おまけ リズのプレゼント
いろいろとひどいです。
もうすぐ冬至だ。
この国では冬至の夜に一年無事に過ごせたことを感謝し、また翌年一年を無事に過ごせることを願って家族や親しい人たちと祝いをするのだが、最近では街中を飾りプレゼント交換やいつもより豪華な夕食を楽しむ冬の一大イベントとなっている。
リズはプレゼントを買うため、冬至祭りの華やかな飾り付けがされた商店街を歩いていた。どのお店を覗いてもわくわくする。冬生まれということもあって、リズはこの季節が大好きだ。
社会人一年目のフェリクスには、ちょっといい万年筆を購入した。
あとは、この秋にめでたく元上司から恋人に変わったアルベルトだ。
――でもアルベルト様って、どんなものを喜ぶのかしら。
相手はこの国でも有数の名門の家柄である。それに魔法管理局の長官職と、そこそこいいポストにいる。もともと金持ちであるうえに稼いでいる人間なのだ、持ち物は一流品ばかりで、かつ、持っていないものなんてないに違いない。
――困ったなあ……。
いや、アルベルトが持っていなくて、プレゼントしたら大喜びそうなものにはひとつだけ心当たりがあるのだが……、
いつぞや雑誌の恋人特集で見かけたアレ。プレゼントはわ・た・し❤ というやつ……
「……恥ずかしすぎるってさすがに」
ハハッ、と笑って頭を振ったリズの視界に、ちらりと青い小鳥が映った。
「……」
リズはショーウィンドウの反射ごしに、じっと自分の姿の後ろあたりを見つめた。
淡く光る青い小鳥がついてきている。
魔力のない人間には見えない。ギリギリ、魔法警邏隊にも見つからない。アルベルトが魔力を調整してリズにつけている、アルベルトの使い魔である青い小鳥。ただリズを守るためについてきているわけではないことを、リズは知っている。
――これじゃあ、一人でプレゼントを買いに来ている意味がないじゃない……。
自分に魔力があればアルベルトの目潰しができるのだが、残念ながらリズには魔力がない。
リズが使い魔を目視できるのは、アルベルトからほんのわずかに魔力を与えられているからである。魔法を使えるほどの量ではない。(そんな量を与えられたらこっちの身が持たない)
どうしてくれようか。
悩んでいたら、ガラスの向こうにいる店員さんと目が合った。若い……ような、そうではないような……美しいが年齢不詳の女性だ。
リズははっと我に返った。ガラスの反射越しに背後の使い魔を見ていたのだが、傍目にはショーウィンドウを熱心に見ているように見えていたのだ。
焦点を使い魔からショーウィンドウのディスプレイに合わせ、リズは目を見開いた。
ランジェリーショップだった。
「あっ……」
あかんガン見してしもーた、と焦ったものの時すでに遅し。バーン、とドアが開いて先ほどの店員さんが姿を現した。
「お気に入りがあったかしら。試着できるわよ、どう?」
「え、いや、あの」
「今、冬至祭りのセール中でとってもお買い得になっているのよー、遠慮はいらないわ!」
「あああのっ、遠慮しているわけでは」
ないのですがあ、というリズの声を完全に無視して、店員さんはリズの腕をつかむとランジェリーショップの中に引きずり込んでいった。
***
「これは期待してもいいと思うか」
展開した魔法陣を見つめながら、アルベルトが声に出して問う。
そんなアルベルトに胡乱な目を向けるのは、アルベルトの使い魔の本体である、火の鳥だ。
場所はアルベルトの屋敷の居間。リズのためのプレゼントをずらりと並べたツリーの前で、アルベルトはにやにやと魔法陣に映る景色を見つめていた。
リズが入っていったのは女性向けのランジェリーショップだ。この国の建物にはだいたい防犯魔法がかかっているから、アルベルトの使い魔は近づけない。リズがランジェリーショップの中で何をしているのかは想像するしかないのだが、店が店なだけに。
「ほかに用途はないものな。冬至祭りのプレゼントを買いに行って、おしゃれな下着を見る。うん、もうそれ以外の用途はない」
ふふ、と美しい顔に不気味な笑みを浮かべるアルベルトを、本来感情を持たない火の鳥が、不気味なものを見る目付きで見つめていたことに、アルベルトは気付かなかった。
***
「すごい……スケスケ……」
お店の中でリズは「これで何が隠せるというのか」という下着類を見つめ、顔を赤らめていた。
「こっちなんてもはや紐……これ、ちょっと動いたら全部ポロリしちゃいませんか」
「しちゃうわね。あら、あなた、そういう下着を探しに来たの?」
「いえっ、そういうわけでは!」
店員さんに聞かれてリズはぶんぶんと手を振った。
「そうよねえ。あなたが見ていたの、今年イチオシの腹巻だったし。あれね、雪国のマシュマロウサギから取れるふわふわの毛から作られている、めちゃくちゃあったかい腹巻なのよー。手に取ってみて」
店員さんが手渡してくれたふわふわの腹巻は、夢のようにふわふわして、手にのせた途端にふわっと暖かくなり。
リズは目を輝かせた。
「なんですか、これは! 素晴らしい!」
「でしょう。女の子に冷えは大敵よ。腹巻以外にもあるのよ、たくさん入荷できたの。どう?」
「み……見せてください……!」
興奮するリズに、店員さんがにっこりと笑う。
こうしてリズは自分のために、ぬくぬく下着を手に入れることができたのだった。
もちろんアルベルトにも購入した。
自分とおそろいの、ぬくぬく靴下を。
靴下は消耗品である。
いいものに囲まれているアルベルトの迷惑にもならないだろう。
いらないと言われたらもらえばいい。大は小を兼ねるのである。
るんるんとランジェリーショップから出てきたリズを魔法陣ごしに見つめ、アルベルトが不気味な笑い声を漏らし、火の鳥がいよいよ怯えたのはいうまでもない。




