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第二十七話 古代魔法帝国の遺跡

「やはり無駄足だったではありませんか」


 シュルトナーの厳しい口調が、俺の落胆に追い討ちをかける。


「まあまあ。こうなることは分かっていましたから、そう責めることもありますまい」


「結果は予想されるものでしたから、後の用意をしておきました。宿に戻ったらすぐに観光に出発しましょう」


 アンクレードとクーメルがシュルトナーを宥めてくれたが、その言葉も俺にとっては傷口に塩をすり込まれるような気がした。


「ハルト様。お気を落とされずに」


「イレーネ様。あまり甘やかさない方が良いですぞ」


 シュルトナーは相変わらず厳しいが、俺もそろそろ潮時なのかなって気がし始めていた。


 もともとハルト一世は俺の住んでいたジャンルーフ王国の人だと前世では伝わっていた。

 でも千年も前のことなのではっきりとは分からないのだ。


(ここにいるイレーネ様にクーメル、アンクレードにシュルトナーの四人ともジャンルーフ王国の出身だし、あの国で待っているのが正解だったのかな?)


 俺はこの四人と一緒にいれば、きっとハルト一世に出会えると思っていたのだが、そんな機会はやって来なかった。


「そろそろジャンルーフへ戻ろうかな」


 俺が小さな声で言ったのを、皆は聞き逃さなかったようだった。


「これは異なことを。ハルト様はスフィールトの領主で満足されるのですか?」


 一番俺に嫌味を言っていたシュルトナーが慌てたように聞いてきた。


「いや。そうじゃないけど。俺の目的を果たすには、ジャンルーフにいた方が良い気がしてきたんだ」


 とにかくハルト一世に出会わなければ話が始まらない。

 これだけのメンバーを引き連れているのだから、彼に会いさえすれば、俺だけ仕官を許されないなんてことはないと思うのだ。


「少しお疲れのようですね。今日はもう宿でやすまれますか?」


「いや。もう準備はできてるんだろう? 王宮でも口にしてしまったし、予定通り古代魔法帝国時代の遺跡へ行こう」


 俺は半ば投げやりにクーメルに返し、俺たちは町の側にある遺跡へと向かった。



「ここですか。思ったより人がいませんな」


 町からほど近い小山の下。岩の崖の下にそれをくり抜くようにして作られた神殿らしき遺跡の前に俺たちはいた。


「遺跡の扉が開いたのがもう十五年も前ですから。しかも中には目ぼしいものは何も無かったと聞いていますし」


「そこまで分かっているなら、あんなことを言うんじゃなかったな。もう少し早く教えてくれればいいのに」


 何もない遺跡なんて面白かろうはずもない。

 俺はクーメルに苦情を言った。


「扉が開いてからしばらくは人が殺到したと聞きましたぞ。何しろ古代魔法帝国時代の遺跡ですから、何かお宝が見つかるかもしれないというわけですな」


 アンクレードが俺に答えて、クーメルも頷いていた。

 カデュロス王の冷笑は、俺が遺跡に群がった山師と同じだと蔑むものだったようだ。


「それでも遺跡の中には石が敷き詰められ、今の技術では作れないような見事な細工の像などがあったようではないですか。そちらは運び出されて、町の博物館にあるそうですが」


 シュルトナーが言ったとおり、もうこの遺跡は空になって十年以上が経ったから、あまり世間の興味を引かないらしい。

 それなら博物館へ行った方が手間も掛からないってことで、ますます遺跡を訪れる人がいなくなっているのだろう。


「まあ、いいや。特に危険もないんだろう? せっかくここまで来たんだから見ておいてもいいしな」


 古代魔法帝国時代の遺跡なんて、この時代からさらに千年後の俺の以前いた時代には、もうすべて調べ尽くされて本当に空になっていた。

 ハルト一世が古代の魔法を復興したからこそ、そうなったらしいと言われていたから、期待はできないにしても今ならまだ何か見つかるかもしれなかった。


「では、早速まいりましょうか」


 アンクレードに誘われて、俺たちは遺跡の入り口へと向かう。

 もう訪れる人もあまりいないからか、入り口にもその周辺にも、訪問者の相手をする者の姿は見られなかった。



「これは思っていたより見事なものですな」


 シュルトナーが感嘆の声を漏らしたが、それも俺が『ライト』の魔法で遺跡の中を照らしたからだろう。


「壁も床も真っ黒ですのね。それでいて光を反射して幻想的な気がします」


 それでもイレーネ様がそうおっしゃってくださって、俺はこの遺跡に来て良かったなと思える気がした。


「いや、でももう行き止まりですか? これじゃあ名所にはなりませんな」


 少し進むとすぐに通路は袋小路になっていて、アンクレードが言ったとおり、これでは小規模過ぎて観光資源としては今ひとつだろう。

 そう思った時、クーメルがあることに気がついた。


「ハルト様。ライトが!」


 彼が声を上げたように俺の作った『ライト』の明かりがゆらめくような姿を見せていた。


「これは……魔力の流れ?」


 魔法の光が炎のように揺れるなんて、相当強力な魔力の流れがここにはあるようだった。

 そして光の揺れ具合から、それは通路の行き止まりに向かっているように見える。


「この奥に何かあるのか?」


 俺は行き止まりになった壁に手を触れ、叩いてみたが特に変わった音などはしない。


 だが、相変わらずゆらゆらと揺れる『ライト』の光はここが何かほかとは違う場所であることを示していた。


(この奥に魔力が流れ込んでいるとしたら……)


 俺は以前いた千年後の世界でそんな場所を何度も経験していた。


「魔力ドアか……」


「えっ。何ですか?」


 アンクレードの疑問を無視して、俺はもう一度壁に触れると、そこに魔力を流した。


「き、消えた!」


 俺の後ろで四人が驚きの声を上げたが、これは古代魔法帝国時代に作られた『魔力ドア』だろう。

 この世界から千年後の世界では一般的な自動ドアとして使われていたものだ。


「あっ。また壁に……」


 イレーネ様が思わず口にしたように、俺が魔力を送るのをやめると、それは元の壁に戻ってしまう。

 魔力に反応して消える壁は、俺には見慣れたものだった。


「これは一体どういうことですか?」


「ああ。魔力ドアだな。魔力を流すと壁が消えるんだ」


 アンクレードが耐えられないといった様子で聞いてきたが、俺はごく当たり前といった顔で答えることができた。

 普通は壁の一部がそれこそドアのように消えるのだが、この遺跡は古いものだからか、通路の壁全体が消えていた。


「魔力ですか……それでは我々には開けないわけですね」


 ハルト一世が魔法を復興させる前のこの時代では、魔力を使える者はほとんどいないはずだからクーメルが言ったとおりなのだろう。


「ああ。でも魔力が扱えればこのとおりだ」


 俺は何度も壁を出したり消したりして見せた。


「奥へ行ってみるか?」


「大丈夫なのですか?」


 俺の提案にアンクレードが気味が悪そうな声で答える。


「ああ。問題ないな」


 俺は壁だった場所の向こう側に一歩足を踏み出した。


「あっ。ハルト様!」


 イレーネ様が声を上げたのは、俺が先に進んだ直後、壁が復活して俺の姿がその向こうに消えたからだ。


「大丈夫です」


 俺は壁の向こう側から魔力を流してドアを開き、再び姿を見せる。


「驚かさないでください。不用意ではありませんか?」


 アンクレードが苦情を述べるが、説明するより実際に使って見せた方が早いだろう。


「大丈夫だ。簡単に開け閉めできるからな。先に進んでみよう」


 本当はまず遺跡を管理している王国に届け出なければならないのかもしれないが、そうすると俺の魔法についても説明をしなければならなくなる。

 この国がそれにどんな反応を示すのか分からないし、今は面倒ごとは避けたかった。


「ハルト様はこの仕掛けをご存じなのですか?」


 現れた通路を先に進む中で、イレーネ様が尋ねてきた。


「ええ。見たことがありましたから」


「どちらでですか?」


 前世で何度もというのがその答えなのだが、それはとても信じてもらえなさそうな説明につながることになる。


「以前、別の場所で……何かいますね」


 通路はまたすぐに行き止まりになり、だが、そこには鎧を着た大きな騎士のような像が行く手を阻むように立っていた。


(ゴーレムか。門を守る衛兵だな)


 以前、暮らしていた世界ではこれもごく一般的だった。

 そして、行き止まりの直前で、通路に男の声が響く。


「汝の名を唱えよ!」


 その声ははっきりとそう聞こえた。





【魔法帝国地理誌 ルーレブルグ(抜粋)】


 このルーレブルグにはかつて古代魔法帝国時代に政庁が置かれるなど古い歴史がある。

 そのため、過去には町の周辺にその時代の遺跡も存在していたとされている。


 だが、残念ながら七百年ほど前に起きたアラスタ川の大規模な氾濫によって、その遺跡は川の底に没してしまい、今は流量が少なくなる夏の季節に、その上部がわずかに見えることがあるだけになっている。


 御多分に漏れず、この遺跡にもハルト大帝が訪れたという伝説が残っている。

 大帝の前半生は謎に包まれた部分が多く、若い頃は諸国を遍歴したとも言われているが、この伝承もおそらくはそれに仮託したものの一つと考えられている。


 それでもルーレブルグの博物館には、この遺跡から出土したとされる彫刻や鋼鉄製のゴーレムなどが保存されており、この遺跡がハルト大帝の魔法復興以前、おそらくは古代魔法帝国時代のものであったことの証拠とされていた。


 近年行われた大規模な調査によって水中に魔力ドアの存在も確認され、それが正しかったことが確認されている。


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連載『賢者様はすべてご存じです!』は折をみて更新しています。
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