんでかうちらにはわからないんだけど、すいちゃんとおしらちゃんが詩さんに間違えて攻撃しちゃったのはそういう事で〜...」


あみるんが気まずそうに付け足す。

おしらはバツが悪そうに顔を背け、一方ですいはケタケタと笑っていた。


「...なるほど、だいたい理解しました。つまりあなた達の処分対象であるウソゴトと呼ばれる人間と、僕の匂いが一致していた、と。」


僕は一通り説明を受けて状況を得心し息をつく。

状況を理解したとはいえ、それはあまりにも非現実的で僕は頭を抱えていた。



改めて分かりやすく内容をまとめるとこうだ。


①ここ相談センター人狼係は、国が作った秘密組織であり、その存在は政府に勤める極僅かの人間しか知らないこと。


②相談センターには鍵を持った者しかたどり着けないということ。


③その鍵は政府が発行し渡していると言うこと。


④鍵とは、詩が渡された地図を指すこと。


⑤がるる達は政府からウソゴトと呼ばれる人間の処分を任されているということ。


⑥ウソゴトには印として、政府が特殊な匂いを付けること。


⑦詩を襲った2人の少女。すいとおしらは、詩の匂いがそのウソゴトと同じことから詩を処分対象だと思い襲いかかってしまったということ。



...らしい。

僕にもどうしてウソゴトと同じ匂いがしたかはわからないが、処分対象が自分達のテリトリーに入ってきて攻撃しない方がおかしいだろう。

僕は大きくため息をつく。


「お気持ちは分かりますが、今回はどうか許してあげてください。二人には罰として反省文とトイレ掃除1週間のを与えましたので」


「あとがるるさんのなが〜いお説教もですよぉ」


二人の頭に出来ていたたんこぶは、がゆるに長い説教を受けた際に制裁としてくだされた罰だとあみるんが補足する。


「悪かったわ」


おしらはそう言って犬がゴローンと仰向けになったような体制をとると恥ずかしそうに顔を反らせる。


「なっ!おしらさん、何を?!」


「私たちの最大級の謝罪方法です。受け取ってあげてください」


がゆるが言った。


「わかりませんけどわかりました!わかりましたから、立ってください」


「ほらすい、あんたも謝るの」


「すいちゃん悪くないのにぃ...」


「トイレ掃除2週間」


「ごめんなさぁーい♡」


光の速さで意見を翻し、すいはゴロンと床に転がった。


「謝罪を受け入れます。事情はわかりましたし、誤解もとけたので。だから早く立って!」


僕は仰向けでお腹をみせる2人から目先を逸らしながら腕で赤い顔を隠す。


「連絡が入った時に驚きましたよ。まさか僕たちに監視役を付けるにしろ、そう決まった段階で、報連相はきちんとしていただきたいものですよね...僕たちについての知識もゼロの状態で送るとは、また面倒事をぐちぐちぐち...」


「あ、あの...がるるさん?」


がるるが恨みのこもった独り言をグチグチと呟いている。


「あっ、いつものことですからほおっておいて大丈夫ですよぉ〜」


爽やかな笑顔であみるんが部屋の隅までがるるを引っ張っていった。


「ちなみに、おしらさんのあの力は何なんですか?」


「それは...」


特殊能力(チャーム)ってゆーのだ!」


言いかけたおしらの言葉を遮るように、すいが手を挙げて答えた。

おしらが深くため息をつく。


「特殊能力?」


「そう!おしらは冷気を操れて、すいちゃんは暖気を操れるのー!」


「ちょっ、待ってください。もう少し分かりやすくお願いできませんか?」


僕は困惑しつつ特殊能力についての更なる説明を求める。


「うーん、そうだなあー。魔法に近いんじゃないかなあってうちは思いますよお」


あみるんがううんと首をかしげながら答える。


「なるほど、さすがあみるんさん!わかりやすい!」


パチパチと拍手が鳴り響く。ならよかったぁ〜とあみるんは微笑んだ。


「魔法には詠唱が必要なように、特殊能力を使うのにも条件があって、対象となるのもに自分の姿が映らないといけないの」


おしらが補足する。


「なるほど、あの時僕と目が合っていたから特殊能力の条件を満たしていて僕を氷漬けにできた、と。...って、今は何で大丈夫なんですか?」


「今は条件が揃っているだけで使っていないもの」


おしらが答える。


「そうなんですね」


「あら、すんなりと受け入れるのね」


「まぁ、自分の体で体験してますからね。それにしてもこんな力を持った人間が実際にいるなんて思いもしませんでしたが、国が秘密にしてるくらいですからね。そういうのの1つや2つ、いや3つ...?」


「まぁ人間ならこんな力持っていないと思いますねえ」


あみるんの発言に僕の時が止まる。


「うんうん♪」


すいが大きく頷く。


「だって、すいちゃん達人狼だからね〜♪」


「...えっ?」


僕の反応に少女達も固まる。


「「えっ?」」


「えっ?」


ややあって僕が口を開く。


「じ、人狼?」


「およ?知らなかったの〜?!ここにいるみーんな人狼だよっ!」


すいが楽しそうに両手を広げる。


「えっ本当に?ふざけているのではなく?」


「ええ。正真正銘人狼よ」


「そうですよぉ〜」


「ちなみに人間で言うと歳は〜♪」


イヌ科である狼なら先程お腹を見せて謝罪をする奇怪な行動にも納得がいく。

とうとう脳がキャパオーバーした僕はそのままベッドに倒れた。


「どーしましょー、また小早川さんが倒れてしまいましたよがるるさん!」


「どうしていつもこうぶつくさぶつくさ...」


「がるるさーん!!」


あみるんががゆるを揺さぶる。その横では、


「こーゆーときは頭を冷やすのだ〜!小早川の瞼をこうして...今だおしらー!すいちゃんがコイツの目を開かせてるうちに特殊能力で...」


「使わないわよ?」


すいとおしらがバチバチと言い争いをし、


「僕が一番偉いのにぶつくさぶつくさ...」


「ああーもう!みなさん落ち着いてくださーい!」


あみるんの声が天高く響く。

こうして僕の相談センターでの初日は騒がしく幕を閉じた。



■ ■ ■



(ん?)

目が覚めた僕は体を起こし、大きく伸びをする。

辺りを見渡すと、部屋の隅で膝を抱えながら寝ているがるるや、床でぐーぐーと寝息を立てて大の字で寝るすいの足に蹴られて苦しそうなおしら、そしてベットの片隅に椅子に腰掛けて眠るあみるんの姿があった。

僕はそっと起き上がり、起こさないように注意しながら四人を自分が寝ていたベットに寝かせる。


僕は時間を確かめようと辺りを見たが、この部屋には時計もなければ窓なく、大まかな時間さえもわからなかった。

とりあえず廊下に出る。角部屋だったらしく、廊下を進んだ先に階段が見えた。


(人狼と言っても、こんな子供達だけで構成された秘密組織があったなんてな...しかも僕がその監視役になるなんて思いもしなかった)

などと考えながら僕はそのまま廊下を進み、階段を降りてエントランスホールから外へ出ようと扉に手をかける。が、服を引っ張られてその手を止める。


「外に出ちゃだめです。道を見失って帰って来られなくなってしまいます」


振り返ると、そこには詩の袖を引くあみるんがいた。


「こっちです」


あみるんが僕の袖を引いて扉とは反対側へと歩き出す。


「もう忘れちゃったんですか?ここに辿り着くためには鍵が必要だってことを」


僕は地図を枕元に置いてきてしまったことを思い出す。


「すみません、ありがとございます」


あみるんに手をひかれたどり着いた先は大きな窓の前だった。


「ここですよぉ」


あみるんが窓を開けると、そこは六畳ほどのバルコニーだった。

僕はバルコニーの柵に手をかけると、あみるんも隣に並ぶ。

ややあって、あみるんは静かに口を開く。


「朝、ですね。詩さんもこれからは私達と同じ生活リズムになるなら昼夜逆転しないといけませんね〜」


「ははは、そうですね」


僕は仰々しくこたえる。


「もぉ詩さん、もっと砕けて話してください。そしたらみなさんもきっと喜びますよ」


「そ、そうですか?では、あみるんさんも...」


「うちは7歳で詩さんよりも年下だからなあ」


あみるんがイタズラに笑う。


「わかり...わかったよ。これでいい?」


「はい♪」


「あみるんさんたちは、いつからこの仕事を?」


「そうですねぇ、大体2年前ですかねぇ〜」


「2年前って、まだ歩き始めてまもないくらいじゃないか!」


「うちらは人狼だから人間とは成長のスピードが違うんです。ちなみにうちは人狼歳だと今40歳くらいなんですよ〜」


「そ、そうなんですか?」


「ふふふ」


少し気まずくなり、僕はあみるんから視線を逸らす。

僕の反応が面白かったのか、あみるんが口元を抑えて小さく笑った。


「うちらは、国の秘密組織であるのと同時に、国の要警戒対象でもあるんですよね〜」


かける言葉もなく、僕はその場に立ってあみるんの話を聞いた。

あみるんが自分よりも高さのある柵をスっと指でなぞる。

まるで檻に閉じ込められているようなその姿が幼い頃の自分と重なり、柵にかけていた手に力が入った。


「鍵がないと行き来ができない相談センター(ここ)も、うちらを閉じ込めておく為の檻みたいでしょう?」


「40歳っていっても、それは狼の場合だよ。僕の前にいるは君は...君達は7歳の人間の子供なんだよ。親元を離れてこんな所で、寂しくないの?」


「...それが、わからないんですよぉ。親とはなんなのか、うちらには」


「...それは、どうしてか聞いても?」


「うちらには、相談センター(ここ)に来る前の記憶がないんです」


「どうして?」


あみるんがゆっくりと首を左右にふる。


「わかりません。だけどね、寂しくはないんですよぉ。うちの家族はここのみなさんですから。ここでの暮らしは楽しいですよ。お仕事して、お話して、あとお料理!うち、やっとまともなご飯を作れるようになってきたんですよぉ〜」


あみるんは僕へと向き直ると、困ったように笑った。

僕は何か言おうと口を動かすが、言葉は出てこなかった。

そうしているうちにいつの間にかあみるんは窓の側に立っていて、そっとガラスに手をかける。


「あと数時間後には、みなさん起き出します。詩さんもしっかりとやすんでくださいねぇ。それではお先に失礼します」


後...とあみるんが振り向かず続ける


「詩さんの存在はうちらにとって脅威です。みなさん直ぐには打ち解けられないかもしれない。でも...みんなのことを信じてあげて、待っていてあげて欲しいんだ」


「...わかった」


僕の答えを聞き、あみるんはバルコニーを後にした。


(寂しくないって言ったって...)

窓に反射したあみるんの姿は、辛くて辛くて今にも泣き出してしまいそうな程に弱々しい子供そのものだった。

どうにかしてあげたいのに、何もしてあげられない。

己の無力さを実感しながら、僕は虚空を見つめる。


僕はこの時まだ知らなかった。


あみるんがその小さな体に抱えている闇の大きさを。


■ ■ ■



「...〜!...?...かわ?」


「こばやかわーっ!」


「うわぁっ!」


突如背中に重みを感じて体制を崩した僕は盛大に尻もちをつく。

背中にはすいがくっついていた。


「あみるんにねぇ、小早川がバルコニーにいるって聞いたから呼びにきたんだよー!ご飯なのだ〜♪急げ〜!」


僕の背中に張り付いたままグワングワンとすいが体を左右に揺らす。


「もうそんな時間か...」


気がつけば辺りは太陽が傾き始めていた。

きゅるるるるとすいの可愛らしいお腹の音が鳴り響く。


「もうもう!はやくするのだ〜ご飯冷めちゃう〜!」


ぷくーっとすいの頬が膨らむ。はいはいと僕はすいを背負ったまま立ち上がり、窓の方へ向かった。


「にしても、急に飛びついてきたらあぶないだろ?」


「急にじゃないもーん!何回呼んでも小早川が無視するからだもーん!」


ぽかぽかとすいが僕の肩を叩く。そっか?悪かったな。と僕は謝った。


「あみるんと話して気になることでも出来たの?」


僕はピタッと足をとめる。


「図星みたいだね☆」


すいが僕の首に腕をまわす。


「アンタが気にすることじゃない」


僕はだけどと言いそうになった言葉を飲み込む。

窓に映るのすいから放たれる無言の圧力に、僕は思わず顔を背けそうになるが、その両頬をガシッと掴まれる。


「アタシ達とアンタは住む世界が違うんだから」


すいは僕の耳元でそう囁くと、頬から手をパッと離しコロッと表情をかえる。


「ねっ?ほらほら!ご飯はーやく!」


「...そうだね」


そうして2人はバルコニーを後にした。


■ ■ ■



すいの指示に従うがまま僕がたどり着いたのは大きな机を囲むようにして椅子が並べられた食堂だった。


「こ、これは...?」


僕は言葉が出なかった。

壁は紙リースなどでかわいく装飾されており、机の上には高級レストランで出てくる料理のように完璧に飾り付けられた数々の料理が並んでいた。


「詩さんの歓迎パーティーですよ」


困惑する僕にがるるが話しかける。


「部屋の飾り付けはすいパイセンとももやんと俺が担当したっすっす〜!」


りんりんが元気に手を上げる。


「ご飯はうちが作ったよぉ」


あみるんはひらひらと僕に手を振った。


「アタシとれんれんが料理を運んだわ。」


「...おしらは仕事が雑だから心配だった。」


バシッとおしらがれんれんの頭を叩く。


「僕は総括担当です」


がるるがクイッとメガネをなおす。


「ほらほら小早川座って〜!」


すいが僕の手を引く。


「さて、全員席に着きましたね」


一同グラスを持ち、がるるに注目する。


「それでは、本日の主役に乾杯の音頭をとっていただくとしましょう」


「ぼ、僕が?」


ウンウンとみんなが頷く。


「え、えっと...出会い方は良いものじゃなかったけど、僕はみんなと仲良くなりたいし、いい関係を築いていきたいと思ってる!これが嘘偽りない僕の気持ちだ。だからその、えー...みんなよろしく!乾杯!」


「「かんぱーいっ!!!」」


部屋中にグラスのぶつかり合う音が響いた。



■ ■ ■


バルコニーにて。



「やっていけそうですか?」


風にあたっていた僕にあみるんが話しかける。

僕は笑ってあみるんの方を向いた。


「まだわからない、かな。少なくともこの場所は気に入ったよ」


「ふふふ♪パーティーの主役のお戻りをみなさんが待っていますよ」


「少し風に当たるって言ったよね僕?」


「少し経ったから迎えに来たんですよ?」


まったくこういう所は子供なんだな。

すると、建物内からみんなの悲鳴が聞こえてきた。


「なっ?!何があった?!」


「あ、あちゃ〜...」


急いで食堂に戻ろうとする僕と違い、あみるんは頭を抱える。


「これはですね〜」


と、あみるんの話を遮るかのようにおしらが美味しそうなケーキ片手にバルコニーに入ってくる。


「おしら、さっきの悲鳴は何?!みんなは大丈夫無事?!」


おしらが首を傾げる。


「悲鳴?なんの事?みんななら今アタシの手作りケーキを食べて感動のあまり気絶しちゃったわよ。」


原因ってまさか...

嫌な感じがして俺はあみるんを見る。

あみるんは俺の考えを察したのか、まるで諦めてと言うかのように首を縦に振った。

この見た目完璧なチョコレートケーキが...?


「別に、アンタの為に作ったんじゃないわよ。たまたま夕飯の材料が余ってたから作っただけで...」


(夕飯の材料が余っただけで?)

とても気になることを言い残して、とにかく受け取りなさい!とおしらは僕にケーキ皿を押し付けるとそそくさ部屋に戻ってしまった。


「詩さん、無理して食べなくても...」


僕は軽く腕をあげた。その覚悟を決めた顔に、あみるんは口を閉じて頷く。

どうなろうと、僕の為に作ってくれたケーキだ。

ここで食べなきゃ男じゃない!

ぱくっ!と僕は一口でケーキを食べ切る。

結果は分かりきっていたことだが、声にならない叫び声が天高く木霊した。




:END

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