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法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 野球と海と『革命家』  作者: 橋本 直
第二十六章 二人だけの時間

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第107話 不器用な二人

「良い風ですね」 


 誠は相変わらず驚いた顔をしているかなめに話しかけた。


「まあな」 


 うわのそらと言った感じでかなめは視線を泳がせている。砂浜が途切れて下から並みに削られたようにのっぺりとした岩が現れる。はだしの誠にはその適度に熱せられた岩の表面の温度が心地よく感じられていた。


「あそこの岩場ですか?小夏ちゃん達がいるのは」 


 誠は砂浜が切れて岩肌が露出している岩礁を指さしてそう言った。


「そうなんじゃねえの。アタシにはガキが何して遊ぼうが関係ねえな」 


 状況がわかってくると次第に機嫌の悪いいつものかなめに戻る。とりあえず誠についていてやることがサービスのすべてだとでも言うように、誠の視線に決してその視線は交わらない。誠も変に刺激しないようにと、ただ海岸線を二人して歩く。


 海を臨めば、波は穏やかでその色は夏の終わりとは思えない青さである。かなめは誠が海を見れば山を、山を見れば海を見つめている。次第に磯が近くなり、海の中に飛び出す岩礁の上に白い波頭が見えた。


「オメエ。つまんねえだろ。カウラ達のところか、小夏のところへでも行ってこいよ」 


 そう吐き捨てるように言うと、かなめは砂浜から大きく飛び出した岩に腰を下ろした。


「別につまらなくは無いですよ。僕はここにいたいからここにいます」 


 そう言い切った誠にかなめは諦めきったような大きなため息をつく。


「ったく、勝手にしろ」 


 そう言うとかなめはいつもの癖で普段の制服ならそこにあるはずのタバコを探すように右胸の辺りに手を泳がせた。


「何だよ」 


 かなめがサングラスを持ち上げて直接その瞳で誠をにらんでくる。


「別に何でもないですよ」 


 素顔のかなめを見ることができて本当はうれしい誠だったが、そういうことを口にするには誠は不器用すぎた。


「嘘つけ。もう飽きたんじゃねえの」 


 かなめは一度誠の視線から逃れるように下を向くと顔を上げた。作り笑いがそこにあった。時々かなめが見せるいきがって見せるような(はかな)い笑いがそこにあった。


「どうせオメエも怖いからここまで付いてきただけだろ?アタシに近づく奴は大概そうだ。とりあえず敵にしたくないから一緒にいるだけ。まあそれも良いけどな。親父のことを考えて近づいてくる馬鹿野郎に比べればかなりマシさ」 


 そう言って皮肉めいた笑みを口元に浮かべた。いつもこう言う場面になるとかなめは自分でそんな言葉を吐いて壁を作ってしまう。そこにあるのはどこと無くさびしげで人を寄せ付けない乾いた笑顔が誠の目に焼き付く。


「そんなつもりはないですけど」 


 真剣な顔を作って誠はかなめを正面から見つめた。そうするとかなめはすぐに目を逸らしてしまう。


「自覚がないだけじゃねえの?アタシはカウラみたいに真っ直ぐじゃない。アメリアみたいに器用には生きられない。誰からも煙たがられて一人で生きるのが向いてるんだ」 


 そう言うと立ち上がって、吹っ切れたように岩場に打ち付ける穏やかな波に視線を移すかなめ。誠は思わず彼女の両肩に手を置いた。驚いたようにかなめが誠の顔を見つめる。


「確かに僕は西園寺さんのことわかりませんでした」 


 ほら見ろとでも言うようにほくそ笑んだ後、かなめは再び目を逸らす。


「そんな一月くらいでわかられてたまるかよ」 


 そのまま山の方でも見ようかというように安易に向けた視線だったが、誠のまじめな顔を見てかなめの浮ついた笑顔が消えた。


「そうですよね。わかりませんよね。でもいつかはわかろうと思っています」 


「そいつはご苦労なこった。何の得にもならねえけどな」 


 さすがに誠の真剣な態度に負けてかなめは誠に視線を向けた。かなめの表情は相変わらずふてくされたように見える。


「そうかもしれません、でもわかりたいんです」 


 そう言う誠の真剣な誠の視線。かなめにとってそんな目で彼女を見る人物というものは初めてだった。何か心の奥に塊が出来たような感覚が走り、自然と視線を落としていた。


「そうか……勝手にしろ」 


 搾り出すようにかなめが言葉を吐き出す。自分の肩に置かれた誠の手を振り払うとそのまま海を眺めるように身を翻す。


「ええ、勝手にします」 


 誠はそう言うとかなめの座っていた岩に腰掛けた。


「ろくなことにはならねえぞ」 


「でも、僕はそうしたいんです」 


 風は穏やかに流れる。二人の目はいつの間にか同じように真っ直ぐに水平線を眺めていた。



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