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法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 野球と海と『革命家』  作者: 橋本 直
第三十八章 新たなる日常の予感

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第160話 新居に現れた『夏の風物詩』

「お昼だよ、神前君」 


 突然目の前にサラが現れた。そしてその後ろを覗いて見るとパーラがかなめにヘッドロックを食らっている。


「昼って、どこか食べに行くんですか?」 


 基本的に寮では昼飯の用意はしていない。誠は不思議に思ってパーラに尋ねてみた。


「あまさき屋の女将が来てるんだ。海に連れてってくれたお礼だってよ。なんでも夏らしい昼飯を作ると言うことらしいぞ」 


 そう言うとかなめはギブアップしたパーラから手を離す。


「結局、かなめちゃんは手伝わなかったわね。まあかなめちゃんが手伝うことは初めから期待していなかったけど」 


 アメリアもかなめが家事を一切しないことは知っていたので半分呆れたようにそう言った。


「そこがかなめさんらしい、ところですわ」 


 雑巾とバケツを持ったアメリアがつぶやくとサラの後ろから出てきた茜が恨めしそうな目でかなめを見ている。


「最初から期待されてないんだからやらないほうが自然だろ?アタシは楽できるときは楽する主義なの」


 かなめはそう言うと大きくタバコをふかした。


「まったくかなめちゃんは……」


 さすがのアメリアもあきれ果てたというようにそうつぶやいていた。


「正人!カウラ!ご飯よ!」 


 サラの声がフロアーに響く。掃除をしていた面々が一斉に立ち上がった。


「じゃあ行くぞ!」 


 そう言うと機嫌よくかなめは先頭に立って歩き出す。頭を押さえているパーラが食って掛かろうとするのをアメリアが両手でなだめている。そんな様を楽しそうにに茜が眺めていた。


 食堂には菰田達がすでに座って番茶をすすっていた。


「オメエ等、何してたんだ?」 


 かなめの剣幕に首をすくめながら、菰田達はいかにも下品そうな笑いを浮かべる。


「どうせ二階でエロゲでも隠してたんじゃないの?」 


 アメリアは近くの湯飲みを取ると、整備班員からやかんを取り上げて番茶を注いだ。


「なんだ、菰田達。いたのか」 


 そっけなく言ったカウラの言葉にヒンヌー教徒は身悶えんばかりの顔をした。


「あなた達ちょっとキモイわよ」 


 そう言うとアメリアは隣のテーブルに座った。その隣にかなめが座り、その視線は誠に注がれている。選択の余地が無いというように誠はかなめの正面に座った。その隣に座ろうとするカウラをにらみつけるかなめだが、カウラは気にせず誠のとなりに当然のように座った。


「お待たせしました!やっぱり今日みたいな日はそうめんでしょ!」 


 そう言うと春子と小夏の親子がそうめんを入れた土鍋を持ってくる。


「女将さん、それじゃあ鍋でもやるみたいじゃないですか?」 


「ちょうどいい大きさの器が無くって、ボールじゃあ味気ないし、すぐあったまっちゃうでしょ?」 


 かなめの言葉に春子は聞き分けの無い子供にでも言うような口調で語る。


「黙って食え!外道!」 


 小夏が叩きつけるようにめんつゆをかなめの前に置く。そしてそれにこたえるようにかなめも小夏をにらみつける。


「すいません!遅れました……ってそうめんですか!いいっすねえ」 


 機械油がしみこんだ手で額を拭いながら島田が現れる。続いてサラとパーラが大きなボトル入りのジュースを何本か抱えて入ってくる。


「じゃあこれは私達でいただきますね」 


 茜はそう言うと一番大きな鍋を持って島田とサラ、そしてパーラが着いたテーブルにそれを置いた。


「薬味はミョウガか。買ったのか?」


 カウラは感心したようにつゆにみょうがのかけらを入れる。 


「ああ、それなら裏にいくらでも生えてますから」 


 島田がつゆの入ったコップに多量のねりがらしを入れている。


「島田さんそれじゃあ入れすぎ……」 


 心配そうに茜は島田を見守る。


「大丈夫よ、正人は辛いの好き……」 


 そう言いかけたサラの島田を見ていた目の色が変わる。島田が突然身悶えながらのけぞった。そのまま察したサラの差し出した番茶を受け取ると島田は一息でそれを飲み干した。


「馬鹿が、からしを入れすぎだったんだろ?おい!麺つゆの瓶よこせよ」 


 その様子を見ながらかなめはそう言うと菰田につゆを取らせた。


「塩辛くならないか?」 


 どぶどぶと原液のめんつゆを小鉢にそそぐかなめを見ながらカウラはそうめんの鍋に手を伸ばす。


「そんなだからいつも血圧高いのよ」 


 そう言ってアメリアは少なめにとったそうめんを小鉢にゆったりと浸してすする。かなめは二人の言葉を無視して濃いめのつゆを作り終わると鍋の中のそうめんに手をつけた。


「いいねえ、夏ってかんじでさ」 


 かなめは鍋の中のそうめんを箸で器用につまむ。誠は遠慮がちに箸を伸ばす。


「飲み物あるわよ」 


 パーラがそう言うとコーラのボトルを開けた。


「ラビロフ中尉!オレンジジュースお願いします!」 


「じゃあ俺はコーラで良いや」 


「ジンジャーエール!」 


 菰田とヒンヌー教徒の取り巻き二人が手を上げている。


「アタシは番茶でいいぜ。誠はどうするよ」 


「僕も番茶で」 


 かなめが一口でそうめんを飲み下すとまた鍋に手を伸ばす。誠はたっぷりとつゆをつけた後で静かにそうめんをすすった。


「私も番茶で良い。甘いものはそうめんには合わない」 


「そう?私コーラが欲しいんだけど」 


 カウラがゆっくりとそうめんをかみ締めるのを見ながらアメリアは手にしたコップをパーラに渡す。


「じゃあ俺はオレンジジュースをもらおうかな」 


 島田は菰田に対するあてつけとでも言うようにパーラが菰田のために注いだばかりのオレンジジュースを取り上げた。むっとした菰田を無視して島田はそれに口をつける。サラが気を利かせてすぐさまオレンジジュースをコップに注ぐと菰田達のところにジュースを運んだ。


「ここ数日は本当に夏らしいわねえ」 


 少なくなった鍋の中のそうめんをかき集めながらアメリアがしみじみとそう言った。その言葉でなんとなく一同は同意する意味を込めて黙り込んだ。夏らしい気分と先日の海の思い出をそれぞれに反芻しているようにも見えた。




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