書籍化記念SS アルベルトの眼鏡
アルベルトの屋敷に引っ越して二か月。季節は秋から冬に移ろい、外では冷たい風が吹きすさぶようになっていた。しかし、屋敷の中は全体的にぽかぽかと温かい。アルベルトが屋敷全体に魔法をかけて、室温を一定に保ってくれているからである。暖炉をひとつ使えば屋敷内どこでも着込まずに過ごせる。一般的な家屋ではモコモコと着込むのが常識なのに。
届いた小包をアルベルトのもとに持って行くべく彼の姿を探していたら、居間のソファの上でアルベルトが寝ている姿が目に入ってきた。
シャツにベストにズボンと、ラフなかっこうで伸びている。片腕を目の上に載せ、もう片方の手はソファの下に投げ出されている。その投げ出された手には眼鏡。
床には書類が散らばっているところを見ると、書類を読んでいたが疲れて寝転んでしまったというところだろうか。
屋敷の中は温かいし、居間には暖炉もついているとはいえ、あまりにも軽装だ。これでは風邪をひいてしまう。
リズは小包をテーブルの上に置くと、あたりを見回してソファの片隅に畳んであるブランケットを見つけた。
それをかけてあげるにしても、眼鏡が邪魔。危ない。壊したら大変。
アルベルトの休息を邪魔したくなくてそっと近づき、腰をかがめてだらりと投げ出されているアルベルトの手からそっと眼鏡を外す。
小包と同じテーブルの上に置いておこうと思ったところで、興味が勝ってリズは眼鏡を覗き込んだ。
――うわっ……!
世界がかすかに歪んで見え、びっくりする。度が入っていた。
この眼鏡は、アルベルトを理知的に見せている。
実際は見た目に反してやかましい性格をしているが、眼鏡のせいで冷静沈着に見えているのは事実。
――私も眼鏡をかけたらちょっとは賢そうに見えるのかしら?
試してみよう。
視界が歪むのを承知でアルベルトの眼鏡をかけてみる。そしてそのまま窓ガラスに近寄ってみた。
――うーん、そんなに賢そうには見えないかなぁ……。
見慣れていないせいか、そんなに似合ってもいないような。
ちょっとがっかりしながら眼鏡を外してテーブルの上に置き、アルベルトにブランケットをかけるべく振り返ると、アルベルトがソファに寝転んだまま、顔に載せていた手を外してリズを見ていた。
「……見ていましたか?」
「見ていました」
おそるおそる確認すると、予想通りの答え。
「もう少し遊ぶかなと思ったのですが、真面目ですね、リズは」
くすりと笑ってアルベルトが立ち上がる。
「眼鏡は高価なものですし、それにこれは度が入っています。私がおもちゃにして壊したら大へ……」
大股で近づいてきたアルベルトがテーブルの上の眼鏡を手に取り、リズの顔にそっとかける。
「リズは丸顔だから、この縦幅が短いタイプはよく似合いますよ」
「そうでしょうか? あまり似合っている気がしませんが」
「男物ですからね。もう少しフレームを細くすれば、あなたにもよく似合う。仕事用にひとつ作ってみますか。度を入れなければいいだけですから。ほら、こうすればいかにも仕事ができる女性になりますよ」
くるりとリズを窓に向け、アルベルトが背中に流していた髪の毛を片方の肩の上でまとめ、胸元に流してみせる。
本当だ。なんて大人っぽい。
感心していたら、リズの髪の毛をまとめていたアルベルトの手がそっとうなじを撫でた。
うなじから耳へ。指が何度も往復する。くすぐったい。
ゆっくり振り返ると、アルベルトが顔を寄せてきた。
唇が触れる前に、アルベルトの頬に眼鏡がぶつかる。
アルベルトがリズの顔からそっと眼鏡を外す。
レンズ越しではないアルベルトの素顔にリズはふふと微笑んだ。
「アルベルト様の素顔を知っているのは私だけですね?」
「……そうかもしれませんね」
アルベルトがテーブルの上に眼鏡を置く。
「眼鏡をかけるようになってから、人前で外すことはまずありませんので」
再びアルベルトが顔を寄せ、唇が重ねられる。
何度か角度を変えて軽く唇を重ねて、アルベルトがこつんと額を合わせてきた。
「でもキスには邪魔です」
「……眼鏡がなくても大丈夫なんですか?」
「私は近視なので、遠くのものは見えないのですが、近くのものはよく見えるんですよ」
この距離なら問題ありません、とアルベルトが囁いて再びリズに口付けてきた。今度は深く。
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本作が書籍化されることとなりました。※ただしTL。
詳しくは活動報告にて。
どうぞよろしくお願いいたします!




