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法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 野球と海と『革命家』  作者: 橋本 直
第三十八章 新たなる日常の予感

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第156話 サイボーグの自分語り

 誠とかなめ。二人は黙ってそれぞれの仕事を続ける。沈黙と次第に熱せられていく夏の午前中の空気が、気の短いかなめには耐えられなかったように口を開いた。


「いいか?」 


 三つ目の畳を拭きながらかなめが口を開いた。


「別に聞いてなくても良いぜ。ただの独り言だ」 


 誠はそんなかなめを背中に感じながら、バケツで洗ったばかりの雑巾だ窓のサッシを拭いながら聞いていた。


「アタシの家は知ってるだろ?前の大戦中はアタシの爺さんは反戦一本槍の政治屋だった。中央政界から追い出されて、政府からは非国民扱いされてはいたけど、腐っても四大公家の筆頭の家だ。アタシは三つの時に爺さんを狙ったテロでこの体になったわけだ。爺さんもかなり落ち込んでたらしいな……その後、一年もたたずにその時に負った怪我が治らずに死んだよ……アタシをこんな体にした……そのことで自分を責めながらな」 


 雑巾をかけている自分の手を見つめるかなめ。誠はそれとなく振り返る。かなめのむき出しの肩と腕の人工皮膚の隙間が誠にはなぜか物悲しく見えた。かなめは落ち着いた様子で畳を拭いていた。


「この体になる前の記憶はまるで無い。まあ三つの時だからな、覚えているほうがどうかしてるよな。でもこの体になってからのことはしっかり覚えてるぜ。脳の神経デバイスは忘却なんていう便利な機能は無いからな。嫌だと言っても昔のつまらない記憶まで引っ張り出してきやがる」 


 そう言うとかなめは畳を拭く手を止めた。


「まるで腫れ物に触るみたいに遠まわしに気を使う親父、家から出るのにも護衛をつけようとるすお袋。家の食客達は、出来るだけアタシから距離を取って、まるで化け物でも見てるような面で逃げ回りやがる。まあ、今思えばしょうがないんだけどさ」 


 誠のサッシを拭く手が止まった。


「当然だよな。三つの餓鬼が一月のリハビリ終えて帰ったらこの大人の格好だ、まともに接しようとするのが無理ってもんだ。でも中身は三つの餓鬼だ。わかってくれない、わかられたくもない。暴れたね。かえでや茜には結構酷いこともしたもんだ。女学校時代も友達なんて出来るわけもねえや。話しかける奴が気に入らなかったらぶん殴ってそれで終わり」 


 かなめはそう言うと掃除に飽きたとでも言うように畳の上に胡坐をかいてタバコを取り出した。


「叔父貴のことをさ、茜から何度も聞かされて。陸軍ならおせっかいの親父やうちの被官衆の手も回って無いだろうっていきがって入ってみたが、士官学校じゃあ西園寺の苗字を名乗ってるだけで教官から目をつけられてすぐに喧嘩だ。どうにか卒業してみれば与えられたのは汚れ仕事の山ってわけだ。つまらないだろ?アタシの身の上話なんて」 


「かなめさん」 


 誠はサッシから手を離して真っ直ぐにかなめを見つめた。


「アタシが言いたいのは、自分が特別だなんて態度は止めてくれって事だ。アタシも東都戦争の頃はそうだった。こんな体だから悪いんだ、こんな家柄だがら嫌われて汚れ仕事をあてがわれるんだってな。でもな、そう思ってる間は一人分のことしか出来ねえんだ。一人で生き抜けるほどこの世は甘くねえよ」 


 そう言ってかなめはタバコをふかす。


「西園寺さん」 


 誠は横を向いて照れているかなめを見つめた。


「私の話なんてつまんねえだろ?良いんだぜ。とっとと忘れても」


 そう言いながらかなめは自虐的な笑みを浮かべた。誠はそんなかなめの独り言を聞きながら畳を拭き続けていた。




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