表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
168/201

第168話 殺伐とした部屋

 エレベータが開きかなめが乗り込む。階は最上階の9階。誠は人気の無さを少しばかり不審に思ったが、あえて口には出さなかった。たぶんかなめのことである。このマンション全室が彼女のものであったとしても不思議なことは無い。そして、もしそんなことを口にしたら彼女の機嫌を損ねることはわかっていた。


「どうした?アタシの顔になんかついてるのか?」 


「いえ、なんでもないです」 


 誠がそんな言葉を返す頃にはエレベータは9階に到着していた。


 かなめは黙ってエレベータから降りる。誠もそれに続く。フロアーには相変わらず生活臭と言うものがしない。誠は少し不安を抱えたまま、慣れた調子で歩くかなめの後に続いた。東南角部屋。このマンションでも一番の物件であろうところでかなめは足を止めた。


「ちょっと待ってろ」 


 そう言うとかなめはドアの横にあるセキュリティーディスプレイに10桁を超える数字を入力する。自動的に開かれるドア。かなめはそのまま部屋に入った。


「別に遠慮しなくても良いぜ」 


 かなめはブーツを脱ぎにかかる。誠は仕方なく一人暮らしには大きすぎる玄関に入った。


 ドアが閉まると同時に、染み付いたタバコの匂いが誠の鼻をついた。靴を脱ぎながら誠は周りを見渡した。玄関の手前のには楽に八畳はあるかという廊下のようなスペースが広がっている。開けっ放しの居間への扉の向こうには、安物のテーブルと、椅子が三つ置かれている。テーブルの上にはファイルが一つと、酒瓶が五本。その隣にはつまみの裂きイカの袋が空けっ放しになっている。


「あんま人に見せられたもんじゃねえな」 


 そう言いながらかなめはすでにタバコに火をつけて、誠が部屋に上がるのを待っていた。


「ビールでも飲むか?」 


 そう言うと返事も聞かずにかなめはそのまま廊下を歩き、奥の部屋に入る。ついて行った誠だが、そこには冷蔵庫以外は何も見るモノは無かった。


「西園寺さん。食事とかどうしてるんですか?」 


「ああ、いつも外食で済ませてる。その方が楽だからな」 


 そう言ってかなめは冷蔵庫一杯に詰められた缶ビールを一つ手にすると誠に差し出す。


「空いてる部屋あったろ?あそこに椅子あるからそっちに行くか」 


 そう言うとかなめはスモークチーズを取り出して台所のようなところを出る。


「別に面白いものはねえよ」 


 居間に入った彼女は椅子に腰掛けると、テーブルに置きっぱなしのグラスに手元にあったウォッカを注いだ。


「まあ、冷蔵庫は置いていくつもりだからな。問題は隣の部屋のモノだ」 


 かなめは口に一口分、ウォッカを含む。グラスを置いた手で、スライス済みのスモークチーズを一切れ誠に差し出す。誠はビールのプルタブを切り、そのままのどに流し込んだ。


「隣は何の部屋なんですか?」 


 予想はついているが誠は念のため尋ねる。


「ああ、寝室だ。ベッドはあの狭い部屋には入りそうに無いから置いていくから。とりあえず布団一式とちょっと必要なファイルがあってな」

 

 今度はタバコを一回ふかして、そのまま安物のステンレスの灰皿に吸殻を押し付ける。


「まあ、色々とな」 


 かなめは今度はグラスの半分ほどあるウォッカを一息で飲み下してにやりと笑う。


「しかし……」

 

 誠はそんなかなめの表情を見つめながらビールを口に含んだ。部屋の埃がビールの上に落ちるのが見える。


「だから……人に見せるような部屋じゃねえんだよ」


 かなめはそう言うと頭を掻きながら立ち上がり、手にしたウォッカのグラスをあおった。


 立ったままかなめは口にスモークチーズを放り込んで外の景色を眺める。窓には吹き付ける風に混じって張り付いたのであろう砂埃が、波紋のような形を描いている。部屋の中も足元を見れば埃の塊がいくつも転がっていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ