世界征服を試みる先兵ですが今日も楽しく観光地に来て楽しくやっているので大目に見てください
最初にこういう事を言うと何か受信してる人なのかなぁって思う人も多いかと思われますが―――
そこまでじゃないです。
そういう自覚はないです。
でも、この世界、もう終わって私に支配されるためにあるよね、とは思っています。
なぜなら!
「あ、物件をお探しでしょうか」
「あぁ、はい、郊外でもいいのであまり近隣うるさくないところでおすすめがあれば…」
「お仕事か何かでの物件選びではないということでよろしいでしょうか、数件すぐにご案内できるところはご用意できますが」
「あー世界征服に使うので、隣の部屋に丸聞こえとかがなければそれ以上条件はないので…」
「………は?」
「も、もちろん冗談ですよ?」
「ですよねー」
あぶないあぶない。
不動産屋という初手も初手で計画がくじけては主に申し訳する顔もない。
もうちょっとまともな形がいいです、せめて。
そういったことで。
千葉県某市のアパートに仮住まいをし、調査をしながら世界の支配をもくろむ私の旅が始まるのです。
「手続き上必要なので、お名前を伺ってよろしいでしょうか」
「ステラ塚井と申します~」
上司が、すごいその程度でいいといった感じで付けた気がするので、私は気にいってません。
そして(通常あり得ないのだが)不動産屋の管理物件だったのが幸いし、保証人を不動産屋が代行し手数料として手心代として記載なしで数か月分現金払いしたことで、当日のうちに支払いも本人確認も契約書類も保証人問題も火災保険もなんのその。
いたって普通に手続きは進み、アパートの鍵を入手。
極めてまっとうに、正式な手段で支配地を入手(借住まい)。
いい不動産屋と出会えた、満足だ。
時期こそ、ずれてるけど新生活。
夢を見るように一度空を見る。
その果ての方向には私の故郷があり、みえないけど繋がっているのかもしれない。
そう思うと、前よりもうちょっとやる気が出る気がした。
ついでに今日の夕食はゼリーというものにしてみよう。
私が知る食物に一番近いのは確実にこれなので。
スーパーなるものを一応全域見てみましたが、死体のかけらを、そのまま飾っててあれは怖いところですね、もう行くことはないでしょう。
でも、頂いたカギを、ちゃり、と鳴らすとこの場にちゃんと居るという実感がある。
初の帰路はそんな希望が詰まっていた。
なお、買ったものはノンカロリーであまり腹にたまるものではないというのは、私はこの時まだ知らなかった。
「さて!何をするかを先ず書き留めて再確認するところからはじめよう! 必要なら壁に貼るつもりで!」
手にはボールペンとお子様用の「じゆうちょう」。
自由帳ではなくメモ帳でもなく、あくまでじゆうちょうなのがポイント。
自由に一枚一文字でもさくっと使える、このお得感を味わえるのはじゆうちょうだけ…かもしれない。
まず角のほうから小さくかきかき。
調査から矢印を引っ張って報告、その間にはカッコをつけて自動、と。
その下のほうに丸で囲った協力という文字をいくつかつけて、間に不明と書き込んだ。
「そんな小さくては埋まりませんゾ」
「やかましい」
「まず目標は太く大きく書くべきデスワ」
「いまじゃない」
「我々のやることは最初から決まっているんですゾ」
「やっぱり意気込みを最初にでっかく書初めしてこそですワ」
「ですゾー」
「うるっさぁぁぁい!!」
一人なのを確認したとたんこれだ。
とはいっても、部屋に人が一人なのは変わっていない。
もちろん、私が変だと言ってもずっと幻聴やいないはずの友人と会話しているわけでもない。
いるのだ。
私が、この星に紛れ込める偽装型外皮の人型機械にして統括担当だとするなら、それ以外。
潜入物資の保管担当と、潜入の緊急用対処担当が。
今になって出てきたのの、ゾが語尾のが、歪曲型強制圧縮空間の管理マシンで、与えられた姿ががま口財部なので、ガマ。
ワが語尾なのが、特殊型疑似二次元物質でどこにでも忍ばせられる、名前はペラ。
三体合わせての外惑星調査隊なのである。
「ここだと私が偉いの、ちゃんと自分の安定確認でもしてなさい二人とも」
「この私に不備などあった事はありませんゾ」
「こちらはいつでも完璧すぎて新人のあなたを心配しているのですから、偉いという考えはただしても環う必要があるのですワ!」
「偉いの!私のほうが原価高いの!生産の!」
マウント取るところが自分の価格なのは、実のところちょっと悲しい。
「それもかれこれ二桁行くくらい聞いてますゾ」
…当然見透かされている。
さて、そういったことで、結局は折れて、計画の目標などをいろいろ、壁に位置文字ずつぺたぺた貼ったり色々としまして。
「こんなもんですワ」
「怪しい宗教かテロ組織の部屋にしか見えなくなった…悲しい」
でかでかと、一文字ずつ壁に書いて貼られた、世界征服の文字たち。
なんと悪趣味なのだろう。
「自信は持って物事を行うべきですゾ」
「…趣味は特殊だというのが分かったけど、なぜに感覚だけまともよりなのか、私はさっぱりだわね」
「そりゃ、まぁ、サンプル的なもので平均的な感性は持つようになってますから…言ってませんでしたっけ」
「初対面だから知らないねえ…あとね、不用心だよぅ玄関から居間のほうまで開けっ放しは」
「それはそうですねぇ、そんなにしてましたかね私……って………」
おや?
あれ??
はて???
聞いたことない声がした気がしますよ?
「後、飲み込みは悪い方っぽいわね」
「だれですかぁぁぁぁ!!!?」
まずい!
もう部屋と計画がばれてる!現地の人に!
もうおわりだあ…捨てられて壊されるんだあ…。
「…客がいるのにずーっと固まらないでくれる?」
「いいんです、私もう何もできなくなって捨てられるんです…」
「大変だねえ、その前にそばだけでも食べて行ってくれると嬉しいけど、せっかく持ってきたんだからね」
「はて?」
そういえば、部外者が居るのがはっきりしたとはいえ、目的も何も聞いていないし調べていない。
「本当はそっちが持ってくるんだよ? 声だけするんでこっちから持ってきちゃったけど」
「……こ、これはご丁寧に」
引っ越しそば。
いまや廃れたと思っていた文化であるが、なんとなく意味はわかる。
食べ物を配って初手悪印象持たれないようにするのは大事だ。
それとソバ、単純に食べたい。
「そういえば荷物より先にスマート家電だけは持ち込みとは結構…さみしがり屋さん?」
「すっ、スマート家電などと私のことを無礼な物言い許されませんゾ!」
「いやいやまぁ、通話なのはわかるから」
「おさえて、何かしようとしてないでガマ…」
何をしても終わりかもしれないのに傷だけ広げるのはNoである。
「まぁまぁ、おしゃべりなように見えるかもしれないけど、人の趣味を悪く言いふらしたりはしないから、その辺は安心してよ、隣人なんだしさ」
はて。
何か勘違いしているご様子なのか?
いや、考えてみよう。
怪しい内装をしている住人を見つけたとしても、よく考えれば、それをいきなり悪の先兵!侵略者!と断定して相手を特定できるのだろうか?
この文化レベルの星で。
と、いうこと…は……!
「いやだなあ!? そんなことを心配して落ち込んだんじゃないですよお!?」
「元気になったな、急に…」
「恐怖心と悩みが一度に取れた様子ですゾ、大したことをしたようですゾお客人」
「はぁ、まぁ、ありがとう」
「なんかほら、おなか、おなかすいちゃったなぁ~もぉ~親切な人がお隣で幸せだなぁ私!」
「まぁ、どうも…」
勝手に思い込みで言ったお隣というのは、結論を先に言うと結局あっていたようで。
彼女、羽衣=ジョンソイという名前の日系人は、いきなり上がりこんできた割には節度と優しさを持ったいい人だった。
「ザ☆羽衣ジョンソイと呼んであがめてもらっても、私としては構わないぞ隣人君!」
「ザはどこから来たんですか…」
「こう、心の中のほうから」
「……おそば、おいしいですね…」
「そうそう、この近くにすごい美味いお店あるのよぉ! 絶対道路沿いの定食屋のソバかスーパーのをご家庭で茹でて持ってくるだろうと思ってたから食べ比べさせて驚いた顔を見てやろうって用意してたのにさぁ~…」
「す、すみません、そういった風習知らなくて…」
「最近の都会じゃ仕方ないかぁ…そうだよなぁ」
言い返したいけど黙って思うだけですが、関東だけど、凄い田舎を感じます、ここ。
こうして、さっぱり帰る気配を見せない隣人にペースを握られたまま、地球支配のための初日は過ぎていったとさ。
ちなみに明け方までずっとしゃべってました。
この羽衣さん。
「でな、日本の調査がいるって話してたじゃない? いいところの情報持ってきたんだよステラちゃんさんさぁ? 知りたい?」
「は、はあ」
それから。
どこまで世界征服と書かれた壁の張り紙が本気と思われているのかうかがい知れないまま、隣人に連日襲撃されるこのアパート生活も平和に数日が過ぎていました。
いや、平和と言えば平和ではありますが、ずっとやかましいので人によっては平和じゃないです。
一応、この星的なオーバーテクノロジー風味なものは見せないようにしつつ、ジョークとしていろいろ征服という用語を使う私のスタイルを表として用意する形で隠れ蓑を作った。
ガマとペラは出てきても、通話できる家電ということで遠距離からいつでも話しかけてくる友人という設定になっている。
いや、されたのである、これは。
勝手に羽衣が設定を作って勘違いして固定される要素が、実際結構ある。
現地の人に違和感のありそうな私たちの存在の穴を適当に埋めてくれるという意味では、実のところ割とありがたいと言える要素だ。
「ほらみて、鎌倉!」
「…雪を見に行く予定ですゾ?」
「ボケが緩すぎるガマ君座布団没収です」
「……いつの間にか仲が随分よくなってるんですね」
「そこは私の特技として褒めたたえていいよ!このザ☆羽衣をな!」
いつ聞いてもザの意味が分からない…。
「それよりなんでそんな話を今?」
「もうもう、ステラには当然わかってるくせに!」
わかんねえよ。
「調査のためだから行くんだよ! 今すぐに二人でさ」
「わかんねえよ!!」
「いや、いいじゃないさぁ…昔からの日本文化も観光地の人間の観察も多種多様な食べ物も全部一度に調べられるんだよ? いいところだよ?」
「本音は?」
「一度も行ったことないんで無性に行きたくなった」
「却下です」
私も、早くも羽衣の扱いに慣れたものだ。
「なーんーでさー!!」
「必要なんですゾー」
「なんでゴネ担当増えた!?」
「話からすると行く意味はあると思えますワ」
「そっちまでか!」
「「「ねーねーねー」」」
「やっかぁしい!!!」
何か支配者の位置が変わっている気配すら感じた恐怖もあり。
とりあえず聞くより却下の方向を確定させて動いていたわけでありますが。
が…。
「……ナンデワタシハ、ココニイルノダロウ」
「いやぁ、いい決断をされましたステラくん!」
「初めての場所は誰でも心躍りますゾ」
「空気がいいですワ」
鎌倉です。
駅前です。
なぜ押し切られて、旅費まですべて私持ちなんでしょうか。
さらになんで、私、お土産買ってるんですか。
ちなみに東京駅で東京土産をなぜか買って観光地に挑むこの姿勢。
意味がわかりません。
しかも荷物持ち担当、私!
なんでやねん。
「この観光案内見てるだけでも宝石の図鑑見てるみたいな気持ちになっちゃうよねえ、いや実は流行ってるっぽいから御朱印帳初めてねぇ」
「…さっぱりわかりませんが…」
「せっかくだからステラも持ってるといいよ、あげるからこれ」
「特に何も書いてない…」
「まぁ、書いてもらうものだからそうだね」
言われる分では、感情に届く何があるのか全くわからない。
しかし、この疎外感から解放される糸口があるなら、これで盛り上がる理由を理解しようとする必然がある気がした。
なので、おとなしくもらっておく。
いや、羽衣に貰ったものをこの場で投げ捨てて空気を変えるという選択肢は、そもそもないのだけど。
「鶴岡八幡宮楽しみだなぁ…あとこことここも回るから、今日で足りるかなぁ?」
「…こっちを見て何を催促してますか?」
「べつにぃ?」
たぶん、日帰りする気ないな、これは。
羽衣、持ってきてるんでしょうね…旅費とお財布。
悪い予感はするが、何とか口に出すのは踏みとどまる。
そして。
「人がなんでこんなに集まるように不用心に固まるんでしょうね…」
「言語がいくつ飛び交ってるかわかんないレベルで国際色って感じだろう? ステラの言ってた調査が一気にできてありがたいって思うだろう?」
「ま、まぁ」
「な、なんですかこれ!? 兵器ですか!?」
「まぁ、アニメだとよく動いてバトルするかな…大仏さんは」
「ほらほら、ステラも書いてもらうんだよ、ほらアレ出して出して」
「す、すみませんねえ急にきて…」
「この踏切!すげえ有名な観光スポットなんだってさ!」
「すいません、さすがにさっぱり…でも通る人みんなスマホ構えてて異質なのはわかります」
「ここが口コミで混まなくておいしくて最高って書いてたから絶対コースに入れる気でいたんだよねえ」
「…混まないは当てにならなかったですね…」
なんだかんだ満喫してしまった。
民宿に素泊まりも決めてしまった。
…もちろん私持ちで。
大浴場で信じられないほど見られたり触られたりしたが、そこは文字数という事情的に割愛しようと思う。
「どうよ、無理やりでも来てよかったろう?」
「まぁ、素直に言いづらいですけどそうですね…」
無理やりという自覚はあったんだね羽衣。
和室に直線に並ぶよう敷いた布団ふたつ。
頭を近くに配置していくらでも話すスタイルがとられる旅館の夜。
何も起きない、断じて何も起きない。
「明日は穴場を回るから、移動距離がすごい増えるからねぇ」
「…もう絶対最初から日帰りする気がなかった予定じゃないですか…」
「そんなこたぁないよ、ちゃんと初日に目玉を見れるだけ回ったろう?」
「奇麗なところはたくさんあったのと、大仏は何であれ中身がなかったのかは不思議でした…それと…」
「わっかってるって! 前知識ないのにアニメの聖地混ぜたのは謝ったろう」
「まぁ、いいですけど」
「とにかく、明日は無人だけど事前に電話連絡すれば管理者が御朱印くれるって珍しいところの情報が貰えたから逃せないんだよ、早いよお?」
「わかりましたぁ」
有難いかと言われると確かに意味はあるのだが、私のためという部分はだいぶ置き去りであるのを感じる昨今。
皆様どうお過ごしでしょうか。
なお、私は暗に寝ろと催促されているようなのでしばらくメンテナンスです。
現地人の真横でそんなことしたことない。
地味にそんな緊張感を持ったりする一夜でした。
「さてここ! 海岸沿いの削れた洞窟にしか見えないのですがなんと!」
「早朝からテンション高いですね…」
「当り前よ!ちょっとやそっとじゃない現地人も知らない穴場って、匿名掲示板で偶然見つけた秘境なのよ!?」
「すぐ近くに公園ありますよ!?」
「とにかく! この奥に朽ち果てた祠みたいな昔の人のいたずらみたいな、それでもちゃんと名前がある神社があるのです! たぶん!」
「たぶん…」
「ほら、道全くなくて落ちそうだけど入れるよ、ここ」
「…絶対放置された木片がちょっと残ってたらいいなの流れじゃないですかこれ…」
誰かが来た形跡すらわからない、ただ波に削られた岩。
あぶないよ羽衣…でも帰らないよね。
それは決まっていると思われるので、万一に備える方向に自然とシフトする。
死なない程度に痛い目を見るくらいになったらガマを使って強制的に帰ろう。
「明かりはあるなぁ…行くとずぶ濡れになるけど」
「岩の隙間にわざわざ潜らなくても…」
「せっかく来たんだし!」
そういうレベルではない。
おそらく潮の満ち引きもあるのだろうけど、奥に進むには思い切り潜るか傷だらけになってほふく前進していくかというレベルの探検隊スタイル。
むしろ明かりが奥からちょっと見えるのが恨めしい。
「鳥居だ! あるよステラ! やっぱここだよ」
「あっちゃったんですね…」
「努力の勝利と褒めてもいいんですゾ?」
「帰りたい…」
待ってますんでとも言えない状況なので、仕方なくこっちも進む。
ひとりなら丸ごと切り抜いていたところである。
「………はい?」
膝まで濡れながらなんとか中の空洞にたどり着いたが、そこで思わず声が出た。
確かに鳥居があり、そして明かりがある。
最新のこの星の技術で作ってもこうなるのか、というほど精巧に円形の空間。
光源は中央の建物に存在するがそれを反射してこの明るさにはならないだろうという明るさ。
かなり不可解な空間と言うよりない。
切り取った地層そのものがきれいに見えてむき出しなので、壁が光っているわけでもなさそう。
なら、なんなんでしょうか、ここは。
「神秘的なとこじゅないのぉ、来た甲斐はあったねぇ」
「…こんな不思議さを感じる場所、観光中心のこんな土地でどうして人がいないんでしょう…」
直接的な疑問を投げた。
いや、口に出した時にはもう確信のある答えがある。
それは。
「どっちかとえば、見せるというよりは隠してる感じはするよね……いやぁ匿名掲示板、やるなぁ」
「私も同じこと考えました」
「まさか、これのことを危険物としてとらえるのですゾ?」
「壊しはしないけど、コレもしかして…」
「あなた様方、いったいどうしてここにおられますの!?」
「「ひ!?」」
突然の大声。
知らない声。
人の気配などなかったはずだが、凄くこれが響く。
思わず二人とも固まってしまうほどだ。
「ここに人が来るなんて、偶然ではございませんわよね?」
その反響と同時。
継ぎ目などなかったはずの天井が開いて、巫女の装束を着た女性…だろう人物がするりと紐を伝って降りてくる。
そして落ちる。
「またですぅ!痛いですわぁ!!」
「ハロー、ここの人」
「…羽衣は物怖じしませんね」
ぱっと見、人間で間違いないだろう。
懸念している点が根深いので、多少疑り深く注視する。
「…その、どうしてここにいるのです…って、あ、ありがとうございます」
羽衣が助け起こして服を直してあげたりしている。
「いや、電話したら御朱印くれるって確認してきたんだけど…」
「聞いてませんわ!?」
「羽衣?」
「それ以上に、ここを見つけられるというのが、どういうことなのです」
「ネットの掲示板でおすすめされたんだけど…ほら、ここの書き込みで電話番号も書いてるしって………おや繋がらない」
「まぁ、ここでは通信は無理でありましょうねぇ」
「どんだけ怪しい場所なんですかここ」
知らない顔でちょっと遠回しに攻め。
「先祖代々、影ながらでこの場所を秘匿して守り続けていますが、あなた方みたいな観光で迷い込んだ人なんてわたくし、初めて見ますわ!」
「…でも別に嘘はついてないしなぁ、ねぇステラ」
「私も鎌倉自体初めてだしぃ」
「それでは、誰ひとりこの状況を理解してないことになるではないですか!?」
「「ソウダヨ?」」
見たらすぐに帰ってくださいと、なぁなぁで済ます道もあろうに。
深々と疑問と怪しさを掘り下げてくれる彼女。
神秘的かと思いきや、意外と賢くないというか、ポンコツなんだろうか。
「と、とにかく、みだりに触らないでくださいませ、特に明かりのあるこの辺りとか!」
「なぜわざわざ説明して危なそうなところを言うの」
「万一があってはいけないでしょう! ワタクシも小さいころに一度こう触ってしまってどれだけ叱られたことか」
「触ったなあ今」
「…あっ」
わざとなんだよな今のは!?
「わたくし、いつもこんな…」
退路なし。
フォロー出来る一言じゃないよそれ。
そんなあきらめとは別に、大きさ的には犬小屋くらいな木造の建築物から漏れる光の色が変わっているのに気付く。
中にあるものに彼女が直接触ったのは見ていないので、スイッチなどの類でない何らかの操作があったのだろうか。
もし許可されるなら中身を徹底的に調べたい…。
「あら、自動で映像が出るなんて」
「空中にディプレイとは思いのほか近代的ねぇ」
いやいや。
これ浮遊素子密度操作で視角情報を与える空間密度操作システムじゃない。
投影や投光による表示と思い込むのも無理なはず。
どう考えても別文明の技術だよ…。
電波遮断はそりゃ起きるよな。
「ここの方…名前がわかりませんので適当に呼びますけど、表示されている場所、お分かりになります?」
「いやステラ、そんなン聞かなくても、うちらが洞窟はいる前に見たでしょ」
「すぐ近くの、海を映しているようですわね」
「あっ、それは失礼…」
「大雑把なようで端々が律儀だよねステラ…」
「って、私はいいんですよ、何でそんなところの映像が…」
「あ、ロボがいるよ、ほらほら」
羽衣がいやに無邪気に指をさしてはしゃいでいる。
この星って、そんなに、そういう巨大なものを、みんな観光物として扱うんですか?
「あら、また出たんですのね」
「知ってるのかライデン!?」
「昔これに触ってしまった時も出たんですのよねぇ、強めの地震もあって本当に怒られましたわ」
「それは怒られていいな」
「…て、言うより触ってないですよね、中の物には」
「はんいしていコンソーラなるもので、ここ全体の中で、ほら、ずっと光って色分けされている、この範囲は緊急だけという理があって入ってはいけないのです」
「そういうの見えないなぁ…」
羽衣は不思議がるが、そうか、それはそうだ。
素子密度と凝縮のために、この空間が我々の言うepyu粒子をかなりの割合でばらまいているなら、特定人物にだけ表示させるのは簡単である。
特定の角度で表示させるのも、網膜近くに表示させることも、知る人だけが準備し見えるようにする色を設定するのも、まったく難しくないのだ。
固形化したものを出し続けているわけではないのだから。
「ステラ、話の途中ですが、我らだけで退避するのをお勧めしますワ」
「…ごめんみんな、ここでおトイレはまずそうだからちょっと出てくるわ」
「ほーい」
小声でペラが話しかけてきたので、特に羽衣からは離れて会話するためにまた濡れて外に出る。
なぜか。
ペラは、二次元存在として服の中に張り付くようにしているときは特に会話をしない。
持っている機能のためでもあり、私やガマのように偽装しようがないなら静かなほうがいいという考えかららしい。
それが、いきなり進言と言うのは、悪い予感しかしない。
「もうちょっとしたら探査もお願いしようかと思ってたけど、何か引っかかったのペラ?」
「敵対者と判断しますワ」
「だれがあ!?」
「端的に言うと海上約289キロに出現した動力体ですワ、調査済みのこの惑星の文明とまったく一致しませんしエマージェンシーに完全に反応していると思われますワ」
「やっぱあれで呼んだよね、わざわざ映像出るってことは」
「ただ、目標設定されているとは考えにくいので、広域に安定領域確保を目的とした破壊を行う可能性がありますワ」
「……じゃ、やろうか」
「許可が本星からないのでワ?」
「この星で競合する別天体の侵略者とはちあわせたら、緊急と言うことで事後報告できることになってます」
「……こじつけですワ……」
「怒られない保証がないですゾ?」
「あんな技術がこの星にあって、変に調査されて知恵つけられたら我々もやり辛いでしょうが!」
「それが本心とは思えませんゾ…」
「いいの! 他にもいろいろ考えることがあるのは、そりゃ当然として指揮権持ちに従えばいいの!」
「お友達や文化財を守りたいくらいのことは、言ってもわれわれ、賛同しなくはないと思いますゾ?」
「ですワですワ」
「うっさい!」
このお供は余計なことばっかり言うのだ。
「制限システム、拘束制御条項、特別規約を除き解除!」
「カイジョシマス」
「次元封印、3までを開放、開放を現地責任者4791110035号により発効、記載」
「セイシキキロクトシテホゾンシマス」
「恒星間戦闘用デモンズ、アルシャリア=ベシクを現空間にセット、即時起動!」
「カクニンシマシタ」
ペラが機能開放して膨れ上がる。
ステラと名付けられた私がやったのは、二次元固定物体として存在しえないものであったペラの使わないようにしていた次元を開放し、ここに出すという作業だ。これにより三次元を使うようになったペラは視覚的には完全に存在が可視化できなくなるが直径1kmの円形に近い領域を持つことになり、そこにあるものを吸収し別次元に放逐したり取り出したりできる。
今回は書類上では5体持ってきているはずの緊急用防衛装置のうち1体を取り出した。
アルシャリアは全体高70mほどの人型、いわばロボットである。
穏健派、調査潜入優先の声がなかったら私の体はこれになってここに来ていたらしいので複雑な気持ちはある。
軍備としては我々の認識では標準以下の兵器で数優先で使われる安物。
ただ移動、防御、拡張性は高いので使われる幅は広いやつ。
そのひとつが。
「ガマ、粒子サーキットレール形成、e粒子をアルシャリアと接続後臨界まで加速し射出体制に移行」
「地表吹き飛びますゾ!」
「粒子散弾絞って出力は0.000011%に絞って、粒子投入はナノ秒単位でやって、あと荷電状態にしません」
「そのほうがよほど難しいですゾ」
「対BH用の出力まんま使ったら星の形が残っても空気の変質で私たちも無くなるからやるの!」
「大変ですゾぉぉ」
ガマの空間圧縮というものは本来コンパクトなこの粒子加速器のためにある機能である。
他にも便利なのでいろいろなものを投入しているが本来はこのために存在している。
このe粒子と呼ばれている(本来のは発音がつらくて長すぎるので割愛されている)の粒子砲はこの近くを基準にすると太陽系の直径ほどは射程範囲でその範囲なら恒星も惑星も破砕ができる。
ブラックホール爆弾が他との戦争で当たり前に使われるようになったためその中核を開放、または破砕するためのアンチ兵器でもあり、それくらいはできないと我々の戦争では使う意味がもうないのだ。
そのまま惑星上で使うとそれだけで相当なダメージが足元にも出るので本来使うべき出力では使えない。
うちらと同等の仮想敵を一応想定しているから持ち込んだが、気を遣う、使いたない武器ばかりなのはつらい…いや、無いほうがよかったと今は思うやつらである。
「指定通りの出力セット、行いましたゾ」
「ほい発射!」
音もなく。
爆発する演出めいた火花もなく。
海上のメカは崩れて、海の中に落ちていった。
「対象物回収、アルシャルクを2、元攻撃対象をブロック27に退避隔離ののちエナジ測定と歪曲面への非常廃棄を設定」
「カンリョウシマシタ、エナジーハンノウ、ゲンジョウビリョウデス」
「では現時刻をもって制限システム復帰、次元使用域を2までに限定し再設定、条項に従い記載ののち項目を既定のまま最終チェック」
「つつがなく、ですワ」
「おかえりペラ」
機能優先のいっぱいいっぱいなモードは、当人的にも好まないようなのでさっさと解除。
「手早いのはいいですが、細かく回収はどうしてなんですゾ?」
「念のためよ、念のため。 ここの文明が回収して進歩した兵器が分不相応な規模で出来ました、なんて言い訳できないでしょ」
「パワーバランスも大事にしつつ、手早く障害は排除かぁ、いいお手並みじゃない」
「いやぁどうもどうも」
「…ワタクシの家のもの…」
「……って、えぇぇ!?」
現地の人、ちょっと出てくるって言ったのに、ふたりとも居る!
「ははは、反則ですよお!」
「いるだけで反則って言われたの、生きてて初めてだなぁ」
「わたくしの先祖の…」
「そ、それで…あの、どのくらい見てました?」
聞きたくない現状確認。
「あのモニタでステラ凄い注目されて、全部出てたよ」
「うわぁ」
「いやあのロボット直で見たかったなぁ、今度出してね」
「非常時でないと嫌です」
「友達の頼みじゃないかぁ…手に乗っけたりしてよアニメみたいにさ」
「友達と言われるのにはちょっとニンマリしますが、そんなに、おいそれとやりませんからね!」
「ちぇ~」
どこまで知ってこんなに恐れもなく対応できるのか、羽衣の気持ちがわからない時があります。
それから。
恐る恐るですが、私がいわば侵略者、別天体からいろんなものを持ち込んでいることを説明した。
アルシャリアの出し入れや会話なども全部聞いてたらしく、多少のごまかしは通じないとあきらめたからだ。
そうすると意外なことに、二人は…。
「まぁ、いいんじゃないの」
「そういうコトなら、ワタクシむしろ条件次第で助力してもよろしいのですが」
「この星を守ろうという誇りはないの!?」
「現状見る限りないねぇ」
「わが身優先ですわね」
「凄い人たちに最初にあっちゃったなぁ…」
やっていいという許可が出てしまった。
「説明聞くに、ステラの星で衝動的暴力行為やそれへの愉悦って感情が罪になるだのって話だと、それを事前に見つけられたり抑止するシステムがあるんでしょう?」
「まぁそれはありますね」
「みんな仲良くで協調性重視の世界を作るならそれを一度経験していいかもって私は思うねぇ」
「そんな軽く言うものなんですかね」
「今の私らの世界は、誰の損得もなく国境がなくなるだけで賛同するレベルのヤバ目のもたくさんいるからさ、思ったより賛同があると思うんだよ…終わってるなぁ世界」
「終わらせないでもいいんですよ!もっと希望持って!」
「私は特にそれでいいけど、そっちの条件次第で協力っていうのは、聞いてあげないのステラ」
「そういえば」
あのメカを壊したのを相当根に持っていそうだったのが急に豹変した態度、気にしなくてはいけない。
「じつは、あの時の緊急動作でまだほかに何か出た可能性があるんですの」
「「おいおい」」
「説明が聞き取れなくて、やたら長いので不思議だったのですけど、よく考えるとあれが起動しただけでそんなにたくさん警告出ないと思いまして」
「大事かよ!」
「ですので、その対処と確認に協力していただけたら…軍隊などにお願いしても信じてもらえないかもですので」
「まぁ、回収しないと良くないこと起きそうだから、それは頼まれなくても見つけたらやりますけど…」
「よかったですわぁ!」
「んじゃ、まぁ、このみんなでこの星の調査を続けて弱点だの良いところだの沢山報告していきましょうか、それでいいんだよねステラ」
「なんでも簡単に、こんなすんなり受け取っていいんでしょうか…」
「そんなときは魔法の言葉、ザ!なんとかなる!」
「いまだにそのザだけ意味が分からないんですよね…」
「ノリだよノリ!」
そんなこんなで。
労力を払って文化保存、支配を行うにあたるかの調査。
星そのものの組成から戦力と文化レベル調査。
ライバル、異文明の発見に対する対処、できれば穏便な仲裁と不可能ならば即せん滅。
いろいろ、あらゆる情報を集めて必要なものを吟味し資料として提出。
そんな中間管理職のような仕事をこれからずっとしていく私であるが。
「いこうぜぇ…温泉! 絶対調査でいいものに加えられるって」
「それ目的でいいんじゃないって言ったんですか!? 旅行でずっとたかれるからって話で!?」
「それはないこともない」
「最悪ですよぉ! あっ電話…」
『…ステラですの? 北海道でまた触っちゃいけない遺跡に触っちゃったみたいで怪物が出てますの、すぐ来られません?』
「なんであんた週一で破滅系のトラブル引くの!?」
「北海道でも我慢するよお? いこうぜえ」
「こんなのばっかり! 私に近寄ってくる人こんなのばっかり!」
地味さはなく、割と騒がしく、楽しくやってます。
これから、まぁ、触れてはいけないものや関わってはいけない国のエージェントだの色々巻き込まれるわけですが、そこそこやっていけると信じています。
いつか、その話ができる時まで、今回は、これで。
終
コンテスト応募用に書いたもので、文字数的に削らざるを得ないものを残したものがなろうに置いたこれとなります。
応募用のものは該当フォームから応募しています。
書いてる途中に思い浮かんだやりたいこと、そもそも削ったものは色々ありますが、お読みいただけた方には感謝の一言しかありません。
お手数でなければ評価もお願いできれば励みとなります。