夏科 【相談内容】園亜実香:アイドルとして売れたい
※EP2からでもお楽しみいただけます!
今回は主人公がアイドルグループに所属していることもあり、メイン登場人物が複数います。
主人公の所属しているグループと表記を記載しています。
よろしければぜひ活用してください!
(※場面によっては一部表記が異なる箇所もあります!)
■PARTY:
アイドルグループ|PARTY COLORSとそのサポートグループ|PARTY CROWNの総称。
{COLORSメンバー(5人中作中で名前登場人物のみ)
・鈴木文乃:リーダー(表記→鈴木さん)
・夢叶:新人メンバー(表記→夢さん)
・心晴:優しいギャル(表記→心晴さん)
{CROWNメンバー
・園亜実香:主人公(表記→私)
・知沙:優しい先輩(表記→先輩)
・優:同期(表記→優ちゃん)
※そして圧倒的誤字脱字!見つけ次第訂正かけます<(_ _)>
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〜活動日誌〜
■夏科
【相談内容】園亜実香:アイドルとして売れたい
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努力は必ず報われるとは限らない。
多くの人は幼くしてこのどうしようもない理について悟るだろう。
だが私はこの業界に足を踏み入れてようやく世の中の道理を学んだ。
私は、園亜実香はアイドルを目指し始めて2年、独学で歌やダンスを勉強してきた。
そしてダメ元で応募した初めてのオーディション、
王道派地下アイドル『|PARTY COLORS』(以後COLORS)の最終公開オーディションで落選。
だがなんとそこで終わらず、私にアイドルの可能性を見出してくれたCOLORSのプロデューサー久保田さん直々にお誘いを受けて、今はCOLORSのサポートチームである『|PARTY CROWN』(以後CROWN)の一員としてアイドル見習いになることができた。
だがCROWNとしての活動は、私の想像とはかけ離れていた。
メンバーは週に5日間行われるダンスレッスンの実費参加に加えてライブステージに出演することは出来ず、
さらにはファンとの交流を図るという名目でライブステージの日のグッズ販売員として無償で売り子として仕事をする日々。
だがもともと不合格だったところを拾ってもらっただけでも、私は有難いと思うべきなのだろう。
と、そう自分に言い聞かせて頑張ってきてるものの...。
いいように飼い慣らされて使われているような現状への不平や不満を抱いている自分にさえ嫌気がさして私は小さくため息をこぼす。
「ふんふん、なるほどー!おっけぃ、すいちゃんに任せなさーい♪」
「ほ、本当?」
毛先に向かうほど緑がかっていく肩まで伸びた赤髪をハーフツインに結んだ少女「すいちゃん」は髪を揺らすと、パチンとウィンクする。
「ほんとーっすよ!すいさんはめっちゃすごい人なんっす!」
その隣でフンフンと鼻を鳴らしながら、金髪の男の子「りんりん」君が目を輝かせながらすいちゃんに尊敬の眼差しを送る。
その姿はまるで一生懸命に尻尾を振る子犬のようで、その場にいれば誰もが耳と尻尾の幻覚が見えるだろう。
「わはっ♪そ〜うそう!すいちゃんに任せておけば百人力だからー!すいちゃんが、あみあみを立派なアイドルにしてあげる♪」
「あはは、ありがとぉ〜。」
私は当初の目的を忘れ、目の前に広がる癒し空間を眺めながら話を軽く受け流す。
すいちゃんとりんりん君は「すいちゃんたちで大きな事務所作っちゃおうよ!」「さすがすいさんっす!」と、妄想話に花を咲かせていた。
子供のごっこ遊びかぁ、私もよくやったな〜。
私は昔を振り返る。
私もみんなの前で歌って踊ってアイドルになりきってたっけ。
上手上手って褒められて嬉しかったなぁ。
私もこんな風にキラキラするんだと意気込んでたっけ。
私はただ純粋にアイドルを夢見ていた頃の自分の姿を思い出し、心にかかった霧が晴れていくのを感じる。
……話せてスッキリしたし、ここに来て良かったかな。
「すいちゃんにりんりん君、聞いてくれてありがとう。お姉さん、もう行かなくちゃ。」
私はカバンと薄いカーディガンを抱えて立ち上がると、ピタッと2人が話すことをやめて私を見る。
「りょーかいだよ、あみあみ!りんりんドアー!」
「はいっすっすっす〜♪」
ビシッとドアを指さすすいちゃんの指示に従い、りんりん君が扉まで走っていくと勢いよくドアを開けた。
チリリン!と扉に付けられたベルが鳴り響く。
「…えっと、今日はお話聞いてくれてありがとう。ふたりとも、元気でね。」
私は扉の外で立ち止まってお礼を言い軽く手を振った。
「うん!またね〜あみあみ♪」
「またねっすっすー!」
扉の向こうから2人は笑顔で大きく手を振ってくれた。
「うん、またね!」
もう合うことはないだろうが、私はまたねと2人に言葉を返した。
扉がしまり、私は腕時計へと視線を向ける。
「いけない、もうこんな時間!家に帰ってダンスの振りの確認と新しいダンスのフリ入れなきゃ……。今日もご飯は食べられないかな…。」
私は独り言を呟きながら駆け足で家に帰った。
...でもまさかこの相談をきっかけにあんなことが起こるなんて、今の私には知る由もなかった。
■ ■ ■
翌朝、COLORS事務所地下、練習室にて。
(うぅ、なんとかお手本見ながら踊れるようにはなったけど...レッスンまでにちょっとでも練習して良くしなきゃ……!)
ここは練習室といっても、まだまだ駆け出しの事務所で、何とか十人が距離をとって練習できるほどの小さな空間である。
軽くストレッチを終えて練習開始の一時間前にレッスン室についた私は、動画で振り付けを確認しながらより確実にその動作を頭に落とし込んでいった。
「この曲は、ジャンプと回転が少し多めだなぁ……」
私はふうっと息を吐いて動画を巻き戻す。
(いち、にー、いちにっさんしっ!くるっと回って……)
「...っ!」
はぁ、はぁ!と息を荒げ、私は激痛に顔を歪めてその場に崩れ落ちる。
最近どうも足の調子が悪い。
時折足の甲に電撃が走ったかのような鋭い痛みが走ったかと思えばすぐに治まるので、私はあまり気に留めていなかった。
今回もすぐに痛みが引き、私は立ち上がってくるくると足首を回してみる。
「……大丈夫大丈夫。」
私は薄っすらと冷や汗をかいている鏡に映る自分自身に言い聞かせた。
と、レッスン室のドアが開く。
「おはようございまーす。」
「あっ!おはようございます、鈴木さん!」
「おはようございまぁす♡」
「…おはようございます、夢さん。」
先に入ってきたのが鈴木文乃さん。
すれ違う人々が思わず二度見する程クールビューティなプロモーションを持つCOLORSのリーダーであり私のあこがれの人だ。
そして、夢叶ちゃん。
私の受けたオーディションで合格してCOLORSに加わった新メンバーで、なにかと私に突っかかってくる。
ちょっと苦手なタイプだ。
二人は着替えると各々ストレッチを開始する。
私はそのタイミングを見計らって、小走りで鈴木さんに近づき声をかける。
「あの、鈴木さん。ここの振りが自信なくて……出来ているか見ていただきたいのですが。」
私はスマホで該当部分の動画を再生する。
「んっいいよ〜、踊ってみて。」
鈴木さんは二つ返事で私の願いを了承してくれた。
「ありがとうございます!」
私が該当部分の音源を流すと、離れた場所でストレッチをしていたはずの夢さんが近づいてきて私の隣に並んで踊り始める。
……しかも歌いながら。
なんだか釈然としない。
(集中、集中!)
今は鈴木さんに時間をもらってるんだから、変なことは考えず自分にできる最大のパフォーマンスをしよう。
「……ど、どうでしたか?」
ダンスを踊り終え、ストレッチをしながら静かにダンスを見ていた鈴木さんに私は恐る恐るたずねる。
鈴木さんはうーんと考える素振りを見せるとややあって、口を開く。
「そうだね。亜美ちゃんの場合指先の雑さが目立つかな。曲の解釈は良くて……でも元気=雑ではないから、そこ気をつけて。あと少しダンスが走りがちだからしっかりと音を聞いて合わせること、くらいかな。振りは頭に入ってるから、あとは自分をファンの方にどう見せるか、研究してみて。」
「は、はい!ありがとうございます。」
私はスンと肩を落とす。
また、いつもと同じこと言われちゃったな。
「文乃リーダー!私はどうでしたかー?」
ギュッと夢さんが鈴木さんへ抱きつく。
「うん、歌もダンスも良かったと思うよ。」
「えへへ〜♪私ちゃんとたっくさん練習してきたかいがありましたぁ♡」
と、肩を落として落ち込む私の眼前で鈴木さんにほめてほめて〜と甘える夢さん。
さっきよりも大きいモヤモヤとした感情が胸の奥で渦巻く。
壁一面に取りつけられた鏡に映る自分の顔を見て私はハッとし、ブンブンと頭をふった。
私はバシッと頬を叩くとよしっ!と意気込み、鏡で確認しながらアドバイスを意識して振りの解像度を上げていく。
「おはようございます!」
扉が開き、CROWNのメンバーで先輩の知沙さんと、同期の優ちゃんが入ってきた。
先輩は2年前のCOLORSオーディション落選後にCROWNに入った一期生で、モデルのようなプロポーションに、ぱっちりとした切れ長の一重が特徴的な人物だ。
逆に優ちゃんは少しふくよかで、おっとりとした二重と目元にあるハート型の涙ぼくろがチャームポイントな人物である。
と、2人と入れ違いで、鳴り響くスマホを片手に鈴木さんが扉の外へ出ていく。
「プロデューサーから電話だ。ごめん、ちょっと外すね〜。」
扉の外から鈴木さんが言う。
「あっ、はい!」
私は鈴木さんに聞こえるよう大きな声で返事をした。
すると鈴木さんが席を外したタイミングを見計らってか否か、夢さんが私に声をかけてくる。
「あっそうそう!亜美ちゃんさぁ、最後のポーズイマイチだから変えたほうがいいんじゃないー?まぁここCOLORSはポーズ決まっちゃってるし~、自分でポーズ決めれるCROWNがすっごく羨ましいなぁ♪」
私は歪みそうになる顔をぐっとこらえる。
奥で先輩と優ちゃんが顔をしかめているのが私の視界に入った。
こんなふうに夢さんは鈴木さんや、他のCOLORSのメンバーがいないときに私達CROWNのメンバーを遠回しに見下すような発言をする。
特に私への当たりは他のメンバーよりも強い。
デビュー当初こそ私はその言葉に酷く落ち込んだが、今でこそその意図が理解出来る。
この子は、私の悔しそうな顔を見たいんだと。
だから弱さを見せるな、笑え、私。
「ありがとう、そうしてみるね。」
私は悔しさでこみ上げてくるものと目の奥に熱を感じながらも、ぐっとこらえて笑ってみせた。
私の反応が面白くなかったらしく、夢さんは不服そうに「そぅ...」口をとがらせると、くるりと踵を返す。
そして、新しい玩具を与えられた子供のようにニヤリと笑って嫌そうに顔をしかめている優ちゃんたちに近づいていった。
私は大きなため息をつきかけて咄嗟に息を止める。
(落ち着け、落ち着け私〜……)
ゆっくりと息を吐き出しながら自分の肩の力が抜けていくのを感じる。
と、全てを吐ききる前に練習室の扉が勢いよく開かれたので、肺がビクッと痙攣した。鈴木さんとプロデューサー、残りのCOLORSのメンバー3人が流れるようにして部屋に入ってくる。
プロデューサーの集合の合図で、私達はプロデューサーを中心に半円を書くように並んだ。
本来ならここで鈴木さんの声に従って皆でプロデューサーに挨拶をするのだが、それよりも早くプロデューサーが話し始める。
「挨拶は省略で。えー、今日なんだけども、あの大手アイドル会社のウルフエンターテイメントの関係者からウチに見学に来たいとの連絡があった」
「「えっ?!」」
みんなの声が揃い、驚きのあまり唖然と口を開いている私達CROWNの隣で、鈴木さんを除いたCOLORSのメンバーはキャッキャと騒いでいた。
ウルフエンターテイメント…最近突然頭角を現したかと思うと一夜にしてアイドル業界の歴史を塗り替えたといわれる、アイドル事務所の頂点にして、海外にも通用するビッグスター達を多く排出している一流プロダクションだ。
その影響力はアイドル業界をほぼ牛耳るほど強い。
そんな大手事務所がこんな名前も売れていない地下アイドルの事務所に来るなんて。
「COLORSだけじゃなくて、僕はPARTYのみんなアイドルとしての素質があると思ってるから〜。二度とないチャンスかもしれないし、失礼のないように自分をアピールするんだよ」
「「はいっ!!」」
一同目を輝かせ、力の入った声でプロデューサーに返事をする。
PARTY…COLORSとCROWNのメンバーを合わせたときの呼び方だ。
だがプロデューサーはこの呼び方をめったに使わない。
反応が遅れた私は口だけを動かした。
「……じゃあ、練習をはじめましょっか。鈴木さんは少し僕と話そう」
「はい、わかりました。みんなは先にアップから始めといてね」
そう言い残すと鈴木さんはプロデューサーの後について部屋を出ていった。
扉がしまった途端、タガが外れたようにCOLORSメンバーが騒ぎ出す。
「えっと……」
「……はぁ」
優ちゃんはおどおどと、先輩は呆れた様子でその状況を眺めていた。
「どうしましょうか、先輩」
私は先輩に指示を仰ぐ。
「……とりあえず、リーダーの言ったとおりにアップしちゃおっか」
「は、はい!」
私は先輩と優ちゃんと一緒に鏡の前に立ちアップを始める。
と、そこへ
「ウチも入れてもらっていい?」
COLORSメンバーの一人、ウェーブのかかった短い茶色髪を揺らしながら心晴さんが参加を申し出る。
「もちろんですよ。あっ、ここどうぞ」
先輩がサッと荷物を寄せ、心晴さんに場所を作る。
「ありがと〜。たく、なんでこの子達がCOLORSに選ばれなかったんだろーねぇ。不思議でしょーがないんやけど〜」
心晴さんは嫌味部分を特に強調しながらCOLORSメンバーに視線を送った。
だがそんなことは気にも止めず、COLORSメンバーは相変わらずキャッキャと盛り上がっている。
心晴さんはギャルのような見た目に反して、実は唯一COLORSの中で私たちCROWNを気にかけてくれている存在であった。
物事をしっかりと判断し、駄目なことは例え自分が不利になっても駄目と言う、まさに身近にいる私の模範的な存在だ。
心晴さんを加えた四人でアップを始める。
一方COLORSメンバーはアップを始めることなく各々が化粧直しを始めた。
数十分後。
「みんな並んで〜」
鈴木さんが練習室に戻ってきた。
「きゃあ!きたきたー!」
「ちょ、はやくなーい?!」
「誰かグロス貸して!」
COLORSのメンバーが口々に騒ぐ。
「はいはい、静かに。いらっしゃるよ」
開いた扉の先から硬い足音が近づいてくる。
私達はゴクッと固唾を呑んだ。
「ごめんねみんな、遅くなっちゃった〜」
なんだ〜と私達は深い息をつく。
額に汗を光らせてはぁはぁといきを切らせながらスタッフの相川さんが私達の足元に滑り込んだ。
「相川さん、プロデューサーとすれ違ったりとかしませんでしたか?」
鈴木さんが汗を拭っている相川さんに話しかける。
「ああ〜あったよ。珍しくスーツ着てたけど、今日何かある日だったかしら?私こんな格好で……」
相川さんはでっかくクマの描かれたTシャツをパタパタして涼んでいた。
「相川さんは〜いっつも可愛い服着てるから全然大丈夫ですよぉ♡」
「あら照れるわ〜ありがとう」
相川さんと夢さんの話に割って入るように心晴さんが話し出す。
「実は今日、ウルフエンターテイメントの人が来るみたいで」
「あのウルフエンターテイメント?!すごいじゃない!そうだお茶菓子なかったわね、ちょっと買ってくるわ!」
相川さんは驚いて立ち上がると、まるで天気雨のように練習室を去っていった。
私達は顔を合わせて再度ため息をつく。
「あみちゃん大丈夫?体調悪いー?」
私の不調に気が付き優ちゃんが私の手を握る。
いつもほんのり冷たい優ちゃんの手が少し暖かかった。
私は極度の緊張と緩和を繰り返していたため、その起伏から吐き気を催していた。
「ううん、大丈夫……」
私が無理をして笑ったことに優ちゃんは気づいた様子だったが、手を握るだけでそれ以上は何も言わなかった。
そんな私達の様子を夢さんは見下すように笑って見ていた。
「静かに」
鈴木さんの一言で練習室が静まり返る。
再び私達は無言で扉を見つめた。
いつもよりもワントーン高いプロデューサーの声がだんだんとこちらへ近づいてくる。
CROWNになりたての当初はなんともなかったのに、今では聞くたびに鬱々とする声。
(……気持ちが悪い。)
さらに追い打ちをかけるように張り詰めた空気が重く頭上から私を押さえつけてくる。
「あっ、どうぞどうぞ〜狭い場所ですが〜」
(あっ……)
プロデューサーの姿を見るや否や、私は倒れてしまった。
体が痛くなかったのは、ずっと手を握っていてくれた優ちゃんが私の体を抱きとめてくれたからだ。
意識を手放す少し前、優ちゃんの涙が私の頬にかかる。
優ちゃんが必死に私を呼ぶ声が聞こえるが、喉を震わせる力もなく私は目の前が真っ暗になった。
■ ■ ■
COLORS事務所1階、応接室にて。
どのくらいの間気を失っていたのだろうか。
私はハッと目を開けると飛び入ってきた照明の光に思わず目を細める。
応接室の少し硬いソファーの上に私は寝かされていた。
「あ、あみちゃ…あ”み”ち”ゃん”!よがっだよお!」
体を起こす私の背中に優ちゃんが手を回す。
「私…」
(そうだ!ウルフエンターテイメントの人は!?)
「ウルフの人なら帰ったよ」
聞くよりも早く鈴木さんの声が私の聞きたかったことを教えてくれる。
振り向くと、椅子に座った鈴木さん、心晴さん、先輩が揃って私の方を見ていた。
「そう、ですか……すみません、ご迷惑おかけして……」
私は肩を落とす。
状況を理解した私の目からは自分の不甲斐なさと悔しさから涙が溢れてきた。
心晴さんが立ち上がって私に近づくと、ハンカチを取り出して私の涙を拭き取る。
「亜美ちゃん。いい知らせと悪い知らせ、どっちから聞きたい?」
いつもと変わらない声色で鈴木さんが、私に問いかける。
ビクッと私の肩に力が入った。
質問の仕方も、怒る素振りもなく変わらない口調も、今の私にとって鈴木さんの普通が一番怖かった。
私は左右に目を泳がせて一度目を伏せる。
ポンポンと頭を優しく撫でられて顔を上げると心晴さんが柔和な笑みを浮かべていた。
優ちゃんも私の手を包むように握ってくれている。
私は心を決めて深く息を吸った。
「……悪い知らせからお願いします」
鈴木さんが頷く。
「わかった。じゃあ悪い知らせ。これからは練習量が増えるよ」
「……えっ、それが悪い知らせですか?」
「亜実ちゃんには悪い知らせじゃなかった?」
鈴木さんは首を傾げる。
「あ、いえ!えっと…はい……」
「じゃあどっちも良い知らせだねよかったじゃん。」
「うちは練習増えるのいややわあ〜。」
先輩がグッと親指を立て、心晴さんがヤレヤレと腕を組んだ。
2人のおかげで気持ちが楽になった私は小さく笑った。
「で、本命だけど」
「は、はい」
私は固唾を呑んで続く言葉を待った。
「ここにいるメンバー……心晴、知沙、優ちゃん、亜実ちゃん、そして私の5人が一グループとしてウルフエンターテイメントの預かり所属に決定したの」
私は目を見開く。
「……えっ、預かり所属?私が……?」
信じられない。
頭が真っ白な私の口が勝手に動く。
もはや驚きすぎて声も涙も出なかった。
「明後日事務所の方に挨拶に行くから、急だけど予定空けてね。じゃあ今日は解散で、お疲れ様でした」
心の整理が追いつかない私を置いて鈴木さんはたんたんと説明事項を述べる。
リーダーとして私にそれを伝えるためだけに残っていてくれたのだろう。
鈴木さんはすでにまとめられた荷物を持ってそそくさと部屋を出ていった。
「じゃあ、ウチらも帰ろか〜」
心晴さんの声に夢見心地だった私ははっと我に返り立ち上がる。
「あっ私、荷物下に……」
「あみちゃんの荷物なら全部持ってきたよ〜」
ふわっと笑顔を浮かべて軽やかに私のリュックサックを持ち上げる優ちゃん。
水筒や小型のダンベルなど合わせて5キロは超えるリュックサックを小石を拾うかのように片手で軽々と持ち上げるその姿に私はついわぁ〜と声を漏らしてしまい、慌ててリュックサックを受け取る。
頬をつねる代わりに地味に腰に負荷がかかるリュックサックの重みが、これは現実であると私に実感させてくれた。
■ ■ ■
「なんで…なんで夢叶じゃなくてあの子達が選ばれるのよ…」
夕日の差し込む赤い部屋で、夢叶は熊の人形を投げては拾ってを繰り返していた。
「夢叶が一番なのに...一番なのに!!ムカつく…ムカつくムカつくムカつく!!!」
馬乗りになって何度も人形を殴る。ブチッと人形の頭が飛んだ。
頭は壁に当たって跳ね返り、夢叶の手にぶつかって止まる。
夢叶はそれを拾い上げると強く握りつぶした。
飛び出す綿が夕日の光を受けてまるで鮮血の様に部屋中へ飛び散る。
「私が一番かわいいのに…一番実力もあるのに…私こそが本物なのに…」
その瞳は怪しく爛々と光っていた。
影が不気味に伸びてゆく。
そして夢叶は影に食べられてしまった。
「ゆる…サナイ、ウザイ、アイツ…フフッ」
夢叶の不気味な独り言が静かな部屋に反響していた。
■ ■ ■
川沿いの散歩道にて。
私達はあのあとすぐに四人揃って事務所を出た。
そして事務所前の大通りで特に立ち話も無く先輩と優ちゃんと別れた。
心晴さんと並んで見送る二人の後ろ姿は、希望に満ち溢れてキラキラと輝いてみえた。
そして今、私と心晴さんは土手の階段に腰を下ろし夕日を眺めている。
「亜実、ウルフ合格本当におめでとーね」
「あ、ありがとうございます。心晴さんも!おめでとうございます!」
一緒にウルフエンターテイメントの所属に選ばれたのにまるで他人事のような心晴さんの祝辞に、私は首を傾げつつも感謝と祝辞を伝える。
と、すぐにその祝辞の意味が心晴さんの口から語られた。
「ウチ、ウルフ所属の件、断ろうと思っとるんだ」
突然の告白に私は開いた口が塞がらない。
その様子を見て心晴さんは「なによその顔〜」と笑った。
「そりゃプロデューサーから聞いた時はめっちゃアガったよ?でもそれは、亜実がやっとここを抜け出して羽ばたいていける!って嬉しくなったからんよ」
私が何も言えずに黙っていると、心晴さんは私の手を握る。
「ねねっ?時間ある?ちょっとウチに付き合ってよ!」
「こっ心晴さん?!」
心晴さんは私の手を引いて歩き出す。
そしてそのまま電車に乗り、私の知らない駅でおりた。
「あの!心晴さん…何処に行くんですか?」
「ウチのお気に入りの道」
都会にこんなに沢山田んぼに囲まれた道があるなんて、知らなかった。
虫の声を聞きながら心晴さんに手を引かれるがまま歩き続けると、田んぼの中にぽつんと立つ大きな工場が見えてきた。
無数の蛍光灯の光がとても綺麗で、心が休まった。
見慣れた人工の光もこんなに綺麗だったんだ。
「綺麗…」
私は景色に感嘆する。
「でしょ!これね、車作りの工場の光なんだ。昼間はなんとも思わないけど、夜めちゃ綺麗でね。ウチのお気に入り」
それでさっきの続きだけどと心晴さんが話し出す。
「いやね?ウチ、もともとアイドルになりたかったんじゃないんよね。可愛くないし……それにウチなんかこんな性格やから、もともとアイドルに向いてないんよ」
そんなこと…と、言いかけて私はグッと唇を噛み、静かに心晴の話を聞いた。
「ウチは、ウチが育ったこの県が好き。この県を元気にしたくて地元の地下アイドルになったんだけどね、実際思うようにいかんくて……プロデューサーはいいこと言ってる風で、自分の利益のことしか考えてないクソみたいなヤツだし…メンバーだってそう。亜実みたいに一生懸命な子がCOLORSに選ばれん理由がウチにはわからない。ウチはオーディションの時から……亜実、アンタが選ばれたらいいのにとも思ったし、アンタはこんなとこよりももっと高いところで羽ばたけるって思った。だから正直、CROWNには入ってほしくなかったんよ」
心晴さんは私が思う以上に私達の事を、私のことを考えてくれていた。評価してくれていた。
私は涙を堪えて服の胸元をギュッと掴む。
「ウチ、本当はずっと、綺麗にCOLORSやめる理由を探してたんよ」
心晴さんは寂しそうな、それでいて清々しい顔をしていた。
「これからもウチはずっとアンタのこと応援してるよ。今までありがとう、亜実」
心晴さんの横顔は本当に綺麗だった。
私は伸ばしかけてた手を、力無く落とす。
心晴の背中を見つめながら、私は静かに涙を流していた。
■ ■ ■
二日後。
私はウルフエンターテイメントの事務所を訪れた。
案内された応接室は既に鈴木さん、先輩、優ちゃんの姿があった。
そして集合時間を過ぎてもとうとう心晴さんは姿を現さなかった。
心のどこかで、もしかしたら来てくれるじゃないかと思っていた私は、面談後にトイレに駆け込み静かに泣いた。
そして翌日から鬼のようなレッスンが始まった。
ニ週間後のデビューに向けて覚えなければならない歌が10曲以上、爆発寸前な頭に無理やり叩き込むダンスの振り付け。
翌日までに課せられる課題の数々。
そのあまりの過酷さに私は家に帰って夕飯も食べずに布団に倒れ込み気絶するように眠った。
優ちゃんも私と同じような生活をしているのだろう。
私はレッスン中、以前よりもやつれて元気のなくなった優ちゃんの背中を眺めていた。
先輩はCROWNの時と一見変わらないように見えるが、ダンスレッスンの時まれによろめくことがあり、疲労が回復しきれていない様子だ。
一方で鈴木さんだけは違った。
同じ指摘は受けないし、指摘された箇所も翌日までにしっかりと直してくる。
萎れていく私達とは違い、一層輝きが増していく鈴木さんに、私は憧れを通り越して妬ましささえ感じるようになっていった。
そんな生活を一週間半ほど続けていたある日。
今日は、初めてレッスンが一日中休みだった。
私は何をすることもなく、ベッドの上で大の字に寝て照明をぼーっと眺めていた。
時計が針を進める音、時々窓の外から聞こえる車の走る音や鳥のさえずりを聞きながら、時間だけが過ぎていく。
私が体を起こしたときにはもう夕方だった。
スマホに手を伸ばすと、一通のメールが届いている。送り主は心晴だった。
『おっひさー元気?今日クジでファミレスの5000円引きチケット当たっちゃったヤバくない?!今、知沙と食べてるんだけど、よかったら亜美も来ない?久しぶりに話そうよ〜』
私は心晴さんに会いたい一心でベッドから飛び降りると、クローゼットの服を部屋中にかき出してワンピースを引っ張り出す。
そしてそのまま化粧もせずに薄いカーディガンを羽織ると、ドアの近くに投げ捨てられていたハンドバッグに財布とスマホだけを突っ込んで家を出た。
■ ■ ■
家を出て20分後、私は指定されたファミレスに到着した。
ヒールに慣れてきたとはいえ、長い道のりを走ったため、足は悲鳴を上げてガクガク震えている。
店の外で何回か深呼吸をして息を整えると私は店の扉に手をかける。
カランコロンッ
いつも客で賑わっている店内だが、夕飯時を過ぎガラッとしていた。
角のテーブル席に座っている先輩と心晴さんの姿を見つけて足早に向かう。
「ご、ごめんなさい……遅れちゃって。」
「あっ!亜実香〜」
先輩が私に手をふると、私に背を向けて座っていた心晴さんが振り返って私に着席を促した。
私はそれに従って先輩の隣に腰を下ろす。
「亜実、突然ごめんね〜。調子どう〜?」
「え、えっと、普通!です……あはは……」
悪いですとも言えずに私はどぎまぎ返事をする。
「ほら、なんか頼み。お腹空いてるでしょ?奢るからどんどん頼みなて!」
正面に座る心晴さんは、私にメニュー表を差出す。
「えっ!そんな、悪いですよ!」
私が首をぶんぶん降ると、心晴さんはニシシッと笑ってウィンクした。
「せっかくの無料券なんやから5000円分食べないと損でしょ?だから、気にせんといて!」
私は差し出されたメニュー表をおずおず受け取ると、表紙に視線を落とす。
そのページにでかでかと載っていたのは私の大好きなオムライスの写真だった。
ゴクリと私の喉が鳴る。
「あんたらデビュー前から人気凄いんよ!お祝いお祝い!それに、あんたらはもうちょい肉つけたほうがいって〜!骨折れちゃうやろ?ほいっ、亜実これ飲みな。」
「あっ、ありがとうございます!」
さっきまで砂漠のように乾いていた喉が一気に潤う。
私は呼び出しベルで店員に注文とお冷を頼んだ。
そそがれた水はキンキンに冷えていて、すぐコップに結露を作る。
「…で、さっきの話の続きで、その相談センターなんだけど……」
「ごほっ!ごほっ!」
先輩の話出した話題に心当たりしかなくて、私は思わずむせ返ってしまう。
「ちょっ、亜実大丈夫?」
「ごめ、なさっ……へんな器官入っちゃったみたいで…」
咳き込む私の背中を先輩が擦る。
「気をつけなね。でさ、亜実香は知ってる?夜にしかやってない相談センターの話。」
「く、詳しくは知らない、です……」
私は肩に変な力が入る。嘘を言ったわけではない。
でも、知っている、なんだったら訪れた事もある。
私は多忙のあまり今まで忘れていたその相談センターの存在を思い出す。
「しかも、人によって指定される場所が違うらしいよ。」
「え〜、何情報なん?」
先輩がスマホで何やら調べ始めると、画面を私と心晴さんが見えるように机の真ん中に置いた。
3人で画面を覗き込む。
「ここの掲示板情報」
「何やこれ、めちゃ胡散臭いやん。新手の詐欺とかちゃうの?」
「胡散臭い……そ、そうですよね!胡散臭いよね…」
でも、思えばあの日。
私が相談センターを訪れたあの日から、私の生活は確かに変わった。
...まさか
ドクッドクッ
まさかね。
「……?なぁ、亜実あんた……」
黙ってうつむく私に心晴さんが何かを言いかけたそのとき、
「おまたせいたしました。こちらふわとろオムライスでーす。」
店員が私達のテーブルの端で止まると、笑顔でテーブルの上に皿を置く。
「あ、私です。ありがとうございます。」
「以上でお揃いですね。空いてるお皿お下げします。」
店員がなれた手付きで皿を回収して腕に乗せていく。
「ごゆっくりどうぞ〜。」
笑顔のまま店員は一礼すると、厨房へ戻っていった。
「いただきます」
私はスプーンを手に取ると両手を合わせ、オムライスを食べ始める。
「あっ、うん……たくさん食べてな」
心晴さんは何か物言いたそうだったが、少し考えたあと私に笑顔を向けた。
私はとろっとのっかった絶妙な焼き加減の卵の中心をスプーンでわり、一口。少し大きめにカットされた野菜の食感がたまらなく美味しい昔から食べ馴染みのある優しい味。
感動のあまり涙が出そうになる
「わぁああ!すっごく美味しいでふぅ!久しぶりに食べたなぁ…」
「良かったな!」
「はいっ!」
「えーっと、でさぁ?その相談センター、なんて名前だっけ。ちょっと検索してみよ。確か……」
その後の二人の会話は私の耳には入らず、オムライスをスプーンでグシグシとつつきながら私の意識は他の場所にあった。
帰りにもう一度行ってみよう。
あの相談センターへ。
私はそう決めると、残りのオムライスを口へと運んだ。
「今日はふたりともありがとうねー!」
「こちらこそ、たのしかったです!ありがとうございました」
「じゃあ心晴っちまた話そうね!亜実香は、また明日」
ご飯を食べ終わって少し雑談をしたあと、私達は店を出てそれぞれの帰路へつく。
丁度一年前の夏、今日みたいな満月の日に例の相談センターを訪れたっけ。
そんなことを思いながら私は相談センターへと向かった。
■ ■ ■
「えっ……」
一年ぶりに訪れたその場所は空き地だった。
家が立っていた痕跡一つなく、膝近くまで高々と伸びた草が生い茂っている。
蝉の声を聞きながら私は目を丸くしてただその場所を見つめることしかできなかった。
と、スマホの通知が鳴り、一通のメールが届いた。
送信者不明と表示されていたメールを開いてみると、それは子供の落書きのような地図の画像だった。
地図の上には一年前に私のスマホに届いたものと同じ筆跡で『あなたのお望み、何でも叶えます。遂行無料』の文字と大きな字で『相談センター』と書かれていた。
「この場所って……!」
私はスマホをカバンに突っ込むと、足が痛いことも忘れ、アイドルらしからぬフォームで腕を大きく振り地図に書かれた場所へと走る。
地図を見ないでも絶対に間違えるはずがない。
だって、その場所は……
「ウルフエンターテイメント!!」
とっくに従業員は退勤しビルは真っ暗だが、私が近づくと入口の自動ドアがゆっくりと開く。
意を決して私はビルの中へと足を踏み入れた。
■ ■ ■
「わはっ。チョーおっ久しぶりだねーあみあみ!」
いつも練習で足を運ぶビルにある超高層階の一室。
漆で艶めく大きな社長机の向こう、街全体を見下ろすことができる大きな窓の方を向いていた皮作りの立派な社長椅子が私の方へと180度回転する。
そこに座っていたのは大きな机と椅子に似合わない小柄な少女だった。
「どうどう〜?アイドルライフ楽しんでるー?」
赤い髪を揺らしながらすいちゃんは顔の前でピースサインを揺らす。
「すいちゃん……貴方いったい、何者なの?」
すいちゃんは怪しげに微笑む。その口の端からは鋭く尖った八重歯が顔をのぞかせていた。
「すいちゃんはすいちゃんだよぉ〜。あみあみのお願い、かなったでしょ?よかったね〜!」
「じゃあやっぱり、貴方が……」
静かな部屋にはパチパチとすいちゃんの拍手の音だけが響いていた。
にこやかだったすいちゃんの目がゆっくりと開かれる。
その、深い深い金色に、私の視線は吸い寄せられてしまった。
まるで鱗のように月の光を受けて輝く恐ろしいほど美しい瞳を前に、私はその場で膝を折る。
「でも、そろそろ楽しいだけの時間はお終い。さぁ、お支払い期限だねっ」
再びすいちゃんが微笑んだ。
ややあって状況が理解できていないまま私は何とか言葉を口にする。
「お、お支払い?だって、無料だって……」
「うん、お願いを叶えてあげるのは無料だよ〜!」
でもでも〜とすいちゃんは人差し指を立ててくるくると回す。
「相談は有料なの♪」
すいちゃんは椅子から飛び降りると、私の方へ近づいてくる。
「あ、悪魔……」
少女は私の顎を掴むと、グイッと顔を寄せる。
『グルルッ』
すいちゃんの喉が鳴った。
すいちゃんが私の喉元にその牙をたてた時。
リリリリ!と、今時に合わない黒電話が部屋中になり響いた。
すいちゃんは私からスっと顔を離し、受話器を取る。
「うんっ!りんりんっ♪...おー!...おっつかれさまあ!...ふーい、りょーかいだよーうっ♪」
電話相手はりんりん君のようで、すいちゃんは電話を切ると再び私に近づいて鼻のてっぺんを指でちょんと押した。
「お支払いありがとーっ!」
どういうこと、何が起こっているの?
「それってどういう...こと...?」
やっとの思いで喉から絞り出した私の質問にすいちゃんは答えることも歩みを止めることもしなかった。
私は遠のいていくすいちゃんの姿をただ呆然と見送ることしか出来なかった。
■ ■ ■
街の外れ、裏通りにて。
夢叶と、その傍に横たわる3人の人物がいた。
夢叶の手には包丁が握られている。
辛うじて息のある少女は優。
胸には刺し傷、足や腕には無数の引っかき傷があり、白い服は多数の足跡と処々に血が滲んでいた。
倒れている残りの2人は鈴木文乃と知沙である。
2人とも既に息はなく、その体からは今もとめどなく血が流れ出ていた。
「なんで……こんなこと、するんですか……」
なんとか土と血で汚れた顔を上げ問いかけた優に、夢叶はまるで苦虫を噛み潰したような表情を浮かべると大股で優の前まで行き、髪の毛を鷲掴む。
優は苦痛の表情を浮かべてウッと声を漏らした。
「なんで、ですって?」
バチッ
無抵抗の優の頬を夢叶は強く叩く。
「それは!あんたたちがッ!気に入らないッ!からよッ!」
バチッ!バチッ!バチッ!バチッ!
夢叶は何度も優の頬を叩き続けた。
パタッと優の体から力が抜ける。
絶命したのだ。
「私が1番なの...私が1番可愛いの!1番ダンスも上手くて!1番気も使えて!1番歌が上手で!それなのにどいつもこいつも...ムカつく!むかつくむかつくむかつくーっ!!!!」
叶は絶命した3人の屍をゲジゲジと踏みつけ続けた。
「あっちゃー!ひどいことになってるっすね〜...」
「...ダレェ?」
夢叶が狂気じみた顔で振り返る。
「...ゴボッ...」
瞬間、夢叶は血の塊を吐き出す。
その腹を貫いているのは、りんりんの腕である。
夢叶はその場に膝を着くとりんりんの方へ倒れ込んだ。
りんりんの手によって殺人魔は一瞬にして絶命した。
「すいパイセンに報告っす〜!」
りんりんはケータイを取り出す。
「にしても〜...」
りんりんは辺りの惨状を見渡して頭を搔く。
「これはちっとばかし...報酬、多すぎるっすね〜...」
惨劇の現場を目の前に、りんりんはぽりぽりと頬をかいた。
■ ■ ■
"あの事件”からしばらく経ち、私は今もアイドルを続けている。
無惨な遺体で見つかった鈴木さん、優ちゃん、知沙先輩。
失踪した夢さん。
この事態を招いてしまったのは、おそらく私だろう。
私があの日、望んだから。
私があの日、お願いしちゃったから。
みんな、私ね...
今が最高に幸せなの。
大きな事務所に入って、グループのリーダーになって、
ドームツアーやワンマンライブの話まで上がっているの。
みんなも喜んでくれるよね?
応援していてね。
私はこれからも、命尽きるその日まで舞い続けるから。
■ ■ ■
ネオンがギラつく夜の街中
スラリと長い足に、釣った切れ長の目、顎に剃り残した髭、眉間に深く刻まれたシワが特徴的な男が電話をしている。
「今回の事件は奴らの不祥事により無害な一般人3人が犠牲になったため、通り魔事件として表向きに処理する事となりました」
その後も表情1つ変えることなく、男は電話越しに淡々と報告をしていく。
「...以上です。」
『ねぇ湯田。あの子たちは元気でやってるかしら』
「さぁ。私にはわかりかねます」
『ふーん』
つまらなさそうに電話の相手は返す。
『あっ♪そういえば、近々相談センターに監視者を配属しようと思っているの』
それまで表情一つ崩さなかった男、湯田の眉毛がピクリと動く。
「...私だけでは監督不行届ということでしょうか」
『あーもうっ怒らないで怒らないでっ?その逆よっ!湯田は他の仕事もしっかりとやってくれてるからこその提案よ♪あなたが少しでも楽になるように部下をつけるってこと♪』
ややあって男が応える。
「...わかりました」
『あら不満?』
「いえ、そんなことは」
『ならよかった♪』
断られるわけがないとわかっている電話相手は食い気味に返す。
『じゃあ、また報告まってるわっ♪』
「...はい、失礼します」
電話を切り終えた湯田は小さく舌打ちをし、人混みの中へ消えていった。
■ ■ ■
少女は本に向かって話すことを辞めると、ぱたりと本を閉じて軽く伸びをする。
頭からつま先まで真っ白な姿はさながら天使のようだ。
「全く湯田はお堅いんだからあ〜。そこも嫌いじゃないんだけどね♪」
どこまでも続く空の本棚があり、無数の本がふよふよと浮かんでいる終わりのない宇宙のような不思議な空間に少女はいた。
「さーてっ。物語はこのまま面白くなりそう♪やっとめでたしに近づいてきたわ。」
少女は本を抱えたまま横になる。
「君はこの物語を気に入ってくれるといいな...私の、たった一人の友達」
愛おしそうにそっと呟くと、少女はそのまま眠りについた。
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